偽りの恋人達

胸の轟

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【3】

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いつもの理知的な瞳は鳴りを潜め、苛立ちを滲ませている。


「…何で俺を拒むの?」

その声は酷く硬い。


「マル…コ…、わた、私……」

どうしよう、マルコがすごく怒ってる。…怒られても罵られても仕方ないって思う。でも、でも、このまま嫌われるのだけは嫌!


「…何。何か言いたいことでも?」

「マルコ、ごめん。…ごめんなさい。」

「それは何に対して?ーー泣くほど俺が嫌か。」


知らぬ間に涙が零れていた。

「違っ…、マルコが、知らない人みた…っ、…顔……、冷た…っ、……き、嫌いにならないでっ!」


マルコは一瞬何を言われたのか分からない顔をし、すぐ辛そうな顔を見せた。


「…嫌いになったのはアウロラの方じゃないの?」

「え?」


マルコは身体を起こしベッドの縁に腰かけた。


「…食事の時もアレを気にして落ち込んでたじゃないか。ホントは俺より「やめてよ!バカなこと言わないで!そんなことあり得ないって解ってるでしょ。」

「あり得ないって俺だって解ってるよ!解ってるはずなのに、バカバカしいって、違うって思うのに、いつまでも気にしてるアウロラを見てたら、なんかもう訳が解らなくなってきて、心が乱されてどうしようもなくて…」


俯くマルコに胸が痛む。


「マルコ…」



自分のことばかり考えて、マルコを傷付けてしまった。



「マルコ」


呼んでもこちらを見ようとしないマルコの頬に口付ければ、やっとこちらを見てくれた。ーーその瞳は昔、森で迷子になった時の瞳に似ていた。

あの時、自分のことでいっぱいいっぱいで分からなかったけど、大丈夫って励ましてくれてたマルコだって小さな子どもで、怖くて心細かったよね。


思えば私は何時だって自分のことばかり。マルコは私のことを一番に気に掛けてくれてるのに。

子どもの頃からちっとも成長出来てないのが恥ずかしい。


「私、マルコに喜んでほしかったの。マルコに誉められたかったの。なのに全然駄目だし、こんなんじゃマルコに呆れられて嫌われて、もう側に居られなくなっちゃうかもって。…だから、どこが駄目だったか知りたかった。次こそ上手くやって、マルコの側にずっと居られるようになりたかったの。」

「アウロラを嫌いになんてならないよ。」

「ホントに?…私自分のことばかり考えてるよ。」

「そんなことないよ。アウロラが自分のことばかりって言うなら、俺だって自分のことばかりだよ。…俺は、俺がアウロラの側に居るためなら何だってする。例えアウロラが嫌だと言ってもね。絶対離れない。」


マルコが離れてしまうんじゃないかと、私を嫌いになるかもしれないと、不安だった。でも、マルコが、ずっと離れないと言ってくれた。この先もマルコと一緒に居られると思うと、歓喜で胸が震えた。



「ずっと恋しかったの。私の宝物テゾーロ

「離れているのが辛かったよ。最愛カーラ


啄むような口付けを繰り返し、やがて深い口付けを交わし合いながら、マルコが私をそっと横たえる。
 

マルコの瞳は蕩けるような眼差しを向け、声は甘い響きで私の名を呼ぶ。


綺麗な顔立ちに少し不釣り合いな、狩る者特有の武骨な手が余すところなく私に触れ、愛してると囁く唇が降り注ぐ。
 

マルコの舌が、指が、私を翻弄していく。

丹念に行われるそれらによって、蜜が後から後から溢れていくのが嫌でも分かる。


私の感じる場所を知り尽くしたマルコに攻められ、結局マルコ自身を受け入れる前にイッてしまった。
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