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夕食
しおりを挟む1度、屋敷へ戻り着替えを済ませてから私と兄は夕食へと向かった。
「向こうへ行った際、お兄様にと思い買って来たんです」
私が出したのはボールペンと万年筆だ。
ドイツの文房具は品質が高い事で有名だし、何より兄の好んで使っているブランドのものだからだ。
「さ、咲夜が選んでくれたのかい?」
「はい、勿論です。
お兄様へお渡しするものですから」
そう言って微笑むと兄は嬉しそうに私を抱きしめた。
「咲夜!
もう、本当に可愛いなぁ…。
咲夜が僕のために選んでくれたなんて…。
有難く使わせて貰うよ」
兄がようやく離してくれたところで私は留学の話に移った。
「お兄様、半年だけですが……私、ドイツへの留学の話を受けようと思いますの」
兄の手がピタリと止まった。
いや、表情までもが固まっている。
「……分かった。
咲夜の決めた事なら僕は反対しないよ」
兄は優しげな笑みを浮かべると私の頭をポンポンと撫でる。
その兄の意外な行動に私は驚くがそれでも兄が認めてくれた事が嬉しいと感じる。
兄ならばもっと止めたり自分も行くとか言い出しそうだったのに……。
「お兄様……ありがとうございます」
「……さて、着いたようだね。
行こうか」
兄は照れているのを隠すように車から降り私をエスコートする。
そんな兄に私はふふっと笑うと兄のエスコートに従い足を進めるのだった。
案内されたのは奥にある個室の部屋だ。
きっと兄が私に気を使ってくれた結果だろう。
そして何より、ここから見える夜景は綺麗だ。
思わず感嘆する程に。
「咲夜が気に入ってくれたみたいで良かったよ」
「凄く綺麗です……。
お兄様、私のために探していただきありがとうございます」
兄が苦労して探したであろうその姿を思い浮かべて私は少し申し訳なく感じながらもお礼を告げる。
「咲夜のためだからね。
これくらい当然だよ」
兄はこともなさげに……というよりも当然のように答える。
そんな兄の様子に苦笑すると私は夜景を見つつも席につく。
「さて、何か頼もうか」
色々と頼みスタッフが出ていったところで私達は話しはじめた。
「1週間、お兄様と会っていないだけでしたが物凄く久しぶりな気がします」
事実、1週間の間兄の顔を見なかっただけなのにも関わらず、兄の顔を見た瞬間安心感に包まれた。
どうやら私は私でブラコンだったようだ。
そう考えると思わず笑ってしまうがそれは仕方ないだろう。
「あぁ、そうだね。
僕も1週間咲夜を見なかっただけで胸が張り裂けそうだったよ」
大袈裟な事を口にした兄に私は笑うとこの1週間であった事を兄に色々と話した。
……大袈裟に言ってるだけだよね?
兄は優しげな表情を浮かべたまま時々相槌を打ちながら聞いてくれた。
「咲夜が楽しめたようで良かった。
けど、今度は僕も一緒に…そうだね、如月さんや涼太、燈弥も誘って行ってみようか」
「それは…楽しそうです。
また、予定が空いていましたら是非お誘いしたいです」
「そうだね。
じゃあ、冬休み…は無理でも春には行けるように聞いておくよ」
「はい。
では、私も愛音や紫月に聞いてみます」
こうして、新たな計画をたてながらも夕食をとると屋敷へ帰ったのだった。
私は屋敷へ戻ると自室へ向かい清水と真城を呼び出した。
2人共、やはり…と言うべきなのか仕事をしていたようで休んでいる様子は微塵もなかった。
私は溜息をつくと2人を
座らせてから天童さんに4人分のお茶を入れて持って来てもらう。
全員揃ったところで、天童さんも座らせてから紹介を始める。
「こちらは新しく私の専属となった天童さん。
本当はあともう1人いるのだけれど…諸事情によりドイツにいますわ。
2人は昔から私の専属として働いてくれている清水と真城ですわ。
清水はメイド兼ドライバーとして…真城は情報屋として、ですわね」
「天童司と申します」
天童さんは清水と真城に向かって頭を下げる。
「清水梨菜と申します」
「真城洋平だ」
簡易な自己紹介であったがまぁ、真城と清水ならば大丈夫だろう、そう判断することにした。
「3人とも、これからよろしくお願い致しますわ」
「お嬢様のためでしたら私は命すらいといません」
「もう既に、俺の命はお嬢のもんだぜ?」
「咲夜様のためでしたら…」
私はいつも通りの清水と真城に苦笑を漏らす。
そして、天童さんの言葉に同類だったのかと溜息をつきそうになるのをこらえる。
「自分の命を最優先に行動してください…。
特に真城はもっと自分の安全を確保していただきたいですわ……」
「……善処はする」
「私達が咲夜様のために命をかけるのは当然の事です。
ですから、そうお気になさらないでください」
真城と清水の自分を顧みない行動にどれだけ心配したと思っているのか……。
「そもそもの時点で間違っていると思うのですが……」
まぁ、清水と真城は今に始まった事ではないので放っておくとしよう。
……いや、そういえば何故こうも私に心酔してるのだろうか?
……よくわからない。
あの小さい頃のことだろうか?
だが、こんなになる程ではないし……。
うん、考えるのはやめておこう。
「さて、では紹介もしたところで……天童さん、受け取ってください」
私は予め用意していた箱を取り出し天童さんの前に置いた。
これは、私の専属になった証だ。
だから、清水と真城も持っている。
「い、いえ!
受け取れません」
「……それは、私の専属という証ですわ。
受け取っていただかないと困るのですが…」
「そういう事でしたら……受け取らせていただきます」
天童さんは私の顔を伺いながらも箱を受け取ると中身を取り出した。
中身はネクタイピンだ。
このネクタイピンにはなんと、ボイスレコーダーとGPSが付いている。
元々は真城用だったんだけど……清水が余りにも私に心酔していて危険そうだったので渡したのだ。
その際、これは私の専属という証だから……ということで強制的に受け取らせた。
これにより何かあればすぐに分かるようになっているのだが……。
まぁ、この機能のGPSのことは言ってない。
「ボイスレコーダー付きですわ。
仕事の際には必ず付けるようにしてください。
使い方については後程清水と真城から教わってください。
清水、真城、お願い致しますわ」
「承知致しました」
「了解」
「咲夜様、ありがとうございます。
清水さん、真城さん、よろしくお願いします」
天童さんは丁寧に頭を下げる。
すると、今度は私だけでなく清水と真城も苦い顔をした。
「天童さん、いえ…これからは天童と呼ばせていただきますので私の事も清水と呼んでください」
「俺の事は真城でいいぜ」
「はい、分かりました」
「……では私の事は咲夜と」
いい機会だと私は真城と清水にお嬢様呼びをやめてもらうように言おうとしたが途中で……。
「「いけません(却下)」」
2人して蹴った。
……というか……。
「……真城、清水、私もそろそろお嬢様と呼ばれる歳ではないと思うのですが…」
私は何度も言った言葉を口にする。
しかし、2人共気にした様子はない。
つまり、呼び方を改める気はない、と言うことだ。
「お嬢様はお嬢様ですから」
「お嬢、これだけは諦めろや」
どうしても譲る気はないらしい。
仕方ないので私は溜息をついてから妥協案を出した。
「……百歩譲って、様付けをしない真城はいいとしましょう。
ですが、清水、あなたはやめてくださ…」
「お断り致します。
これだけは仕事に支障をきたしますので……」
「…………はぁ、分かりましたわ」
仕事に支障をきたすと言われれば嘘だと思っても譲らない訳にはいかないのだ。
それが分かっていて口にしているのだからずるくはないだろうか?
そう思いながらも今回も私が譲り……というか、負けてお嬢様呼びのままとなり解散したのだった。
解せぬ……。
10
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