竜使いの伯爵令嬢は婚約破棄して冒険者として暮らしたい

紗砂

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全て終わった。
そう思うと私は細い息を吐いた。


「主、少し休んだらどうだ?」

「エデン…私は大丈夫ですわ。
それよりも…その格好をどうにかして欲しいのですが……」


エデンは狩りをしていた事が分かる程に返り血や木の葉で汚れていた。
そのあまりにも物騒な姿に私は一瞬知らないフリをしようかとも思ったくらいだ。


「む……」


エデンは自分の姿を見下ろしたあと、うむ、と頷いた。


「この程度ならば問題あるまい」

「あるから言っているのですが……。
エデン、せめてその返り血だけでも流してください」

「…主がそう言うのならば仕方あるまい…」


そう言うと渋々ながらもエデンは水浴びに向かった。


『キュイ』


終わった事を確認したのかリアンが定位置である私の頭の上へと戻ってきた。
その重さに慣れてしまった私自身に対し自嘲すると白夜に手をかけた。
すると、少しだけ心が軽くなった気がする。


それは、私が銀魔法を扱うからなのだろうか?
だから銀で出来ている白夜に触れると心が軽くなる気がするのだろうか?


そんな事を思いながらもレオとカナンを見た。
いつの間にか仲良くなっている2人の様子に少しだけ、ズルいなどと思うがあのレオに友人と呼べるような人が出来たようで安心した。


「リア、エデンを1人で行かせて良かったのか?」

「え……?」

「いや…もし本来の姿に戻ったりしたら……」


レオの言葉が途切れた時、川の方向から悲鳴が上がった。
その悲鳴に私は青ざめる。
そして、私の視界に入ったのは本来の姿に戻ったエデンと、もう一体の別の竜だった。


「……あ、あれこ、ここ古竜!?」


カナンが慌てたように『古竜』と口にした。
だが、そんなカナンとは裏腹に私とレオは……。


「いえ、もう一体居ますわ」

「あれ……水竜じゃないか?」


冷静だった。
特に何事もなかったかのように淡々と口にする私とレオにカナンは信じられないと言うような目で見てくる。
だが、仕方ないだろう。
水竜よりもエデンの方が強いだろうしもし無理でも銀竜らしいリアンもいる。
そうなれば負ける事はない。
そのためか私の頭の中にあるのはどうやってエデンの事を誤魔化すか、ただそれだけだった。


「アメリア・ヴェノム!
動けるか!?」

「動けますが……」

「行くぞ!」

「……えぇ」


エデンと謎の水竜の登場によりマルスも焦ったように向かおうとする。
私は対処するのは骨が折れそうだ…などとのんきに考えながら川へと向かうのだった。
その時、心配してくれたのかレオとカナンもついてきてくれたのは少し嬉しかった。



『イオ、貴様!!
我が主を侮辱するか!!』

『はぁ?
主って……僕等の主は今も昔も1人だけだと思うんだけど?』


エデンの怒り狂ったような声と水竜と思しき不機嫌さの滲み出た声。
その声はどうやら私の事について争っているようだった。


『あやつとて銀魔法を持ったディールの子孫!
ならば守ってやるのが道理ではないか!』

『だから何?
僕は認めない。
僕の主はラディール1人だ!
エデンだってラディールの竜なんだ!
そのエデンが、他の奴に従うなんて!!』


つまり、あれか。
私とエデンが契約した事について言っているらしい。
と、言うことはだ。
これは私が原因らしい。


「エデン、何をしていますの?」

『む……主か…』

『あんたがエデンの?
なら話は早い。
さっさと契約を解除して。
僕等はラディール以外には…』

『イオ!
ふざけ…』

「エデン、少し静かにしていてください。
私、これでも怒っていますわ」

『ぬっ……』


エデンがしゅんとしたところで私はイオと呼ばれた水竜に目を向けた。
そしてラディールと言ったということは私の御先祖様が契約を交わしていたという竜なのだろう。


「お初にお目にかかりますわ。
私は、アメリア・ヴェノムと申します。
エデンとリアンの契約者であり、銀魔法を受け継ぐ者ですわ」

『……イオ。
ラディールの水竜で、エデンと同じ竜皇帝』


竜皇帝……。
各竜をまとめる皇帝にして最強の竜。
プライドが高く滅多に人前には現れないと言われているが……。


「エデン、初耳ですわよ……」


私はその件についてエデンに文句を言った。
当たり前だ。
大切なことを知らされていなかったのだから。


『言ってはおらぬからな』

「初めに知っておきたかったのですが……」

『知っていたら契約は結んではくれなかっただろうに…』

「……いえ、元々勝手に結ばれたものなのですが…?」


私の反論はどうやらスルーされてしまったらしい。

私はもう1度溜息をつくとイオに向き合うのだった。
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