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第3部
【8】因縁の再会⑱(~雨降っても地は固まりません!)
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【8】
「あ、ここにいたのか! 珠!!」
今度は横の通路から暁さんが駆け寄ってくる。
う~ん。なんだか今日はやたら人が探しに来るなぁ……
「暁さん?」
「携帯に出ないから、どうしたのかと思っただろ?」
やや呆れ顔で心配する暁さんに思わず苦笑いをする。
ははーー携帯……ね。
「……暁さん、これ見て」
そう言って、私はバッグの中からゴソゴソと取り出してみせた『ソレ』はーー
「あ? それってーー」
「じゃっじゃ~ん! どこでもなんちゃら~ならぬ、テレビのリモコンだぁっ!!」
私は得意げにテレビのリモコンを暁さんの目の前に展開すると、暁さんの目がまん丸になる。 ーーまあ、当然か。
「なんで、テレビのリモコンってーー」
「ふふん、だから、これじゃ『もしもし』が出来んとですよ。 いや~本人もビックリっす。 まさかスマホがリモコンに変わってただなんて、もぉ、笑うっきゃないね」
……自分で言うのもなんだが、本当に笑い話にしかならない。それなら面白可笑しく話した方が羞恥心も少しは薄れるだろうと、おちゃらけて見せると暁さんが満面のイケメン笑顔で笑い出した。
「あははは、なにが“じゃっじゃ~ん”だよ。要はスマホだと思ってバッグに入れたのがリモコンだったって話だろ?
でもな、普通スマホとリモコンなんて間違えようもないぞ? なのにそこは、さすがは珠だとしか言いようがないな。 ほんっと、お前といると退屈しねーわ」
そう言いながら、暁さんが私の頭をげんこつで優しくコツンと小突いた。
「エヘヘ、ウケるでしょ。 自分でも面白いとーー」
と、言いかけて背後から、ひょいと手に持っていたリモコンを取り上げられた。 そして代わりに「ほらよ」と私のスマホを持たせられる。
振り返ると、しかめっ面の弟の康介がテレビのリモコンを掴んでいた。
「康介! 私のスマホ持ってきてくれたんだ。 ありがとぉ~! もう、どうしようかと思ってた~!」
すると康介は持っているリモコンで自分の肩をトントンと叩きながら呆れ混じりの息をつく。
「はぁ……どうしようって、どうにも出来んだろ。 それよかテレビのリモコン持っていかれた家の方が『どうしよう』だ」
それを聞いて、さっきまでのヘラヘラ顔が一気に真顔になる。
「え~っと、お母さん、怒ってなかった? いや、怒ってるよね? だって今日はお母さんの好きなドラマの入る日だし
ーーうぅ~帰ったら絶対に怒られる~でも、わざとじゃないのにぃぃ」
思わず頭を抱えると、康介が小さく首を横に振る。
「ああ、怒ってるって言うより呆れてたな。まあ、姉貴のドジは今に始まった事じゃねーし、テレビならブルーレイのデッキリモコン使えっから、そこは大丈夫なんじゃねぇの?
それよか姉貴が外でも、こんなお馬鹿な調子なのかと思うと、そっちの方が逆に恥いわ」
「こ、これはその、恥ずかしいからこその受け狙いというか、通常はもっと普通で真面目にしてるし」
「どうだかな。人の性格なんて、そうそう変わんねーよ。それにいくら猫被ったところで姉貴は長続きしねーから、すぐに本性バレんだろ」
「ううぅぅ~」
康介の言うことに自覚があるだけに何も言えず、小さく唸るしかない。すると隣の暁さんがポンと肩を叩く。
「珠、もしかして、こちらはご家族か?」
暁さんに声を掛けられて、ハッと我に返る。 そういえば弟達と暁さんは初対面だった。
「あ、うん。 えっと、改めてご紹介します。 こっちが私の弟で康介といいます。 そして隣が弟の親友で私の幼馴染の有島くんです。 二人は私と同じ緑峰の一年生なの。
ーーんでもって、康介、奏、こちらが私のバイト先で大変お世話になっている大先輩の周防さん。 ちなみに、ここのオーナーの甥っ子さんで大学生なの」
すると暁さんが先に二人にニッコリと微笑んで挨拶する。
「初めまして、周防 暁といいます。 お姉さんとは同じ職場でいつもお世話になっています。 よろしくお願いします」
「こちらこそ、いつも姉が大変お世話になっているようで、ご迷惑をかけてすいません。 橘 康介です。よろしくお願いします」
「初めまして、有島 奏です。 よろしくお願いします」
その光景は、まるで社会人の名刺交換の時のように、お互いが遠慮がちに挨拶を交わして頭を下げている。
ーー実際は名刺交換なんてしてないけれども。
「うそでしょ! あの康介が礼儀正しい言葉遣いしてるなんて! まともな言葉遣いも出来たのか。
……なんか別人みたい。 ホントに康介?」
そんな私が驚きを隠せずにいると、弟から思いっきり睨まれた。
「あのな! 俺をなんだと思ってんだ!? 初対面の挨拶くらい誰でも普通にすんだろ! しかも礼儀正しいとかって、相手が大人なのに当たり前だろうが」
その言葉を聞いて胸を撫で下ろす。
「あ、やっぱ康介だ。 いや~敬語を使う康介なんて珍しくて、普段のあんたを見ているだけに慣れないっていうか。 でも、そっかぁ~あんたも大人になったんだねぇ~うんうん」
弟の成長を感無量に腕を組みつつ頷いていると、康介がわなわなと拳を握りしめて身体を小刻みに震わせている。
「ぐうぅ、コイツ、今すぐシバきてぇ………」
「康介、落ち着け。 珠里に悪気はないんだから」
「悪気がないのが一番たち悪りぃんだって知ってっか!」
「まあ、まあ、相手は珠里だし」
「くっつ………」
奏に宥められて、がくっと項垂れる康介。
う~ん、そんなに怒らせるような事、言ったかなぁ?
それを見ていた暁さんが楽しそうに笑う。
「あはは、珠の弟も苦労してんな。 しかも年下のわりに珠よりしっかりしてそうだし、これじゃあ、どっちが年上か分かんないな」
「うっ、暁さんまでそういう事言う? ……まあ、周りからもよく言われてるけど、私、そこまでダメ出しされるいわれはーー」
すると康介が鼻で笑う。
「はっ、根本からガキなんだよ、おめーは。 いい加減『二次元』ばっか見てねーで少しは『現実』を見れってんだ。 こっちの振り回される身にもなって見ろよ。 全く付き合いきれねーぜ」
「う、うっさいわね。 余計なお世話よ! それに誰も付き合ってくれなんて言ってないし、振り回すとか人聞きの悪い事言わないでよね!」
私がプイッと康介から顔を背けると、隣の奏と目が合った。なんとなくだが、先ほどから奏の表情に元気がないような気がしたが、目が合うと、いつもの優しい極上の王子様スマイルが返ってくる。
うっ、ま、眩しい! さすがは学園の王子様。 なにげない笑顔もイケメンすぎるっ!
でも笑顔はいつもの奏なんだけど、どこか変な感じがするのは……う~ん。気のせい?
「……ふ~ん? こうして並べて見ると確かに珠と橘弟は、なんとなく面差しが似てるな。 それに姉弟二人ともタッパあるし、両親も背が高いのか?」
じいっと観察するかのように私と弟を交互に見つめる暁さんの視線がなんだかこそばゆくて、視線を遮るように大きく手を振る。
「ちょ、暁さんってば、あんまりジロジロ見ないでよ。 確かにウチの両親は二人とも背が高い方だから私たちも必然的になのかもね。
けど、顔とかは全然似てないでしょ。 どっちかというと私は父方のお祖母ちゃん似で、弟はお母さん似だから」
「へぇ~、でもやっぱ、どことなく似てるって。 姉弟ってそういうもんだからさーーって、そういや珠! お前、碧にコーヒー掛けられたって聞いたけど、大丈夫なのか!」
暁さんが急に思い出したかのように詰め寄ってくる。
「あ、廉さんに聞いたの? 全然大丈夫だよ。 それに私が悪いんだから碧さんはちっとも悪くないんだからね?」
「だけど、制服汚れたってーー?」
と、言いつつ暁さんは私の着ている制服を確認している。
「え~と、まあ、ちょこっとだけね。 けど、緋色くんが制服貸してくれたから、とりあえず問題ないかな?」
私は少し身を左右に捩りながら制服を見せると、すぐさま康介と奏が反応した。
「はあ?」 と、康介。
「えっ…?」 と、奏。
そして、いきなり康介に袖を強く引っ張られ近くに引き寄せられた。
「ちょっと康介! そんな強く引っ張らないでよ! これ、借り物なんだからね!」
そんな康介に乱暴に掴まれた手を振り払うように叩き落とすと、少し皺になってしまった袖を慌てて直した。
「康介! あんたね、その勢いに任せた行動どうにかなんないの? だから『信長』だなんて言われるのよ」
私が説教体勢をとって弟を睨みつけると、康介も怒りながら応戦してくる。
「んな事ぁどうでもいい! それよりも、どーいう経緯か初めっから説明しろや! なんで姉貴が他人の男の制服なんて着てんだよ! しかもコーヒー掛けられただって?」
それを聞いて私は「はぁ~」と短くため息を吐く。
「やだ、あんたも私の心配してるの? ほら、見ての通りなんでもないでしょ? ん~ちょっと通路を走ってたら、角の出会い頭で人とぶつかっちゃったんだよ。 で、その人が持っていたコーヒーが制服に掛かっちゃったってわけ。
それで今日のパーティー主催者の身内で同じ高校の後輩くんが制服で来てたから、私が困るだろうと思って親切にも貸してくれたの」
すると康介の目が呆れるように細くなる。
「はっ、誰がテメェの心配なんかするかよ。 能天気も甚だしいな。 とにかくだ、色々聞きてぇ事はまだあるけど、コーヒーに関する件は大体分かった。 んで、その後輩って俺と同年の昔の知り合いってヤツか?」
少し怒りの語尾を抑えた康介に問われ、私は「あっ」と思い出したように頷く。
「そうそう、それだよ! 康介! 『柏木 緋色』くんって知ってる? どうやら昔の知り合いみたいなんだけど、私、全然覚えていなくって」
すると康介が考え込むように私から視線を逸らす。
「柏木 緋色? ……そんなヤツ、知り合いに居たっけかな」
「あんたと、おない歳なんだって。すっごく可愛い男の子だよ。なんといっても、あの『春人』くんと見た目がそっくりなんだよ。性格は全然だけど。
しかもピアノも上手でーーあ、でもエレクトーンが専攻なんだって。 なのに、さっきピアノ弾いたら、それがめちゃくちゃ上手でさ、
そこに『春人』くんが本当にいるみたいで、もう夢みたいにカッコよくて、皆、感動しててーー」
と、再びあの感動を思い出して、やや興奮気味に語る私を制止させるように康介の言葉が被さる。
「だあぁっ! それはもういい! 話の論点ズレんだろーがっ! ーー奏、お前の方は心当たりあるか?」
私を無視して康介が後方にいる奏に話を振ると、奏も考えている様だったが小さく首を横に振る。
「……いや、覚えがないな」
私はそんな奏を見ていると、奏は伏せていた顔を上げて一瞬こちらに視線を向けたかと思えば、スッと目を逸らしてしまった。
ーーえ? 奏?
やっぱり奏の様子がおかしい。 どうしたんだろう?
そんな奏の様子が心配になって思わず康介の方を見ると、康介は自分の頭を搔きながら長いため息を吐いた。
「はぁぁ……まあ、いいや。 そんで、姉ちゃん、その『柏木』って今どこに居んの? 実際会ってみれば分かんだろ。 紹介して」
康介に言われ、私は先ほど緋色くんが消えた方向を見つめる。
「それが、さっきまでは一緒にいたんだけど、身内らしき人が外から来て二人でどっかに行っちゃった。 ーー暁さん、緋色くんに会わなかった?」
すると暁さんが首を横に振る。
「いや、俺は見てないな。でもまだ帰ってはいないだろうから館内にはいるんじゃないか?」
「う~ん、だったら広間の方かなぁ? あ、そうだ。館内放送で呼び出しかけたら……怒るよね、きっと」
「ああ、それはやめといた方がいいかもな」
「だよね。私だってそんな事されたらヤダもん」
そんな迷子みたいに名前で呼び出しなんて、絶対に恥ずかしいに決まってる。
そんな私は七奈心さんの事もあり、再び広間に戻ることに気が進まないながらも、弟たちを引き連れて一先ずパーティー会場に戻ることにした。
【8ー続】
「あ、ここにいたのか! 珠!!」
今度は横の通路から暁さんが駆け寄ってくる。
う~ん。なんだか今日はやたら人が探しに来るなぁ……
「暁さん?」
「携帯に出ないから、どうしたのかと思っただろ?」
やや呆れ顔で心配する暁さんに思わず苦笑いをする。
ははーー携帯……ね。
「……暁さん、これ見て」
そう言って、私はバッグの中からゴソゴソと取り出してみせた『ソレ』はーー
「あ? それってーー」
「じゃっじゃ~ん! どこでもなんちゃら~ならぬ、テレビのリモコンだぁっ!!」
私は得意げにテレビのリモコンを暁さんの目の前に展開すると、暁さんの目がまん丸になる。 ーーまあ、当然か。
「なんで、テレビのリモコンってーー」
「ふふん、だから、これじゃ『もしもし』が出来んとですよ。 いや~本人もビックリっす。 まさかスマホがリモコンに変わってただなんて、もぉ、笑うっきゃないね」
……自分で言うのもなんだが、本当に笑い話にしかならない。それなら面白可笑しく話した方が羞恥心も少しは薄れるだろうと、おちゃらけて見せると暁さんが満面のイケメン笑顔で笑い出した。
「あははは、なにが“じゃっじゃ~ん”だよ。要はスマホだと思ってバッグに入れたのがリモコンだったって話だろ?
でもな、普通スマホとリモコンなんて間違えようもないぞ? なのにそこは、さすがは珠だとしか言いようがないな。 ほんっと、お前といると退屈しねーわ」
そう言いながら、暁さんが私の頭をげんこつで優しくコツンと小突いた。
「エヘヘ、ウケるでしょ。 自分でも面白いとーー」
と、言いかけて背後から、ひょいと手に持っていたリモコンを取り上げられた。 そして代わりに「ほらよ」と私のスマホを持たせられる。
振り返ると、しかめっ面の弟の康介がテレビのリモコンを掴んでいた。
「康介! 私のスマホ持ってきてくれたんだ。 ありがとぉ~! もう、どうしようかと思ってた~!」
すると康介は持っているリモコンで自分の肩をトントンと叩きながら呆れ混じりの息をつく。
「はぁ……どうしようって、どうにも出来んだろ。 それよかテレビのリモコン持っていかれた家の方が『どうしよう』だ」
それを聞いて、さっきまでのヘラヘラ顔が一気に真顔になる。
「え~っと、お母さん、怒ってなかった? いや、怒ってるよね? だって今日はお母さんの好きなドラマの入る日だし
ーーうぅ~帰ったら絶対に怒られる~でも、わざとじゃないのにぃぃ」
思わず頭を抱えると、康介が小さく首を横に振る。
「ああ、怒ってるって言うより呆れてたな。まあ、姉貴のドジは今に始まった事じゃねーし、テレビならブルーレイのデッキリモコン使えっから、そこは大丈夫なんじゃねぇの?
それよか姉貴が外でも、こんなお馬鹿な調子なのかと思うと、そっちの方が逆に恥いわ」
「こ、これはその、恥ずかしいからこその受け狙いというか、通常はもっと普通で真面目にしてるし」
「どうだかな。人の性格なんて、そうそう変わんねーよ。それにいくら猫被ったところで姉貴は長続きしねーから、すぐに本性バレんだろ」
「ううぅぅ~」
康介の言うことに自覚があるだけに何も言えず、小さく唸るしかない。すると隣の暁さんがポンと肩を叩く。
「珠、もしかして、こちらはご家族か?」
暁さんに声を掛けられて、ハッと我に返る。 そういえば弟達と暁さんは初対面だった。
「あ、うん。 えっと、改めてご紹介します。 こっちが私の弟で康介といいます。 そして隣が弟の親友で私の幼馴染の有島くんです。 二人は私と同じ緑峰の一年生なの。
ーーんでもって、康介、奏、こちらが私のバイト先で大変お世話になっている大先輩の周防さん。 ちなみに、ここのオーナーの甥っ子さんで大学生なの」
すると暁さんが先に二人にニッコリと微笑んで挨拶する。
「初めまして、周防 暁といいます。 お姉さんとは同じ職場でいつもお世話になっています。 よろしくお願いします」
「こちらこそ、いつも姉が大変お世話になっているようで、ご迷惑をかけてすいません。 橘 康介です。よろしくお願いします」
「初めまして、有島 奏です。 よろしくお願いします」
その光景は、まるで社会人の名刺交換の時のように、お互いが遠慮がちに挨拶を交わして頭を下げている。
ーー実際は名刺交換なんてしてないけれども。
「うそでしょ! あの康介が礼儀正しい言葉遣いしてるなんて! まともな言葉遣いも出来たのか。
……なんか別人みたい。 ホントに康介?」
そんな私が驚きを隠せずにいると、弟から思いっきり睨まれた。
「あのな! 俺をなんだと思ってんだ!? 初対面の挨拶くらい誰でも普通にすんだろ! しかも礼儀正しいとかって、相手が大人なのに当たり前だろうが」
その言葉を聞いて胸を撫で下ろす。
「あ、やっぱ康介だ。 いや~敬語を使う康介なんて珍しくて、普段のあんたを見ているだけに慣れないっていうか。 でも、そっかぁ~あんたも大人になったんだねぇ~うんうん」
弟の成長を感無量に腕を組みつつ頷いていると、康介がわなわなと拳を握りしめて身体を小刻みに震わせている。
「ぐうぅ、コイツ、今すぐシバきてぇ………」
「康介、落ち着け。 珠里に悪気はないんだから」
「悪気がないのが一番たち悪りぃんだって知ってっか!」
「まあ、まあ、相手は珠里だし」
「くっつ………」
奏に宥められて、がくっと項垂れる康介。
う~ん、そんなに怒らせるような事、言ったかなぁ?
それを見ていた暁さんが楽しそうに笑う。
「あはは、珠の弟も苦労してんな。 しかも年下のわりに珠よりしっかりしてそうだし、これじゃあ、どっちが年上か分かんないな」
「うっ、暁さんまでそういう事言う? ……まあ、周りからもよく言われてるけど、私、そこまでダメ出しされるいわれはーー」
すると康介が鼻で笑う。
「はっ、根本からガキなんだよ、おめーは。 いい加減『二次元』ばっか見てねーで少しは『現実』を見れってんだ。 こっちの振り回される身にもなって見ろよ。 全く付き合いきれねーぜ」
「う、うっさいわね。 余計なお世話よ! それに誰も付き合ってくれなんて言ってないし、振り回すとか人聞きの悪い事言わないでよね!」
私がプイッと康介から顔を背けると、隣の奏と目が合った。なんとなくだが、先ほどから奏の表情に元気がないような気がしたが、目が合うと、いつもの優しい極上の王子様スマイルが返ってくる。
うっ、ま、眩しい! さすがは学園の王子様。 なにげない笑顔もイケメンすぎるっ!
でも笑顔はいつもの奏なんだけど、どこか変な感じがするのは……う~ん。気のせい?
「……ふ~ん? こうして並べて見ると確かに珠と橘弟は、なんとなく面差しが似てるな。 それに姉弟二人ともタッパあるし、両親も背が高いのか?」
じいっと観察するかのように私と弟を交互に見つめる暁さんの視線がなんだかこそばゆくて、視線を遮るように大きく手を振る。
「ちょ、暁さんってば、あんまりジロジロ見ないでよ。 確かにウチの両親は二人とも背が高い方だから私たちも必然的になのかもね。
けど、顔とかは全然似てないでしょ。 どっちかというと私は父方のお祖母ちゃん似で、弟はお母さん似だから」
「へぇ~、でもやっぱ、どことなく似てるって。 姉弟ってそういうもんだからさーーって、そういや珠! お前、碧にコーヒー掛けられたって聞いたけど、大丈夫なのか!」
暁さんが急に思い出したかのように詰め寄ってくる。
「あ、廉さんに聞いたの? 全然大丈夫だよ。 それに私が悪いんだから碧さんはちっとも悪くないんだからね?」
「だけど、制服汚れたってーー?」
と、言いつつ暁さんは私の着ている制服を確認している。
「え~と、まあ、ちょこっとだけね。 けど、緋色くんが制服貸してくれたから、とりあえず問題ないかな?」
私は少し身を左右に捩りながら制服を見せると、すぐさま康介と奏が反応した。
「はあ?」 と、康介。
「えっ…?」 と、奏。
そして、いきなり康介に袖を強く引っ張られ近くに引き寄せられた。
「ちょっと康介! そんな強く引っ張らないでよ! これ、借り物なんだからね!」
そんな康介に乱暴に掴まれた手を振り払うように叩き落とすと、少し皺になってしまった袖を慌てて直した。
「康介! あんたね、その勢いに任せた行動どうにかなんないの? だから『信長』だなんて言われるのよ」
私が説教体勢をとって弟を睨みつけると、康介も怒りながら応戦してくる。
「んな事ぁどうでもいい! それよりも、どーいう経緯か初めっから説明しろや! なんで姉貴が他人の男の制服なんて着てんだよ! しかもコーヒー掛けられただって?」
それを聞いて私は「はぁ~」と短くため息を吐く。
「やだ、あんたも私の心配してるの? ほら、見ての通りなんでもないでしょ? ん~ちょっと通路を走ってたら、角の出会い頭で人とぶつかっちゃったんだよ。 で、その人が持っていたコーヒーが制服に掛かっちゃったってわけ。
それで今日のパーティー主催者の身内で同じ高校の後輩くんが制服で来てたから、私が困るだろうと思って親切にも貸してくれたの」
すると康介の目が呆れるように細くなる。
「はっ、誰がテメェの心配なんかするかよ。 能天気も甚だしいな。 とにかくだ、色々聞きてぇ事はまだあるけど、コーヒーに関する件は大体分かった。 んで、その後輩って俺と同年の昔の知り合いってヤツか?」
少し怒りの語尾を抑えた康介に問われ、私は「あっ」と思い出したように頷く。
「そうそう、それだよ! 康介! 『柏木 緋色』くんって知ってる? どうやら昔の知り合いみたいなんだけど、私、全然覚えていなくって」
すると康介が考え込むように私から視線を逸らす。
「柏木 緋色? ……そんなヤツ、知り合いに居たっけかな」
「あんたと、おない歳なんだって。すっごく可愛い男の子だよ。なんといっても、あの『春人』くんと見た目がそっくりなんだよ。性格は全然だけど。
しかもピアノも上手でーーあ、でもエレクトーンが専攻なんだって。 なのに、さっきピアノ弾いたら、それがめちゃくちゃ上手でさ、
そこに『春人』くんが本当にいるみたいで、もう夢みたいにカッコよくて、皆、感動しててーー」
と、再びあの感動を思い出して、やや興奮気味に語る私を制止させるように康介の言葉が被さる。
「だあぁっ! それはもういい! 話の論点ズレんだろーがっ! ーー奏、お前の方は心当たりあるか?」
私を無視して康介が後方にいる奏に話を振ると、奏も考えている様だったが小さく首を横に振る。
「……いや、覚えがないな」
私はそんな奏を見ていると、奏は伏せていた顔を上げて一瞬こちらに視線を向けたかと思えば、スッと目を逸らしてしまった。
ーーえ? 奏?
やっぱり奏の様子がおかしい。 どうしたんだろう?
そんな奏の様子が心配になって思わず康介の方を見ると、康介は自分の頭を搔きながら長いため息を吐いた。
「はぁぁ……まあ、いいや。 そんで、姉ちゃん、その『柏木』って今どこに居んの? 実際会ってみれば分かんだろ。 紹介して」
康介に言われ、私は先ほど緋色くんが消えた方向を見つめる。
「それが、さっきまでは一緒にいたんだけど、身内らしき人が外から来て二人でどっかに行っちゃった。 ーー暁さん、緋色くんに会わなかった?」
すると暁さんが首を横に振る。
「いや、俺は見てないな。でもまだ帰ってはいないだろうから館内にはいるんじゃないか?」
「う~ん、だったら広間の方かなぁ? あ、そうだ。館内放送で呼び出しかけたら……怒るよね、きっと」
「ああ、それはやめといた方がいいかもな」
「だよね。私だってそんな事されたらヤダもん」
そんな迷子みたいに名前で呼び出しなんて、絶対に恥ずかしいに決まってる。
そんな私は七奈心さんの事もあり、再び広間に戻ることに気が進まないながらも、弟たちを引き連れて一先ずパーティー会場に戻ることにした。
【8ー続】
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