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14 テオドールside②
しおりを挟む(それにしても……)
ツーツェイのここ一ヶ月の動向を見ていたが、なかなかに面白いものだった。
『テオドール様ッ! ツーツェイ様を止めてください! 私たちの仕事がなくなります』
屋敷に帰れば開口一番使用人たちにそう泣きつかれた。横で満足そうに笑うツーツェイの手には両親から与えられたボード。下にレバーがついていて、それを横に動かせば一瞬で文字が消えるといったなんとも便利なものだ。
そのボードには『掃除、お料理、お風呂できております』との一文。みれば屋敷の至る所が新品同様に磨きあげられていて、料理もなかなかに素晴らしい出来だった。
風呂にいたっては、テオドールが湯船につかっていると『お背中お流ししますか?』なんてボードを扉の隙間から差し出してきたので、慌てて拒否した。
(彼女は仮にも僕のお嫁さんになるんじゃないのか?)
これでは使用人と変わらない。そう諭そうとしたけれどツーツェイは首を振るだけだ。『好きでやってますので!』と鼻息を漏らして得意げな顔をしてきたのには頭を抱えた。
だけども不思議そうに首を傾げるツーツェイに強く怒れず、頭を撫でてやった。撫でてやれば嬉しそうに少しだけ赤らむ頬。褒められることに慣れていないのだろう。白い肌が淡い朱色に染まるのに、思わず息を飲んだ。
――――ツーツェイは美しかった。
屋敷に来た頃はやせ細っていて心配の方が強かったが、一ヶ月も経てば顔色も良いものに変わった。橙色の髪の毛がさらに艷が出て、同色の瞳が光に反射して美しく輝くのに周りの使用人たちが見とれて仕事が手につかなくなるほどだった。
なのに行動はかなり男勝りなところがある。そんなちぐはぐな彼女にテオドールの口が緩む。
(ふふ、なんだか見てて飽きないんだよね)
おそらく『人を愛したくありません』ときっぱりと言ったツーツェイに安心しているのもあるのもしれない。
「楽しそうだな」
「え? そうかな?」
「お前にも良い相手が出来たようでよかった」
「へ?」
真正面でテオドールを見つめる漆黒の瞳。いつも無表情なこの男はいまいちなにを考えているのかわからないものがあった。だが人を見る目は恐ろしく鋭い。幼い頃に隣国との大戦を経験しているのも理由だろう。
「虫が一人減ってよかった」
「は? む、虫!?」
「ああ、俺の妻に近づく虫」
ゆっくりと人差し指をテオドールに指す。ルイは結婚していた。相手は白魔術師で国一番と言われる美女。テオドールと同じ白魔術師だからか前から警戒されている。
(どれだけ奥さん好きなんだよ!? 興味ないって何度も言ってるのに! たしかに顔はすっごい美人だけど……)
でもツーツェイもルイの妻に負けないくらいの美人なのでは……と頭に浮かぶ。いや、これではルイと同レベルじゃないかと、はっと意識を取り戻したが……。
「浮かれるのもいいが仕事とは割り切ってほしい」
呆れたようにため息をついてきたので、温厚なテオドールもさすがに腹が立ってきた。
(奥さんと離れたくなくて年に一度の一ヶ月の演習を逃げ出そうとしたのは誰だよ!)
そう心の中で野次った。その野次が伝わったのかルイが恐ろしい表情を浮かべて魔術陣を描きはじめたので慌てて透明の壁を作って防御に走る。
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