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13 テオドールside①
しおりを挟む「テオドール。次の演習についてだが……」
「うん」
「白魔術師は黒魔術師のあとに……」
「うん」
「テオドール、聞いてるのか? いや、聞いていないのか?」
「うん」
――――ダンッ!!
「うわぁ!?」
机が大きく叩かれる音と強い振動。その衝撃にテオドールが頬についていた手を離して顔をあげる。向かいには高位黒魔術師服を身にまとう恐ろしい表情を浮かべた切れ長の瞳の男。
ここは城下にある魔術師が働く魔術省。いまは魔術省の裏庭のベンチで高位黒魔術師のルイと次の演習について話していた。
「ご、ごめん、ルイ。違うことを考えてて……」
「もういい。集中できないのなら今日はここまでにしよう」
「あぁ……申し訳ありません……」
頭を深々とさげれば、ため息をついて机に広げた書類を片付けていく。
「お前が集中できないのなんて珍しいな。なにかあったか」
「え? あー、まぁ色々と……」
まだ自身がツーツェイという少女と婚約したことは魔術省には伝えていなかった。モーガンとセリニアは周囲に伝えたがっていたがそれを止めている状況だ。正式な結婚や式も名門の侯爵家とあって様々な手続きがあるため一年先を予定している。
(まだあの子が逃げられる道は作っておきたい)
そうテオドールは考えていた。ツーツェイという声がない少女。ミレイア国で酷い扱いを受けてきたことは知っている。声が出せないという理由だけでぞんざいな扱いをされてきたようだった。
そんな少女がいきなり帝国の侯爵令息である自身と結婚をチラつかされたら頷くしかないのは分かっていた。それに……。
(きっと彼女は僕と一緒だろう)
極端に人を愛することを恐れている。理由はわからないがツーツェイのなかに恐怖の感情が垣間見えた。テオドールが『人を愛せない』と言ったことに一瞬ではあるが安堵の表情を浮かべたことも。
――――まだ様子を見る必要がある。
その判断から他人に口外するつもりはなかった。
ツーツェイと暮らし始めてから一ヶ月。他国へ遊びに行くのを生きがいにしている両親はツーツェイを屋敷に置いた次の日にまた他国へと旅行に出かけてしまった。
平民として歩くのが好きらしい。老後の夫婦の戯れだと呆れるけれど、なんとも可愛らしいものだったのでテオドールも深くは口出しできなかった。平民であった自らを養子にしてくれた深い恩はあれど、テオドールは両親に他人行儀だった。血が繋がっていないことも理由のひとつだ。
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