竜使いの伯爵令嬢は婚約破棄して冒険者として暮らしたい

紗砂

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「あ……え?
ラ、ラン先輩!?
何故……」

「主に用があるそうだ」


だからといって人が寝ている時に勝手に入れないで欲しい。
だが、相手は先輩だ。
文句を言うわけにもいかず用件を尋ねた。


「おう、アメリア。
メシ、食いに行かねぇか?」

「はい、すぐに準備致しますわ。
…エデンもよろしいでしょうか?」

「おう!
俺等は下で待ってるぜ」


私は先輩が行ってからすぐに準備を始めた。
邪魔にならないよう、長い髪を1つで括り剣を腰にさすとエデンとリアンと共に下へ降りていく。


「先輩、お待たせしてしまい申し訳ありません……。
レオニード様も……?」

「あ……アメリア、その…悪かった」


私は突然の謝罪に目を見開き次いで私からも謝罪をした。


「いえ、私の方こそ申し訳ありません。
レオニード様、心配してくださりありがとうございます」


私は笑顔でお礼を言うとレオニード様は何処か照れくさそうに顔を背けた。
そんなレオニード様に思わずふふっと笑うと私は夕食を購入し、席についた。

それとは別にリアン用の肉を頼み私の隣に置くとリアンは私の頭から飛び降りて美味しそうに食べ始める。
そしてエデンには銀貨を何枚か渡し好きなものを選ぶように言っておいた。


「主、明日からは我は狩りで獲物を得よう。
主に借りるのは悪いからな」

「エデン、気にしないでください。
私、これでも収入はありますもの。
それに、またギルドに討伐依頼が来たら面倒ですし……。
そんな事をしたら許可証が取り消しになってしまいますから」

「……む」


エデンは言葉を詰まらせた。
私はそんなエデンに苦笑をもらすと私は大丈夫だと笑った。
そんな私に安心したのかエデンもふっと微笑んだ。


「そういや、そいつは何者だ?」

「エデンの事でしょうか?」

「あぁ。
少なくとも人間じゃねぇだろ」


ラン先輩は射抜くような視線を私に投げかける。
私はウッと視線を泳がせるが先輩を誤魔化せる事はないだろうと潔く諦める事にした。


「……竜、ですわ。
いつの間にか契約を施されていました……」

「竜……?
いや、契約を施された?
竜種は束縛を嫌うはずだ」


そう、そう言われている。
それなのに、だ。
何故私の周りには竜種がいるのだろうか?
それも、古竜と銀竜が。
いや、リアンはまだ分かる。
分かるのだが……何故古竜のエデンまで……。


「ディールとの最後の約束であったからな」


またディールだ。
エデンの言葉の中に出ているディールという人物は一体……。


「ディール、というのは誰なんだ?」

「……知らぬ、か。
ディールは昔、この国の王弟であり主と同じく銀魔法の能力者であった」


銀魔法、その言葉に私はハッと息を詰まらせる。
過去にも居ないと言われていた銀魔法が、王弟であった人の能力と同じだった事。
それを知り嬉しく感じた。

だが、そんな人物がエデンの元契約者であるというのだ。
銀魔法の使い手が、古竜であるエデンの契約者……そこに何かが引っかかる。


「……ディール……ラディール・ヴェノム……?」


その名は私の先祖の名だ。
かつてヴェノム家を作り上げた王国の守り手。
よく思い出してみれば何が元で爵位を受け取ったのかは知るものはいない。
それが、それが、王弟であったからならば?


「うむ。
我や彼奴に親しき者はディールと呼んでいたがな。
懐かしいものよ……。
彼奴は他の者から『竜使い』と呼ばれていたな」


そう語るエデンはとても優しく、懐かしそうな表情だった。
その表情から前の主の事を大切にしていた事が良くわかる程に。


「主もいずれ竜使いと言われるやもしれぬな…」


そのエデンの呟きが近い将来、本当になる事をこの時の私は予想していなかった。
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