愚者の門番、賢者の聖杯

春森夢花

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金の腕輪の由来

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俺はジモンに毒見させた後の酒を悠々と飲みながら、ベッドの縁に腰掛けてから、言った。

「人を呼びましょうか。とりあえず体を綺麗にしなくちゃ」
「よせ、やめろ」
「だけどねえ、王様。アンタ、一人で体を拭いたり出来ますか?」
「誰にもこんな俺を見せたくはないのだ」
「そうは言っても」
「……お前がいるだろう、クドウ」


俺は思わずジモンの下半身に目をやった。服はほぼ身に着けていないその男の尻からは男の精液がとぷり、と時たま流れ出ている。

それを。俺が?冗談じゃない。

思わず度数の高そうな酒をごく、ごくと二度飲み込みながらどう言いくるめてやろうか迷ったが、ふとジモンの右手に目がいった。奴の両腕には何十と、細い金の輪が連なっている。

それを見て少しだけ、悪戯気が出たのだ。

俺はもったいつけるようにゆっくりと言葉を選びながら言った。

「そうは言ってもね、王様。アタシはメイドでもなけりゃあ、旦那の家来でもありませんよ。単なる、……単なる門番です。王様の高貴な体に俺なんかが触れちゃあ、いけないでしょう?召使が嫌ならクロイを呼んでくればいい。彼は忠実な家臣でしょう。クロイなら喜んで役目を引き受けるでしょうよ」
「駄目だ、誰も呼ぶんじゃない!お前がやれば」
「……じゃあ褒美に王様がつけている腕輪を一本下さいよ。そうすれば引き受けてあげましょう」
「なんだと」
「当然でしょう?俺はあんたから報酬なんかもらってないし、グノーシスの民でもない。どうして無償であんたの介護をしなくちゃならないんです?」

俺はさも当たり前のような顔をしてジモンに腕輪をねだった。本物の金なら相当の値打ちだろうし、なによりも俺はジモンが他人に富や栄光を見せつけるかのようにつけている腕輪が気に食わなかっただけだ。男の体を拭くだけで金の腕輪がもらえるとは思ってはいないが、俺としてはどうせやらなければならないのならそれぐらいの物は欲しかったし、嫌だ、と言われればじゃあサイナラ、と言って逃げることも出来る。

だから結果はどちらでも良いのだった。



ジモンは俺の言葉を聞くなり顔色を変えて俺に怒鳴った。

「ふざけるな、これはお前などに渡せる代物ではない!」
「そうですか。じゃあ……残念ですがね、アタシはこれで寝る事にしましょう。おやすみなさい、王様」
「ま、まて……、違う褒美をやる、金が欲しければ金貨をやる!だから……」
「生憎とね、旦那ァ。アンタのつけている腕輪が欲しいんだ。それ以外はちっとも欲しく、ないね」
「これは……駄目だ」

ジモンは右手の腕輪達を握りしめ、眉をしかめる。

「これは我が一族の生きた証だ。親から子へと代々受け継がれる腕輪だ。俺が死ねば俺の腕輪はロルが引き継ぐ。引き継ぐ者がいない腕輪は王が引き継ぐ。……一族は皆死んだ。だから……これは俺が身につけねばならないものだ。頼む、解ってくれ……これだけは」

ジモンの両腕には五十、いやそれ以上かもしれない。細い金の腕輪がはめられている。

親から子へ受け継げなくなった腕輪は王が身につける。

俺には見分けがつかないが、そのどれか一本だけがジモンの物で、それ以外は恐らく死んだ者の腕輪だ。

仕方がないので、そうかい。とだけ答えてガラス瓶に入っていた酒を飲み干してからこう告げた。

「じゃあとりあえず欲しい物を考えておきましょうか。嗚呼、嫌になるけどね。王子の機嫌を損ねて首をへし折られてはコトだから、旦那の体を俺が綺麗にしてあげましょう。その代わりね……頼むから何も言わないでくれ、俺だって気味が悪いんだから。男の肌を触るだなんて。だから……あんたは犬か馬にでもなったつもりでいてくれ。いいかい、頼むよ」

そう言うなり俺は井戸から水を汲みに行き、適当な清潔な布を何枚か調達し、蝋燭を追加で持ってきた。

そして完璧な仕事をやり遂げた訳だ。

詳しくは、話したくない。
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