竜使いの伯爵令嬢は婚約破棄して冒険者として暮らしたい

紗砂

文字の大きさ
28 / 69

27

しおりを挟む
ギルドに入ると私は受付嬢に呼び止められた。


「アメリアさん!
マスターからアメリアさんが来たら通すようにと…」

「……強化合宿から戻り次第また来ますので今回は見逃していただけませんか?」


私は笑顔で受付嬢に頼みこむ。
だが、当の受付嬢は困ったように表情を歪めるだけであった。


「……聞こえてるんだけどな、アメリア?」

「…先輩、どの依頼を受けるのでしょうか?」


私は受付嬢から離れ、マスターの声も聞かなかった事にして先輩達の方へと戻る。
だが、ガシッとマスターに肩を掴まれてしまった。


「……アメリア?
ちょっと、個室に移動しようか?」

「丁重にお断りさせて頂きますわ。
マスターのお誘いはろくなことになりませんもの」


私は笑顔で断るがどんどんマスターの力が強くなっていく。
私もマスターも、それぞれ一歩も引かずに笑顔で応対する。


「…その制服、戦闘科の生徒だね?
君達もアメリアと一緒に来てくれるかい?」

「あ、あぁ……」


ラン先輩が頷いてしまった事で私を含め、全員が個室へと通される。
とてつもない敗北感を感じながらも渋々椅子へと座る。


「さて……アメリア。
いきなり本題に入るけど……もう一つ、赤い依頼を受けてくれないかな?」

「お断りさせて頂きます」


私の決断は早かった。
いつもならば内容にもよるというのだが今回は別だ。
マスターから直々になど…嫌な予感しかしない。


「……これともう1つ別の赤い依頼を受けてくれるなら私からも昇格試験の推薦をしよう。
今、ここにスカーレットからの推薦はある。
つまり、だ」


この依頼ともう1つの赤い依頼を受ければSSランクになれる……?
だが何故……。
SSランクになるにはもっと功績が必要なはずだ。
なのに何故、こうも簡単に……。


「一年前…。
その功績はそれほどまでに大きいという事だよ」

「……あれは、私だけではありませんわ。
お母様が殆ど倒していたからこそですもの。
それなのにこのような事は……」

「アメリア、これは君に対してのギルドからのお詫びでもあるんだ。
私からも謝罪させて欲しい。
……アメリア、君の大切な1年を奪ってしまう結果になったこと、申し訳なかった」


私はそんなマスターの謝罪に思わず顔を歪めた。
私は、謝罪なんてして欲しいなどと微塵も思っていなかったから。
ただ、守りたかったというだけだったのだから。
私の力不足のせいでお母様も傷つき、みすみす街を危険に晒してしまったのだから。


「あれは、マスターに謝罪されるような事ではありませんわ。
全ては私の力不足が招いた結果ですもの」


だからこそ私は、以前よりも強くなる事に対して執着が強くなったのだ。
私は、お母様の隣に立って戦いたい。
そうなれば…きっとお母様が傷つけずに済むから。
そうすればきっと、領民を守れるから。
それが私達貴族の役目でもあるのだから。


「兎に角…私は赤い依頼を受けるつもりはありませんわ。
今の私には力不足ですもの。
…マスター、申し訳ありませんわ。
まだ、ちゃんと感覚を取り戻せていないようですし」

「……うん?
え、待って。
え、え?
感覚取り戻してない君に負けたの、僕?」


私はそんなマスターの問いに視線を逸らした。
……マスターは私と同じSランクなのだ。
そんなマスターが私をありえないといったような視線で見つめてくる。

それに、グループの先輩からも同じ視線を投げかけられる。


「アメリアさん、何ランク……?」

「強いとは思っていたが……」

「………あれで、まだ上が?」


わたしが答えないでいるとマスターがおもむろに口を開いた。


「アメリアは僕と同じSランクさ。
それも、現時点で1番SSランクに近い、ね」


折角言わないでおいた事を言われてしまった。
レオニード様はやはり溜息をつくだけであったが他の先輩は絶句していた。


「あぁ、そうだ。
アメリア、来月辺りにスカーレットが王都に滞在するようだよ?
スカーレットにアメリアの事をついうっかり言っちゃうかもしれないな~。
赤い依頼を受けてくれないって口が滑って言っちゃうかもな~」


ニヤニヤしながら口にするマスターに私は青ざめた。
お母様に知られれば……と考えたのだ。
お母様は赤い依頼があれば出来るだけ受けろ、と言っていた。
それが自分より上のランク推奨でなければ。
赤い依頼はそれだけ困難であり、被害を出すものだから、と。
それを受けていないと知られたら私はきっとお母様に怒られるだろう。
それはもう、酷く……。
そして、自分がやる、と言い出すだろう。


「お母様に知られたらどうなるか……。
絶対に無理ですわ……。
あのお母様を……だなんて。
私の身が……命が持ちませんもの……」


私がガクガクと震えているとグループの先輩方が顔を引き攣らせた。


『Sランクのアメリアでさえ、こんな怯えるなんて一体どんな人なんだ……』


と。
無駄に恐怖心を埋め込む事になったのだった。


「アメリア?
どうしたんだ?
そんなに怯えるなんて……。
いつもなら喜ぶだろうに……」

「…レオニード様、考えても見てください。
お母様が一緒にいるだけで英雄扱いですわよ?
それに、騎士団への勧誘や他の貴族の方からもお誘いが……。
もしくは、お母様が邪魔だからと言って暗殺者や闇ギルドの者まで仕向けられたりと……。
 その全てを片付けるために私とお母様、お父様の3人で片っ端から証拠を集め、騎士団に突き出さないといけないのですよ?

…前回、夜会に参加するために訪れた時など.観光の時間は全て裁判と証拠集めで終わりましたわ。
それがまたあるとなると……」


あの時は大変だった。
夜会ではお母様は武芸の関係者に師になって欲しいと頼まれそれを片っ端から断り…それを不相応にも恨み刺客を放ってきたり……。
その証拠を集めるために王都内を走り回ったり……。
また他の夜会では陛下に挨拶した際、騎士へと勧誘されその余りのウザさにお母様の機嫌が悪くなり夜から魔物討伐へ向かったり……。
また連日の夜会でのストレス発散も兼ねギルドに溜まった赤い依頼を全て消費したり……。


「…あぁ……確かにそれは……」

「赤い依頼の事も伝えられるとなるとお母様と合同で受ける事になりますが…大抵の場合、騎士団からの勧誘で足止めをくらいお母様の機嫌が悪くなりやりすぎますのよ……。
それで何度周りの建物を壊し、穴を作ったことか……」


昔.1度だけあったがお母様の機嫌が急激に悪くなり周りの温度まで下がったのを私は決して忘れないだろう。
あの時の恐怖といったら……。


「……何となく分かる気がする……」


しおりを挟む
感想 14

あなたにおすすめの小説

夫が寵姫に夢中ですので、私は離宮で気ままに暮らします

希猫 ゆうみ
恋愛
王妃フランチェスカは見切りをつけた。 国王である夫ゴドウィンは踊り子上がりの寵姫マルベルに夢中で、先に男児を産ませて寵姫の子を王太子にするとまで嘯いている。 隣国王女であったフランチェスカの莫大な持参金と、結婚による同盟が国を支えてるというのに、恩知らずも甚だしい。 「勝手にやってください。私は離宮で気ままに暮らしますので」

妹に傷物と言いふらされ、父に勘当された伯爵令嬢は男子寮の寮母となる~そしたら上位貴族のイケメンに囲まれた!?~

サイコちゃん
恋愛
伯爵令嬢ヴィオレットは魔女の剣によって下腹部に傷を受けた。すると妹ルージュが“姉は子供を産めない体になった”と嘘を言いふらす。その所為でヴィオレットは婚約者から婚約破棄され、父からは娼館行きを言い渡される。あまりの仕打ちに父と妹の秘密を暴露すると、彼女は勘当されてしまう。そしてヴィオレットは母から託された古い屋敷へ行くのだが、そこで出会った美貌の双子からここを男子寮とするように頼まれる。寮母となったヴィオレットが上位貴族の令息達と暮らしていると、ルージュが現れてこう言った。「私のために家柄の良い美青年を集めて下さいましたのね、お姉様?」しかし令息達が性悪妹を歓迎するはずがなかった――

【完結】嫌われ公女が継母になった結果

三矢さくら
恋愛
王国で権勢を誇る大公家の次女アデールは、母である女大公から嫌われて育った。いつか温かい家族を持つことを夢見るアデールに母が命じたのは、悪名高い辺地の子爵家への政略結婚。 わずかな希望を胸に、華やかな王都を後に北の辺境へと向かうアデールを待っていたのは、戦乱と過去の愛憎に囚われ、すれ違いを重ねる冷徹な夫と心を閉ざした継子だった。

夫に捨てられた私は冷酷公爵と再婚しました

香木陽灯
恋愛
 伯爵夫人のマリアーヌは「夜を共に過ごす気にならない」と突然夫に告げられ、わずか五ヶ月で離縁することとなる。  これまで女癖の悪い夫に何度も不倫されても、役立たずと貶されても、文句ひとつ言わず彼を支えてきた。だがその苦労は報われることはなかった。  実家に帰っても父から不当な扱いを受けるマリアーヌ。気分転換に繰り出した街で倒れていた貴族の男性と出会い、彼を助ける。 「離縁したばかり? それは相手の見る目がなかっただけだ。良かったじゃないか。君はもう自由だ」 「自由……」  もう自由なのだとマリアーヌが気づいた矢先、両親と元夫の策略によって再婚を強いられる。相手は婚約者が逃げ出すことで有名な冷酷公爵だった。  ところが冷酷公爵と会ってみると、以前助けた男性だったのだ。  再婚を受け入れたマリアーヌは、公爵と少しずつ仲良くなっていく。  ところが公爵は王命を受け内密に仕事をしているようで……。  一方の元夫は、財政難に陥っていた。 「頼む、助けてくれ! お前は俺に恩があるだろう?」  元夫の悲痛な叫びに、マリアーヌはにっこりと微笑んだ。 「なぜかしら? 貴方を助ける気になりませんの」 ※ふんわり設定です

侯爵家の愛されない娘でしたが、前世の記憶を思い出したらお父様がバリ好みのイケメン過ぎて毎日が楽しくなりました

下菊みこと
ファンタジー
前世の記憶を思い出したらなにもかも上手くいったお話。 ご都合主義のSS。 お父様、キャラチェンジが激しくないですか。 小説家になろう様でも投稿しています。 突然ですが長編化します!ごめんなさい!ぜひ見てください!

母が病気で亡くなり父と継母と義姉に虐げられる。幼馴染の王子に溺愛され結婚相手に選ばれたら家族の態度が変わった。

佐藤 美奈
恋愛
最愛の母モニカかが病気で生涯を終える。娘の公爵令嬢アイシャは母との約束を守り、あたたかい思いやりの心を持つ子に育った。 そんな中、父ジェラールが再婚する。継母のバーバラは美しい顔をしていますが性格は悪く、娘のルージュも見た目は可愛いですが性格はひどいものでした。 バーバラと義姉は意地のわるそうな薄笑いを浮かべて、アイシャを虐げるようになる。肉親の父も助けてくれなくて実子のアイシャに冷たい視線を向け始める。 逆に継母の連れ子には甘い顔を見せて溺愛ぶりは常軌を逸していた。

【完結】赤ちゃんが生まれたら殺されるようです

白崎りか
恋愛
もうすぐ赤ちゃんが生まれる。 ドレスの上から、ふくらんだお腹をなでる。 「はやく出ておいで。私の赤ちゃん」 ある日、アリシアは見てしまう。 夫が、ベッドの上で、メイドと口づけをしているのを! 「どうして、メイドのお腹にも、赤ちゃんがいるの?!」 「赤ちゃんが生まれたら、私は殺されるの?」 夫とメイドは、アリシアの殺害を計画していた。 自分たちの子供を跡継ぎにして、辺境伯家を乗っ取ろうとしているのだ。 ドラゴンの力で、前世の記憶を取り戻したアリシアは、自由を手に入れるために裁判で戦う。 ※1話と2話は短編版と内容は同じですが、設定を少し変えています。

裏庭係の私、いつの間にか偉い人に気に入られていたようです

ルーシャオ
恋愛
宮廷メイドのエイダは、先輩メイドに頼まれ王城裏庭を掃除した——のだが、それが悪かった。「一体全体何をしているのだ! お前はクビだ!」「すみません、すみません!」なんと貴重な薬草や香木があることを知らず、草むしりや剪定をしてしまったのだ。そこへ、薬師のデ・ヴァレスの取りなしのおかげで何とか「裏庭の管理人」として首が繋がった。そこからエイダは学び始め、薬草の知識を増やしていく。その真面目さを買われて、薬師のデ・ヴァレスを通じてリュドミラ王太后に面会することに。そして、お見合いを勧められるのである。一方で、エイダを嵌めた先輩メイドたちは——?

処理中です...