コチラ、たましい案内所!

入江弥彦

文字の大きさ
19 / 31

真夜中にだってお仕事です(7)

しおりを挟む
「ここは暗いから一人じゃ怖かっただろ。明るくて人の多いところに送ってやるからな。この姉ちゃんが」

「わ、私? あ、そっか、私か」

「ボケてんじゃねえよ」

「いきなりだったからだもん」


 私たちのやり取りを黙って聞いていたけーすけくんが小さく噴き出した。さっきまでの大泣きと叫び声はどこへやら、コロコロと可愛く笑う。鈴の音みたいな笑い声に私とクロノさんが顔を見合わせると、けーすけくんが口を開いた。


「仲良しなんだね!」

「仲良し? 私とクロノさんが?」

「俺とヨミが?」

「仲良しかなあ? 私の名前はこよみなのに、ヨミって呼んでくるんだよ……」


 私の言葉を聞いて、けーすけくんは自分のことを指さした。


「僕はね、けーちゃんなんだよ」


 けーちゃんって、そう呼ばれてたってことかな。


「ママがね、仲良ししたい人にはニックネームをつけるって言ってたの。僕はけーちゃん。二人も仲良ししたいんだね」

「……いいママだったんだね」

「うんっ!」


 けーすけくんの体がぽわっと淡い水色の光に包まれた。瞬く間に光の玉になったけーすけくんが、大人しくベッドのふちで私の案内をまっている。ランドセルが勝手に開いて、クロノさんが丁寧にけーすけくんを両手ですくい上げた。


「あっちに行ったら、歩けるようになるからな。またな」


 私の後ろに回ったクロノさんが、けーすけくんの魂をランドセルの中に入れた。水色の光が診察室の中を照らして、すぐに静かになる。


「うん、案内完了!」


 私の声に呼応するように、ぱちんとランドセルの鍵がしまった。


「けーすけくん、安心したかな?」

「珍しく本当に迷子なだけだったな……怖かっただろうに」

「そうだね」


 少しの沈黙の後、クロノさんの顔を見上げると、少し気まずそうに視線を逸らされた。


「クロノさんのこと、クロちゃんって呼ぼうか?」

「怒るぞ、お前」

「クロノさんは私と仲良くしたかったんだね!」

「調子に乗んな」


 クロノさんが私の髪の毛をぐちゃぐちゃにかき回す。ひどい、ひどいです。髪が乱れる。


「たいして整えてもないだろ」

「女の子の髪はとっても大事なんだからね! クロノさん絶対モテなかったでしょ!」

「はっ、モテモテだったね。それはもう俺が歩いたら女の子の悲鳴で地面が割れるってくらい」


 なんですかそれ、怪物じゃないの。嘘を吐くにしても、もっとまともな吐き方をしたらいいのに。


「さて、まだ魂はいそうか?」

「どうして私に聞くの?」

「もしかしてさっき、本気で勘で当てたと思ってたのか?」


 勘でって言ったのはクロノさんじゃないの。

 私が首を傾げると、ちげえよ、と彼が言葉を続けた。


「お前がどこに魂がいるのか分かったのは、タマジョとしての能力だ。ちょっと集中してみろ。わかるはずだから」


 驚いて声も出せないでいると、上から降ってきた手に半ば強引に瞼を閉じられた。

 集中、集中ね。よくわからないけど、私にそう言うことができるなら、とりあえずやってみるよ。


「どうだ? わかったか?」


 聞くのが早いでしょ。まだ五秒もたってないよ。


「無意識ではできているからな。あとは意識的にやるだけだ」


 その意識を遮らないでくださいってば。


「かくれんぼで音のするほうに向かうような感覚かな」


 そんなに言うならクロノさんがしてください。

 せっかく人が頑張って集中しようとしているのに、話しかけられたら余計な事ばっかり考えちゃう。


「大変仲がよろしいんですね。魂一個にずいぶんと時間をかけていたようですが、それも仲良くするための秘訣ならば、ぜひ教えていただきたいものです」


 ああ、もう。うるさいうるさい。


「いい加減にして! 集中が乱れるって言ってるでしょっ!」


 耐えきれなくなって叫ぶとあたりがシンと静まり返った。

 ようやくわかってくれたのね。ここまで言わないと分からないなんて、本当に大人なのかな。ちょっと待って、最後に聞こえた声はなんだか違ったような。


「あ、あれ……?」


 うっすらと目を開くと、私の視界にうつったのは呆然とする赤髪の男の人と、お腹を抱えて笑い声をおさえている黒髪の男の人。ってことは、さっきの声は……。


「アカツキさんっ?」

「集中が乱れるってよ、アカツキィ」


 う、うわあ、クロノさんってば悪い顔。アクションヒーローの悪役も真っ青だよ。

 呆然としていたアカツキさんの顔がどんどん険しくなって言って、次第に肩がプルプル震え始めた。気が付かなかったとはいえ、私ってばまずいこと言っちゃったんじゃないの?


「しつけのなっていないタマジョですね。品のないクロノによくお似合いです」

「そりゃあしつけなんてしてねえよ、タマジョはペットじゃねえんだから」

「クロノの業績が悪いのも頷けます。私たちは魂を二個回収いたしましたが、そちらはずいぶんと手間取ったようですね」

「ああ、そうだな、俺たちは一人ご案内したよ」


 アカツキさんとクロノさんのやり取りを聞きながら視線を動かすと、レイくんとかち合った。綺麗な瞳が、少しだけ悲しそうに見えて首を傾げる。


「たった一個回収したくらいでそんな顔をされましてもねえ」

「一人ご案内って言ってんだろ」

「何が違うというのです」


 狭い診察室の温度が下がっていく気がする。
しおりを挟む
感想 1

あなたにおすすめの小説

独占欲強めの最強な不良さん、溺愛は盲目なほど。

猫菜こん
児童書・童話
 小さな頃から、巻き込まれで絡まれ体質の私。  中学生になって、もう巻き込まれないようにひっそり暮らそう!  そう意気込んでいたのに……。 「可愛すぎる。もっと抱きしめさせてくれ。」  私、最強の不良さんに見初められちゃったみたいです。  巻き込まれ体質の不憫な中学生  ふわふわしているけど、しっかりした芯の持ち主  咲城和凜(さきしろかりん)  ×  圧倒的な力とセンスを持つ、負け知らずの最強不良  和凜以外に容赦がない  天狼絆那(てんろうきずな)  些細な事だったのに、どうしてか私にくっつくイケメンさん。  彼曰く、私に一目惚れしたらしく……? 「おい、俺の和凜に何しやがる。」 「お前が無事なら、もうそれでいい……っ。」 「この世に存在している言葉だけじゃ表せないくらい、愛している。」  王道で溺愛、甘すぎる恋物語。  最強不良さんの溺愛は、独占的で盲目的。

きたいの悪女は処刑されました

トネリコ
児童書・童話
 悪女は処刑されました。  国は益々栄えました。  おめでとう。おめでとう。  おしまい。

クールな幼なじみの許嫁になったら、甘い溺愛がはじまりました

藤永ゆいか
児童書・童話
中学2年生になったある日、澄野星奈に許嫁がいることが判明する。 相手は、頭が良くて運動神経抜群のイケメン御曹司で、訳あって現在絶交中の幼なじみ・一之瀬陽向。 さらに、週末限定で星奈は陽向とふたり暮らしをすることになって!? 「俺と許嫁だってこと、絶対誰にも言うなよ」 星奈には、いつも冷たくてそっけない陽向だったが……。 「星奈ちゃんって、ほんと可愛いよね」 「僕、せーちゃんの彼氏に立候補しても良い?」 ある時から星奈は、バスケ部エースの水上虹輝や 帰国子女の秋川想良に甘く迫られるようになり、徐々に陽向にも変化が……? 「星奈は可愛いんだから、もっと自覚しろよ」 「お前のこと、誰にも渡したくない」 クールな幼なじみとの、逆ハーラブストーリー。

9日間

柏木みのり
児童書・童話
 サマーキャンプから友達の健太と一緒に隣の世界に迷い込んだ竜(リョウ)は文武両道の11歳。魔法との出会い。人々との出会い。初めて経験する様々な気持ち。そして究極の選択——夢か友情か。  大事なのは最後まで諦めないこと——and take a chance! (also @ なろう)

星降る夜に落ちた子

千東風子
児童書・童話
 あたしは、いらなかった?  ねえ、お父さん、お母さん。  ずっと心で泣いている女の子がいました。  名前は世羅。  いつもいつも弟ばかり。  何か買うのも出かけるのも、弟の言うことを聞いて。  ハイキングなんて、来たくなかった!  世羅が怒りながら歩いていると、急に体が浮きました。足を滑らせたのです。その先は、とても急な坂。  世羅は滑るように落ち、気を失いました。  そして、目が覚めたらそこは。  住んでいた所とはまるで違う、見知らぬ世界だったのです。  気が強いけれど寂しがり屋の女の子と、ワケ有りでいつも諦めることに慣れてしまった綺麗な男の子。  二人がお互いの心に寄り添い、成長するお話です。  全年齢ですが、けがをしたり、命を狙われたりする描写と「死」の表現があります。  苦手な方は回れ右をお願いいたします。  よろしくお願いいたします。  私が子どもの頃から温めてきたお話のひとつで、小説家になろうの冬の童話際2022に参加した作品です。  石河 翠さまが開催されている個人アワード『石河翠プレゼンツ勝手に冬童話大賞2022』で大賞をいただきまして、イラストはその副賞に相内 充希さまよりいただいたファンアートです。ありがとうございます(^-^)!  こちらは他サイトにも掲載しています。

極甘独占欲持ち王子様は、優しくて甘すぎて。

猫菜こん
児童書・童話
 私は人より目立たずに、ひっそりと生きていたい。  だから大きな伊達眼鏡で、毎日を静かに過ごしていたのに――……。 「それじゃあこの子は、俺がもらうよ。」  優しく引き寄せられ、“王子様”の腕の中に閉じ込められ。  ……これは一体どういう状況なんですか!?  静かな場所が好きで大人しめな地味子ちゃん  できるだけ目立たないように過ごしたい  湖宮結衣(こみやゆい)  ×  文武両道な学園の王子様  実は、好きな子を誰よりも独り占めしたがり……?  氷堂秦斗(ひょうどうかなと)  最初は【仮】のはずだった。 「結衣さん……って呼んでもいい?  だから、俺のことも名前で呼んでほしいな。」 「さっきので嫉妬したから、ちょっとだけ抱きしめられてて。」 「俺は前から結衣さんのことが好きだったし、  今もどうしようもないくらい好きなんだ。」  ……でもいつの間にか、どうしようもないくらい溺れていた。

王女様は美しくわらいました

トネリコ
児童書・童話
   無様であろうと出来る全てはやったと満足を抱き、王女様は美しくわらいました。  それはそれは美しい笑みでした。  「お前程の悪女はおるまいよ」  王子様は最後まで嘲笑う悪女を一刀で断罪しました。  きたいの悪女は処刑されました 解説版

【完結】またたく星空の下

mazecco
児童書・童話
【第15回絵本・児童書大賞 君とのきずな児童書賞 受賞作】 ※こちらはweb版(改稿前)です※ ※書籍版は『初恋×星空シンバル』と改題し、web版を大幅に改稿したものです※ ◇◇◇冴えない中学一年生の女の子の、部活×恋愛の青春物語◇◇◇ 主人公、海茅は、フルート志望で吹奏楽部に入部したのに、オーディションに落ちてパーカッションになってしまった。しかもコンクールでは地味なシンバルを担当することに。 クラスには馴染めないし、中学生活が全然楽しくない。 そんな中、海茅は一人の女性と一人の男の子と出会う。 シンバルと、絵が好きな男の子に恋に落ちる、小さなキュンとキュッが詰まった物語。

処理中です...