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パーティー

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そして、天也と共に兄に渡すプレゼントを買ってから少し経ち、父と母も久しぶりに帰国し、兄の誕生日パーティーとなった。


「お兄様、誕生日、おめでとうございます!
今年は色々な人に手伝ってもらいながら選んだんです」

「ありがとう、咲夜。
大切にするよ」

「はい!」


今度こそは使ってもらえるだろうと笑って返事を返すと兄はしゃがみこんだ。
そんな奇行にも、もう慣れたものだ。


「可愛い、可愛すぎる!!
咲夜が天使!!
分かってたけど僕の天使が可愛い!!」

「お兄様!
恥ずかしいのでやめてください……」


恥ずかしいのは変わらないけどね。
誰だって思うはずだ。
こんなところを見られるのは嫌だ。
コレが兄だと思われたくない、と。
それを何年も続けられるこちらの見にもなって欲しい。


「お兄様もそろそろ婚約者を選ばなければいけませんね……」

「あぁ、それなら問題無いよ。
今日には発表するつもりだからね」

「えっ?
私、何も聞いてませんでした……」


兄からその件について何も聞かされていなかったのは少しショックではあるが、そういった相手が見つかって良かったという思いもある。
そして、ほんの少しだけ寂しさもある。
だが、何より心配なのは相手が見つかったのにも関わらず、この相変わらずのシスコンっぷりでいいのだろうか。


「ごめんよ。
でも、きっと咲夜も喜んでくれるはずだから。
楽しみにしてて」

「……お兄様がそう仰るのでしたら。
では、私は先に行きますね。
お兄様、改めておめでとうございます」

「あぁ、咲夜。
プレゼント、ありがとう」

「はい!」


兄の優しい笑みとその言葉に私も笑顔で返した。

兄の選んだ相手ならば人格は問題ないだろう。
というか、相手の方が心配だ。
あの兄に付きまとわれるのはかなりキツイから。
精神的にも肉体的にも。

まぁ、何となく予想は着くけど。


「咲夜ちゃん」

「お母様」

「まだ時間はあるし、久しぶりに髪を弄りましょうか」

「お願いします、お母様」


母の髪結いの技術はすごい。
清水よりも上手いのだ。


「今日の咲夜ちゃんには、そうね~」


と、弄られていく。
迷っていた割にはすぐに終わったのだが……。
長い髪を上にあげ、触覚を出す。
最後に白い生花をさして完成だ。


「大人っぽくアレンジしてみたのだけど、どうかしら?」

「ありがとうございます、お母様」


私は笑顔で母にお礼を告げると、時間的にもそろそろだと言うことで2人で移動した。

会場入りした私たちだが、すぐに母とは別れ、友人達のもとへ向かった。


「紫月」

「咲夜」

「奏橙はいないんですのね。
紫月と居るのだと思っていたんですが……」

「そういう咲夜こそ、婚約者とは居ないんですのね」


2人で互いの婚約者の話を出すとクスリと笑って別の話を始めた。
内容は今度の文化祭についてだ。


「咲夜のところは何になったんですの?」

「私のところはカフェですわ。
紫月のクラスは何に?」

「こちらはプラネタリウムに。
展示系の方が当日に回れるだろう、という事でそうなりましたの」


何となくではあるが、奏橙がやった気がする。
自分が楽したいというのと紫月と回りたいという2つの理由から。
もう1つ、そこに付け加えるとすれば、面倒事を避けるため、となるだろう。


「咲夜、紫月、何の話をしていたんだ?」

「やぁ、2人で何を?」


私と紫月が合流し、話している間天也と奏橙は2人でいたらしい。
相変わらず仲がいい2人だ。
少しだけ羨ましいと感じてしまうが。


「咲夜嬢」

「あら、黒羽様……?」


厳格な雰囲気を醸し出す男の人は凛と似ているような気がした。
どこが、とは言えないが。
やはり2人は親子なのだと感じる。


「咲夜嬢、娘がご迷惑をお掛けしてしまい申し訳ありませんでした」

「凛の事でしたら私は気にしておりませんわ。
以前はどうであれ、今は大切な友人ですもの」


これは偽らざる私の本心だ。
天也がどうであれ、私のこの思いだけは変わらない。
色々やられはしたものの、私も一歩間違えば凛と同じようになっていただろうから。


「咲夜嬢、ありがとうございます。
娘の事をお願い致します」

「私の方こそ、よろしくお願い致しますわ」


最後にはうっすらと笑みを浮かべると、凛の父親らしい表情を見せ、離れていった。


「あら、黒羽様がいた、ということは凛もいるはずですわよね?」


まぁ、いずれ来るだろう。
しばらくして来なければ探しに行くことにしよう。


4人で話していると、バッと照明が消えた。
と、いうことは……だ。
ついに兄の誕生日パーティーが始まる。
そして、当主が指名される。
どうせ決まりきった事ではあるのだが。


父と兄がそれぞれ挨拶をし、ケーキが運ばれてくる。

ちなみにこのケーキ、司が作ったもので中にはClameで売り出されているお茶が混ぜこまれている。
あ、勿論飲食スペースには私の好物であるマカロンもあるよ?
海野家主催のパーティーだから当然といえば当然だけど。


「さて、ではお待ちかね、海野家当主の指名を行う」


その父の言葉で会場はシンと静まり返る。


「当主は、悠人。
ただし、咲夜にはホテル運営の権限を与える」

「お兄様、おめでとうございます!
えっ?」

「……へぇ」


流石の父の言葉に、招待客は勿論、私や兄までもが唖然とする。

……何故、私にホテル運営の権限が与えられるのか。
イマイチよく分からない。
いや、全くもって理解できない。
おめでとうございます、なんて他人事ではなかった。
何故か巻き込まれていた。
うん、おかしい。
絶対におかしい。
だが、私が言えることは1つだった。


「ご期待に添えられるよう、精進します」

「……謹んで、お受け致します」


すんなりと言葉が出てきた兄とは異なり、私は少し返事が遅れてしまった。
それだけ予想外のことだったのだ。
だって、誰がこんなこと予想していただろうか?


「父上、少々お時間を頂いてもよろしいでしょうか?」

「好きにしなさい」


ここに来て、兄が動きだす。
きっと婚約者についての事だろう。

兄は、ゆったりと相手のもとへ向かうと、その人の前に跪いた。
その光景は、まるで乙女ゲームの1シーンのようだ。

……まぁ、兄は乙女ゲームの攻略対象者なんだけどさ。

だが、私としては予想はしていたとはいえ、兄の選んだ相手の方が驚きだった。
それ以上に嬉しいとも思うが。


「如月さん、僕の婚約者になって頂けませんか?
僕に、ずっとあなたの横で守らせてください」


そう口にする兄の表情は微笑んでいた。
前々から計画していた事がわかる程に。
その微笑みは、ずっと傍にいた私だからこそ分かる。
イタズラが成功した時や、兄が誤魔化そうとする時に見せるものと同じだった。

言葉やタイミングはいいのに……。
脅迫じみていて怖い。

だが、そんな兄に対し皐月先輩さ少し呆れたような表情ではいたものの承諾した。


「やった……!」


兄より先に小さな声ではあったもののつい喜びのあまりに声をあげた。


「皐月先輩がお義姉様……。
初めて……。
いえ、久しぶりにお兄様に感謝致しますわ……」

「おい」


つい口に出してしまっていたらしい。
……残念度が高いが色々とスペックは高い兄だ。
皐月先輩には頑張って欲しい。

婚約決定と言うことで更にお祝いムードが高まると、私は皐月先輩のもとへ挨拶に向かった。


「皐月先輩、ありがとうございます」

「咲夜さん……」


おめでとうございます、と言うはずだったのに『ありがとうございます』になってしまった。
ついうっかり口が滑ってしまっただけであり、他意はない。


「皐月お義姉様、とお呼びした方がよろしいでしょうか?」

「咲夜さんが義妹ですか。
こんな可愛い妹が出来るなんて、嬉しいですね」


やはり皐月先輩は可愛い。
可愛いのに綺麗とか……ズルい。
私に少しくらい分けて欲しい。


まぁ、皐月先輩が兄の婚約者になってくれて本当に良かった。

そして、これを機に兄の妹至上主義シスコンという病気が良くなる事を祈っていようと思う。
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