婚約破棄?喜んでお受け致します!

紗砂

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「貴様との婚約を破棄する!
貴様の家が行った悪政の証拠は出ている!
元より貴様のような者との婚約がおかしかったのだ!」


私は今、婚約者であった王子に呼び出されたホールで婚約破棄を言い渡されている。
今は昼食時なので人目も多く、この学園でも特に目立つ2人ということもあり余計にだ。


「ルーナ、貴様がフローラにやった行いの数々、全て分かっているのだ!」

「あら……何を言い出すかと思えば……。
誰ですの、その方?」

「……は?
と、惚けても無駄だ!」


いや、マジでフローレだかブレーメンって誰?
まずさ、悪政って何なのさ。
うちの領地は至って平和だし。
薄々気づいてはいたが……やっぱ王子はバカだったか。


「大方、俺が気にかけているフローラが気に入らなかったのだろう!
分かっているのだぞ!」


どこがだこのバカ王子。
というか、名前間違えてたわ。
フローレでもブレーメンでもなくフローラね。

私は見当違いな事を喚くバカ王子……ルイス様を見て、溜息をついた。


「私はこれでもかなり我慢しているのですよ……?
私は言った筈です。
高等部へとあがる前に、少なくとも2カ国の言語はマスターしてください、と。
3年も猶予を付けましたわ。
なのに、ルイス様は結局1カ国の言語もマスターするどころか学びさえしませんでした。
それどころか、王族というのを見せびらかし身分の低い者達へと当たり散らすなど……その度、どれ程私が苦労したと思っていますの?
学園内では身分は関係なく平等であるということを知らないなどと言うわけではありませんよね?」


何度キレそうになったことか。
そして何度頭を下げてきたことか。
第2王子といえど将来的には兄である王太子殿下の補佐につくのだ。
多少の言語は覚えなければならない。
それが王族としての義務なのだ。
にも関わらずこの体たらく……。

そう、婚約破棄を望んでいたのは私の方だったのだ。
だからこの婚約破棄は勿論、受けるつもりだ。
ただ……その前に溜まりに溜まった鬱憤を少しでも晴らしてやろうと思っているだけで。


「酷い!
そんな3年で2カ国なんて……無理に決まっているじゃないですか!」


口を挟んできたのはピンクブロンドの髪をしたやけに背の低い人だった。
誰?
というか、無理って……。
私はその3年の間に5カ国は覚えたのですが?


「フローラ……お前は優しいな。
俺のために怒ってくれるなど……それに比べてルーナ、貴様は!!」


この方がフローラ様でしたか。
あぁ……ルイス様は俗に言う『ロリコン』だったのですね。

そう言えば、このフローラ様……確か子爵令嬢だったと思うのですよ。


「そ、そんな……私は当たり前の事を言っ……」

「当たり前の事、ですか……。
分かりましたわ。
私が行っていたことはルイス様にとっては余分な事だった、そう仰るのですね……」


内心は喜んでいるが、あくまで表面上は悲しんでいるように見せている。
外から見ると悪いのはフローラ様とルイス様となる。

ですが……ルイス様、まだ終わりませんよ?
この茶番、もう少し続けさせていただきます。
観客の皆様もしばしお付き合いを……。


「当然だろう!」

「私が、ルイス様のためを思い頭を下げてきたことも、ルイス様の味方を作ってきたことも……全て、必要なかったと、そう仰るのですね……」

「そんな出鱈目な事を口にして信じられると思っているのか!
どこまでも浅はかな!!」


……全て真実なのですが?
味方を作ってきたのは自分のためでもありますが。
だが、これでもう我慢を強いられる日々は終わる。
そう思うと思わず笑ってしまいそうになるほどに嬉しかった。
だが、それ以上に悲しかった。


「……もはや、私の言葉ではルイス様に届く事はないのですね」

「浅はかなのはお前の方だよ、ルイス。
ルーナ嬢の言った事は全て真実だ。
本来であれば、とうに廃嫡されていても不思議ではないんだよ。
それを、ルーナ嬢がいたからこそ、かろうじて保たれていたに過ぎないんだ」


それは、ルイス様の兄君であるカイン殿下だった。
……婚約破棄の話、潰されませんよね?


「なっ……あ、兄上……何故ここに……」

「何故?
このような騒ぎを起こしておきながら何故とは……」


実はこう見えてルイス様はカイン殿下の事を兄として慕っているし尊敬もしている。
そんな兄に失望されていると知ったらどうなのか。


「カイン殿下、これだけの証人がおりますし、ルイス様には想い人がいるご様子……。
さすがになかったことには出来ませんわ。
こうなった以上、私は領地へと戻ろうと思います。
申し訳ございませんが婚約破棄の件はお任せしてもよろしいでしょうか?」

「……あぁ、ルーナ嬢。
コレの兄として言わせて欲しい。
済まなかった」

「カイン殿下……この国の王となる方がそう簡単に頭を下げては行けませんわ。
私こそ、ルイス様のお力になれず申し訳ありませんでした」


私はそう口にすると一礼し、領地へと戻る。
……はずだった。
そう、そのはずだったのだ。


「ルーナ嬢、私はルイスとの婚約を破棄できて良かったと思っている」

「……何故、ですの」


思わず、立ち止まってしまった。
本来であれば殿下が口にしていいはずのない言葉だったから。


「そうだな……。
建前としては、ルーナ嬢に苦労を掛けすぎていたから、だね」


建前、ということは他にも理由があるのだろう。
そして、それは教えてくれるつもりは無い、と。


「……失礼、致しますわ」


カイン殿下が味方なのか敵なのかがあまりよく分からないまま、私は帰路についた。
勿論、学園にある荷物は全て持ち、退学手続きをしたうえでだ。
馬車に乗り込むと、着いてきてくれた侍女が重々しい空気の中、口を開いた。


「……ルーナ様、婚約破棄、おめでとうございます!!」

「えぇ!!
ついにやりましたわ! 」


先程までの思い空気はどこいった、と言いたくなるほどの明るい空気へと変わった。


「さて……あとはお父様に話すだけですわね……」

「旦那様でしたらすぐにお帰りになられるそうです」


これでも私は両親に溺愛されている自信はある。
お兄様も性格はちょっとアレだが優しい兄だ。


「カイン殿下はともかく、ルイス様は終わりましたわね」

「お嬢様は溺愛されていますからね…。
そのうえ、王家にとっても喉から手が出るほどに欲しい月持ちですのに……」

「あら、王家にはまだバレてはいませんわ。
適正検査の時には既に分かっていましたし、隠蔽がありましたもの。
知っているのは屋敷の者だけですわ」


これは信用出来る者にしか話したことの無い秘密だ。
私が月の属性もちだということは。
それどころか普通に使いこなせる事も言ってはいない。

『聞かれていないから』これ程都合のいい言葉はありませんわね。

月の魔法は滅多に使えるものがいない。
適正はあれど使えはしないという者も少ないのだ。
かれこれ100年は月持ちは出ていない。
ただ、この月魔法は月からの力を借りて使う魔法だ。
そのため、日によって力の大きさが変わってくるというなんとも残念な性質を持っている。
そんな制約はあれど、その力は他の魔法よりもはるかに強いが。


「お嬢様、到着したようですよ」

「えぇ……お父様は……到着していないようですわね」


まだ着いていない事に安堵しつつ、私は荷物を自分の部屋へと1度運ばせた。
そして、それからはのんびりとしながらお父様の帰りを待つ。
それから30分程してからお父様が帰ってきたので出迎えるといきなり抱きしめられた。


「ルーナ!!
済まなかった……。
王命で結んだ婚約とはいえこんな辛い思いをさせるなど……父親として失格だな……」

「お父様……」


この婚約破棄で辛い思いなどしていないとはとても言えない……。
それどころか望んでいたなどといえるはずもない。


「お父様、私はルイス様の事など気にしてはいませんわ」

「そうか……ならば、新しい婚約者を探そう」


新しい婚約者……大抵の方にはもう既に婚約者がいると思うのだが。
というか、婚約者なんてもうこりごりだ。
来る日も来る日もあのバカ王子の尻拭いをさせられる日々。
一応あれでも王族ということで課せられる勉強。
少なくともしばらくは自由を満喫したいと思うのは我儘だろうか。


「父さん、その話は少し待ってあげて」

「ヴォル、何故だ?
ルーナのためには……」

「ルーナは婚約者に裏切られたばっかだし外面では取り繕っていても内面は傷ついているんじゃないか?」


お兄様は私がルイス様を嫌っていた事を知っている数少ない人物の1人だ。
いや、今はかなりの人物が知っているかもしれないが。


「それもそうだな……。
ルーナ、今日は休んでいなさい」

「はい、お父様、お兄様、失礼致しますわ」


私は心の中でお兄様にお礼を告げるとそそくさと退散した。
そして、自室に戻ると溜息をついた。


「……予定が狂いましたわね。
しばらく領地へも戻れそうにはありませんし……。
部屋に篭っていてもお父様に心配をかけてしまいますし。
庭で読書をするくらいしかありませんわね」


つまり、暇。
もうやる事もなくなったのだ。
ルイス様のために言語や国内外の知識、情勢などを調べ、覚える必要も無いのだ。
完全に自由になった。
だが、だからこそやることが無いのだ。

魔法の鍛錬を……と思っても月持ちとバレるわけにはいかないので王都で使うわけにもいかないのだ。


「……しばらくはのんびりと過ごしましょう」


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