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魔族襲来
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しおりを挟む「うぉぉぉぉぉー!!」
「はははははは!!」
「ふざけるなぁぁぁぁぁぁ!!
この……バカどもがぁぁぁぁぁぁぁぁぁぁ!!」
俺達はそれから逃げていた。
それとは勿論……。
グギャァァァァァ
俺達の斜め上の空を飛んでいる、怒り狂ったように目を血走らせたワイバーンのことである。
そう、俺たちはどうやらワイバーンを怒らせたらしかった。
「って…あいつブレス吐こうとしてるじゃねぇかよ!?」
「ははは!
面白いな!」
「「面白くねぇぇぇぇぇぇぇぇぇ(ない)!!」」
俺はブレーキをかけると今まで手に握りしめていたアイギスを空に投げる。
「展開しろ、アイギス!」
俺はアイギスを広げると2人を守るように前へと出た。
それが守護者たる俺の役割だからな。
……今度は守護者としての役割を全うしてやるさ。
ワイバーンのブレスによる風に吹き飛ばされそうになりながらも必死に耐え続ける。
だが、以前よりも楽に防げるような気がする。
リヴィアとの特訓のおかげか……それともオークとの戦いのおかげか……。
「カイ、後10秒だ」
「っ……はっ!
俺は守護者だぜ…!
この程度、10分だって耐えてやるよ」
俺はレクトに伝えるように……だが、自分に大丈夫だと言い聞かせるように口にした。
「術式移行…展開、発動」
レクトからは青い静かな光が発せられる。
光はレクトを取り巻くように渦となり、ワイバーンの方へと向かっていく。
それに合わせて攻撃も軽くなり、簡単にいなせるようになった。
「サンキュー、レクト。
結構楽になった」
「いや、もっと早く展開出来た筈なんだ。
済まない」
気負い過ぎているようにさえ感じるその言葉とレクトの表情に俺は何故か、昔の…前世の俺を思い出していた。
ガキ共を守らないと、そんな意思で自分の生活さえ削っていた頃の自分を。
そんなことして俺が倒れたりすればその方がガキ共の生活が苦しくなるってのに……。
そんな事さえ考えられないくらいに気負っていた俺と今のレクトを思わず重ねてしまう。
「……ったく、気負うなっての。
レクトの魔法で俺が助けられたのは確かなんだしよ。
終わり良ければ全て良しって言うしな!」
「……ふっ、まだ終わっていないがな」
「ん?
いや、終わってるぞ?」
何故ならここにいるのは俺とレクトだけ。
リュークは今、ワイバーンの更に上にいるのだから。
「……何?」
レクトが怪訝そうに聞き返した瞬間だった。
「っしゃぁぁぁぁぁ!!」
そんな奇声を上げながら上からカイが剣を下にして落ちてくる。
剣をワイバーンに突き刺して自分だけ落ちてくるリュークを俺は受け止めるとレクトに笑顔で向き直る。
「な?」
「……おいまて、おかしい。
何かおかしいぞ?
何故、リュークが上から落ちてくるんだ。
しかもいつの間に……」
「カイがアイギスを広げたあたりからだな」
「ほとんど最初じゃないか!?」
ドォォォォンと墜落したワイバーンを視界の端に捉えながら、リュークとレクトのやり取りを見守っている事に決めた俺は近くにあった、先程のブレスによる被害で切り株となった場所に腰を下ろした。
「って…そういや、ワイバーンどこいった?」
「……すっかり忘れていたな」
ようやく2人は正気に戻ったようでワイバーンを探し始めた。
俺はそんな2人に溜息をつくと立ち上がり声をかけた。
「リューク、レクト、こっちだ」
「お、カイ!
分かるのか?」
「当たり前だ!
お前らが見てなかっただけだろうが!
ってか、結構な音しただろうが!」
俺は思わずムキになってしまったがリュークはさして気にした様子もなく、無邪気に笑っていた。
そんなリュークに俺は何も言えなくなってしまい、苦笑するしかなかった。
「……すまない」
「だーかーらー!
お前は気にしすぎだって言ってんだろうが!
リュークを見てみろよ」
「ん?
どうかした?」
気にしすぎているレクトに俺はリュークを指さした。
当の本人、リュークはあまり…というか、全く気にしてないようで目をパチパチとしている。
相変わらず頭を抱えたくなるような明るさというか、馬鹿さというか……。
だがまぁ、それがリュークらしいのだが。
「ふっ……確かに私が気にしすぎているのかもしれないな」
「かもしれない、じゃなくてそうなんだよ」
「んー…何か分かんねぇけどまぁ、とにかく気楽に行こうぜ!」
何も考えずに笑っているようなリュークに俺とレクトは思わず叫ぶ。
「「お前は気楽すぎなんだ!!」」
その、重なった声に俺もレクトも…リュークすらも笑いを零した。
そして、ワイバーンの墜落しただろう場所へつくと、そこにはワイバーンの巨体が横たわっていた。
かなりきつい鉄の臭いがワイバーンを仕留めた事を表していた。
「かなりでかいな……」
「魔石と討伐部位だけとって後は食うか?」
「そうだな」
「食べるのか!?
これを……!?
ここでか!?」
俺の言葉にリュークは頷いたもののレクトはやはり貴族だからだろうか、拒否しているように見えた。
その拒否をワイバーンを食べる事への拒否ではなく、俺の料理に対する拒否と判断したようでリュークは俺の料理をフォローしていた。
「大丈夫だって!
カイの料理はめっちゃ美味いんだ!
絶対気に入ると思うぜ!」
「違う、そういう事じゃない!
ワイバーンの肉を食べるのかと聞いているんだ!」
そのレクトの声に俺とリュークはそろって同じ様な事を口にした。
「当たり前だろ?」
「なに当然の事言ってるんだ?」
俺等は当然の様に口にしたのだが何故かレクトは頭を抱えた。
「ま、安心しろよ。
一通りは作っちまうからよ」
俺は鍋やら鉄板やらを取り出すと火にかけ、ワイバーンを捌き始めた。
「何で捌けるんだ!?
というか、なぜそんなものを持ち歩いている!?」
とりあえず、レクトはスルーしておくとして……。
ワイバーンなどの竜種は色々と捌くのが大変なのだが俺は微塵の迷いも見せずに捌いていく。
そして、1時間後。
そこにはワイバーンのスープとハーブ焼き、パンが並んでいた。
「よし、これだけありゃ大丈夫だろ。
リューク、レクト、食うぞ」
「おう!」
「…あぁ」
それでもやはりレクトは躊躇っていたのだが俺とリュークがかぶりつく様子を見て意を決したように口にした。
そして、驚いたように目を見開き、ただ一言……。
「……美味いな」
と笑みを浮かべた。
美味いと言われるとやはり嬉しいもので、俺も自然と笑みを浮かべていた。
リュークは笑顔で「だろ?」と誇らしげに笑っている。
そして、ワイバーン討伐の反省をしながらも俺達3人は食事をしていたのだった。
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