婚約破棄?喜んでお受け致します!

紗砂

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今日は、カインと2人で出かける日だ。
カインのアイスブルーの瞳に合わせたような水色のワンピースはお兄様からプレゼントされたもの。
それはまるで、こうなることが分かっていたかのようだった。
アクセサリーは金色の月をモチーフにした首飾りだ。

今日は、カインと2人で出かけるだけじゃない。
お父様やお兄様と相談し、私の秘密を打ち明けると決めていた。
ルイス様と違い、カインならば信用できるという判断だった。


「ルーナ、大丈夫か?」

「だ、大丈夫だと思います……」


このことを打ち明けるのは初めてなので緊張はかなりする。
だが、それでもカインには打ち明けなければならないと、そう思ってしまう。
きっと、カインならば受け入れてくれると信じているから。


「カイン殿下がお見えになられました」


カインの来訪を告げる声に思わずびくりとしたが、私は冷静を装いお兄様と一緒に玄関に向かう。


「ルナ……に、ヴォル?」

「カイン、ルーナの話、ちゃんと聞いてやってくれ。
お前なら大丈夫だとは思うが、ルーナを守ってやってほしい。
それと、俺の大切な妹を頼む」

「あぁ、分かっているよ。
ルナを守るなんて当然だろう」


聞いていて羞恥心がこみ上げてくるのはなぜだろうか?
それよりも、だ。
嬉しいには嬉しいのだが、私よりのカインの身の安全のほうがよほど大切だと思う。


「ルーナ、楽しんで来いよ」

「はい、お兄様」


お兄様に見送られながら私はカインと家を出る。
そして、2人で街を見て回る。


「ぁ……このガラス玉、カインの瞳と同じ色ですね」

「それをいうなら、こっちはルナと同じ色だ」


互いの瞳の色と同じ、緋色とアイスブルーのガラス玉を露店で見つけると、お揃いで購入する。
首飾りに、などともいわれたが断った。
月をモチーフにしたこの首飾りには月の魔法が込められていて持ち主を守ってくれるのだ。
なのでこの首飾りは変えるわけにはいかなかった。
カインは少し悲しげだったが、それも含めて後で話そう。
そして、カインのために作った魔法の込められた月のペンダントを渡そう。
きっと、彼のことを守ってくれるだろうから。


「カイン、2人きりで話したいことがあるのですが……」

「……分かった。
少し離れているけどいい場所があるからそこへ行こうか」

「ありがとうございます」


そうしてカインに案内されたのは、丘の上にある草原だった。
色とりどりの花が咲いていて綺麗で落ち着く場所だ。
そんな中、一息つき近くに誰もいないことを確認すると私は話を切り出した。


「私は、月魔法の使い手です。
私には隠蔽がありましたので、それでずっと隠してきました」

「なっ……。
ルナが月持ち……?
それを知る者は?」

「家族と、信用できる使用人のみです」


月持ちと知るや否や、カインは急に慌てだす。
それは、まるで私が月持ちでは困る、とでもいう様な雰囲気だった。


「ルナ、それは誰にも言ってはだめだ。
月持ちは教会に洗脳される可能性がある」


それは、教会の者が聞けばすぐに非難されるような言葉であった。
教会の人間が洗脳するなど……あってはならないのだから。
教会は人々のよりどころでもあるのだ。
だが、残念なことに私は知っていた。


「教会が月持ちを洗脳し、自分たちの都合のいいように利用していたことでしたらすでに知っています。
そうでなければ、彼女たちが皆、教会に入り、教会の者と婚姻を交わすなどありえませんから」


別に、国にならばばれてもよかったのだ。
私はこの国が好きだったから。
私だって公爵家の人間だ。
だから、公爵家の者ととしてこの国を支えたいと思っていたから。
そのために力を使えと言われるのならば甘んじて受け入れる。
それだけの覚悟があった。

だが、教会が絡むと話が変わってくる。
教会の思い通りになるくらいであれば死ぬほうがマシ。
彼らは民を守ることなど何も考えていないから。
そんな奴らに利用されるくらいならば喜んで毒を啜ろう。
それをよく知る家族だからこそ、こうして今まで隠してきたのだ。
それが、王家に対する反逆となるとしても。

だからこそ、私は家族の事が大切だし、家族に手を出されることを良しとしない。
今ならば月魔法もかなりの練度で扱うことができる。
少なくとも、洗脳されることは無いだろうといえる。
そう思ったからこそ私はカインにこの話をしたのだから。


「ルナは、思っていたよりも聡いようだ」

「カインほどではありませんが……」


私は人より少し頭がいいと自覚している。
だが、カインよりも良くはないとも思っているが。


「ルナ、私に秘密を話してくれてありがとう」


カインは嬉しそうに微笑んだ。
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