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デート
しおりを挟むあれから抱きついたりする事は何度かあり、ようやくお化け屋敷を抜けることが出来た。
思っていたよりもびびっていたなぁ……と思い返しながら天也に思わず抱きついてしまったのも一緒に思い出し赤面してしまった。
「咲夜、どうかしたのか……?」
天也が心配そうに私の顔を覗き込んできてそれに更に私は慌ててしまう。
心臓に悪いので本当にやめて欲しい。
「だ、大丈夫!」
「……どう見ても、大丈夫じゃないだろう。
少し休むか」
天也はそう呟くと周りを探し、席に私を座らせてから優し気な声をかけてきた。
「何か飲み物でも買ってくるから待っていてくれ」
「わ、分かりましたわ……」
正直、私も今は平静が保てないでいるので有難かった。
だが、それと同時に少し寂しくも感じるなど勝手すぎるだろう。
私は、知らず知らずのうちに令嬢としての口調に戻っているのに気付かずにふぅ、と息をつく。
だが、そんな時だった。
「あれあれ、1人?」
「良かったら俺達と遊ばない?」
「っ……お断り致しますわ」
ガラの悪そうな2人組の男に私は体を強ばらせながらも断る。
思わず顔を顰めてしまったのは仕方ないと思う。
だが、その2人組はヘラヘラと笑いながら私に近付いてきた。
「えぇー、いいじゃん?
少しくらい」
「そうそう、3人で遊…」
「お断り致しますわ。
生憎、連れがおりますので」
私は先程よりも強い意思で断るが2人のうちの片方が私の手を掴んだ。
「ぜーったい、俺らと遊んだ方が楽しいから、さ?」
誘拐の時とは別の恐怖を感じた。
いや、恐怖よりも嫌悪感の方が余程強い。
天也や兄が居ないだけでこんなにも心細いのか……。
そんな事を思いながらも振り払おうとするが非力な女の身では振り払うことは出来なかった。
「……離してください。
不愉快で……」
「俺の咲夜に何をしてる」
低い天也の声が響く。
私ですら思わず身震いしてしまう程だった。
怖い、そう感じているはずなのに、『俺の咲夜』と言われた事に喜んでいる自分がいる。
私は天也が私の事を大切に思ってくれているという嬉しさを隠すように無表情になった。
「ちっ……彼氏持ちかよ」
「君、咲夜っていうんだ。
こんな男より、僕達と遊んだ方が楽しいと……」
私はその男の言葉にピクリと眉を動かした。
そして、ニッコリと笑って口にした。
「一体、何度言えば分かりますの?
あなた方のような野蛮で無神経な者と御一緒するつもりは毛頭ありませんわ。
分かりましたらさっさと私の前から消えて下さりませんか?
先程からそう言っているのが聞こえないのですか?」
そう、この時の私はキレていた。
私の大切な人を侮辱したこの目の前にいる男達に。
だからこそ、いつもならば言わないような……いや、言っても遠回しに口にするような事を直球で口にしたのだ。
その私の言葉に固まってしまった男達に私は更に続けた。
「それと、軽々しく私の名を口にしないでくださりませんか?
不愉快ですわ。
先程から何度断ったと思っていますの?
お相手してくださる方がいないからといってそういった事はオススメ致しませんが。
……そうですわね、私の兄がこの場に居ましたらあなた方の命がありませんでしたわ。
命拾いしましたわね。
では、御機嫌よう」
私は一頻り言いたい事を口にすると天也の手をとって別の場所へと移動する。
そして、あの男達から少し離れたところで私は笑みを見せた。
「天也、私を助けてくださり、ありがとうございます。
天也が来てくださって嬉しかったですわ」
「……そうか。
もっと早く気付いてやれなくて悪かったな」
天也はそんな事を気にしていたようで少しだけ表情に影がさしている気がした。
「私は、天也が私のために怒ってくださった事が嬉しいんです。
ですから遅れたなどという事は関係ありませんわ」
「本当、咲夜には敵わないな……」
天也はいつもの明るい表情に戻り愛おしげに私を見つめてくる。
その視線のせいかこそばゆく感じ、私はつい顔を逸らした。
すると、天也は酷く甘い声で私のの名を読んだ。
「咲夜」
「な、何ですの……」
その甘く、蕩けるような声に私はビクッと体を震わせた。
そんな私の様子に天也はククッと笑う。
私は少し、上目遣いに、ムッとした表情で天也を見ると軽く、悪い悪い、と謝ってきた。
この様な天也の姿を見ていると、ゲームの世界である事を忘れ去ってしまいそうになる。
あの、恐怖をただ、愛おしいという思いに塗り替えられそうになる。
今の私ならば何があっても大丈夫だと、そう思えてしまう。
「咲夜、メリーゴーランド、乗らないか?」
「えぇ、喜んで」
私は天也の誘いに笑顔でのると、メリーゴーランドへと向かって歩き出す。
そして、私と天也は馬車を選ぶと隣に座る。
先程よりも少しだけ鼓動が早くなった気がした。
「……咲夜、ドイツへ行ったら毎日電話してもいいか?」
「勿論ですわ。
私も、向こうでは一人ですし……」
当然だ、と言う様に私は肯定すると天也はホッと胸を撫で下ろした。
その後も色々なアトラクションに乗り、日が傾いてきた頃、私達は最後に観覧車に乗り込んだ。
「天也、今日はありがとうございます」
「急にどうしたんだ?」
素直にお礼を受け取っておけばいいものを天也は無粋にも疑問で返してきた。
その事に私は少しだけムッとしながら言葉を返す。
「私がお礼を言う事がそんなにも変ですか?」
「そんな事はない」
慌てた様な天也に私は思わず吹き出してしまう。
天也はというと、そんな私に苦笑をもらしたのだがその目はどこか愛おしげで、優しいものだった。
「天也、どうやら、私は天也のことがその……す、好きな、ようですわ」
ついに私は告白をした。
顔が赤くなっている自信がある。
私の告白に天也は呆然としていたが、やがて嬉しそうに笑った。
「ようやくか。
咲夜、俺と婚約してくれるか?」
「はい、勿論ですわ」
どこかこそばゆいものを感じながら私は甘える様に天也の肩へと寄りかかるようにして頭をのせた。
その刹那、天也の肩がピクリと動いたが次には私の髪を梳いていた。
「サラサラだな……」
「まぁ、清水が物凄く気を使っていますから」
清水は私よりも私の髪に気を使っていると思う。
前に1度、自分で髪を乾かしていた事があったがその後に来た清水に怒られた。
しかも入ってきた時、この世の終わりの様な表情を浮かべていた。
「……あの人は、なぁ…」
「真城と清水は何故あんな風になってしまったのやら……」
私の言葉の天也は視線を逸らしたのだった。
ー天也ー
俺の肩に頭を乗せ、甘えるようにしてくる咲夜に俺は堪らなくなる。
付き合う前では絶対に無かったこの行動に内心、悶えながら咲夜の髪を梳く。
咲夜の髪はよく、手入れされているのが分かる程にサラサラでふんわりと甘い、花のような香りがする。
この時間が堪らなく愛おしく感じる。
特に今日はいつもの倍以上、咲夜が可愛らしく見える。
1つ1つの仕草もそうだが、コロコロと変わる表情も一段と可愛らしい。
「今日は天也と2人で過ごせて良かったですわ」
少しだけ、顔を赤く染め、恥ずかしそうに口にする咲夜に思わず抱きしめたくなった。
だが、そうすると止まらなくなりそうなのでやめておく。
咲夜は受け入れてくれるだろうが後で気まずくなるだろうしな。
「あぁ、俺も咲夜と過ごせて良かった」
自分でも驚く程、甘い声だった。
咲夜以外では絶対にこんな声は出せないと思うと俺は自然と微笑んでいた。
そんな俺に咲夜は可愛らしく目を見開いた後に嬉しそうに目を細めて笑った。
甘く、蕩けるような時間に終わりが刻一刻と迫ってくるのをひしひしと感じる。
「咲夜、手を出してくれ」
「……?」
咲夜は首を傾げたが、俺に向かって手を出した。
そんな咲夜の手の上に俺は懐から出した小さな箱を置いた。
「開けてみてくれ」
「え……分かりましたわ」
少し躊躇いながらも箱を開けた咲夜は目を見開いた。
「咲夜に似合うと思ったんだ」
昨日、咲夜に渡すものを色々と探し、5件目でようやくその首飾りを見つけたのだ。
青い、小さな薔薇の形をしたネックレスだ。
「青い薔薇の花言葉は……」
「神の祝福、奇跡…」
「あぁ。
それに、使われている石はラピスラズリのものを選んだんだ」
それに再び咲夜はハッと気付く。
そのせいか、咲夜は顔を赤くした。
それは、ラピスラズリの石言葉が原因だった。
何故なら、ラピスラズリの石言葉は……。
「……健康、愛、永遠の誓い…ですわね」
「あぁ。
俺は咲夜の事が好きだ。
だからこそ、誓う。
俺は咲夜を永遠に愛し続ける。
それはその証だ」
これは、牽制でもあった。
咲夜に他の男を近付かせないための牽制。
咲夜は俺のものだという証。
咲夜はきっとそれを分かっていた。
ただ、咲夜の婚約者の立場になれない時の保険でもあったが。
「……もう…本当、ズルいですわ…」
だが、その咲夜はいつになく嬉しそうに微笑むと箱を俺に返してきた。
その行動に俺はピシリと固まる。
それは当然だろう。
咲夜が俺を拒否したのかと思ったのだから。
「……天也が付けてください。
それくらいは、いいでしょう?」
「っ……あぁ」
俺は心の底から安堵すると、箱の中からネックレスを取り出し、咲夜に付けた。
咲夜の瞳と合っていてとても似合っていた。
「似合ってる、咲夜」
「ふふっ、ありがとうございます。
天也」
咲夜の笑みに一瞬、ドキッとさせられる。
「天也も、手を出してください」
俺は咲夜に手を差し出すと、咲夜はいつの間に取り出したのかブレスレットを俺の腕に付けた。
「ラリマーとガーネットですわ」
「ガーネットは確か忠実な愛の意味もあったよな……」
「はい。
ラリマーにも愛という石言葉がありますわ」
俺はその石言葉に嬉しくなり、微笑むと、咲夜は少し照れたようにはにかんだのだった。
そう、この後に大変なことが待ち受けていたという事はすっかり忘れて少しの間、この幸せな時間を楽しんだ。
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