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case3/絶望も突き詰めれば希望である
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朝起きて出社して退社して眠って朝起きる。
時々飲みに行ったり休みの日は掃除したり、そんなダラダラとしたルーティーンの中でごくごく平凡な生活を送っていた。
はずだったのに。
ある日俺の部屋にお近づきになりたくないような怖い人達がきて見せられたのは、冗談みたいな額と身に覚えのない自分のサインと印が記された紙切れだった。
ぽかんとする俺が聞かされたのは、昔からの付き合いだった親友の名前で。
何が起きてるのかわからなくて、認めたくなくて、心臓がどんどん冷たくなっていくのがわかった。
それからはただ立ち尽くすばかりで、気づけば怖い人がいっぱいの事務所にいた。
俺が借金を返さないといけないらしく、恐ろしい脅しの言葉がかけられて震えを押さえるのに精一杯だった。
これからどうなっちゃうんだろうってそればっかりで、拒否権もなにもない俺はいかがわしい店にいれられた。
部屋は売り飛ばされ、両親を早くに亡くした俺は行くところも帰るところもなく、言われたままにするしかなかった。
あれよあれよという間に平凡な日々は去っていき、転がるように落ちていった俺は、人生で初めて体を売ることになるらしかった。
オーナーとの面接があったけど別世界にいるようであまりに現実味がなく、なにを受け答えしたのか覚えていない。
もうどうにでもなればいいって半分ヤケだったし。
この店はあの怖い方々の監視下にあるみたいだから逃げ場なんてなくて、俺の稼ぎはほとんどがそのまま借金の返済に当てられるようだった。
家のない俺はこの店の仮眠室を借りることになった。
シャワー室もあるし生きる分にはまあ困らない。
野宿よりマシって程度だけど。
右も左も分からなくてガチガチになってる俺に、教育係とやらが紹介された。
こんな仕事でなにを教育するんだろうなんてそのときの俺は呑気に思っていた。
教育係の男は俺より少し身長が低くて細いけどなよなよはしてない体つきだった。
歳はあまり変わらないみたいだ。
一通り俺を見ると、ふーん、と言って軽くよろしくと言われた。
飄々としていてなにを考えてるのかわからないやつだっていうのが第一印象だった。
あとは教育係に訊けといってオーナーは仕事に戻ってしまった。
オーナーもなんだか冷たそうで、あんな怖い奴らと繋がってんのかと思うとやっぱり怖かったから解放されてホッとした。
教育係の男もさっさとオーナー室を出てったから慌てて追いかけた。
そいつは歩きながら名前だけ言う簡素な自己紹介をした。
敬語使ったら気持ち悪がられて、祐也でいいって言われた。
訊けば同い年だった。
店では先輩だけど祐也が気にするなって言うからタメ口で呼び捨てにしてる。
ここではそういうもんなのかってなんとなく思った。
祐也は前をぶらぶら歩きながら建物の中を案内してくれた。
そんなに広いところじゃないから5分もあれば周りきれてしまった。
仮眠室、シャワー室、オーナー室、仕事待機の待合室。
待合室っていったってソファーが何個か並んでて後はそれぞれが持ち寄ってるのか雑誌やら漫画やらが散乱してる部屋だ。
食べ物から大人の玩具まで自由にほっぽり出されてる。
俺たちが行った時には数人がダラダラしてて、なんか慣れない雰囲気で怖かった。
新入りが珍しくはないのか、チラッとこっちを見ただけですぐ視線を下げる。
そんな風に俺のここでの生活はスタートした。
初めての仕事は女相手で、呼ばれて行ってみたら俺よりいくつか上の女性が部屋で待っていた。
いい男だのなんだの言われてすぐキスされてベルトを外された。
気圧されてなかなか勃たなくて、初めての仕事なんですって情けない声で言ってなんとか待ってもらった。
直接的な刺激で必死に勃たせて後はその人の体にひたすら触ってごまかした。
知らない人が甘ったるい声を出してるのが変な感覚で、薄い膜を一枚隔てて世界を見てるみたいだった。
機械的に動いてる指が俺のものじゃないみたいな錯覚。
柔らかい肌の感触と、濡れた熱さと、知らない匂い。
三時間で三万円だったけど、チップだって二万円渡されて俺は困った。
いいですって言ったら驚かれて、真面目な子だって笑われた。
女性は裸のまま煙草を吸っていて、俺は汗かいた体にさっきまで着てた服をまた着直してベッドの横に立ってた。
いいからって強引に受け取らされて俺は礼を言って店に帰った。
オーナーにチップをもらったと渡したら、それを聞いた祐也にすごい顔された。
黙ってもらっちゃえばいいのにって言われたけど、俺は借金がある身だしそんな勝手なことできない。
シャワー室を借りて体中ガシガシ洗った。
シャワー浴びたら全身に残った感触がもっと生々しくなっていつまでも洗う手が止められなかった。
その日は明け方頃に仮眠室に行ったけど自分のしたことが気持ち悪くて寝付けなかった。
目を閉じると暗闇で見た女の肌とAVみたいな派手な喘ぎ声がフラッシュバックしてたまらず目を開けた。
暗闇を睨んでるとどうしてあいつは俺を裏切って借金を押し付けたんだろうとか、なんでこんな目に合わなきゃいけないんだとかそういうことが浮かんで涙が出てきた。
緊張の連続で疲れきった体は気絶するみたいに少しだけ眠って、嫌な夢を見て飛び起きて、また少しうとうとするっていう繰り返しだった。
時々飲みに行ったり休みの日は掃除したり、そんなダラダラとしたルーティーンの中でごくごく平凡な生活を送っていた。
はずだったのに。
ある日俺の部屋にお近づきになりたくないような怖い人達がきて見せられたのは、冗談みたいな額と身に覚えのない自分のサインと印が記された紙切れだった。
ぽかんとする俺が聞かされたのは、昔からの付き合いだった親友の名前で。
何が起きてるのかわからなくて、認めたくなくて、心臓がどんどん冷たくなっていくのがわかった。
それからはただ立ち尽くすばかりで、気づけば怖い人がいっぱいの事務所にいた。
俺が借金を返さないといけないらしく、恐ろしい脅しの言葉がかけられて震えを押さえるのに精一杯だった。
これからどうなっちゃうんだろうってそればっかりで、拒否権もなにもない俺はいかがわしい店にいれられた。
部屋は売り飛ばされ、両親を早くに亡くした俺は行くところも帰るところもなく、言われたままにするしかなかった。
あれよあれよという間に平凡な日々は去っていき、転がるように落ちていった俺は、人生で初めて体を売ることになるらしかった。
オーナーとの面接があったけど別世界にいるようであまりに現実味がなく、なにを受け答えしたのか覚えていない。
もうどうにでもなればいいって半分ヤケだったし。
この店はあの怖い方々の監視下にあるみたいだから逃げ場なんてなくて、俺の稼ぎはほとんどがそのまま借金の返済に当てられるようだった。
家のない俺はこの店の仮眠室を借りることになった。
シャワー室もあるし生きる分にはまあ困らない。
野宿よりマシって程度だけど。
右も左も分からなくてガチガチになってる俺に、教育係とやらが紹介された。
こんな仕事でなにを教育するんだろうなんてそのときの俺は呑気に思っていた。
教育係の男は俺より少し身長が低くて細いけどなよなよはしてない体つきだった。
歳はあまり変わらないみたいだ。
一通り俺を見ると、ふーん、と言って軽くよろしくと言われた。
飄々としていてなにを考えてるのかわからないやつだっていうのが第一印象だった。
あとは教育係に訊けといってオーナーは仕事に戻ってしまった。
オーナーもなんだか冷たそうで、あんな怖い奴らと繋がってんのかと思うとやっぱり怖かったから解放されてホッとした。
教育係の男もさっさとオーナー室を出てったから慌てて追いかけた。
そいつは歩きながら名前だけ言う簡素な自己紹介をした。
敬語使ったら気持ち悪がられて、祐也でいいって言われた。
訊けば同い年だった。
店では先輩だけど祐也が気にするなって言うからタメ口で呼び捨てにしてる。
ここではそういうもんなのかってなんとなく思った。
祐也は前をぶらぶら歩きながら建物の中を案内してくれた。
そんなに広いところじゃないから5分もあれば周りきれてしまった。
仮眠室、シャワー室、オーナー室、仕事待機の待合室。
待合室っていったってソファーが何個か並んでて後はそれぞれが持ち寄ってるのか雑誌やら漫画やらが散乱してる部屋だ。
食べ物から大人の玩具まで自由にほっぽり出されてる。
俺たちが行った時には数人がダラダラしてて、なんか慣れない雰囲気で怖かった。
新入りが珍しくはないのか、チラッとこっちを見ただけですぐ視線を下げる。
そんな風に俺のここでの生活はスタートした。
初めての仕事は女相手で、呼ばれて行ってみたら俺よりいくつか上の女性が部屋で待っていた。
いい男だのなんだの言われてすぐキスされてベルトを外された。
気圧されてなかなか勃たなくて、初めての仕事なんですって情けない声で言ってなんとか待ってもらった。
直接的な刺激で必死に勃たせて後はその人の体にひたすら触ってごまかした。
知らない人が甘ったるい声を出してるのが変な感覚で、薄い膜を一枚隔てて世界を見てるみたいだった。
機械的に動いてる指が俺のものじゃないみたいな錯覚。
柔らかい肌の感触と、濡れた熱さと、知らない匂い。
三時間で三万円だったけど、チップだって二万円渡されて俺は困った。
いいですって言ったら驚かれて、真面目な子だって笑われた。
女性は裸のまま煙草を吸っていて、俺は汗かいた体にさっきまで着てた服をまた着直してベッドの横に立ってた。
いいからって強引に受け取らされて俺は礼を言って店に帰った。
オーナーにチップをもらったと渡したら、それを聞いた祐也にすごい顔された。
黙ってもらっちゃえばいいのにって言われたけど、俺は借金がある身だしそんな勝手なことできない。
シャワー室を借りて体中ガシガシ洗った。
シャワー浴びたら全身に残った感触がもっと生々しくなっていつまでも洗う手が止められなかった。
その日は明け方頃に仮眠室に行ったけど自分のしたことが気持ち悪くて寝付けなかった。
目を閉じると暗闇で見た女の肌とAVみたいな派手な喘ぎ声がフラッシュバックしてたまらず目を開けた。
暗闇を睨んでるとどうしてあいつは俺を裏切って借金を押し付けたんだろうとか、なんでこんな目に合わなきゃいけないんだとかそういうことが浮かんで涙が出てきた。
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