竜使いの伯爵令嬢は婚約破棄して冒険者として暮らしたい

紗砂

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目的のアルティナ商会まで来ると、私はエデンと共に中に入っていく。
入ってすぐに私に気付いた人が対応をする。


「失礼ですが、紹介状はお持ちでしょうか?」


アルティナ商会は紹介状がなければ店に立ち入ることすら出来ない敷居の高い商会なのだ。
とはいえ、それは貴族用、高位の冒険者用として作られた店の方のみの話であり、日常品の置いてある方の店であれば誰であろうと入れるようになっている。
武器や防具は置いていないが。


「アメリア・ヴェノムと言えば分かるかと思いますわ。
店主にお取次をお願い致します」

「……承知致しました」


その人は、私の服装や立ち振る舞いから判断したらしく、すぐに取り次いでくれた。
そして、少しして私を奥の部屋へと通した。
確認が取れたらしい。

奥の部屋にはこの商会の店主である、ルージュがいた。
ルージュの服装が軽装だった事からどうやら街から戻ったばかりだということが伺えた。


「ルージュさん、お久しぶりですわ。
突然の訪問、申し訳ございませんが、1つ、お願いがありますの」

「かの有名なSランク冒険者、鮮血の死神殿の頼みとあっては断れませんね」


その言葉とは裏腹に、その表情が明るく、軽い口調なのは私が小さい頃からの付き合いだからだ。


「既に用意は終わっています。
あとは……」

「ドレスアップのみ、ということですわね」

「そういうこと。
では、早速始めましょうか」


パーティーまではまだ時間はあるが調整もしなければいけないことも考えると仕方ないだろう。


「えぇ、お願いします」


そして1時間後、私は髪の色に合わせたような赤のドレスに身を包んでいた。
何かあった時のために動きやすいようにも工夫されている。
最悪、銀魔法でどうにか出来るようになっているところがいい。


「エデン、レオを連れてきてくださいませんか?
パーティーに参加する、と言えば問題ないと思うのですが」

「ふむ、承知した」


パートナーのことをすっかり忘れていた私は急いでエデンに連れてくるように頼むと、アクセサリーを選び始めた。
今回、私は冒険者として参加するため、あまり華美ではないものが好ましい。
それに、出来れば青のものがいいだろう。
面倒事を回避するのに役立ちそうだ。

私はサファイアの耳飾りのみを選ぶと、首飾りは魔石の着いた自持ちのものを、髪飾りはいつだったかレオから貰ったものをつけることにした。


「あとは……ナイフを隠すくらいですわね」


何かあった時のためにナイフの二、三本は必要だろう。
そう思い、隠せそうなところに隠しておく。
とりあえず取り出しやすい袖の部分でいいだろう。


まぁ、そんなこんなで2時間程経った時、エデンがレオを連れて戻ってきた。


「主よ、今戻った」

「リア……正装なんて持ってくる暇が無かったんだが……?」

「大丈夫ですわ、ちゃんと用意はしてもらいましたもの」


この2時間、何もしていなかったわけではない。
さすがにオーダーメイドは無理だったが、質の良いものからちゃんとレオの衣装を選んでいた。
靴もしかりだ。


「……はぁ、分かった。
リアを他の男にエスコートさせるなんてことは出来ないからな……」

「ありがとうございます、レオ」


私が思わず笑みを浮かべお礼を口にすると、レオはほんのりと顔を赤くそめ、顔を背けた。
そんな姿に可愛らしいと思ってしまう私は悪くはないはずだ。


「……時間は?」

「残り……3時間程、ですわね」

「思ったよりないな……。
急ぐか……」


レオは部屋の外で服を受け取ると、他の部屋を借り、着替えて再び戻ってきた。


「リア、銀製の物は持ったか?」

「当然ですわ。
レオの武器は……会場のものも使えば問題ありませんわね」

「何かあった時は頼む。
出来る限り魔法で対処するつもりだが……」

「1つ増えたところでさほど手間は変わりませんもの。
問題ありませんわ」


物騒な話をしているようにも感じるが、冒険者として参加する以上、当然の話だ。
現に、パーティーで暗殺者を仕向けられる例もある。
そういった場合のことを考えると当然といえるのだ。
普通、武器を持ち込めない以上は素手か魔法で対処しなければいけないのだ。
私の場合は銀があれば問題ないが。


「そろそろ時間だな」

「そうですわね」


何かあった時のために作戦の確認や、脱出経路、守護対象のことを話し合っているうちに時間がきたようで、私達はアルティナ商会に出してもらった馬車に乗り込み、王城へと向かった。
話が通っているのは本当のことのようで、すんなりと会場入り出来た。


「リア、1曲踊らないか?」


レオらしい誘い方だった。
私はその誘いを受けると、ダンスホールに向かう。


「……上手いな」

「このくらい、当然ですわ……と、言いたいところですが、レオのリードが上手いからですわ」

「お世辞でもそう言われると嬉しいな」


決してお世辞という訳では無いのだが、まぁ、それを言う必要もないだろう。

曲が終わると、私は当初の目的である伝手を得るために一旦ダンスホールから離れた。
すると、すぐに人が近づいてきた。


「初めまして、お嬢さん。
私はカイル・アリアベルと申します。
宜しければ一曲……」

「私はルージュ・エリスティアと……」

「私と……」


などというダンスの誘いが殆どだった。
とてつもなく面倒臭いが、これも仕方ないことだ、と思い受けようとした時だった。


「アメリア」


聞き覚えのある声が聞こえ、振り向くと、エスト・リーシェンが居た。
エスト様はお母様の友人であり、元Aランク冒険者でもある。
元、というのは既に引退しているためだ。
爵位は確か公爵だった気がする。


「お久しぶりです、エスト様。
お元気そうで何よりですわ」

「君は、回復したようで良かった。
あぁ、それとSランク昇格、おめでとう。
それにしても……君だけが来るなんて珍しい。
どうかしたのか?」


エスト様が少し心配そうだったのは、私がSランクに昇格するきっかけとなったあの出来事があったからだろう。
それと、私があまりこういった場が好きではないことを知っているからこそであろう。


「SSランク昇格の条件の1つにパーティーへの参加が入っていたんです。
そこで伝手を作ってこい、と言われてしまいましたわ」

「あぁ、そういうことか。
確かに、各国との伝手は必要だからな……。
スカーレットも昇格前には参加させられていたよ」


意外だった。
お母様が参加させられていたとは……。
そこまでして昇格しようと思う人ではないと思っていたからこそ、その驚きは大きかった。


「君のお父上とスカーレットはその時は既に恋仲でな。
SSランク冒険者であれば2人の結婚を許す、という条件を突きつけられていたのだよ。
そうでもしなければスカーレットはSSランクに昇格をしなかっただろうね」

「お母様が……」


確かに、あのお母様ならやりそうだとも思う。
だが、今の様子からはそうは思えない。
多分、お父様が娘離れ出来ないのが原因なのだろうけど。


「それより、伝手が欲しいのなら私が紹介しよう。
少々、性格に難がある者もいるが……君ならば問題ないだろう。
どうする?」

「……お願いしてもよろしいでしょうか、エスト様?」


自分で……とも考えたが無理だろうし、エスト様から紹介してもらった方が相手側からも印象が良くなると思えたのだ。


「あぁ、では行こうか」

「はい」


……レオは置いていこう。
令嬢達に囲まれているし、私が居なくなっても問題ないだろう。


「さて、ではまずは陛下からにするか」


ボソッと口にしたような気もするが、聴き逃してしまった。
ただの独り言だろう、と判断したが、それをすぐに後悔することになる。


「陛下、紹介します。
この子はアメリア、スカーレットの子でSランク冒険者てしても活動しています」

「お初にお目にかかります、アメリア・ヴェノムと申します」


まさか、最初に陛下から行くとは思わなかった。
お母様の友人だけあって非常識らしい。
今更遅いのだが。


「ほう?
あのスカーレットの子か……。
普通の子かと思ってみればその歳にしてSランク冒険者とは……。
だが、エスト。
まさか、それだけとはいうまい」

「はい。
アメリアは陛下の会いたがっていたあの、『鮮血の死神』の異名を持つ冒険者です」

「まさか、このような子が鮮血の死神とは思わんかったが……あのスカーレットの子ならば当然か。
アルベルト」

「はっ」

「アメリア、といったか?
アルベルトと手合わせをしてみないか?
勿論、ただでとは言わぬ。
そうだな……アルベルトが負けたらオーガスト皇国は後見となろう」


後見、それは1人の冒険者に対しその国が全面的にバックアップするということだ。
その分、後見国からの依頼を受けなければいけないということもあるが冒険者にとっては必要なものだ。
だが……。


「お断り致します。
強者との手合わせ自体が既に、私への報酬となります。
そのうえ更に後見して頂くなど……私に得ばかりありますので後見の話は結構ですわ」


私としては強者と戦えればそれだけ自身を高めることが出来るのだから他の報酬は要らないのだ。
 

「ふっ……面白い。
日程は、明日でいいか?」

「私はいつでも問題ありません」

「では、明日昼に」

「承知致しましたわ。
魔法や武器の制限などは」

「無しだ。
ただし、相手を殺すことは禁じる。
殺しかねないと判断した場合、負けとする」

「承知致しましたわ」


その条件であれば問題なく戦える。
さすがに魔法無しと言われれば少し厳しいかもしれないが。
とは言え、SSランク昇格試験を受けている自分が、そう簡単に負けてSSランクの位を落とすわけにもいかないのだが。


「リア」


私が陛下との話を終え、離れると、機嫌の悪そうなレオが声をかけてきた。
あからさまに機嫌が悪いと押し出しているが、私はそれを気にもせず、笑顔を浮かべた。


「レオ、どうかいたしましたか?
先ほどの方々と踊って差し上げませんの?」


よ私が口にすると、何故かレオはフッと笑みを浮かべた。
よくわからないが機嫌が直ったようだ。


「私はリア以外興味は無いからな」

「……そうですか」


なんとも言えない表情になっているだろう私だが、エスト様を紹介していない事に気付く。
レオの登場で忘れてしまっていた。


「エスト様、こちらは、今回エスコートしていただいたレオニード様ですわ」

「リアの婚約者の、レオニード・ブシュベルと申します。
以後お見知りおきを」

「レオ、こちらは……」

「エスト・リーシェンだ。
だが、そうか。
君がスカーレットの言っていたアメリアの婚約者なのか」


……お母様はいったい何を話したというのだろうか。
いや、なんとなく予想がつく。
多分、面白いやつや娘の婚約者……などとしか伝えていない。
そう思いたい。


「スカーレット様から……?」

「レオ、エスト様はお母さまの古い友人で今でもヴェノム家にいらっしゃるんです。
それに、私に魔法の使い方を教えて下さった方ですわ」

「ははは、私が君に教えたことなど簡単な基礎だけではないか。
それだけで簡単な魔法は使えるようになった君の才能委は戦慄したのを覚えている」


エスト様はそう言うが、実際はエスト様の教え方が上手かっただけだ。
魔力操作の仕方から教えてくれたのでわかりやすかったし、変な癖もつけずに済んだのだ。


「エスト様の教え方がお上手だっただけですわ」

「さて、私はそろそろお暇させてもらう。
君たちも楽しむといい」

「はい、ありがとうございますエスト様」


エスト様が他の方々のもとへあいさつ回りに向かうと、私とレオは二人で壁際へと寄った。
本当は、あまりよくないことをわかってはいるが、ダンスの誘いが面倒だった。
いつもはこんなにはこないのだが、今日は多すぎた。
私たちが他国の人間であることもその原因の1つなのだろう。

まぁ、取りあえず今回のパーティーは精神的にも肉体的にも疲労感がドッとたまることになった。
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