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(忘れていた。忘れていたわ!!)
夕食後、ツーツェイは広い部屋に案内された。そこにはたくさんの書物と大きな机に積み重なる書類とインクの瓶にささったままの万年筆。白色のローブがソファに掛けられていることから、そこがテオドールの部屋なのだと簡単にわかった。
「ツーツェイ、大丈夫だよ。なにもしないから、そんなに固まらないで」
部屋で固まってしまっていたツーツェイに、あとから部屋に入ってきたテオドールが気がついて、困ったように苦笑する。
『大丈夫です』
「ふふ、それこういうときに使うんだね?」
(ぐはっ! 笑顔が眩しいっ、目が溶ける!!)
笑いながら詰襟の一番上のホックを外すテオドールの美しさは目の毒だとよろめく。
『しっかり働きます!!』
「うん、よろしくお願いします。でも本当になにもしなくていいからね?」
『そういうわけにはいきません!』
一生懸命にメモ帳に文字を書く姿をテオドールが可笑しそうに笑ったあと、なにかに気づいたのか真剣な表情に変わる。
それにツーツェイが首を傾げれば、手が伸びてきたのでビクリと震えた。
「あぁ、ごめん。気になることがあるから少し触れてもいい?」
(気になること?)
ツーツェイが不思議に思いつつ頷けば、喉元にそっと触れる指。その長い指にドクドクと心臓が動くけれど……。
(冷たい指先……)
テオドールの喉元に触れる指先は驚くぐらい冷たかった。それに真剣な表情にやましい気持ちがないのだとわかり落ち着いてくる。
「やっぱり異常はない……だとすると精神的なものか」
「ッ……」
「ああ、ごめんね。治せないかなと思って」
気が付かれたのかと思い、顔を青ざめさせればそうではなかったようで優しく微笑まれたのに安心する。
――――この秘密だけは知られてはいけない。
(あんなに優しく接してくれたけれど、この気味が悪い能力を知られればさすがに追い出されるに違いないわ)
暗い表情を浮かべたツーツェイに気がついたテオドールが頭を撫でる。なにごとかと上向けば、優しく微笑むテオドールがいる。
「無理して問い詰めないよ。誰だって隠したい秘密はあるから」
(テオドール様……?)
その悲しそうな瞳になにか通じるものを感じる。けれどすぐにその瞳が元に戻って柔らかな笑みに変わった。
「声は治してあげられないけど……」
(わぁっ……!! 綺麗……)
ふわりと手を上にかざして魔唱を唱えた瞬間、上から降り注ぐ白い光の粒。身体を包むようにツーツェイの周りを回るように飛び交う。
初めてみた白魔術。それはツーツェイの想像を遥かに超えるくらい美しいものだった。目の前を浮かんで輝く白い粒に涙が出そうなくらい感動してしまう。
それに至る所が暖かい。とくに痣や傷のあるところがじんわりと熱を持って温まっている。
(まさか……)
はっとしたツーツェイがドレスに隠されていた身体を見る。身にまとっているのは極力肌を見せないような長袖に詰襟のもの。
屋敷に来て着替えさせられたとき、使用人たちがツーツェイの痣や傷だらけの身体を見て絶句した。その身体にすぐ露出が少ないドレスに変えてくれたのだった。
なかには瞳に涙を溜めながら着替えを手伝う使用人もいて、そのときのツーツェイには意味が分からず首を傾げるだけだった。その使用人たちがテオドールに伝えたのかもしれない。
(痣や傷がない……)
ゆっくりと腕の袖をめくれば身体についた痣が消えている。初めて見た自らの白い腕。お礼を言わなくてはと顔をあげれば……。
「ツーツェイの肌は白くて綺麗だね」
白く降り注ぐ粒の中で柔らかく笑うテオドール。
青色の瞳が白い粒で光り輝いているのにツーツェイの心臓が思わず跳ねる。
(この人は……)
――――甘い罠を仕掛けているのだろか。
『愛することはない』と残酷なことを伝えてきたのに……。
(好きになってはいけない。愛してもいいことはひとつもない)
ツーツェイは赤らむ顔を隠すように顔を背けて『ありがとうございます』とメモ帳を差し出した。
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