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第五部
第4章〜都市に伝わるあるウワサについて〜⑦
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「黄瀬くん!!」
女子の甲高い声が会議室に響く。
「おい、壮馬! 大丈夫か!?」
オレが親友に駆け寄り、上体を起こして、顔を見ながらようすを確認すると、壮馬は、
「あぁ、竜司……ゴメンよ、ちょっと目眩がして……」
と返答し、なんとか、意識があることだけはわかった。
「発汗と顔の火照りが見られるわね……。熱中症かも知れないわ。佐倉さん、すぐに職員室に連絡して! 黒田くんは、黄瀬くんを楽な姿勢にしてあげて。宮野さんは、自販機で冷たいスポーツドリンクを買ってきてちょうだい」
そう言って、上級生は財布を取り出して、下級生に小銭を手渡す。
突発的なトラブルに対しても、鳳花先輩は、キビキビと的確に指示を出し、オレたちは彼女の言うとおりに行動を開始した。
幸いなことに、夏休み中にもかかわらず、養護教諭の遠山先生が出勤していたので、会議室まで来てもらい、ようすを確認してもらった。
「うん、熱中症の可能性が高いな。自力で水分を取るのは難しそうか……? よし、私が車を出すから、黒田、付き添ってくれるか?」
「わかりました!」
オレに確認を取ったあと、養護教諭は、保健室に車椅子を取りに行き、オレと緑川の男子2名で壮馬を運ばれて来た車椅子に座らせた。
そのまま、生徒昇降口のそばに自家用車を回してくれた遠山先生のクルマに乗り込み、近くの病院に向かう。
事前予約なしで受診できる市内の応急診療所に到着すると、すぐに診察が始まり、見立てどおり、壮馬は軽度の熱中症と診断された。
症状が重くないという診察結果に、安心しつつも、グッタリとしながら、時おり、
「うしおんなが……」
と言う、つぶやきを発する姿は、少し心配になる。
そのまま、病院のベッドで安静にしている間、移動中にスマホで連絡を取っていた壮馬の母親の奈々美さんが、病院に駆けつけてくれた。
「昨日の今日で、こんなことになるなんて……続けて、迷惑を掛けてしまってゴメンナサイね、竜司くん」
平謝りに頭を下げる親友の母親に恐縮しながら、返答する。
「いえ、今日は学校にいた先生や先輩が助けてくれただけなので、オレはなにも……それより、壮馬は、ちょっと疲れているみたいなので、自宅でゆっくり休ませてあげてくれませんか? オレの自室の隣の《編集室》も、しばらく、出禁にします」
「そうね……本人は、『来年は受験だから、今年の夏休みは最後のチャンスなんだ!』って、意気込んでいたみたいなんだけど……」
頬に手を当て、心配そうに語る奈々美さんの言葉に、「あぁ、壮馬らしいですね……」と、うなずき、
「体調が戻ったら、連絡してくれませんか? 迷惑じゃなければ、久々にお宅に伺わせてもらおうと思います。あと、『今回の企画の残りの作業は、こっちで進めるから、ゆっくり身体を休めておけ』と伝えてくれませんか?」
と、お願いすると、彼女は「わかったわ……」と、少しだけ微笑みながら応じた。
こうして、壮馬を彼の母親に託したオレが、遠山先生とともに、学校に戻ると、時刻は昼食の時間を大幅に過ぎていた。
帰り際に、壮馬の診断結果を伝えるために鳳花部長に連絡を取ると、
「みんなには、心配しないように伝えて、そのまま帰ってもらったわ。私は、放送室に居るから、良ければ、病院での話しを聞かせてちょうだい」
とのことだったので、放送室に向かう。ドアを開けて、室内に入ると、上級生は、英語の学習をしていたようだ。
「部長、今日は色々と助けてもらって、ありがとうございました。あと、変なことに巻き込んじゃって、申し訳ありません」
そう言って、頭を下げると、「黄瀬くんの症状が、軽症だったのは幸いだったわね」と返答したあと、彼女は続けて、こう言った。
「とは言え、彼にも言ったように、撮影のために深夜徘徊をした上に、ご家族や学校に迷惑を掛ける結果になってしまったことは看過できないわ。貴方と黄瀬くんには、しばらく、活動を謹慎してもらうことになるかも知れないから、覚悟をしておいてね」
広報部の責任者らしく、しっかりと釘を刺す先輩の言葉に、「わかりました……」と、返答しつつ、
「ただ、撮影や配信などの活動は止めますが、気掛かりなことの調査は続けても構わないでしょうか?」
と、部長にお伺いを立てる。
「気掛かりなこと、と言うと……?」
「はい、先日、文芸部の天竹と図書室で調べていたことに、答えを出しておきたいんです。彼女は、鳳花先輩のアドバイスを受けて、アメリカの幽霊屋敷、ウィンチェスター・ミステリー・ハウスの真相について、詳細に調査した結果を報告してくれました。オレも、自分たちの街に伝わる『牛女』の伝承について、納得いくまで調べてみたいんです」
オレの申し出に対して、最初は、やや怪訝な表情を見せていた上級生は、「あぁ、例の『サンフランシスコ・エグザミナー』の記事に関することね?」と、つぶやいたあと、
「わかったわ。広報部の部員として得るものがあると貴方が考えるなら、その調査を継続することは許可しましょう。ただし、くれぐれも、深入りしすぎて黄瀬くんの二の舞いにならないように気をつけなさい」
と、念を押し、調査活動について、承認してくれた。
女子の甲高い声が会議室に響く。
「おい、壮馬! 大丈夫か!?」
オレが親友に駆け寄り、上体を起こして、顔を見ながらようすを確認すると、壮馬は、
「あぁ、竜司……ゴメンよ、ちょっと目眩がして……」
と返答し、なんとか、意識があることだけはわかった。
「発汗と顔の火照りが見られるわね……。熱中症かも知れないわ。佐倉さん、すぐに職員室に連絡して! 黒田くんは、黄瀬くんを楽な姿勢にしてあげて。宮野さんは、自販機で冷たいスポーツドリンクを買ってきてちょうだい」
そう言って、上級生は財布を取り出して、下級生に小銭を手渡す。
突発的なトラブルに対しても、鳳花先輩は、キビキビと的確に指示を出し、オレたちは彼女の言うとおりに行動を開始した。
幸いなことに、夏休み中にもかかわらず、養護教諭の遠山先生が出勤していたので、会議室まで来てもらい、ようすを確認してもらった。
「うん、熱中症の可能性が高いな。自力で水分を取るのは難しそうか……? よし、私が車を出すから、黒田、付き添ってくれるか?」
「わかりました!」
オレに確認を取ったあと、養護教諭は、保健室に車椅子を取りに行き、オレと緑川の男子2名で壮馬を運ばれて来た車椅子に座らせた。
そのまま、生徒昇降口のそばに自家用車を回してくれた遠山先生のクルマに乗り込み、近くの病院に向かう。
事前予約なしで受診できる市内の応急診療所に到着すると、すぐに診察が始まり、見立てどおり、壮馬は軽度の熱中症と診断された。
症状が重くないという診察結果に、安心しつつも、グッタリとしながら、時おり、
「うしおんなが……」
と言う、つぶやきを発する姿は、少し心配になる。
そのまま、病院のベッドで安静にしている間、移動中にスマホで連絡を取っていた壮馬の母親の奈々美さんが、病院に駆けつけてくれた。
「昨日の今日で、こんなことになるなんて……続けて、迷惑を掛けてしまってゴメンナサイね、竜司くん」
平謝りに頭を下げる親友の母親に恐縮しながら、返答する。
「いえ、今日は学校にいた先生や先輩が助けてくれただけなので、オレはなにも……それより、壮馬は、ちょっと疲れているみたいなので、自宅でゆっくり休ませてあげてくれませんか? オレの自室の隣の《編集室》も、しばらく、出禁にします」
「そうね……本人は、『来年は受験だから、今年の夏休みは最後のチャンスなんだ!』って、意気込んでいたみたいなんだけど……」
頬に手を当て、心配そうに語る奈々美さんの言葉に、「あぁ、壮馬らしいですね……」と、うなずき、
「体調が戻ったら、連絡してくれませんか? 迷惑じゃなければ、久々にお宅に伺わせてもらおうと思います。あと、『今回の企画の残りの作業は、こっちで進めるから、ゆっくり身体を休めておけ』と伝えてくれませんか?」
と、お願いすると、彼女は「わかったわ……」と、少しだけ微笑みながら応じた。
こうして、壮馬を彼の母親に託したオレが、遠山先生とともに、学校に戻ると、時刻は昼食の時間を大幅に過ぎていた。
帰り際に、壮馬の診断結果を伝えるために鳳花部長に連絡を取ると、
「みんなには、心配しないように伝えて、そのまま帰ってもらったわ。私は、放送室に居るから、良ければ、病院での話しを聞かせてちょうだい」
とのことだったので、放送室に向かう。ドアを開けて、室内に入ると、上級生は、英語の学習をしていたようだ。
「部長、今日は色々と助けてもらって、ありがとうございました。あと、変なことに巻き込んじゃって、申し訳ありません」
そう言って、頭を下げると、「黄瀬くんの症状が、軽症だったのは幸いだったわね」と返答したあと、彼女は続けて、こう言った。
「とは言え、彼にも言ったように、撮影のために深夜徘徊をした上に、ご家族や学校に迷惑を掛ける結果になってしまったことは看過できないわ。貴方と黄瀬くんには、しばらく、活動を謹慎してもらうことになるかも知れないから、覚悟をしておいてね」
広報部の責任者らしく、しっかりと釘を刺す先輩の言葉に、「わかりました……」と、返答しつつ、
「ただ、撮影や配信などの活動は止めますが、気掛かりなことの調査は続けても構わないでしょうか?」
と、部長にお伺いを立てる。
「気掛かりなこと、と言うと……?」
「はい、先日、文芸部の天竹と図書室で調べていたことに、答えを出しておきたいんです。彼女は、鳳花先輩のアドバイスを受けて、アメリカの幽霊屋敷、ウィンチェスター・ミステリー・ハウスの真相について、詳細に調査した結果を報告してくれました。オレも、自分たちの街に伝わる『牛女』の伝承について、納得いくまで調べてみたいんです」
オレの申し出に対して、最初は、やや怪訝な表情を見せていた上級生は、「あぁ、例の『サンフランシスコ・エグザミナー』の記事に関することね?」と、つぶやいたあと、
「わかったわ。広報部の部員として得るものがあると貴方が考えるなら、その調査を継続することは許可しましょう。ただし、くれぐれも、深入りしすぎて黄瀬くんの二の舞いにならないように気をつけなさい」
と、念を押し、調査活動について、承認してくれた。
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