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第七章 王太后の計画

7 公爵の執心

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「あれほど、声を出したら駄目だと言ったのに」

 妻を抱きしめながら呼吸を整えていたオリヴィエールがぽつりと呟いたのは、今日一日の疲れでベルティーユがまどろみかけていたときだった。

「え?」

 半分閉じかけていたまぶたを上げたベルティーユは、なにを言われているのかすぐには理解できなかった。
 激しい情事の後は、余韻と疲労で頭が回らないのだ。
 最近特に、オリヴィエールの腕に抱かれていると、なにも考えられなくなっている。

「とぼけても無駄だよ。貴女が声を上げたのはちゃんと聞いていたんだからね」

 ベルティーユを抱く腕に力を込めながら、オリヴィエールは耳元で嬉しそうに囁く。

「えっと――――そうだったかしら?」
「そうだよ。だから、最初に宣言したとおり、罰として貴女を僕の腕の中に閉じ込めておくことにしよう」

 薄暗い部屋の中で、オリヴィエールは満足げに微笑んだ。
 最初からそのつもりだったのだろう。

「寝室に行こうか。あちらの方が、てんがいがあるし、声は外に漏れにくいからね」

(だったら、最初から寝室に行けば良かったのではないかしら!?)

 なんだか詐欺に引っ掛かった気分になりながら、ベルティーユは目を吊り上げる。

「怒った?」
「怒ってはいないわ。ただ、わたしはあなたの罠にかかった気分よ」

 オリヴィエールの肩に顔を乗せてベルティーユはため息を吐いた。

「今頃気付いた?」

 くすっとオリヴィエールは悪戯が見つかった子供のような顔で笑った。

「僕はずっと前から貴女に罠を仕掛けていたし、貴女はずっと僕の罠にかかっているよ」
「え?」
「貴女は僕の罠にかかって、こうして僕に捕らわれているんだ。もちろん、僕は貴女を逃がす気はないし、できればあなたを独占したいとも思っている。少し前までは、貴女を妻に迎えることができればそれで満足できると思っていたのに、ね」

 ベルティーユを抱いたまま、オリヴィエールは寝室へと向かう。
 狭い寝室には、天蓋でおおわれたひとり分のちいさな寝台があるだけだ。
 長椅子よりは多少広いが、ふたりが横たわるほどの広さはない。

「貴女が陛下の愛妾になることを望むのであれば、それをはばむつもりはないよ。貴女にとっていまでも陛下が特別な存在であることも、理解しているつもりだ。でも――」

 ベルティーユを寝台の上に下ろすと、オリヴィエールはそのままのし掛かってきた。
 背中に触れる敷布シーツの冷たさと、覆い被さってくるオリヴィエールの身体の熱があまりにも対照的で、ベルティーユはぞくりと全身が震えるのを感じた。
 居間のだんの灯りが届かない寝室の暗さで、オリヴィエールは漆黒の影と化している。
 なのに、彼の紫紺の瞳だけははっきりと闇の中でも輝いて見えた。

「『でも』、なに?」
「――――――――――いや……なんでもない」

 オリヴィエールが軽く目を伏せると、長いまつげがその美しい瞳をおおい隠してしまう。
 彼がなにを考えているのか、瞳の奥を覗き込んで探ろうとするのを拒むように。

「言って」

 ベルティーユは両手を伸ばしてオリヴィエールの頬を掴むと、うるんだまなしを向けた。
 その両手首を掴んだオリヴィエールは、はぐらかすように口づけをする。

「ん……ふっ」

 唇を割って、熱い舌が侵入してきた。
 ベルティーユが呼吸をしようと唇を開くと、さらに深く舌は入り込んでくる。
 舌が絡み合い、唾液が混ざり合う。
 口の中を探るように舌が動き、息苦しさもいとわず、オリヴィエールは妻の口を封じ続けた。
 息が乱れたベルティーユがあらわになった胸を上下させると、オリヴィエールの胸板に胸の突起が当たってこすれ、さらに刺激が加わって固くなる。
 自分の胸板に当たる突起の感触が気に入ったのか、オリヴィエールはさらに身体を近づけた。
 胸の膨らみが胸板で押されるだけで、ベルティーユは自分が潰れてしまうのではないかと不安になったが、その点はオリヴィエールも心得ているらしく、押し潰さないよう加減をしながら汗ばんだ胸をこすりつけてくる。

「貴女は愛妾がなにをするのか、まったく理解していない」

 何度目かの口づけと息継ぎを繰り返した後、ようやく唇を離したオリヴィエールは、いつになく不機嫌に呟いた。

「そうかしら?」

 さきほどの『でも』に続く言葉は、本当に愛妾云々のことだったのだろうか。
 なんとなく、はぐらかされたような気がしないでもない。
 オリヴィエールと結婚してベルティーユが感じているのは、彼に本音を吐き出させることほど難しい仕事はないということだ。

「そうだよ。愛妾は、王の寝室に侍って、王をやすものなんだよ。求められれば、いつでも、どこでも」

 ベルティーユの上下する喉に軽く口づけをしたオリヴィエールは、汗が粒になって溜まっている胸の谷間に舌を這わせた。
 そのままゆっくりと膨らみをなぞるように唇を押し付けて跡を付け、さらに突起を口に含んだ。舌で突起をもてあそぶように舐め、時折軽く歯を当てて刺激を加える。
 それだけでベルティーユは全身が痺れるのを感じた。
 頭から足の先まで敏感に反応し、長椅子の上で交わったときの快感とは比較にならないほどの感覚が身体を駆け巡る。
 目の前で星が瞬き、ベルティーユは声にならない声を上げた。
 オリヴィエールはその声を飲み込むように、再び唇で妻の口を封じる。 

「王を拒むことはできないよ。――夫は拒めても」
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