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しおりを挟む試験当日。
私はいつもより緊張した表情を浮かべながらギルドに向かった。
「アメリア、時間より少し早いけど……始めようか」
マスターのその言葉に頷くと、その試験内容を聞き落とすことの無いように耳を澄ます。
「試験内容は、隣国オーガスト皇国で開かれるパーティーに出席すること。
そこで、各国との伝手を得ることからだ」
から、というからにはそれだけで終わりじゃないのだろう。
……まぁ、パーティーへの出席が試験の1つだとは思わなかったが。
「それと、開催日は今日。
準備はオーガストの王都にあるアルティナ商会に頼んである。
とはいえ、あと5時間程でつかないと間に合わないけどね」
これも試験のうちなのだろう。
とは思うのだが、鬼畜すぎはしないだろうか?
まぁ、私の場合は問題ないが。
「承知致しましたわ。
では、失礼いたします」
ギルドを出ると、そのまま王都を出てエデンを呼び出す。
他の子はお留守番だ。
「何用だ、主よ」
「オーガストの王都付近まで乗せてください、エデン」
「……承知した」
嫌々のようにも見えるが、その表情は明るい。
やはり、人化というのは窮屈らしく、本来の姿の方がいいらしい。
エデンは上機嫌で元の姿へと戻ると、私を背に乗せ、オーガストの方向へと飛び立った。
『久しぶりの飛行だが、気持ちの良いものだな』
「ふふっ、そうですわね」
エデンが高いところが好きなのもわかる気がする。
頬を撫でるような冷たい風が心地よいのだ。
自然の中にいるのだと感じされるような
この雰囲気が私は好きだった。
『主よ、少しばかりとばすぞ』
「……え?」
私がエデンの言葉を理解した時には既に遅く、エデンは加速を始めていた。
それわ見て、私は咄嗟に自身の周りに防御用の結界をはっておく。
そうでなければ気圧にやられて死んでしまう。
そして、目的地へと着く頃にはもう、私はかなり疲弊していた。
これも全ては全速力でとばしてきたエデンのせいだと思っている。
まぁ、事実そうなのだが。
「うむ、意外と楽しかったな」
「……次からは、せめて私が防御魔法を使ってからにしてくださいませ」
「む、承知した」
エデンを止めるのは無理だろうと判断し、私は妥協案を出すと、エデンは簡単に了承した。
……すぐに忘れそうな気もするが。
「主よ、どこへ行くのだ?」
「アルティナ商会ですわね。
ギルドの近くのはずなのですが……。
いえ、先にギルドへ顔を出して起きますわ」
「そうか」
この国には1度来たことがあるのでギルドの場所ならば分かる。
それに、冒険者はギルドへの報告の義務があるのでその報告を……と思ったのだ。
早々にギルドを見つけると、そのままエデンを連れて中に入る。
すると……。
「おうおう、ここは嬢ちゃんのような奴が来るとこじゃねぇぜ。
嬢ちゃんはさっさと家に帰ってママの胸の中で泣いてな」
などと言って笑う下郎がいた。
実力も測れない奴が何故こんなところにいるのか、全く理解に苦しむところだ。
「あら、お母様に私が泣きついたりしたら、あなた方の命はどうなるのでしょうね?」
「あぁ?
俺たちを舐めてんのか?」
「舐めるもなにも、あなた方のような実力では、お母様に触れることも出来ませんし、私に勝つことも出来ませんわよ?
……無謀にも、私に挑戦すると仰るのであれば、やぶさかではございませんけれど……どうなさいますの?」
あくまでも、笑顔で口にする。
私達のやり取りに、周りがザワめくが知らないフリをする。
実力者であれば、相手の冒険者に対して同情の目を、実力のない者であれば、私を侮るような視線で見つめている。
「はっ、いいぜ。
精々、その……」
「では、私対、ここにいる全ての冒険者で」
「なっ……テメェ、馬鹿にすんのもいい加減にしろ!」
馬鹿にしているつもりは全くなかったのだが。
多分、ここにいる冒険者の中でいい勝負が出来るだろう人数は5人ほど。
ならば、全員でやった方が面白いだろう、という単純計算だったのだが。
「む、主よ。
我は向こう側に入れば良いのか?」
「……エデンは、これが終わりましたら、私と2人でやりましょう?」
「うむ」
納得してくれたらしい。
……エデンが向こうのチームに入れば確実に私が負けることになるのだ。
そんなことをやるほど私は馬鹿ではない。
「皆様も、それで宜しいでしょうか?」
「いや、俺達風の遊び人は参加しない。
かの有名なSランク、鮮血の死神殿と相手をする程死に急いでいるわけではないのでな」
という男の声に、ギルド内がより一層ざわめきたつ。
まさか、あの……、Sランク?などという声を全てスルーして私は彼に笑顔を向ける。
「あら、心外ですわ。
私と戦うことが死に急いでいる、だなんて」
などと言ってはいるが、気持ちは分からなくもない。
私もお母様と戦うときは死ぬ気で向かっているので毎回寿命が縮んでいる気になるのだ。
「なんにせよ、死神殿と戦うつもりはない」
「あら……残念ですわ。
私がここに滞在する期間は1週間もありませんし……。
試験の最中ですし……今回は諦めますわ。
ですが、風の遊び人でしたわね。
あなた方のことは覚えておきますので、ヴェスト王国の王都にあるギルドへ来た際には今度こそお手合わせお願いします」
本来の目的は報告であったのだが、さすがにこの雰囲気の中という訳にもいかないだろうと、出直しますわ、とだけ口にしてギルドを出た。
そして、そばにあるはずのアルティナ商会を探した。
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