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学園
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しおりを挟む授業とティードの罰が終了し、俺達パーティーは街へと来ていた。
「あー、カリンとリナは冒険者登録がまだだったよな?」
「えぇ」
「はい」
「んじゃ、まぁ先にギルドへ行っとくか。冒険者登録は必須みたいだからな」
一応、皆にも確認をとると文句は無いようだったのでそのままギルドへと向かう事にした。
だが、このとき俺は大切なことを忘れていた。
ギルドに行くと、俺達は早速捕まった。
ギルドマスターであるリヴィアに。
「よく来たな、カイ、リューク」
「うげっ……」
「お、おい! リューク、それは……」
悪手だ。俺がそういうまでもなく、リヴィアは冷笑を浮かべた。
そして、俺とリュークの肩に手を置くと段々と力を込めていく。
やばい、かなり危険だ。
リヴィアから早く逃げなければという思いはあるのだが、肩に置かれている手の力が強すぎて逃げられなかった。
背中にいやな汗がだらだらと流れる。
「ほぅ? そんなに手合わせしたかったのか。
いいだろういいだろう。お前のお望み通り久しぶりにやろうじゃないか」
「か、カイ……」
「今のはリュークが悪い」
リュークが助けを求めるような目を向けてくるが俺にはどうもできない。
「リヴィア、俺は二人のギルド登録の方に行ってくるからリュークを頼む」
「ん? そっちは安心していい。三人でやった後に登録をするさ」
どうやら俺の逃げ道も無くなったらしかった。
リュークを見ると、安心したように胸をホッと撫で下ろしていた。
「カイ! 今日こそは勝とうぜ!」
「……あぁ、そうだな。俺もコイツがあるしな」
こうなれば開き直るしかない。
そう言って服の下に隠れたアイギスを指す。
リュークもそれに気付きニヤリと笑みを浮かべる。
「カリン、リナ、悪いが……」
「えぇ、いいわよ。どうせ、そんな急いでいるものでも無いしね」
「私もいいですよ。お二人の戦いも見てみたいですし……」
「ファイトっすよ! 自分たちは観客席から応援してるっすから!」
ということで俺とリュークは手合わせの準備を始め、そのうちに三人は上の観客席へと上がっていく。
準備が出来たところで意を決して訓練場の中へと入るといつもと同じように他の冒険者達が見ていた。
俺達がやるといつもこうなるのだ。
「合図は、そうだな。ラギア、お前がやれ」
「はぁ……。分かりましたよ。準備はいいですか?
……いいですね? はぁ。では、始め!」
その合図で俺はアイギスに魔力を込めていく。
「そっちが来ないならこちらから行かせて貰おう!」
リヴィアは相変わらずの速さで俺達に襲いかかってくる。
だが、その直前で俺はアイギスを発動させた。
「アイギス!」
アイギスは俺の声に応えるように大きくなっていく。
その大きさは俺とリュークを隠しきれる程に。
だが、それに比例して俺の魔力がどんどん吸い取られていくのを感じる。
「リューク!」
「おう!」
リュークは前に踊り出て、リヴィアに剣戟を浴びせる。
だが、それでも流石は元Sランク冒険者の現ギルドマスター。
まだまだ余裕があるようで、口元は弧を描いている。
俺は一度アイギスの大きさを戻すと、リュークがリヴィアの気を引いている間に俺は魔法陣を描いていく。
描いている魔法陣は重複魔法と呼ばれる魔法で、幾つかの魔法陣を積み重ねる事で発動する陣だ。
今回使用する陣は、炎蛇と風嵐、そして俺が無の魔方陣を弄って作り出した『波』の魔法陣だ。
波の魔法は俺が他の魔法陣を描いた時、間違えて出来たものだ。
この波を組み合わせる事で魔力酔いを引き起こす事が出来る。
まあ、効果はそれだけではないのだが。
ようやく魔法陣を描き終わり、俺はリュークに合図を出した。
「リューク、下がれ!」
「やっとか!」
リュークは既に限界が近付いていたようで素早く下がった。
俺はそれを確認してから魔法陣を発動させるトリガーを口にした。
「発動しろ!」
炎蛇は上級の魔法だったせいか、それともアイギスを使ったせいか魔力切れを起こしそうな程に吸いとられる。
「っ……!?」
「カイ、こんな魔法まで覚えてたのかよ……」
リヴィアの切羽詰まった声とリュークの声が聞こえた。
そんな声のおかげか俺は魔法の維持に集中出来る。
「……ほぅ? 私がこんな小手先のもので負けると思われるなど、心外だな」
そんな声と共に、俺は魔力切れを起こし気を失った。
目が覚めるとギルドの医療所にいた。どうやらあの後ここに運ばれたらしい。
リュークはあの後、すぐに剣でやられたらしい。
……リヴィアは一体どんな化物だ、という話になるのだが。
身体の節々が痛むがそれもリヴィアと戦った弊害だ。
「やっぱSランクは強ぇか……」
俺とリュークは一ヶ月の間にBまでは上げたもののAランクにはまだ届かない。
その上となるSランクには全然だ。
AランクとSランクの間には大きな力の差があるのだから当然と言えば当然だろうが。
まぁ、パーティーだけならばAランクには到達したのだが……。
「カイ、やっぱリヴィアには遠いよな」
「あぁ。だが、学園卒業までに追いつけるさ。俺とリュークなら、な」
そうだよな、とリュークは無理したような笑みを浮かべた。
俺はそれに顔を顰めると溜息をつく。
「……リューク、あまり気負いすぎんなよ。
リヴィアはSランクだ。俺等とは違う。
一ヶ月前に本格的に始めた俺等とは、な。
だが、ここまでやれているんだぜ?」
「……経験の差が違うってことか」
「そういう事だ」
「サンキュー、カイ。それが分かったなら後は簡単な話、だよな?」
「おう!」
いつものリュークに戻ったようで俺は安心しつつ、自分の非力さを痛感していた。
もっと俺が魔力配分に気を付けていれば、もっと魔法を覚えていれば。
もっと魔力を増やす訓練をしていたら……。どうしても、そんな後悔が拭えない。
「なぁ、カイ。今度から俺と朝に手合わせしてくれないか?」
「いきなりどうしたんだ?」
「いや、手っ取り早く強くなるにはってのと、さっきの経験が足りないってやつ。
それを思ったらカイとやるのがいいんじゃねぇかって思ったんだよ」
あぁ、確かに俺が盾職としてリュークの攻撃を受けながら攻撃も出来るようにすれば…。
それに、リュークとしてもいい練習になるのか。
俺がアイギスを使いこなせるようになればもっと俺は、俺たちは強くなれる。
「おう、いいぜ。けど、絶対に起きろよ?」
「……善処する」
絶対起きない気がする。
そんな事を思いながら俺は他の3人の事を聞いたのだがどうやら登録をしているらしい。
って事はあれからそんなに経っていないって事だな。
「リューク、そろそろ行こうぜ」
「あぁ、そうだな」
俺とリュークはリヴィアの部屋へ行き、登録が終わったらしい二人とティードにパーティー登録をする前に話をした。
「パーティーなんだが……。
俺とリュークが作ったところに入るか、新しく作り直すかどっちがいい?」
「2人が作ったパーティーに入ればいいじゃない。
一々作り直すのも面倒でしょうし。
リナもそれでいいわよね?」
「はい。
それでいいと思いますよ」
二人が良いらしいのでそのままパーティー登録をすると自分のカードに記載されたパーティー名を見て声をあげた。
「……はぁぁぁぁ!? ちょ、ちょっと待ちなさい!
つ、月の旅人って言ったら一ヶ月前から頭角を現したっていう最近有名な二人組のパーティーじゃない!
しかもAランクパーティーだったはずよ!?」
「どの月の旅人かは知らないが……。まぁ、一ヶ月前って言ったら俺らか?」
「そうじゃねぇか?」
因みにこの月の旅人ってのはリヴィアが付けたんだけどな。
「何でそんな平然としてるんすか!?」
「いや、だって俺とカイだぜ? 職業考えてみろよ」
「……そうだったっすね」
「今更ですけど凄いパーティーに入っちゃった気がしますね」
リナはフフッと笑い、ティードは諦めたように肩を落とした。
まぁ、本当に今更だからな。
そして、この日結成された勇者のパーティーは、月の旅人という名と共に表舞台へと立つことになるのだった。
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