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Ⅳ
7.口から先に生まれる
しおりを挟むぼけっとラブホの壁を見ている。
天井を向けないのは、横に寝てる彰永が、背後から俺の下腹をずっと撫でさすってくるからだ。
いやあ、もう。
どーすっかな、と俺は考え込んでいる。
コイツのこの妄想をどうにかしなければ、俺はこの先、タバコも吸えないし、後処理もさせてもらえないのではないか。
それどころか、賢者タイムに入った彰永は、横目で見ててもさっきから瞬きひとつせず、熱心な時計回りで手を動かしている。
よく知らんがそれって、お腹痛い時によくやる手の動かし方じゃないのか。出て来ちゃうと思うけど、大丈夫?
俺はため息をついて、彰永の方を向いた。
「で、俺が爆発して死ぬって?」
「今は、言わないでくれよ……」
あんなに元気に腰を振っていたヤツが涙目になっちゃう理屈がわからん。
卯月、卯月、と呼んでくるので可愛い半分めんどい半分で、彰永の眼鏡を外す。そのまま、胸に抱きしめてあげた。
「彰永ちゃん、赤ちゃんって生まれるまでどれくらいかかるんだっけ」
彰永はお嫁さんのおっぱいにもぞもぞと顔を埋めながら「よく十月十日とかって言うね」と言った。
「一週間くらいで受精卵が赤ちゃんのベッドに到着して、そこから一か月くらいで内臓系ができあがる。それからお腹が膨らんでくる」
胸に息が当たると、また気持ちよくなってくる。彰永の言う通り、自慰を覚えた方がいいんだろうなと俺は思った。いや、あくまで彰永の世界観に準ずるなら、ということだが。
なんだかんだで、いつものロールプレイ的おねだりをせずに射精できたのは、俺としても良かった。
「彰永ちゃん、卯月ちゃんと一緒に暮らすか」
俺は彰永の黒髪を優しく撫でた。
バブちゃんの彰永は、まだ答えない。
「つーか、あの家をいい加減に引き払いたい。いくらタダでも立地が悪すぎるし」
あ、駐車場料金。
思い出して、ちょっと手が止まった。彰永が卑怯な上目遣いでこっちを見るものだから、俺はキュンとしてしまった。
「おらっ。せっかく可愛い顔してんだから、メソメソするな。腹がでかくなったら病院にでも行けばいいだろうがよっ」
気合を入れてやろうと、大きな声を出したとたん、気管に唾が入り、俺は思い切り咳き込んでしまった。
途端に、彰永が身を起こした。
だからそんな顔をするな。大丈夫だ。
そう言ってやりたいが、そういえば俺は、昨日はめちゃくちゃ飲まされたんだった。
次第に咳はえずくかのようなものに変わっていく。
さすがにベッドに吐くのはまずい。
トイレに行きたいのに彰永が邪魔してくる。
「う、卯月ぃっ!」
口を唾液で膨らませている俺にしがみつく。
「死なないでぇ、卯月」
コイツ、ゲロひっかけられたいのか?
そう思った瞬間シーツに向かって、かはっと一つ咳が出た。
喉のつかえがとれたように、急に楽になる。
「……卯月」
彰永が変な声を漏らした。
俺は、苦しくて顔から吹き出してきた涙と鼻水を手の甲で拭って、それを見た。
シーツに、いつぞやの玉将が転がっていた。
(おわり)
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