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第四章 公爵と侯爵令嬢の結婚
2 初夜のはじまり
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「喉が渇いているなら、水を飲んだらどうだい?」
「この林檎酒、とても美味しいんだもの」
「それはありがとう。領地の農民たちも、君が美味しいと気に入ってくれたことをとても喜ぶと思うよ。でも、今夜はこれくらいにしておいてくれないかい」
「なぜ?」
「初夜だから。ミネット、水を」
ベルティーユの顔を覗き込みながら、オリヴィエールは答える。
「はい、ただいま」
新しい杯に水をなみなみと注ぎ、ミネットは盆に載せて持ってきた。
「どうぞ、奥様」
ミネットの盆から水が入った杯を取り上げると、オリヴィエールはそれをベルティーユに渡す。
「どうもありがとう」
林檎酒を飲みたかったな、と名残惜しげに林檎酒がまだ残る瓶を見遣りながら、ベルティーユは水を飲んだ。
温まっていた胃に水が注ぎ込まれると、ふわふわしていた頭の中もすこしだけ落ち着いた。
「奥様はなにか食べた?」
オリヴィエールは円卓の上に盛られた料理に目を向けながら訊ねた。
よほど『奥様』という呼称が気に入っているらしい。
「あまり食べていないけど、お酒を飲んだからか眠くなってきたわ」
林檎酒のせいか、空腹感はなくなった。
疲労から食欲はない。
「それはいけない。じゃあ、寝室に行こう。ミネット、君はもう下がっていいよ」
慌てた様子でベルティーユを抱き上げたオリヴィエールは、続き部屋の寝室へと花嫁を運んだ。
窓幕を閉じた部屋は薄暗い。
そっと花嫁を寝台の上に下ろすと、オリヴィエールは天蓋の垂れ幕の紐を解いてすべて下ろした。
寝室内には薔薇の花が飾られているらしく、薔薇の香りで満ちている。
「もう寝るの? でも、この衣裳のままでは眠れないわ。ミネットに着替えを手伝ってもわらないと」
オリヴィエールに寝台まで運んでもらったので歩く手間は省けたが、ベルティーユは花嫁衣装のままだった。
今日は日の出前に起きてカルサティ侯爵邸で準備をして、ダンビエール公爵邸へ移動し、結婚式、披露宴と忙しく過ごしてきたので、窮屈な花嫁衣装のままでも眠ってしまいそうだ。ただ、光沢のある絹の衣裳のまま眠ってしまっては、明日の朝、衣裳が皺だらけになってしまう心配がある。
そして、この花嫁衣装はベルティーユがひとりで脱げるようなものではない。
背中にある釦の数が多く、しかも着ている本人ではなかなか外せないのだ。
式や宴の途中で釦が外れることがないようにという工夫なのだろうが、とにかく脱ぎ着が大変だ。
「僕が手伝うよ」
「え? 駄目よ! そんな侍女の真似のようなこと、屋敷の主人であるあなたがしているのをもし使用人が見たら、きっと悲しむわ」
「この部屋は奥様の寝室だし、今夜は初夜だから、僕たちが呼ばない限りは誰も入ってこないよ。寝室には朝まで誰も呼ぶつもりもないしね。それに、君の衣裳を脱がすのを侍女に手伝ってもらったりした方が、使用人たちはがっかりするだろうね」
「なぜ!?」
ベルティーユが多少酔っ払った頭の中で疑問符を飛ばしている間に、オリヴィエールは薄暗い寝台の上で手際よく花嫁衣装の釦を外し始めた。
釦をすべて外し終えると、まずは自分の上着、単衣を脱いで、ネクタイをほどく。そして、花嫁の絹の腰帯を外した。
「オリヴィエール! あとは自分でするからいいわ! どうもありがとう!」
ミネットがどこかに寝間着を用意してくれているだろう、と慌てながら辺りを見回したベルティーユは、ぐらりと身体が傾くのを感じた。
気付くと寝台の上に横たわっており、オリヴィエールに押し倒されたのだと気付いたときには、目の前に花婿の顔があった。
「すべて僕がするから、君は楽にしていて」
「え? これじゃあ衣裳が脱げな――」
ベルティーユは抗議の声を上げたが、迫ってきた相手の唇で塞がれた。
突然のことに驚き目を閉じると、さらに唇が強く押し付けられる。
息ができない、と焦ると、わずかに唇が離れた。
呼吸をしようと閉じていた唇を開いた瞬間、今後は相手の舌が口の中に入り込んでくる。
「ふっ……ん……」
探るように相手の舌は口腔の中で動き、ベルティーユの舌に絡みつく。
水を飲んですこしははっきりとし始めていたベルティーユの頭が、林檎酒のせいかまたぼうっとしてきた。
組み敷いてきている相手の身体の重みを感じるせいか、全身が熱くなる。
オリヴィエールは花嫁の手袋を手早く取ると、床に放り出した。
夜気に熱を帯びた肌が触れて、心地よく感じる。
「貴女の口の中は、まだ林檎酒の味がするね」
「ふっ……ん……っ」
「僕の方が、酔いそうだ」
じっくりと花嫁の唇の味を確かめてから、オリヴィエールは耳元で優しく囁いた。
ようやく呼吸ができるようになったベルティーユは、息を吸い込むたびにオリヴィエールの香水の匂いと薔薇の香りで自分の鼓動が早まるのを意識せずにはいられなかった。
胸が苦しい。
それは、初めて感じる苦しさだった。
「すべて、僕にまかせて」
横たわるベルティーユから花嫁衣装を器用に脱がしながら、オリヴィエールは花嫁の耳を噛む。
「んっ」
全身に痺れのようなものが走り、思わずベルティーユは声を漏らす。
慌てて両手で口を押さえると、オリヴィエールがその手を退かせた。
「恥ずかしがらなくていいから、もっと声を聞かせて」
花嫁が顔を紅潮させているのを楽しむように、相手は首筋にゆっくりと舌を這わせる。
「だ、駄目……」
「貴女のその声を聞きたいんだ。僕しか聞けない声を」
下着姿になった花嫁の鎖骨に強く唇を押し付けると、じっくりとその肌を吸い上げ、跡をつける。
「まだ、眠らせないよ」
自分も服を脱ぎ捨てながら、花嫁の下着に手をかける。
初夜の行為がどのようなものか詳細を知らされないまま今日を迎えたベルティーユは、自分がどう振る舞えば良いのかまったくわからなかった。
「この林檎酒、とても美味しいんだもの」
「それはありがとう。領地の農民たちも、君が美味しいと気に入ってくれたことをとても喜ぶと思うよ。でも、今夜はこれくらいにしておいてくれないかい」
「なぜ?」
「初夜だから。ミネット、水を」
ベルティーユの顔を覗き込みながら、オリヴィエールは答える。
「はい、ただいま」
新しい杯に水をなみなみと注ぎ、ミネットは盆に載せて持ってきた。
「どうぞ、奥様」
ミネットの盆から水が入った杯を取り上げると、オリヴィエールはそれをベルティーユに渡す。
「どうもありがとう」
林檎酒を飲みたかったな、と名残惜しげに林檎酒がまだ残る瓶を見遣りながら、ベルティーユは水を飲んだ。
温まっていた胃に水が注ぎ込まれると、ふわふわしていた頭の中もすこしだけ落ち着いた。
「奥様はなにか食べた?」
オリヴィエールは円卓の上に盛られた料理に目を向けながら訊ねた。
よほど『奥様』という呼称が気に入っているらしい。
「あまり食べていないけど、お酒を飲んだからか眠くなってきたわ」
林檎酒のせいか、空腹感はなくなった。
疲労から食欲はない。
「それはいけない。じゃあ、寝室に行こう。ミネット、君はもう下がっていいよ」
慌てた様子でベルティーユを抱き上げたオリヴィエールは、続き部屋の寝室へと花嫁を運んだ。
窓幕を閉じた部屋は薄暗い。
そっと花嫁を寝台の上に下ろすと、オリヴィエールは天蓋の垂れ幕の紐を解いてすべて下ろした。
寝室内には薔薇の花が飾られているらしく、薔薇の香りで満ちている。
「もう寝るの? でも、この衣裳のままでは眠れないわ。ミネットに着替えを手伝ってもわらないと」
オリヴィエールに寝台まで運んでもらったので歩く手間は省けたが、ベルティーユは花嫁衣装のままだった。
今日は日の出前に起きてカルサティ侯爵邸で準備をして、ダンビエール公爵邸へ移動し、結婚式、披露宴と忙しく過ごしてきたので、窮屈な花嫁衣装のままでも眠ってしまいそうだ。ただ、光沢のある絹の衣裳のまま眠ってしまっては、明日の朝、衣裳が皺だらけになってしまう心配がある。
そして、この花嫁衣装はベルティーユがひとりで脱げるようなものではない。
背中にある釦の数が多く、しかも着ている本人ではなかなか外せないのだ。
式や宴の途中で釦が外れることがないようにという工夫なのだろうが、とにかく脱ぎ着が大変だ。
「僕が手伝うよ」
「え? 駄目よ! そんな侍女の真似のようなこと、屋敷の主人であるあなたがしているのをもし使用人が見たら、きっと悲しむわ」
「この部屋は奥様の寝室だし、今夜は初夜だから、僕たちが呼ばない限りは誰も入ってこないよ。寝室には朝まで誰も呼ぶつもりもないしね。それに、君の衣裳を脱がすのを侍女に手伝ってもらったりした方が、使用人たちはがっかりするだろうね」
「なぜ!?」
ベルティーユが多少酔っ払った頭の中で疑問符を飛ばしている間に、オリヴィエールは薄暗い寝台の上で手際よく花嫁衣装の釦を外し始めた。
釦をすべて外し終えると、まずは自分の上着、単衣を脱いで、ネクタイをほどく。そして、花嫁の絹の腰帯を外した。
「オリヴィエール! あとは自分でするからいいわ! どうもありがとう!」
ミネットがどこかに寝間着を用意してくれているだろう、と慌てながら辺りを見回したベルティーユは、ぐらりと身体が傾くのを感じた。
気付くと寝台の上に横たわっており、オリヴィエールに押し倒されたのだと気付いたときには、目の前に花婿の顔があった。
「すべて僕がするから、君は楽にしていて」
「え? これじゃあ衣裳が脱げな――」
ベルティーユは抗議の声を上げたが、迫ってきた相手の唇で塞がれた。
突然のことに驚き目を閉じると、さらに唇が強く押し付けられる。
息ができない、と焦ると、わずかに唇が離れた。
呼吸をしようと閉じていた唇を開いた瞬間、今後は相手の舌が口の中に入り込んでくる。
「ふっ……ん……」
探るように相手の舌は口腔の中で動き、ベルティーユの舌に絡みつく。
水を飲んですこしははっきりとし始めていたベルティーユの頭が、林檎酒のせいかまたぼうっとしてきた。
組み敷いてきている相手の身体の重みを感じるせいか、全身が熱くなる。
オリヴィエールは花嫁の手袋を手早く取ると、床に放り出した。
夜気に熱を帯びた肌が触れて、心地よく感じる。
「貴女の口の中は、まだ林檎酒の味がするね」
「ふっ……ん……っ」
「僕の方が、酔いそうだ」
じっくりと花嫁の唇の味を確かめてから、オリヴィエールは耳元で優しく囁いた。
ようやく呼吸ができるようになったベルティーユは、息を吸い込むたびにオリヴィエールの香水の匂いと薔薇の香りで自分の鼓動が早まるのを意識せずにはいられなかった。
胸が苦しい。
それは、初めて感じる苦しさだった。
「すべて、僕にまかせて」
横たわるベルティーユから花嫁衣装を器用に脱がしながら、オリヴィエールは花嫁の耳を噛む。
「んっ」
全身に痺れのようなものが走り、思わずベルティーユは声を漏らす。
慌てて両手で口を押さえると、オリヴィエールがその手を退かせた。
「恥ずかしがらなくていいから、もっと声を聞かせて」
花嫁が顔を紅潮させているのを楽しむように、相手は首筋にゆっくりと舌を這わせる。
「だ、駄目……」
「貴女のその声を聞きたいんだ。僕しか聞けない声を」
下着姿になった花嫁の鎖骨に強く唇を押し付けると、じっくりとその肌を吸い上げ、跡をつける。
「まだ、眠らせないよ」
自分も服を脱ぎ捨てながら、花嫁の下着に手をかける。
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