竜使いの伯爵令嬢は婚約破棄して冒険者として暮らしたい

紗砂

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ようやくチラホラと他のグループが到着し始めた頃、私はリーシャに手伝ってもらいながら昼食を作っていた。
令嬢らしくないこの特技はお母様との山篭りの時に身についた。


「リアお姉ちゃん、お湯沸いたよ!」


ずっとお湯を見てくれていたリーシャは達成感のある表情で私に声をかけてくる。


「ありがとう、リーシャ」


私は鍋の中に先程狩って血抜きしたばかりのムーンラビットの肉を入れ、寮から持ってきた調味料で味付けをする。
そしてそこに先程とってきたばかりの山菜を入れる。
山菜とムーンラビットのスープだ。

それが完成すると次の料理へと取り掛かる。
……まぁ、料理と言っても次のものは焼くだけなのだが……。
そこに塩胡椒をかけ、僅かながらもハーブをつまみ振りかけ完成。


「……もう少し作っておいた方が良さそうですわね…」


私はテントの中での話し声を聞き、そう呟いた。
仕方ないとばかりに肩を竦めると鳥をさばき出す。

そして鍋で蒸し焼きに……。

レオニード様が取ってきてくれた魚はお刺身と塩焼きに。
ハーブで蒸し焼きとかに出来たら良かったのだが……これ以上使いすぎると他の日が足りなくなってしまうかもしれないのでやめておく。
……食後のハーブティーとかも飲みたいというのも理由の1つではあるが。


そして、食後のデザートはアグルの実を凍らせた小さなシャーベットのようなものだ。
シャキシャキとして甘みと酸味の絶妙なバランスが成り立つこのシャーベットは私のお気に入りだ。

卵や油があればもう少し色々な物が作れたのだが……。


「リーシャ、悪いのだけれど…皆を呼んできてくれるかしら?」

「うん!
行ってくるね!」


リーシャの元気に走る姿に私は微笑むと椅子と机を土と氷で作り上げ、更には器までも魔法で創りあげた。
器は氷で作ったものなのですこし冷たいが問題なく食べることが出来る。


「うぉ……ぉお?
……こんなところでこんな豪華な食い物って……」

「…………………規格外…」

「さ、さすがアメリアさん……?」

「……普通に美味そうなんだが?」


先輩方が何故か呆然としている中、私とリーシャ、レオニード様が席に着く。


「アメリア、俺達の分もあるのか?」

「えぇ、勿論ですわ。
あ…少しお待ちください」

『属性魔法-水-形状指定-球-状態維持』


私は水球を作ると1人1人の前に出した。
まぁ、つまりは手を洗えという事だ。
私とレオニード様はそういった事に慣れているので普通に手を入れ洗う。
リーシャや先輩方が戸惑っている事に気付くと手を洗ってから食べるように告げ、皆が手を洗ったのを確認してから食べ始めた。


「美味しぃ…!!
え、待ってこれ、味が濃い……?」


サニアさんが目を見開き口元に手を当てていたのでふふっと笑ってから色々と説明した。


「塩胡椒とハーブは持ってきていましたので折角ですし使用してみましたの。
後は、近くに山菜などがありましたのでそちらも使用してみましたわ」

「塩胡椒やハーブって……」

「……普通は持ってこないと思うのだけど?」

「アメリアだからな」


散々な言われようであった。
だが、隣に座っているリーシャが…。


「これ、美味しいね」


と笑顔で美味しいと言ってくれたので私は今までの事を忘れることにした。


「うおっ……なんだよあのグループ……」

「はぁ、はぁ……くっそ…水……」

「食料、なんて……取りに、行けねぇ……ぞ…」


他のグループの人達が私達のグループを見て、羨ましそうに見つめたり、嫉妬のこもった目で見てきたりとしていた。
中には脱水症状を起こしている者もいるくらいだ。


「煩いぞ!
さっさと食料を取りに行かぬ……か?」


教官が外に出てきたと思ったら皆一様にピシッとなる。
そして、教官は私達のグループを見て固まった。


「……その食料はどうした?」

「先程の狩りの成果です!」

「………そんなにか?」

「グループに1人、探索系の魔法を使用出来るものがいたので」


教官の問いには全てラン先輩が答える。
私達はラン先輩の後ろで立っているだけだ。


「………調味料なども使用しているようにまだ見えるが?」

「グループの中に調味料を持ってきている者がおりましたので!」

「………その机や椅子、器はどうした?」

「……アメリア」

「はい。
机と椅子は土と氷で。
器は氷で作らせていただきました」


さすがにこの質問にはラン先輩でも答えられなかったらしい。


「…………冒険者よ、狩りでの手伝いは?」

「してないぜ。
……俺等よりアメリアの方が余程強いしな…」


どうしても認めたくないらしい教官にサニアさんが少しキレた。


「私の可愛いアメリアは不正なんてしませんよ?」


ニコッと笑顔で口にしたサニアさんだったが少し黒い笑顔の気がするのは気の所為だろうか?


「……アメリア・ヴェノム。
やけに手慣れているようだが誰に教わった?」

「……母、スカーレット・ヴェノムと父、ラサール・ヴェノムです」

「……あぁ。
苦労したな……」


何故か同情された。
確かにあの理不尽な強さに追いつこうと頑張ってはきたが……何を苦労したのだろうか?


「さっさと散れ」


教官が面倒くさそうに手をヒラヒラさせると敬礼してから皆が散らばった。
そして私達は食事を再開した。
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