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しおりを挟む森に入ってから1時間、私達は竜と対面していた。
そして、その竜の姿は黒炎竜に見えるが…古竜であった。
その姿に私は早々に気づく事ができ、良かったと胸をなで下ろす。
だが、油断は禁物だ。
私は再び緊張感を持ち、古竜に語りかける。
「お初にお目にかかります。
私はギルドから派遣された冒険者のアメリアと申しますわ。
この度は我が国の騎士が大変失礼を致しました事、ここに居ない者に変わり、私がお詫びさせていただきます」
私は深く頭を下げ、なんとか戦闘にならない様に丁寧に対応する。
古竜なんて怒らせたところで何の役にも立たない。
百害あって一利無しだ。
「アメリア?」
私はカインの事など気にせずにただ、古竜の返答を待つ。
『ほぅ?
中々に礼儀を弁えた人の子だ。
それに…汝の頭にいるのは銀竜だな。
契約もしていると見た』
「はい、確かに私とリアン……銀竜とは契約を交わしております」
『まぁ、良い。
人の子よ、何故我が元へと訪れた?』
私は内心、分かっているだろうに、と思いつつもその問いに答える。
「この地から立ち去ってはいただけないでしょうか」
『我に命じると言うのか!』
古竜は激怒した様に怒鳴り声を上げるもその内心からは興味や関心と言った様な感情が読み取れる。
つまり、これは私を試しているのだろう…そう、判断した。
私はこの古竜への対応に細心の注意を払い返答をする。
「いいえ、これは私のお願いです。
私に、誰かを命じる権利などはありません。
例えあったとしても最後に決断するのはその者自身です。
私が決めるべきではありません」
私達貴族は誰かに命じる為に存在しているのではないのだから。
私達貴族は誰かを守る為に存在しているのだから。
その道はその人が決めるべきであり私が決めるべきではない。
そんな事をしてしまったらその人物の心には後悔の念が残ってしまうから。
『ふむ……人の子よ、汝の名は何という?』
「アメリアと申します」
最初に名乗っただろう、などと心の中で毒づきながらも私は名を名乗る。
『否。
汝は貴族であろう?
貴族ならば家名があるはずだ』
「アメリア・ヴェノムと申します」
『ヴェノム…ふっ……ようやくか。
彼奴との約束をようやく果たせるというものよ』
私はそんな事を言い出した古竜に戸惑いを隠せずにいる。
まず、彼奴とは誰なのか。
約束とは何なのか。
そして私の家名を聞いた意味は、と。
様々な疑問が浮かび上がってくる。
『人の子、いや、アメリアよ。
我は汝を新たな主として認めよう。
我が名はエデン。
ディールに名付けられし名だ』
何故か嫌な予感がした。
それはある意味的中していると言っていいだろう。
何故ならば、エデンと名乗った古竜の片翼にはリアンと同じような白い薔薇の模様が浮き出ているのだから。
そして、エデンが光に包まれたかと思うとそこには白銀の髪に金の瞳を持った男がいた。
「契約は成された。
よろしく頼むぞ、主」
その男はニッと口端を上げ笑い、私を主と呼んだ。
「え……?
古竜の能力の1つに人間へと姿を変えるものがあるのは知っていますが……まさか」
「主と住むのに竜の姿では不便だろう」
「ソ、ソウデスカ……」
当たり前だろうとばかりに告げるエデンに私は天を仰いだ。
その後ろで……。
「……Sランクって何なんだ?」
「さぁ?」
「……す、すごいです……。
まさか古竜と契約を……」
「私達には真似出来ないわね…」
などという会話がされていた事は知るよしもなかった。
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