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魔族襲来
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しおりを挟む飯を食って腹が膨らむとリュークに片付けを手伝ってもらってからレクトの魔法でギルドへ急いだ。
ちなみに、この時急いだ理由は特にない。
「あー……疲れたー……」
ギルドの受付の列へ並んでいる最中、思わず俺はそう呟いた。
流石にワイバーンに追いかけられたのは初めてであったし、何よりワイバーンのブレスを受け止めた後、走ってギルドまで戻ってきたという時点で既にいつもよりも動いているのだからそうつぶやくのも仕方ないと言えるだろう。
「そうか?
俺は別にそんな感じないけどな……」
さすがはリュークと言うべきだろうか。
リュークの体力はやはりおかしかった。
まぁ、それもリュークだからで済ませられるのだが。
親友だしな。
流石し慣れた。
「……私もかなり疲れているんだが……。
何故そうも体力が有り余っているんだ……」
「レクト、気にするなよ。
リュークがおかしいだけだ。
リュークだからな」
俺は至って真面目に口にした。
レクトはそれでいいのか、と思っているようだが……ムッとしたようにリュークが口を挟む。
「おい、カイどういう意味だよ」
「そのままの意味だっての」
だが、ムッとしたように……とは言ってもどこか冗談めいた口調だった。
そんなリュークに俺もつられてつい笑みを零した。
「……ずっと思っていたが……仲、いいんだな」
「まぁな。
小さい頃からずっと一緒だったしな」
「おう。
村では2人で森に入ったり、いろいろやってたからな」
それに、俺とリュークの親が仲良かったってのもあるな。
まぁ、村に同年代の奴がリュークしかいなかったってのもあるが。
小さい村だったしな。
「……羨ましいな」
「そうか?」
「そういうもんか?」
レクトは心からそう思っているようだった。
まぁ、確かに貴族よりは幾分気楽に過ごせるのかもしれないな。
「……あぁ。
私の家……だけではないな。
貴族はほとんどの家がそうだが……特に私の家、公爵家のような位の高い家となると、な…。
能力が全て。
能力だけで決められ、能力がなければすぐに『使えない者』としての烙印を押される事になり簡単に切り捨てられるからな」
「うわっ……それは嫌だな…」
「俺、貴族って贅沢してるってイメージしか無かった……」
地味に……というか、サラッと酷い事を口にしたリュークにおい、と小さく注意しようとするが先にレクトが苦笑し、俺を止めたことにより何も言えなくなってしまった。
流石にそろそろリュークの言葉をどうにかしないといけないと思うんだよな。
俺はまだともかく、リュークの職業は勇者だ。
今は良くても、後々バレれば……もしくは魔王の盗伐に向かう時が来れば必ずと言っていいほど貴族や王族と言った身分を持つ奴らと関わらなければいけなくなってくるのだ。
なのにこんな言葉遣いをしていればなめられる原因にもなってくるし下手をすれば余計な悪感情を埋め込むこととなるだろう。
そうならないためにも今から直させたほうがいいとは思うのだが……俺はどうにもリュークに甘いしな。
教会で教えてくれればよかったのだが……あいにくそんな時間はなかったからな。
なかなかタイミングもないし……。
どうしたものか。
「…まぁ、そう言われても仕方ないからな。
私の知り合いにもそういった者がいるからな……。
否定も出来ないしな」
「うわー……俺、貴族じゃなくて良かったぁ……」
「いや、リュークなら将来、貴族の集まる席に出ないと行けねぇ時とか来るんじゃねぇか?」
「うん?
それはどういう……」
俺はレクトの反応に自らの失敗を悟った。
やべっ……と表情が固まるがリュークは明るく笑っているだけだった。
危機感の無いリュークのその表情に俺までもお気楽な考えに持っていかれそうになる。
だが、心のどこかで今がチャンスなのではないかとも思っているのだ。
リュークに言葉遣いを覚えさせるためのチャンスだと……。
多分、リュークは俺が言えばやろうとするだろう。
だからこそ、俺はきちんと言わなければならないのだ。
だがやはり……俺は言い出せなかった。
そして、あわよくば、レクトが騙されてくれますように、などと思いつつ誤魔化すための言葉を選び始めた。
「…まぁ、いい。
今は、な。
いつか話せる時が来るまで待つさ」
「……悪ぃ」
「俺はレクトならいいぞ。
だってもう俺等はダチだろ?
ダチには隠したくねぇしな!」
「…だったら、俺も話すさ。
なんたって『ダチ』なんだしな」
リュークのお気楽思考に俺も毒されたらしい。
いつもならば止めるはずの場面であったが俺は止める事なく、逆に賛同した。
少し前までのレクトであればこうはならなかっただろうが今のレクトであれば信用出来る。
自然とそう思う事が出来た。
まぁ、もし何かあった時のために契約でも交わしておけば問題無いだろうしな。
どちらの場合にせよリュークだけにリスクを抱えさせられない。
とちうのが建前であり、本音はレクトに…大事なダチに隠し事をするのは躊躇いがあっただけであった。
「あぁ、だが……順番のようだからな。
あとにするか」
「おう!」
「そうだな」
いつの間にか来ていた俺達の順番に早いな、と思いつつ、討伐成功の報告と討伐部位、魔石を取り出した。
「えっ!?
も、もうですか!?
今日受けたばかりですよ!?」
「まぁ、走ってきたからな!」
「討伐にはあまり時間もかからなかったしな」
「その代わりにワイバーンから逃げるなどという貴重な体験が出来たがな」
レクトの毒が篭った言葉に俺は遠い目をしてリュークは楽しい事を思い出したかのように笑った。
心から楽しんでいる笑みだ。
その時の俺とレクトの心は1つであった。
すなわち……。
こいつの頭はどうかしているのではないか
と。
本人が聞けば不本意だとくってかかっただろうが幸いと言うべきか寸前のところで言葉を飲み込むことが出来た。
「…はぁ……まぁ、リュークさんとカイさんですし……。
えっと……レクトールさん、ギルドカードを出してください」
「あぁ」
俺達の担当である受付嬢、タニアさんはレクトからギルドカードを受け取ると更新を行った。
これは多分、ギルドランクが上がったのだろう。
「…はい、ありがとうございます。
レクトールさんはCランクへ昇格です!
おめでとうございます!!」
タニアさんは満面の笑みでレクトへとギルドカードを返す。
それにしても…いきなりCへと上がるとは思っていなかったこともあり俺は驚いていた。
だが、よくよく考えてみれば俺とリュークも1ヶ月でAまで上がったからな。
そこまでおかしくはない……そう思ってしまう。
「……何故、ランクアップを…?」
「はい、レクトールさんはカイさんとリュークさんとワイバーン討伐を成功させましたから」
まぁ、本来Aランクの内容だしな。
俺はそう納得したがレクトはそうは思わないらしい。
「あ!
そうでした!
カイさん、リュークさん、マスターがお呼びです!」
「……逃げていいか?」
「駄目です!
逃げられたらわたしがマスターに怒られるじゃないですか……!!」
答えるまでの間が異様に短かったのは気にしないでおこう。
ってか、やっぱリヴィアは怖がられてんだな。
「ま、行こうぜ!
あ、レクトも連れてっていいか?」
「私からは何とも……。
マスターと直接交渉してください」
「分かった。
んじゃ、カイ、レクト行くぞ!」
そして俺はリュークに引きずられながらマスターであるリヴィアのもとへと向かった。
「リヴィア、入るぞー」
リュークはいつも通りノックせずに入ろうとする。
そんなリュークに俺はリュークからレクトを連れて離れた。
「ノックをしろと何度言えばわかる!!」
そのリヴィアの声と共にリュークが吹っ飛んだ。
……蹴られたのだ。
まぁ、いつものことなので気にしないが。
そろそろノックをすることくらい覚えればいいものを……。
その光景を初めて見るだろうレクトは口を開けてリュークが飛んでいった方向を見ていた。
俺は空きっぱなしとなった扉をコンコンと叩きリヴィアに入っていいかという確認をとる。
「いいぞ」
その短い声を聞き、部屋に入るとやはり、書類でぐちゃぐちゃになっていた。
俺は呆れ半分にそこら辺にある書類を拾い、机の上に積み重ねていく。
「適当に座っていろ」
「まず、座るとこが書類に埋もれてねぇんだよ!!
少しは片付けろよ!」
俺はリヴィアに怒鳴ると今度はソファにある書類を片付けレクトと共に座って待つ事にした。
しばらくするとリュークが入ってくる。
やはりリュークは頑丈であり、それほどリヴィアの攻撃にダメージは受けていないようだった。
まぁ、俺も多分大丈夫だろうが。
……無傷でいけるな。
異常なくらい耐久高いし。
「リヴィア、揃ったぞー」
「ん?
あぁ、ようやくか…。
で、そこにいるのはヘルナス家の長男か?」
「そうなのか?」
「あぁ。
というか、リューク……。
少しくらいは覚えておけ……」
レクトは疲れたような口調だった。
だが、1つ言いたい。
リュークの記憶力を舐めるな!
と。
リュークは覚えないのではない、覚えられないのだ。
いや、正確には1日……3日たてば忘れ去るのだ。
あれだな、少し記憶力が高い鶏レベルだ。
「リュークだから仕方ないだろう」
「リュークだからな」
俺とリヴィアは口を揃えてリュークだから、と口にするとレクトは諦めたように溜息を吐いた。
いや、だってリュークだし。
俺としては本当にリュークが勇者で大丈夫なのかと心配になるほどだからな。
俺がいなくなったとき、多分リュークは起きられないだろうなという謎の自信が俺にはあった。
「さて、ヘルナス長男」
「レクトールです」
「レクトール、この話を聞くのならお前にも危険が及ぶぞ?」
「問題ないな」
ってか、危険な話なのかよ…。
俺は嫌な予感がするため、逃げれねぇかな……などと考えていると本題に入ってしまった。
「なら、本題に入るか。
明後日、魔族の幹部がここを襲ってくる」
「…へぇ?」
「…ふーん」
「なっ……!?
って……何故お前達はそう落ち着いている!?」
俺とリュークは至って冷静にその事実を受け止めていた。
対してレクトは怯えの色が浮かんでいたものの、俺達の様子に少しずつ落ち着きを取り戻しているようであった。
俺たちとしてはすでに魔族との戦いに対して覚悟はしていたからな。
……だが、あまりにも早い。
リュークのことは王宮にも知られていないはず。
知っているのは数少ない者達だけなのだ。
このギルドですらリュークと俺のことを知っているのはリヴィアただ1人なのだ。
それをなぜすでに魔族は知っているのか。
それとも、知らずに攻めてこようとしているのか。
……いや、それはないな。
魔族どもの動きはここ20年ほど何もと言っていいほどにない。
それを今更動くなど……それもこのタイミングで。
やはりリュークのことを知っていると考えていいだろう。
と、なると裏切者がいる可能性も視野に入れて動いたほうがよさそうだな。
「んー、それは後で話す。
さっきも言っただろ?」
「……分かった」
レクトが大人しくなったところでリヴィアは先程の話の続きを話し始めた。
「目的は、魔王軍の人員の確保と勇者を亡き者とすること」
その最後の言葉に俺は固まった。
当たり前だろう。
知っているのは教会とリヴィア、学園とパーティーの奴らだけ。
……いや、村の奴もそうだな。
だがこれで狙いはわかった。
いや、それよりも…。
リュークを守らなければならない。
何があろうとも。
リュークだけは必ず守ると誓ったのだから。
俺は守護神に言われた事を思い出す。
大切な者のために命を差し出せるかという問いを。
「……リヴィア、どこからだ」
俺は、殺気を含めた声でリヴィアに尋ねた。
その声にレクトもリヴィアでさえも震えた。
だが、リュークだけはただ、目を細め俺を見つめていた。
俺はそいつを許すつもりはない。
例え、リュークが許したとしても。
俺の親友を傷つけることを俺は許さない。
「カイ、大丈夫だ。
取り敢えず、その殺気をおさめろよ」
「……リューク」
「ほら、さっさとおさめねぇと話も出来ないだろ?」
「……分かった」
俺はリュークの言葉に殺気を収めると話を再開させた。
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