公爵夫人は国王陛下の愛妾を目指す

友鳥ことり

文字の大きさ
45 / 73
第七章 王太后の計画

7 公爵の執心

しおりを挟む
「あれほど、声を出したら駄目だと言ったのに」

 妻を抱きしめながら呼吸を整えていたオリヴィエールがぽつりと呟いたのは、今日一日の疲れでベルティーユがまどろみかけていたときだった。

「え?」

 半分閉じかけていたまぶたを上げたベルティーユは、なにを言われているのかすぐには理解できなかった。
 激しい情事の後は、余韻と疲労で頭が回らないのだ。
 最近特に、オリヴィエールの腕に抱かれていると、なにも考えられなくなっている。

「とぼけても無駄だよ。貴女が声を上げたのはちゃんと聞いていたんだからね」

 ベルティーユを抱く腕に力を込めながら、オリヴィエールは耳元で嬉しそうに囁く。

「えっと――――そうだったかしら?」
「そうだよ。だから、最初に宣言したとおり、罰として貴女を僕の腕の中に閉じ込めておくことにしよう」

 薄暗い部屋の中で、オリヴィエールは満足げに微笑んだ。
 最初からそのつもりだったのだろう。

「寝室に行こうか。あちらの方が、てんがいがあるし、声は外に漏れにくいからね」

(だったら、最初から寝室に行けば良かったのではないかしら!?)

 なんだか詐欺に引っ掛かった気分になりながら、ベルティーユは目を吊り上げる。

「怒った?」
「怒ってはいないわ。ただ、わたしはあなたの罠にかかった気分よ」

 オリヴィエールの肩に顔を乗せてベルティーユはため息を吐いた。

「今頃気付いた?」

 くすっとオリヴィエールは悪戯が見つかった子供のような顔で笑った。

「僕はずっと前から貴女に罠を仕掛けていたし、貴女はずっと僕の罠にかかっているよ」
「え?」
「貴女は僕の罠にかかって、こうして僕に捕らわれているんだ。もちろん、僕は貴女を逃がす気はないし、できればあなたを独占したいとも思っている。少し前までは、貴女を妻に迎えることができればそれで満足できると思っていたのに、ね」

 ベルティーユを抱いたまま、オリヴィエールは寝室へと向かう。
 狭い寝室には、天蓋でおおわれたひとり分のちいさな寝台があるだけだ。
 長椅子よりは多少広いが、ふたりが横たわるほどの広さはない。

「貴女が陛下の愛妾になることを望むのであれば、それをはばむつもりはないよ。貴女にとっていまでも陛下が特別な存在であることも、理解しているつもりだ。でも――」

 ベルティーユを寝台の上に下ろすと、オリヴィエールはそのままのし掛かってきた。
 背中に触れる敷布シーツの冷たさと、覆い被さってくるオリヴィエールの身体の熱があまりにも対照的で、ベルティーユはぞくりと全身が震えるのを感じた。
 居間のだんの灯りが届かない寝室の暗さで、オリヴィエールは漆黒の影と化している。
 なのに、彼の紫紺の瞳だけははっきりと闇の中でも輝いて見えた。

「『でも』、なに?」
「――――――――――いや……なんでもない」

 オリヴィエールが軽く目を伏せると、長いまつげがその美しい瞳をおおい隠してしまう。
 彼がなにを考えているのか、瞳の奥を覗き込んで探ろうとするのを拒むように。

「言って」

 ベルティーユは両手を伸ばしてオリヴィエールの頬を掴むと、うるんだまなしを向けた。
 その両手首を掴んだオリヴィエールは、はぐらかすように口づけをする。

「ん……ふっ」

 唇を割って、熱い舌が侵入してきた。
 ベルティーユが呼吸をしようと唇を開くと、さらに深く舌は入り込んでくる。
 舌が絡み合い、唾液が混ざり合う。
 口の中を探るように舌が動き、息苦しさもいとわず、オリヴィエールは妻の口を封じ続けた。
 息が乱れたベルティーユがあらわになった胸を上下させると、オリヴィエールの胸板に胸の突起が当たってこすれ、さらに刺激が加わって固くなる。
 自分の胸板に当たる突起の感触が気に入ったのか、オリヴィエールはさらに身体を近づけた。
 胸の膨らみが胸板で押されるだけで、ベルティーユは自分が潰れてしまうのではないかと不安になったが、その点はオリヴィエールも心得ているらしく、押し潰さないよう加減をしながら汗ばんだ胸をこすりつけてくる。

「貴女は愛妾がなにをするのか、まったく理解していない」

 何度目かの口づけと息継ぎを繰り返した後、ようやく唇を離したオリヴィエールは、いつになく不機嫌に呟いた。

「そうかしら?」

 さきほどの『でも』に続く言葉は、本当に愛妾云々のことだったのだろうか。
 なんとなく、はぐらかされたような気がしないでもない。
 オリヴィエールと結婚してベルティーユが感じているのは、彼に本音を吐き出させることほど難しい仕事はないということだ。

「そうだよ。愛妾は、王の寝室に侍って、王をやすものなんだよ。求められれば、いつでも、どこでも」

 ベルティーユの上下する喉に軽く口づけをしたオリヴィエールは、汗が粒になって溜まっている胸の谷間に舌を這わせた。
 そのままゆっくりと膨らみをなぞるように唇を押し付けて跡を付け、さらに突起を口に含んだ。舌で突起をもてあそぶように舐め、時折軽く歯を当てて刺激を加える。
 それだけでベルティーユは全身が痺れるのを感じた。
 頭から足の先まで敏感に反応し、長椅子の上で交わったときの快感とは比較にならないほどの感覚が身体を駆け巡る。
 目の前で星が瞬き、ベルティーユは声にならない声を上げた。
 オリヴィエールはその声を飲み込むように、再び唇で妻の口を封じる。 

「王を拒むことはできないよ。――夫は拒めても」
しおりを挟む
感想 0

あなたにおすすめの小説

靴屋の娘と三人のお兄様

こじまき
恋愛
靴屋の看板娘だったデイジーは、母親の再婚によってホークボロー伯爵令嬢になった。ホークボロー伯爵家の三兄弟、長男でいかにも堅物な軍人のアレン、次男でほとんど喋らない魔法使いのイーライ、三男でチャラい画家のカラバスはいずれ劣らぬキラッキラのイケメン揃い。平民出身のにわか伯爵令嬢とお兄様たちとのひとつ屋根の下生活。何も起こらないはずがない!? ※小説家になろうにも投稿しています。

私が王子との結婚式の日に、妹に毒を盛られ、公衆の面前で辱められた。でも今、私は時を戻し、運命を変えに来た。

MayonakaTsuki
恋愛
王子との結婚式の日、私は最も信頼していた人物――自分の妹――に裏切られた。毒を盛られ、公開の場で辱められ、未来の王に拒絶され、私の人生は血と侮辱の中でそこで終わったかのように思えた。しかし、死が私を迎えたとき、不可能なことが起きた――私は同じ回廊で、祭壇の前で目を覚まし、あらゆる涙、嘘、そして一撃の記憶をそのまま覚えていた。今、二度目のチャンスを得た私は、ただ一つの使命を持つ――真実を突き止め、奪われたものを取り戻し、私を破滅させた者たちにその代償を払わせる。もはや、何も以前のままではない。何も許されない。

完結 辺境伯様に嫁いで半年、完全に忘れられているようです   

ヴァンドール
恋愛
実家でも忘れられた存在で 嫁いだ辺境伯様にも離れに追いやられ、それすら 忘れ去られて早、半年が過ぎました。

どうしよう私、弟にお腹を大きくさせられちゃった!~弟大好きお姉ちゃんの秘密の悩み~

さいとう みさき
恋愛
「ま、まさか!?」 あたし三鷹優美(みたかゆうみ)高校一年生。 弟の晴仁(はると)が大好きな普通のお姉ちゃん。 弟とは凄く仲が良いの! それはそれはものすごく‥‥‥ 「あん、晴仁いきなりそんなのお口に入らないよぉ~♡」 そんな関係のあたしたち。 でもある日トイレであたしはアレが来そうなのになかなか来ないのも気にもせずスカートのファスナーを上げると‥‥‥ 「うそっ! お腹が出て来てる!?」 お姉ちゃんの秘密の悩みです。

娼館で元夫と再会しました

無味無臭(不定期更新)
恋愛
公爵家に嫁いですぐ、寡黙な夫と厳格な義父母との関係に悩みホームシックにもなった私は、ついに耐えきれず離縁状を机に置いて嫁ぎ先から逃げ出した。 しかし実家に帰っても、そこに私の居場所はない。 連れ戻されてしまうと危惧した私は、自らの体を売って生計を立てることにした。 「シーク様…」 どうして貴方がここに? 元夫と娼館で再会してしまうなんて、なんという不運なの!

敵に貞操を奪われて癒しの力を失うはずだった聖女ですが、なぜか前より漲っています

藤谷 要
恋愛
サルサン国の聖女たちは、隣国に征服される際に自国の王の命で殺されそうになった。ところが、侵略軍将帥のマトルヘル侯爵に助けられた。それから聖女たちは侵略国に仕えるようになったが、一か月後に筆頭聖女だったルミネラは命の恩人の侯爵へ嫁ぐように国王から命じられる。 結婚披露宴では、陛下に側妃として嫁いだ旧サルサン国王女が出席していたが、彼女は侯爵に腕を絡めて「陛下の手がつかなかったら一年後に妻にしてほしい」と頼んでいた。しかも、侯爵はその手を振り払いもしない。 聖女は愛のない交わりで神の加護を失うとされているので、当然白い結婚だと思っていたが、初夜に侯爵のメイアスから体の関係を迫られる。彼は命の恩人だったので、ルミネラはそのまま彼を受け入れた。 侯爵がかつての恋人に似ていたとはいえ、侯爵と孤児だった彼は全く別人。愛のない交わりだったので、当然力を失うと思っていたが、なぜか以前よりも力が漲っていた。 ※全11話 2万字程度の話です。

側妃の条件は「子を産んだら離縁」でしたが、孤独な陛下を癒したら、執着されて離してくれません!

花瀬ゆらぎ
恋愛
「おまえには、国王陛下の側妃になってもらう」 婚約者と親友に裏切られ、傷心の伯爵令嬢イリア。 追い打ちをかけるように父から命じられたのは、若き国王フェイランの側妃になることだった。 しかし、王宮で待っていたのは、「世継ぎを産んだら離縁」という非情な条件。 夫となったフェイランは冷たく、侍女からは蔑まれ、王妃からは「用が済んだら去れ」と突き放される。 けれど、イリアは知ってしまう。 彼が兄の死と誤解に苦しみ、誰よりも孤独の中にいることを──。 「私は、陛下の幸せを願っております。だから……離縁してください」 フェイランを想い、身を引こうとしたイリア。 しかし、無関心だったはずの陛下が、イリアを強く抱きしめて……!? 「離縁する気か?  許さない。私の心を乱しておいて、逃げられると思うな」 凍てついた王の心を溶かしたのは、売られた側妃の純真な愛。 孤独な陛下に執着され、正妃へと昇り詰める逆転ラブロマンス! ※ 以下のタイトルにて、ベリーズカフェでも公開中。 【側妃の条件は「子を産んだら離縁」でしたが、陛下は私を離してくれません】

人狼な幼妻は夫が変態で困り果てている

井中かわず
恋愛
古い魔法契約によって強制的に結ばれたマリアとシュヤンの14歳年の離れた夫婦。それでも、シュヤンはマリアを愛していた。 それはもう深く愛していた。 変質的、偏執的、なんとも形容しがたいほどの狂気の愛情を注ぐシュヤン。異常さを感じながらも、なんだかんだでシュヤンが好きなマリア。 これもひとつの夫婦愛の形…なのかもしれない。 全3章、1日1章更新、完結済 ※特に物語と言う物語はありません ※オチもありません ※ただひたすら時系列に沿って変態したりイチャイチャしたりする話が続きます。 ※主人公の1人(夫)が気持ち悪いです。

処理中です...