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16話「扉の向こう、暴かれる真実」
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石造りの大扉を押し開けた瞬間、ひやりとした空気が肌を撫でた。地下に広がる広間は異様な静けさに包まれ、奥の祭壇に灯る魔法陣の微光だけが周囲を照らしていた。六芒星と円が複雑に重なり合い、無数の術式が床に刻まれている。そこに立っていたのは、一人の男——村長バエル。
「来たか……ジブリール、サリエル、そして占い師か。」
バエルは仄暗い光のなかで静かに振り向いた。口元には皮肉めいた微笑が浮かぶ。
「バティムはもういないのか……」
サリエルの声は低く、殺気を孕んでいた。
「ふん、あの男はとっくに次の段階に進んだよ。この村での実験は終わったということだ」
バエルは肩をすくめるように言った。
ジブリールが一歩踏み出す。
「どうして……どうして、あんなことをしたの!?村の人たちを、子供たちを、化け物に変えて……!」
「お前たちが理解する必要はない」
バエルの目は冷たい。
「だが、知りたいなら教えてやる。ここはもともと“村”などではなかった。これは、神胎還元術の実験場として作られた“器育成地”にすぎん」
「……育成地?」
サンダルフォンが眉をひそめる。
「ああ。この地の空気、土地、血筋、あらゆる要素を操作し、最適な“器”を作り出す。それが我々の目的だった。神胎とは、神の残骸だ。分断され、眠りに落ちた存在を再構成するには、適合する“人間の器”が必要となる。村はそのための温床だったのだ」
ジブリールが唇を噛みしめた。
「そんなことのために、私たちの人生を……」
「そうだとも」
バエルはあっさりと言い切る。「お前たちは選ばれた。特に、お前とサリエルは理想的だった。思念の集中度、霊的適合性、そして対極の性質……まさに完全な器だった」
「……お前は、あの頃から全部知っていたのか?」
サリエルの声は震えていた。「オレたちが泣いても、笑っても……全部、実験の一環として見ていたってのか?」
「当然だ」
バエルの声には何の感情もなかった。「お前たちがどんな想いを抱こうと、そんなものは重要ではない。我々が見ていたのは“成果”だ。お前たちの成長、感情の波、魔力の発現……すべて、記録していた」
「ふざけないでッ!!」
ジブリールが叫んだ。
「私たちの絆も、時間も、全部“器”としての経過観察だったって言うの!?」
「お前たちに人間らしい情があったことは事実だ。それもまた“器”としての安定性の証明となった。……そう、ただの“証明”にすぎん。私は誤魔化してなどいない」
サリエルは一歩、剣を抜きながら前に出た。
「……どうして、そんな真似を。あんたは“村長”だろ?誰より村を守るべき立場だったはずだ」
「違うな」
バエルの声ははっきりとしていた。
「私は“監視者”だ。お前たちを観察し、記録し、整える者。……守るべきものは村ではない。“計画”そのものだ」
ジブリールがかすれた声で言う。
「あなたの中には……後悔はないの?」
「後悔?」
バエルは鼻で笑った。
「あると思うか? バティムの計画は完璧だった。私はその一端を担い、成果を出した。それだけだ。……ただ、惜しむらくは、バティムが次の段階に進む前に、私自身が“鍵”を渡すことができなかったことくらいか」
サンダルフォンが問う。
「“鍵”? それは……あなたが握っている何か?」
「いや、違う」
バエルは薄く笑う。
「“鍵”とは、器に眠る“可能性”だ。ジブリール、お前の声。サリエル、お前の眼。それが鍵となりうる。だが、私はもうその扉を開く資格を持たない。私はただの、失敗作の管理者だ」
「俺の眼とジブリールの声…?」
その言葉と共に、バエルの体が光を纏った。魔方陣が再び淡く輝く。
「まさか……自分自身を、起爆装置に……!?」
サンダルフォンが目を見開く。
「私は最後の役目を果たす。ここでお前たちを消し、神胎を守る。バティムの計画の礎となるために」
「させない……!」
サリエルが駆け出す。
ジブリールが後に続く。
魔方陣が震え始め、黒い光が辺りに満ちていく。
「俺たちは……“実験体”なんかじゃない!!」
怒号とともに、剣が光を裂いた。地下の広間に、運命を決する戦いの幕が落ちる――。
「来たか……ジブリール、サリエル、そして占い師か。」
バエルは仄暗い光のなかで静かに振り向いた。口元には皮肉めいた微笑が浮かぶ。
「バティムはもういないのか……」
サリエルの声は低く、殺気を孕んでいた。
「ふん、あの男はとっくに次の段階に進んだよ。この村での実験は終わったということだ」
バエルは肩をすくめるように言った。
ジブリールが一歩踏み出す。
「どうして……どうして、あんなことをしたの!?村の人たちを、子供たちを、化け物に変えて……!」
「お前たちが理解する必要はない」
バエルの目は冷たい。
「だが、知りたいなら教えてやる。ここはもともと“村”などではなかった。これは、神胎還元術の実験場として作られた“器育成地”にすぎん」
「……育成地?」
サンダルフォンが眉をひそめる。
「ああ。この地の空気、土地、血筋、あらゆる要素を操作し、最適な“器”を作り出す。それが我々の目的だった。神胎とは、神の残骸だ。分断され、眠りに落ちた存在を再構成するには、適合する“人間の器”が必要となる。村はそのための温床だったのだ」
ジブリールが唇を噛みしめた。
「そんなことのために、私たちの人生を……」
「そうだとも」
バエルはあっさりと言い切る。「お前たちは選ばれた。特に、お前とサリエルは理想的だった。思念の集中度、霊的適合性、そして対極の性質……まさに完全な器だった」
「……お前は、あの頃から全部知っていたのか?」
サリエルの声は震えていた。「オレたちが泣いても、笑っても……全部、実験の一環として見ていたってのか?」
「当然だ」
バエルの声には何の感情もなかった。「お前たちがどんな想いを抱こうと、そんなものは重要ではない。我々が見ていたのは“成果”だ。お前たちの成長、感情の波、魔力の発現……すべて、記録していた」
「ふざけないでッ!!」
ジブリールが叫んだ。
「私たちの絆も、時間も、全部“器”としての経過観察だったって言うの!?」
「お前たちに人間らしい情があったことは事実だ。それもまた“器”としての安定性の証明となった。……そう、ただの“証明”にすぎん。私は誤魔化してなどいない」
サリエルは一歩、剣を抜きながら前に出た。
「……どうして、そんな真似を。あんたは“村長”だろ?誰より村を守るべき立場だったはずだ」
「違うな」
バエルの声ははっきりとしていた。
「私は“監視者”だ。お前たちを観察し、記録し、整える者。……守るべきものは村ではない。“計画”そのものだ」
ジブリールがかすれた声で言う。
「あなたの中には……後悔はないの?」
「後悔?」
バエルは鼻で笑った。
「あると思うか? バティムの計画は完璧だった。私はその一端を担い、成果を出した。それだけだ。……ただ、惜しむらくは、バティムが次の段階に進む前に、私自身が“鍵”を渡すことができなかったことくらいか」
サンダルフォンが問う。
「“鍵”? それは……あなたが握っている何か?」
「いや、違う」
バエルは薄く笑う。
「“鍵”とは、器に眠る“可能性”だ。ジブリール、お前の声。サリエル、お前の眼。それが鍵となりうる。だが、私はもうその扉を開く資格を持たない。私はただの、失敗作の管理者だ」
「俺の眼とジブリールの声…?」
その言葉と共に、バエルの体が光を纏った。魔方陣が再び淡く輝く。
「まさか……自分自身を、起爆装置に……!?」
サンダルフォンが目を見開く。
「私は最後の役目を果たす。ここでお前たちを消し、神胎を守る。バティムの計画の礎となるために」
「させない……!」
サリエルが駆け出す。
ジブリールが後に続く。
魔方陣が震え始め、黒い光が辺りに満ちていく。
「俺たちは……“実験体”なんかじゃない!!」
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