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しおりを挟む息子?息子?とわけもわからず、ツーツェイの頭に疑問符だけが浮かんでしまう。
(侯爵夫人? 私が!? すべてが急すぎてわけがわからないのですが!?)
「息子って……あの年齢だったらおじさんじゃない」
「本当ね、お母様……くすくす、ツーツェイにはぴったりかも」
後ろから聞こえるミーシャとシュナウザー伯爵夫人の会話にはっと意識を取り戻す。言われてみればそうかもしれない。
この夫婦は見た目からして七十代くらいだ。ということは一般的な子供の年齢は四十代か五十代だろう。
しかも帝国内で名門のセオドア侯爵家。それなのに独身であるということ……つまり後妻か、それともよほど問題があり独身でいるしかなかったのか。
「ふふ、お好きにしてくださいな。どちらにしろその者は拾っただけですし」
「ぷぷ、侯爵夫人になれてよかったわねぇ? ツーツェイ」
可笑しそうに笑うミーシャとシュナウザー伯爵夫人。その蔑んだ笑いにセオドア侯爵家の使用人たちが前のめりになって言い返そうとしたが、それを主人が手を出して止める。
「じゃあ、この場でこの子を貰い受けるのでいいか?」
「ええ、もちろん」
「そうか。だが、一応誓書は頂きたい」
「あぁ……」
シュナウザー伯爵夫人がふっと笑ってから、ツーツェイの手に持っていたメモ帳を奪うように取り上げる。
(なに……ッわ!?)
そのメモ帳になにかを書いてからツーツェイに投げつける。そのメモ帳をみればツーツェイとの使用人契約を終了させること、それに二度と関わらないという文言と共に名前が書かれている。
「どーぞ。これで満足でしょうか?」
「ああ。では、この子を貰い受ける」
小さな汚いメモ帳に書かれた一文でツーツェイは十六年勤めた主人から切り捨てられた。こんなにも簡単に人のやり取りが出来てしまうことに少しだけ胸がチクリと痛む。ツーツェイが俯いていれば、その耳元に近づくミーシャ。
「デブで気持ち悪いおじさんの奥様、頑張って」
ツーツェイだけに聞こえる声量で呟いてから、大きな笑い声をあげて離れていく。さすがの前向き思考のツーツェイもそれが嫌味であるということはわかった。
(なぜデブで気持ち悪いと決まってるの?)
この世で美しいおじ様はたくさんいるし、独身を貫いているのはなにか理由がある……きっとそうだと頷く。
それに、こんな声も出せない気味の悪い他国の平民をいきなり妻にだなんてありえない。自らを救い出すために突拍子のないことを仰られたのだとも思う。
ここでも持ち前のポジティブを発揮してツーツェイは顔を上げる。そんなツーツェイにミーシャとシュナウザー伯爵夫人が面白くなさそうに舌打ちしてから去っていった。
「ごめんなさいね。あなたがあの方々によく扱われていないのを救いたくて……」
夫人が申し訳なさそうにツーツェイの握りしめるメモ帳ごと手に触れる。慌ててツーツェイは首を振ってメモ帳をめくってから書き込む。
『ありがとうございます。このご恩は忘れません』
頭を下げて、感謝を伝える。こんな素敵な侯爵夫妻に雇ってもらえるならこの上ない幸せだった。
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