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15 テオドールside③
しおりを挟む(うーん。でもツーツェイと出会ったのがその演習が終わったあとでよかったかも?)
なんて呑気なことを思った。そう思うのは『見てて飽きないから』と簡単に理由付けして微笑んだのにルイがまた怒ったように魔唱を唱えだしたので大人しく頭を下げた。
それにしてもとテオドールはふと思う。ツーツェイの喉の確認のときに感じた違和感……。
(あの感じは……)
「テオドール様、ルイ様! もう会議は終わられたんですか?」
「あ……」
考えていれば、いつの間にか集まってきていた女性魔術師たち。ルイがそれを見て椅子に座り直し、片付けたはずの書類をまた机に広げて目を通す。あくまで振りだろう。甘い瞳をして擦り寄ってくる女性魔術師たちに『話しかけるな』オーラを出している。
(はぁ、また僕が対応することになるのか……)
ルイとは互いに年齢も近く、同じ高位魔術師なことから一緒にいることが多々あった。彼もなかなかに美しい顔をしている。そのため女性が群がってくるのが日常茶飯事だった。
なのに、ルイは例の妻にしか興味が無い。そのため群がってくる女性たちの対応はもっぱらテオドールの役目になっていた。
テオドールはそんなルイにため息をついて笑顔を無理やり作る。
「ごめんね。こう見えてまだ会議中なんだ。少し待ってもらえるかな」
「えぇ~! さっきから待ってましたけど、もう終わりの雰囲気でしたよね?」
「あぁ、えっと……少し練り直しが必要になって……ッ!?」
するりと腕に絡みつく何本かの手。前はこのようなスキンシップはなかった。だがルイが結婚してからテオドールに向けられる好意が一段と強くなった。
そんなたくさんの細い手にテオドールの額から汗が吹き出て、背中に冷たい汗が流れるのがわかる。
(気持ち悪い……気持ちが悪い……吐きそうだ)
鼻腔をつく強い香水の匂いに赤く塗った紅。強い嘔吐感を抑えて、口の端を無理やりあげる。
「……本当にごめんね。もう少し待っ……」
――――ダンッ!!
そのとき、またルイが持っていた書類を机に叩いて大きな音が響いた。
「うるさい。会議中だと聞こえなかったのか」
無表情の瞳が睨みつける、その恐ろしい目線に女性魔術師たちがテオドールの腕から慌てて手を離す。
「る、ルイ様……申し訳ありません」
「早く仕事に戻れ」
「は、はいっ!」
顔を青くして走り去って行ったのにテオドールが安心して息を吐く。
「ごめんね、ルイ。ありがとう」
「俺はなにもしていないが」
「うん」
なにごともなかったかのように広げた書類をまた片付け始めている。女性に触れられただけで、あきらかにおかしいくらい顔を青ざめさせたテオドールだが、ルイはそれ以上なにも聞いてこなかった。そんな彼との距離はちょうど良いものにテオドールは感じていた。
(彼にも触れられたくないものがあるんだろうな……)
そのときふわりと吹く風。
そんな風に庭の金木犀の木が揺れて光る。香水の強い匂いを消して、優しい香りが香る。その光にあたる橙色の小さな花をみてツーツェイの綺麗な髪と瞳を思い出した。
(ツーツェイもこんな香りだった……彼女の匂いに不快感がないのはこれが理由か)
早く屋敷に帰りたいなと子供じみた願いをそっと心の中でテオドールは思ったのだった。
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