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番外編1 ある伯爵令嬢の恋愛事情
4 ある公爵夫妻の初夜
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サラが目を覚ますと、まだ寝室の中は薄暗かった。
寝台の周囲を覆う天蓋の幕は誰の手によるものかわからないが下ろされている。
寝返りを打とうと身体を動かしかけたが、うまく上半身が動かない。
首だけ回して振り替えると、背中側にマルセルの身体があり、彼の腕がサラの腰の上にあった。
いつのまにか彼は寝間着に着替え、正装時に整髪料で整えていた髪は普段のふわふわしたくせっ毛に戻っている。
どうやらサラが眠っている間に起きて入浴したらしい。
石鹸の匂いとともに酒臭さは残っていたが、普段の彼に近い姿になっていた。
といっても、彼が眠っている姿を見るのは初めてだ。
規則正しい寝息がかすかに聞こえてくるところから、熟睡しているようだった。
(……重い)
彼の腕がサラの腰の上にあるだけでかなり重い。
しかも、相手が身体を密着してきているので、結構暑い。
(この腕、なんとかしてどけられないものかしら)
サラは相手の手を掴むと、どうにかして自分の腰から外して抜けだそうとしたが、細いように見えて太く固い腕はなかなか持ち上がらない。眠っている人間の身体を動かすのは起きているときよりも重くなるのでなかなか難しいと聞いたことがあるが、腕だけでもこんなに大変なのかとサラは驚いた。
しばらく悪戦苦闘して、どうしても動かせないと判断すると、ようやくサラは諦めた。
ぐっすりと眠っているマルセルを起こすのは申し訳ない。
昨夜はほとんど眠れていないというのだから、かなり疲れているのだろう。
(しょうがないから重いけど我慢しましょうか)
腕を動かす作業だけでかなり疲れたサラは、あくびをひとつしてまた眠ろうとした。
そこに――。
「眠れない?」
頭の後ろから低い声が響いた。
「あら、起こしてしまったかしら?」
彼の腕を動かそうと押したり引いたりしたのがいけなかったのだろうか、とサラは反省した。
「君が目を覚ます前から起きてた。ずっと君の寝顔を見てたんだけど、君が起きそうだったから寝たふりをしたんだ」
腰に回した腕に力を込めて、マルセルは自分の身体にサラを引き寄せた。
寝間着の布越しに相手の体温を感じ、サラは緊張で身体をこわばらせる。
特に臀部に押しつけられた固い部分がやたらと熱を帯びている。
「接吻して良い? 眠っている君を起こすといけないと思ってずっと我慢していたんだけど、そろそろ限界なんだ」
『限界』の意味がわからないまま、サラは頷いた。
「接吻だけなら……」
「まずは君の身体中に接吻をして、それからもっといろいろしたい」
「えぇ?」
サラの耳朶を舌先で舐めながら、マルセルは欲情を帯びた声でねだるように囁く。
同時に、背後から回した腕をゆっくりと上に移動し、寝間着の上からサラの胸の膨らみに手のひらを押しつけた。
もう片方の手は寝間着の裾をめくり上げるようにして片膝に指を這わせる。そのまま、指先をじわじわと動かして内腿をなで上げた。
そのくすぐったい感触にサラが身体をよじると、さらにマルセルは身体を密着させてきた。
「これ、いや?」
「……いやじゃ、ない、けど、なんか……へんな感じ」
戸惑いながらサラが正直に答えると、マルセルは素早く態勢を変えて彼女を仰向けにした。両膝をサラの腰の横につくと、噛みつくように唇を重ねてくる。
せわしなく口の中に侵入してきた彼の舌は、酔っていたときよりもさら深く交わりを求めるようにサラの舌に絡まり、口内の奥を舐めるように動く。
こういうとき、どのようにふるまえばよいのかサラは詳しくは知らない。
母からは「相手に任せておけばいいの」としか教えられなかったし、本を読んでも初夜の所作について詳細に書かれているものはない。最終的にどうなるかは知っているものの、いろいろな途中経過については不明だ。
(その『いろいろ』って、なに!?)
経験がないサラには、接吻をして抱き合う以外になにをするのかがまったく想像できなかった。
かと言って、マルセルに女性経験があるのかどうかはいまこの場では聞ける雰囲気ではないし、後から聞くのも妙な話だ。
結婚前に聞いておくべきだった、といまさらながらに後悔したが、婚約期間中は準備で忙しかったので、ゆっくりと話をしている暇などほとんどなかった。
接吻を繰り返しているうちに、サラは自分の身体がじんわりと汗ばんでくるのを感じた。
荒い息づかいが耳の奥に響き、頭がくらくらしてくる。
「サラ、僕の首に腕を回して」
いったん唇を離したマルセルに指示されてサラは両手を伸ばし、彼のうなじで手を交差させる。
肌に触れると、マルセルの身体も汗ばんでいるのがわかった。
マルセルは手探りでサラの寝間着の釦を外して脱がせると、自分の寝間着も剥ぎ取るように荒々しくすべて脱ぎ捨てる。
暗がりの中でサラにはよく見えなかったが、思ったよりもがっしりとしたマルセルの身体の輪郭がぼんやりと視界に入った。
「あの、こういうことは先にいろいろとしながら愛し合った方が気持ちよくなるらしいんだけど」
両手を重ね、指を絡ませ、額をぶつけるように顔を寄せると、唇が腫れるのではないかというくらいに口づけを繰り返した後で、マルセルがぼそぼそと告げた。
「……その、いろいろって?」
夫婦の営みの中に前戯というものがあることはサラも知っているが、その中身までは知らない。
「えっと、だから、いろいろ。でも、我慢できそうにないから、いろいろはぜんぶ省いていい?」
「……いいのか悪いのか、よくわからないわ」
なにを省くというのか、とサラが考える間もなく、マルセルの手が下着の中に侵入してきた。
「ちょっと! あ……んっ」
サラの下肢の間に差し込まれたマルセルの指が、おそるおそる股の間を探るように動き、目的の箇所を見つけると辺りを指先でまさぐりながら割れ目の間へぐいっと侵入してきた。
その瞬間、びくっとサラが震わせると、マルセルは首筋から胸へと唇を這わせながら相手を落ち着かせようと囁く。
「できるだけ痛くないようにするから……ちょっと狭いみたいだけど……あ、僕の指を締め上げないで」
いちいち言葉にされるとサラは恥ずかしさで身悶えしそうになるのだが、マルセルは律儀に「痛くない? ここはどう?」と確認しながら指を抜き差しする。さらに、秘部の敏感な部分を他の指で撫でて刺激を加えてくる。
どうかと訊ねられてもサラは答えられる状況ではなかった。
マルセルが中に押し込んだ長い指を動かすたびに、サラは違和感が増すとの同時に身体の芯がじわりと熱くなるのを感じた。さらに目の前はちかちかするし、相手の指が中をこするたびに身体が緊張で固くなる。
自分でも触ったことがない場所を、外から中から指で繰り返し刺激されるたび、よくわからない感覚が湧き上がりおかしな声が喉の奥から漏れた。
それを聞いたマルセルはなぜか嬉しそうに声を上げると、鎖骨や胸を舌先で舐めてさらに刺激を加えようとする。
「濡れてきた、かな?」
中に入れる指を三本まで増やし、じっくりと中を押し広げて慣らし、サラの秘所からあふれ出た蜜で指がたっぷりと濡れているのを確認してから、マルセルは自分のそそり立ったものをそこに押し当てた。
下腹部が始めて感じる違和感とかすかな痛みですでに頭がくらくらしていたサラだったが、蜜があふれる箇所に熱棒の先が当たった途端、恐ろしさで開きかけていた足を閉じようとした。
それをマルセルは両手で彼女の膝を押さえると、持ち上げるようにして大きく広げる。
「入れるよ?」
確認するように宣言すると、マルセルは答えを待たずにゆっくりと腰をサラに押しつけた。
「いっ……んっ……!」
つながった部分から身体の中のなにかを引き裂くような力と熱量が押し込まれ、経験したことのない痛みが下腹部に押し寄せると同時にあふれた蜜が内腿を濡らす。
サラが上げた悲鳴に驚き、マルセルはいったん動きを止めたが、すぐにまた腰を動かして陰部を押し広げるようにして奥へと侵入していく。
彼の物が強く押し込まれるたびに苦しくてなんども呼吸を乱したサラは、頭の中が真っ白になりかけた。
そのまま意識を手放したかったが、マルセルはなんども熱っぽく彼女の名を呼びながら腰を押しつける。やがて彼のものが全部サラの中に収まった頃には、なんとかサラも大きく息ができるようにはなった。
全身からは汗が流れ、痛みからなのか涙が流れる。
言葉を発することができないまま荒い呼吸を繰り返すサラに、マルセルはこめかみや頬へ口づけるが、サラは恨めしげに涙目で夫を睨むことしかできなかった。文句を言えるほどまだ思考は整っていない。
「サラ、もうちょっとだけ頑張って」
マルセルからよくわからない声援をかけられたかと思うと、今度はゆっくりと腰を動かし出した。その動きに合わせて、中に収まっていた重い熱棒がサラの内側を繰り返しこすり上げて刺激を加える。
「あ……んっ……はぁ……」
波のように押し寄せるわけのわからない感覚で上げた声が悲鳴なのか嬌声なのか、すでにサラには認識できなくなっていた。マルセルから離れるとそのまま放り出されそうで、彼の首に回した腕だけは放さないように必死でしがみつく。
マルセルが耳元でなにか叫んでいるが、それもはっきりとは聞き取ることができない。
ただ、まもなく身体の奥に熱い飛沫のようなものが一気に放たれたことだけはわかった。
(――終わった、の?)
マルセルが動かなくなったため、しばらくしてからサラはこわごわと目を開けた。
サラの髪に顔を埋めた彼は、荒い呼吸を繰り返し、全身から汗をしたたらせている。
「…………マルセル?」
まだ身体はつながったままで、サラの中に挿入された物は重く固いままだ。
そっと彼の髪に指を差し込んで撫でてみるが、返事はない。
(この体勢のままだと、結構苦しいし重いし暑いし恥ずかしいんだけど)
暗がりでマルセルにはあまり見えていないはずだが、のしかかられているので相手の体重がかなりかかってきているし、肌が触れあっているので暑い。
男女の交わりは快楽のひとつだと聞いたことがあるが、初めての経験は痛くて苦しいだけだった。
情事の後の情緒など一切なく、サラはマルセルが離れてくれることを期待した。
「ごめん……もう一回、いい?」
「――え?」
顔を伏せたままマルセルに懇願され、サラは戸惑った。
「このままでいいから、やらせて」
「え? えぇ?」
「さっきの……気持ちよすぎた。愛のなせる技だね」
なにが、とサラが抗議する前に、マルセルの唇で口を封じられた。
その後は、一度目ほどの痛みはなかったが、マルセルに愛を囁かれながら長く激しく身体の奥をいたぶられて、サラはまたしても意識を失いかけた。
(あぁ、もう、恋なんて一度失ったらもうそのままにしておくべきだったわ)
それなのになぜわざわざマルセルに過去の恋について告白してしまったのか、と朦朧とする意識の中でサラは反省した。
彼に知って欲しかったからに決まっている、という心の声は、マルセルが繰り返す「愛してる」に耳を傾けることで無視することにした。
翌朝、腰の痛みと寝不足で不機嫌そうに文句と愚痴を延々と零すヴァンテアン公爵夫人と、初めてだから加減がわからなかったし我慢ができなかったと言い訳をしながらも上機嫌で新妻をなだめる二日酔いのヴァンテアン公爵の食堂での会話を、使用人たちは必死で聞かないふりをして無表情を貫いた。
新婚公爵夫妻の痴話喧嘩は、結局その日の午後まで続いた。
寝台の周囲を覆う天蓋の幕は誰の手によるものかわからないが下ろされている。
寝返りを打とうと身体を動かしかけたが、うまく上半身が動かない。
首だけ回して振り替えると、背中側にマルセルの身体があり、彼の腕がサラの腰の上にあった。
いつのまにか彼は寝間着に着替え、正装時に整髪料で整えていた髪は普段のふわふわしたくせっ毛に戻っている。
どうやらサラが眠っている間に起きて入浴したらしい。
石鹸の匂いとともに酒臭さは残っていたが、普段の彼に近い姿になっていた。
といっても、彼が眠っている姿を見るのは初めてだ。
規則正しい寝息がかすかに聞こえてくるところから、熟睡しているようだった。
(……重い)
彼の腕がサラの腰の上にあるだけでかなり重い。
しかも、相手が身体を密着してきているので、結構暑い。
(この腕、なんとかしてどけられないものかしら)
サラは相手の手を掴むと、どうにかして自分の腰から外して抜けだそうとしたが、細いように見えて太く固い腕はなかなか持ち上がらない。眠っている人間の身体を動かすのは起きているときよりも重くなるのでなかなか難しいと聞いたことがあるが、腕だけでもこんなに大変なのかとサラは驚いた。
しばらく悪戦苦闘して、どうしても動かせないと判断すると、ようやくサラは諦めた。
ぐっすりと眠っているマルセルを起こすのは申し訳ない。
昨夜はほとんど眠れていないというのだから、かなり疲れているのだろう。
(しょうがないから重いけど我慢しましょうか)
腕を動かす作業だけでかなり疲れたサラは、あくびをひとつしてまた眠ろうとした。
そこに――。
「眠れない?」
頭の後ろから低い声が響いた。
「あら、起こしてしまったかしら?」
彼の腕を動かそうと押したり引いたりしたのがいけなかったのだろうか、とサラは反省した。
「君が目を覚ます前から起きてた。ずっと君の寝顔を見てたんだけど、君が起きそうだったから寝たふりをしたんだ」
腰に回した腕に力を込めて、マルセルは自分の身体にサラを引き寄せた。
寝間着の布越しに相手の体温を感じ、サラは緊張で身体をこわばらせる。
特に臀部に押しつけられた固い部分がやたらと熱を帯びている。
「接吻して良い? 眠っている君を起こすといけないと思ってずっと我慢していたんだけど、そろそろ限界なんだ」
『限界』の意味がわからないまま、サラは頷いた。
「接吻だけなら……」
「まずは君の身体中に接吻をして、それからもっといろいろしたい」
「えぇ?」
サラの耳朶を舌先で舐めながら、マルセルは欲情を帯びた声でねだるように囁く。
同時に、背後から回した腕をゆっくりと上に移動し、寝間着の上からサラの胸の膨らみに手のひらを押しつけた。
もう片方の手は寝間着の裾をめくり上げるようにして片膝に指を這わせる。そのまま、指先をじわじわと動かして内腿をなで上げた。
そのくすぐったい感触にサラが身体をよじると、さらにマルセルは身体を密着させてきた。
「これ、いや?」
「……いやじゃ、ない、けど、なんか……へんな感じ」
戸惑いながらサラが正直に答えると、マルセルは素早く態勢を変えて彼女を仰向けにした。両膝をサラの腰の横につくと、噛みつくように唇を重ねてくる。
せわしなく口の中に侵入してきた彼の舌は、酔っていたときよりもさら深く交わりを求めるようにサラの舌に絡まり、口内の奥を舐めるように動く。
こういうとき、どのようにふるまえばよいのかサラは詳しくは知らない。
母からは「相手に任せておけばいいの」としか教えられなかったし、本を読んでも初夜の所作について詳細に書かれているものはない。最終的にどうなるかは知っているものの、いろいろな途中経過については不明だ。
(その『いろいろ』って、なに!?)
経験がないサラには、接吻をして抱き合う以外になにをするのかがまったく想像できなかった。
かと言って、マルセルに女性経験があるのかどうかはいまこの場では聞ける雰囲気ではないし、後から聞くのも妙な話だ。
結婚前に聞いておくべきだった、といまさらながらに後悔したが、婚約期間中は準備で忙しかったので、ゆっくりと話をしている暇などほとんどなかった。
接吻を繰り返しているうちに、サラは自分の身体がじんわりと汗ばんでくるのを感じた。
荒い息づかいが耳の奥に響き、頭がくらくらしてくる。
「サラ、僕の首に腕を回して」
いったん唇を離したマルセルに指示されてサラは両手を伸ばし、彼のうなじで手を交差させる。
肌に触れると、マルセルの身体も汗ばんでいるのがわかった。
マルセルは手探りでサラの寝間着の釦を外して脱がせると、自分の寝間着も剥ぎ取るように荒々しくすべて脱ぎ捨てる。
暗がりの中でサラにはよく見えなかったが、思ったよりもがっしりとしたマルセルの身体の輪郭がぼんやりと視界に入った。
「あの、こういうことは先にいろいろとしながら愛し合った方が気持ちよくなるらしいんだけど」
両手を重ね、指を絡ませ、額をぶつけるように顔を寄せると、唇が腫れるのではないかというくらいに口づけを繰り返した後で、マルセルがぼそぼそと告げた。
「……その、いろいろって?」
夫婦の営みの中に前戯というものがあることはサラも知っているが、その中身までは知らない。
「えっと、だから、いろいろ。でも、我慢できそうにないから、いろいろはぜんぶ省いていい?」
「……いいのか悪いのか、よくわからないわ」
なにを省くというのか、とサラが考える間もなく、マルセルの手が下着の中に侵入してきた。
「ちょっと! あ……んっ」
サラの下肢の間に差し込まれたマルセルの指が、おそるおそる股の間を探るように動き、目的の箇所を見つけると辺りを指先でまさぐりながら割れ目の間へぐいっと侵入してきた。
その瞬間、びくっとサラが震わせると、マルセルは首筋から胸へと唇を這わせながら相手を落ち着かせようと囁く。
「できるだけ痛くないようにするから……ちょっと狭いみたいだけど……あ、僕の指を締め上げないで」
いちいち言葉にされるとサラは恥ずかしさで身悶えしそうになるのだが、マルセルは律儀に「痛くない? ここはどう?」と確認しながら指を抜き差しする。さらに、秘部の敏感な部分を他の指で撫でて刺激を加えてくる。
どうかと訊ねられてもサラは答えられる状況ではなかった。
マルセルが中に押し込んだ長い指を動かすたびに、サラは違和感が増すとの同時に身体の芯がじわりと熱くなるのを感じた。さらに目の前はちかちかするし、相手の指が中をこするたびに身体が緊張で固くなる。
自分でも触ったことがない場所を、外から中から指で繰り返し刺激されるたび、よくわからない感覚が湧き上がりおかしな声が喉の奥から漏れた。
それを聞いたマルセルはなぜか嬉しそうに声を上げると、鎖骨や胸を舌先で舐めてさらに刺激を加えようとする。
「濡れてきた、かな?」
中に入れる指を三本まで増やし、じっくりと中を押し広げて慣らし、サラの秘所からあふれ出た蜜で指がたっぷりと濡れているのを確認してから、マルセルは自分のそそり立ったものをそこに押し当てた。
下腹部が始めて感じる違和感とかすかな痛みですでに頭がくらくらしていたサラだったが、蜜があふれる箇所に熱棒の先が当たった途端、恐ろしさで開きかけていた足を閉じようとした。
それをマルセルは両手で彼女の膝を押さえると、持ち上げるようにして大きく広げる。
「入れるよ?」
確認するように宣言すると、マルセルは答えを待たずにゆっくりと腰をサラに押しつけた。
「いっ……んっ……!」
つながった部分から身体の中のなにかを引き裂くような力と熱量が押し込まれ、経験したことのない痛みが下腹部に押し寄せると同時にあふれた蜜が内腿を濡らす。
サラが上げた悲鳴に驚き、マルセルはいったん動きを止めたが、すぐにまた腰を動かして陰部を押し広げるようにして奥へと侵入していく。
彼の物が強く押し込まれるたびに苦しくてなんども呼吸を乱したサラは、頭の中が真っ白になりかけた。
そのまま意識を手放したかったが、マルセルはなんども熱っぽく彼女の名を呼びながら腰を押しつける。やがて彼のものが全部サラの中に収まった頃には、なんとかサラも大きく息ができるようにはなった。
全身からは汗が流れ、痛みからなのか涙が流れる。
言葉を発することができないまま荒い呼吸を繰り返すサラに、マルセルはこめかみや頬へ口づけるが、サラは恨めしげに涙目で夫を睨むことしかできなかった。文句を言えるほどまだ思考は整っていない。
「サラ、もうちょっとだけ頑張って」
マルセルからよくわからない声援をかけられたかと思うと、今度はゆっくりと腰を動かし出した。その動きに合わせて、中に収まっていた重い熱棒がサラの内側を繰り返しこすり上げて刺激を加える。
「あ……んっ……はぁ……」
波のように押し寄せるわけのわからない感覚で上げた声が悲鳴なのか嬌声なのか、すでにサラには認識できなくなっていた。マルセルから離れるとそのまま放り出されそうで、彼の首に回した腕だけは放さないように必死でしがみつく。
マルセルが耳元でなにか叫んでいるが、それもはっきりとは聞き取ることができない。
ただ、まもなく身体の奥に熱い飛沫のようなものが一気に放たれたことだけはわかった。
(――終わった、の?)
マルセルが動かなくなったため、しばらくしてからサラはこわごわと目を開けた。
サラの髪に顔を埋めた彼は、荒い呼吸を繰り返し、全身から汗をしたたらせている。
「…………マルセル?」
まだ身体はつながったままで、サラの中に挿入された物は重く固いままだ。
そっと彼の髪に指を差し込んで撫でてみるが、返事はない。
(この体勢のままだと、結構苦しいし重いし暑いし恥ずかしいんだけど)
暗がりでマルセルにはあまり見えていないはずだが、のしかかられているので相手の体重がかなりかかってきているし、肌が触れあっているので暑い。
男女の交わりは快楽のひとつだと聞いたことがあるが、初めての経験は痛くて苦しいだけだった。
情事の後の情緒など一切なく、サラはマルセルが離れてくれることを期待した。
「ごめん……もう一回、いい?」
「――え?」
顔を伏せたままマルセルに懇願され、サラは戸惑った。
「このままでいいから、やらせて」
「え? えぇ?」
「さっきの……気持ちよすぎた。愛のなせる技だね」
なにが、とサラが抗議する前に、マルセルの唇で口を封じられた。
その後は、一度目ほどの痛みはなかったが、マルセルに愛を囁かれながら長く激しく身体の奥をいたぶられて、サラはまたしても意識を失いかけた。
(あぁ、もう、恋なんて一度失ったらもうそのままにしておくべきだったわ)
それなのになぜわざわざマルセルに過去の恋について告白してしまったのか、と朦朧とする意識の中でサラは反省した。
彼に知って欲しかったからに決まっている、という心の声は、マルセルが繰り返す「愛してる」に耳を傾けることで無視することにした。
翌朝、腰の痛みと寝不足で不機嫌そうに文句と愚痴を延々と零すヴァンテアン公爵夫人と、初めてだから加減がわからなかったし我慢ができなかったと言い訳をしながらも上機嫌で新妻をなだめる二日酔いのヴァンテアン公爵の食堂での会話を、使用人たちは必死で聞かないふりをして無表情を貫いた。
新婚公爵夫妻の痴話喧嘩は、結局その日の午後まで続いた。
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