公爵夫人は国王陛下の愛妾を目指す

友鳥ことり

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第七章 王太后の計画

6 公爵の不信

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「変わらず、って……」
「貴女はずっと前から陛下一筋で、それは僕と結婚した後も変わらない。陛下が偶然を装って貴女の前に現れ、ほんの一言声をかけただけで、貴女は恋する淑女のように頬を染めて目を輝かせていたじゃないか。僕には一度としてそんな顔を向けてくれたことなんてなかったのに」

 不満げに妻の耳元でぼやくオリヴィエールの熱い吐息が耳朶にかかる。
 耳に流れ込んでくる言葉は愚痴なのに、声音は艶めいている。
 円卓の上に置かれた燭台の蝋燭に灯された炎がゆらめき、オリヴィエールの美しい顔に妖しげな陰影を作っている。

(……オリヴィエールって、こんな顔をしていたのかしら)

 戸惑いながらベルティーユは夫を見遣った。
 同時に、彼がその美貌ゆえに敬遠される理由がほんのすこしではあるが理解できた。
 優しく微笑んでいるのに、紫紺の瞳は闇のように昏く、不気味だ。
 幼い頃に両親を亡くし、きょうだいはなく、祖父の屋敷で育った彼は常に孤独だったらしいと兄が話していたことを思い出す。

「わたしは――」

 ベルティーユが声を上げようとすると、即座にオリヴィエールは片手でその口を塞いだ。

「静かに。この部屋の壁は薄いから、隣の部屋や廊下で耳を澄ませている者にすべて筒抜けなんだ。宰相が言っていなかった? 王宮内で密談は困難だってこと」

 耳元に唇を這わせながらオリヴィエールが囁く。

「僕が貴女をここに連れ込んだことは、もう王宮中に知れ渡っているだろうね。きっと、皆がこの部屋の中でなにがおこなわれているか、固唾を呑んで様子を窺っているはずだよ」
「なにが、って……」
「睦言の際に貴女がどんな声を上げるのか、愛妾として期待できるのか、そういったことを見極めるために、皆は貴女の嬌声を聞きたがっているんだよ。――聞かせるつもりはないけどね」

 くすっと失笑ともとれる声を上げると、オリヴィエールはベルティーユを抱き上げて、自分の膝の上に座らせた。

「だから、いまは声を上げるのは我慢して」
「ん――!?」
「どんなに気持ち良くても、声を殺すんだよ? 僕の服を噛んでいても構わないけど、声を出すのだけは今夜は禁止」
「ん――ん――!?」

 口を手で塞がれているので言葉を発しようにも言葉にならないが、ベルティーユは抗議した。
 衆人が部屋の外で様子を窺っているのであれば、なにもいまから行為に及ばなくてもいいではないかと言いたかった。

「僕は貴女だけのものだけれど、貴女は僕だけのものじゃない。でも、いま貴女を独占できるのは僕だけだ」

 長椅子の背もたれにベルティーユを追い詰め、オリヴィエールはじらすように歯を立てて彼女の耳飾りをくわえ外した。
 熱い舌と固い歯が耳たぶを撫でるたび、ベルティーユは身体の芯が煽られるのを感じた。
 ドレスの裾をたくし上げてオリヴィエールは片手で器用に妻の下着の紐を解いていく。
 その指先が肌に触れるだけで、ぞくぞくするのをベルティーユは止められなかった。
 オリヴィエールはまだ片手でベルティーユの口元を押さえ、苦しげに顔を歪めている妻の表情を愉しんでいるように見える。

「声を出さないと約束するなら、手を離してもいいよ」

 うまく呼吸ができなくなってきたベルティーユが顔を顰めながら耐えていると、オリヴィエールが提案した。
 急いでベルティーユは首を縦に振る。

「じゃあ、絶対に声を出さないこと。この部屋は本当によく声が響くからね」

 部屋の中は、暖炉の薪が爆ぜる音がするだけだ。
 壁や扉の向こうに人がいるような物音は聞こえない。
 自分はオリヴィエールにからかわれているだけなのでは、と心配になりつつも、ベルティーユは唇を噛み締めた。

「そんなに唇を噛んでいたら、貴女の柔らかい唇はすぐに傷ついてしまうよ。僕の肩でも噛んだらどうかな」

 手早く上着とシャツを脱ぎ捨てながらオリヴィエールは告げる。

「一生消えない噛み跡をつけてくれてかまわないよ」

 もう片方のベルティーユの耳飾りもくわえて外すと、オリヴィエールは首飾りを手ではずし、長椅子の端に放り出した。たくさんの宝石で飾られた首飾りは、しゃらんと音を立てて床へと滑り落ちていく。
 それを目の端で追い掛けていたベルティーユは、ふっと視界が暗くなったことに戸惑った。
 燭台の蝋燭の炎がすべて消えたのだ。
 暖炉の火があるので室内は暗すぎないが、オリヴィエールの顔がよく見えない。

「ねぇ――――」

 蝋燭を、とベルティーユが言いかけたところで、唇はオリヴィエールの胸に押し付けられて塞がれた。

「声を上げては駄目だって言ったよね。次に声を上げたら、罰として明日の晩まで貴女をここに閉じ込めて離さないから、そのつもりで。僕としては、それはそれで楽しいから構わないのだけどね」

 そう宣言した途端、オリヴィエールはベルティーユの腰を引き寄せる。
 片手で妻の下着を剥ぎ取ると、指でそっと蕾を撫でる。

「――――――――――っ」

 オリヴィエールにしがみついてなんとかベルティーユは声を上げるのは耐えたが、全身がじわりと汗ばむ。
 そんな妻をじらすように、オリヴィエールは指先を秘裂に這わせる。

(まるでわたしが声を出すのを待っているみたいじゃないの!)

 ゆっくりと指を動かし、蜜が溢れ出すのを待っている。
 自分からは指を入れようとはせず、ねだられるのを待っているようだ。
 ベルティーユが声を上げられない状態だというのに。

(オリヴィエールが、まさかこんな意地悪をする人だったなんて!)

 呼吸を乱しながら、ベルティーユは歯噛みした。
 足の間から蜜が流れて、オリヴィエールの指を濡らしているのを感じる。
 それでも彼は、妻の髪に顔を埋めているだけだ。

(あなたがそのつもりなら――)

 ベルティーユはオリヴィエールの背中に回していた両手をほどくと、夫の固い胸板に手を当てた。そのまま、ゆっくりと手を下に動かし、腰へと這わせる。

「――――っ!」

 ベルティーユの両手が股間に触れた途端、オリヴィエールは全身を震わせた。
 ズボンの釦を外そうとするが、きつく締まっている上に辺りが暗いので、なかなか外れない。しかも、股間の熱と固さが布越しにも伝わってきて、指がうまく動かない。
 ベルティーユが四苦八苦しているのを、最初のうちはオリヴィエールも面白そうに待っていた。
 が、なかなか釦が外れない上に、妻の細い指が屹立した部分に触れて刺激することに耐えかねたらしい。

「自分でするから」

 ベルティーユの手を掴んでどけると、オリヴィエールは自分で釦を外した。
 そのまま妻の腰を引き寄せると、膨張したものの切っ先を秘裂に押し付ける。

「ゆっくりと腰を落としてみて」

 流れ出る蜜が熱棒を濡らす。
 ベルティーユは言われるまま、ゆっくりと腰を下ろそうとした。
 自分の中に侵入してくる熱の塊をじらすように受け入れていく途中――。

「あ――――――んっ」

 待ちきれなくなったオリヴィエールが腰を上げ、一気に貫かれる。
 その衝撃で、思わずベルティーユは声を上げた。

「――――――――――っ!」

 慌てて両手で口を押さえるが、間に合わなかった。
 もっとも、オリヴィエールはその声が聞こえていたのか聞こえていなかったのか判断がつかない様子で腰を動かしている。
 大きく腰を揺らされ、中を突かれるたびに、ベルティーユの意識は混濁する。
 激しい快感の波に飲み込まれそうになる。

 オリヴィエールの荒い息遣いと、肌がぶつかる音だけが部屋の中で響く。

(誰か、聞いているの? いいえ、誰も聞いてやしないわ)

 妻の髪に顔を埋めて声を殺しながら絶頂を迎えたオリヴィエールの汗で濡れた身体を抱きしめながら、ベルティーユは考えた。
 新婚夫婦の睦言など、いったい誰が興味を持つというのだ。
 たわいのない会話と、みだらな音しか聞こえないのに。
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