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Ⅲ
1.宮古ちゃんドロップキック
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ホワイトデーが終わった。
解放感があるようで、小野と宮古は職場を出るなり、キャアキャアはしゃいでいる。
「完売って、ホワイトデー最終日に限定商品完売って、すごくない!?」
「びっくりしましたー! 最後のお客様が、ラスイチなら全部ほしいって言ってくれて」
ノリの良い客だった。
閉店間際に店を訪れ『キャバクラのお姉ちゃんたちにプレゼントする』と言って、店頭在庫を一掃してくれたのだ。
売上げをとったのは新人の小野だ。
良い客に当たったといえばそうなのだが、前のめりすぎない丁寧な接客が好印象だったようだ。単なるエロジジイだったら俺が変わるつもりだったが完全に孫を可愛がる好々爺だったので杞憂に終わった。
金曜の夜だ。ホワイトデー当日ということもあり、スタッフ総出でかかっていた。
後ろから来た店長が、頭の上で手を叩く。
「店に移動するよ! 車で来たヤツは乗り合わせて駅前のパーキングに停めといで」
飲み会というか、いわゆる打ち上げだった。行っても行かなくてもどうせ酷い目に合うと先にわかっているので、数人はここで帰る。
うちの店長は、飲みの席も仕事のうちだと考えているタイプなので、来ないヤツは朝礼の時にいきなり『最近やらかした一番のミスはなんだ』とかみんなの前で言わされる。
俺も一回やらされたが、この質問は罠だ。気を回して『飲み会に行かなかったことです』などと答えた日には最後、後からネチネチと本人も気づいていなかったミスを指摘される。しかし、他スタッフに聞くところによれば、真面目に仕事のミスを告白したって、結果は同じことらしい。勘弁してくれよ。
「卯月、車でしょー」
久々にシフトの被った宮古が機嫌よさそうに話しかけて来た。
斜め前髪のボブカットをユニコーンカラーに染めている。片耳にだけずらりとピアスが空いていて、ルーズリーフのようだ。
見るたびにコイツはイギリスの本店にいる方が馴染むだろうと思う。うちのような田舎の店舗では名物店員みたいな扱いになるわけだが、その潔さが俺などには羨ましい。
「私と小野ちゃんも乗せてってちょうだいよ」
会場の居酒屋は駅近くだ。
駅からショッピングセンターまでは、往復シャトルバスが出ている。
電車でも来られるヤツは今日は帰りのことを考えて車を使わずに来ていた。
バスなんざダルい、と最初から代行を頼む気でいるヤツは必ずいる。居酒屋まで乗せて行ってもらうわけだ。
俺は山奥に住んでいるので車に乗って来るしかない。駐車料金に代行料金までかかる。まあ、そういうのも理解したうえで、あの家にタダで住んでいるんだから、いいけど。
「ああ、構わんが」
俺は戸惑った。
「小野さんも行くの?」
「は、はい!」
「あたしが育てた期待のホープだもん」
俺とシフトが被らない時は、宮古が小野の指導にあたっていたらしい。それはいいが。
「小野さん、酒は強いか?」
「飲むのは好きです! すぐ酔っちゃうけど」
俺は嫌な予感がした。
店長は酒が弱いヤツには飲みを強制しない。なんなら飲まないぶん、会計を安く勘定してくれる気遣いまで行き届いている。
が、飲めるとなると事情が変わってくる。
それに、さっき店長が車に乗せたメンツを見たが、どいつもこいつも酒が強い。
宮古にしても、負けん気が強くて、酒豪の店長に飲み会のたび勝負を挑んでは返り討ちに合うようなヤツだ。
ここに酒を飲めるようになったばかりで、自分の限界も知らない小野が参加する。
「おい……」
止めた方がいいんじゃないのか、と宮古を見たが、コイツは個人主義の塊だ。
けらけらと笑って言った。
「二十歳なんだから問題ないさー」
「いや、でも……」
店長のおもちゃにされるに決まってるだろ、と思って俺は言い淀む。だが宮古はウィンクして「いざとなったら卯月が守ればいいさ」などと言う。いやおまえは守らんのかい。
まあ本人が来たがっているなら、俺からは何も言えん。車の後部座席に二人とも乗せてやることになった。
宮古は夜の街を見たいと言って勝手に車窓を全開にするし、シートベルトも付けない。いや小野に風がいくだろ、やめろよ。
まあもう、夜風も暖かくはあるのだが。
バックミラー越しに、ちらっと小野の様子を見ると、なぜか目が合った。
宮古と対照的に行儀よく膝を揃えて座っていた彼女は、そのタイミングで声を上げた。
「あのっ、卯月センパイ」
「はい」
小野はなんとなく肩肘張った風に言った。
「今日、大口のラッピング凄かったですねっ」
「ああ、うん。ありがとう」
宮古がフフン、と皮肉っぽく笑う。口には出さないが言いたいことはわかっていた。
「まあ、宮古が取ってきた仕事のツケを全部支払っただけだから」
「なんだと~」
代わりに言葉にしてやると、背もたれ越しにハイヒールでキックしてきた。
「部署一個分丸ごとの受注を取ってきたって言うのに、その言い草はなんだい。しかも、オプションもりもりのラッピング付きだよ。あれで売上達成したようなもんなのに」
注文が来るなりバックヤードに押し込まれた俺は、客の顔を見ることもできなかったが、どうも社長秘書のような人だったらしい。
宮古の手腕で大量にお買い上げいただいた。すごいとは思う。思うが。
「おまえは六十個分のラッピングを三十分で仕上げろと言われたことがあるのか?」
俺はある。
商品提案が抜群にうまいのだ、宮古は。
しかしシワ寄せを要領よくこっちに持ってくるところがあり、一緒に働くとなると苦労が絶えない。
解放感があるようで、小野と宮古は職場を出るなり、キャアキャアはしゃいでいる。
「完売って、ホワイトデー最終日に限定商品完売って、すごくない!?」
「びっくりしましたー! 最後のお客様が、ラスイチなら全部ほしいって言ってくれて」
ノリの良い客だった。
閉店間際に店を訪れ『キャバクラのお姉ちゃんたちにプレゼントする』と言って、店頭在庫を一掃してくれたのだ。
売上げをとったのは新人の小野だ。
良い客に当たったといえばそうなのだが、前のめりすぎない丁寧な接客が好印象だったようだ。単なるエロジジイだったら俺が変わるつもりだったが完全に孫を可愛がる好々爺だったので杞憂に終わった。
金曜の夜だ。ホワイトデー当日ということもあり、スタッフ総出でかかっていた。
後ろから来た店長が、頭の上で手を叩く。
「店に移動するよ! 車で来たヤツは乗り合わせて駅前のパーキングに停めといで」
飲み会というか、いわゆる打ち上げだった。行っても行かなくてもどうせ酷い目に合うと先にわかっているので、数人はここで帰る。
うちの店長は、飲みの席も仕事のうちだと考えているタイプなので、来ないヤツは朝礼の時にいきなり『最近やらかした一番のミスはなんだ』とかみんなの前で言わされる。
俺も一回やらされたが、この質問は罠だ。気を回して『飲み会に行かなかったことです』などと答えた日には最後、後からネチネチと本人も気づいていなかったミスを指摘される。しかし、他スタッフに聞くところによれば、真面目に仕事のミスを告白したって、結果は同じことらしい。勘弁してくれよ。
「卯月、車でしょー」
久々にシフトの被った宮古が機嫌よさそうに話しかけて来た。
斜め前髪のボブカットをユニコーンカラーに染めている。片耳にだけずらりとピアスが空いていて、ルーズリーフのようだ。
見るたびにコイツはイギリスの本店にいる方が馴染むだろうと思う。うちのような田舎の店舗では名物店員みたいな扱いになるわけだが、その潔さが俺などには羨ましい。
「私と小野ちゃんも乗せてってちょうだいよ」
会場の居酒屋は駅近くだ。
駅からショッピングセンターまでは、往復シャトルバスが出ている。
電車でも来られるヤツは今日は帰りのことを考えて車を使わずに来ていた。
バスなんざダルい、と最初から代行を頼む気でいるヤツは必ずいる。居酒屋まで乗せて行ってもらうわけだ。
俺は山奥に住んでいるので車に乗って来るしかない。駐車料金に代行料金までかかる。まあ、そういうのも理解したうえで、あの家にタダで住んでいるんだから、いいけど。
「ああ、構わんが」
俺は戸惑った。
「小野さんも行くの?」
「は、はい!」
「あたしが育てた期待のホープだもん」
俺とシフトが被らない時は、宮古が小野の指導にあたっていたらしい。それはいいが。
「小野さん、酒は強いか?」
「飲むのは好きです! すぐ酔っちゃうけど」
俺は嫌な予感がした。
店長は酒が弱いヤツには飲みを強制しない。なんなら飲まないぶん、会計を安く勘定してくれる気遣いまで行き届いている。
が、飲めるとなると事情が変わってくる。
それに、さっき店長が車に乗せたメンツを見たが、どいつもこいつも酒が強い。
宮古にしても、負けん気が強くて、酒豪の店長に飲み会のたび勝負を挑んでは返り討ちに合うようなヤツだ。
ここに酒を飲めるようになったばかりで、自分の限界も知らない小野が参加する。
「おい……」
止めた方がいいんじゃないのか、と宮古を見たが、コイツは個人主義の塊だ。
けらけらと笑って言った。
「二十歳なんだから問題ないさー」
「いや、でも……」
店長のおもちゃにされるに決まってるだろ、と思って俺は言い淀む。だが宮古はウィンクして「いざとなったら卯月が守ればいいさ」などと言う。いやおまえは守らんのかい。
まあ本人が来たがっているなら、俺からは何も言えん。車の後部座席に二人とも乗せてやることになった。
宮古は夜の街を見たいと言って勝手に車窓を全開にするし、シートベルトも付けない。いや小野に風がいくだろ、やめろよ。
まあもう、夜風も暖かくはあるのだが。
バックミラー越しに、ちらっと小野の様子を見ると、なぜか目が合った。
宮古と対照的に行儀よく膝を揃えて座っていた彼女は、そのタイミングで声を上げた。
「あのっ、卯月センパイ」
「はい」
小野はなんとなく肩肘張った風に言った。
「今日、大口のラッピング凄かったですねっ」
「ああ、うん。ありがとう」
宮古がフフン、と皮肉っぽく笑う。口には出さないが言いたいことはわかっていた。
「まあ、宮古が取ってきた仕事のツケを全部支払っただけだから」
「なんだと~」
代わりに言葉にしてやると、背もたれ越しにハイヒールでキックしてきた。
「部署一個分丸ごとの受注を取ってきたって言うのに、その言い草はなんだい。しかも、オプションもりもりのラッピング付きだよ。あれで売上達成したようなもんなのに」
注文が来るなりバックヤードに押し込まれた俺は、客の顔を見ることもできなかったが、どうも社長秘書のような人だったらしい。
宮古の手腕で大量にお買い上げいただいた。すごいとは思う。思うが。
「おまえは六十個分のラッピングを三十分で仕上げろと言われたことがあるのか?」
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