秘密の日記〜おもらしメモリーズ〜

柊ヒソカ

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第二話「小学一年生の失敗」

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ベッドに横になりながら、私は子供の頃の記憶を辿っていた。
スマホの画面に「小学一年生、帰りの会」と打ち込むと、封印していた記憶が鮮明に蘇ってきた。
そう、あれは小学校に入学して二ヶ月ほど経った、六月の蒸し暑い日だった。

五時間目の授業は算数だった。
「じゃあ、次は三たす四。わかる人?」
先生の声が教室に響く。何人かの子が元気よく手を挙げる。私も手を挙げようとしたけれど、その時下腹部にじわっと違和感を感じた。
おしっこ。
朝から水筒のお茶をたくさん飲んでいたのだ。昼休みにトイレに行っておけばよかった。でも、友達と遊ぶのに夢中で、すっかり忘れていた。
「大丈夫、あと少しで授業終わる」
そう思いながら、私は椅子の上でもぞもぞと身体を動かした。膝をくっつけて、少しだけ前かがみになる。まだ我慢できる。そんなに強くない。
チャイムが鳴った。
「はい、今日の授業はここまで。教科書をしまって」
やった、と思った。これでトイレに行ける。でも、先生は続けて言った。
「そのまま掃除の時間に入ります。掃除当番の人は道具を取りに来てください」
そうだった。五時間目の後は休み時間がないんだった。幼稚園の時とは違う小学校のスケジュール。まだ慣れていなかった私は、その事実をすっかり忘れていた。
教室がざわざわと動き出す。掃除当番の子たちが箒やちりとりを持ってくる。私は掃除当番ではなかったから、自分の席で待機していた。
でも、座っているのが辛くなってきた。尿意が徐々に強くなってくる。もじもじと足を動かす。内股に力を入れる。
「ねえ、今日の給食のゼリー美味しかったよね」
隣の席の友達、ゆいちゃんが話しかけてきた。
「うん、美味しかった」
なるべく普通に答えようとしたけれど、声が少し震えていた。お腹がぎゅっと痛い。膀胱がパンパンになってきている。
掃除の時間は十五分。そのあとは帰りの会。帰りの会が終われば、トイレに行ける。あと少し、あと少しだけ。
箒で床を掃く音。ちりとりでゴミを集める音。水道で雑巾を絞る音。教室中に掃除の音が響く中、私は席に座ったまま、じっと耐えていた。
でも、座っているのが限界になってきた。立った方が我慢しやすいかもしれない。そう思って、席を立った。
その瞬間、じわっ。
下着が少し濡れた。ちびった。まずい。
「だめだめだめ」
心の中で必死に唱えながら、太ももをきつく閉じる。両手で下腹部を押さえたい。でも、そんなことをしたら周りに気づかれてしまう。だから、できるだけ自然に、でも内股に力を入れて、その場に立ち尽くした。
掃除が終わった。
「掃除当番の人、道具を片付けて」
先生の声。道具が片付けられる音。そして、みんなが自分の席に戻ってくる。
教室が賑やかになった。授業中は静かにしなければいけないけれど、掃除の後の時間はまだ帰りの会が始まっていないから、みんな好きに話している。
「ねえねえ、明日体育あるんだよ」
「えー、体育やだー」
「私は体育好き!」
周りで友達が話している。私も話に混ざろうとした。普通にしていれば、誰にも気づかれない。おしっこを我慢していることを悟られないように。
「今日の宿題、算数プリント一枚だって」
「えー、また算数ー」
ゆいちゃんが笑いながら話す。私も笑顔を作ろうとした。でも、笑うとお腹に力が入って、膀胱が圧迫される。もう限界に近かった。
足をもじもじと動かす。でも、あまり動きすぎると怪しまれる。だから、さりげなく、内股をこすり合わせるようにして、必死に我慢する。
太ももの内側がじんじんと痺れてきた。下着はもう少し濡れている。また少しちびった。涙が出そうだった。
「先生、まだー?」
誰かが声を上げる。帰りの会、早く始まって、早く終わってほしい。そうすればトイレに行ける。
その時だった。
「はい! 帰りの会始めるよー。気をつけ!」
先生の大きな声が教室に響いた。
反射的に、みんなが立ち上がる。私も立った。背筋を伸ばし、両手を体側につけ、気をつけの姿勢。
その瞬間、すべてが崩壊した。
気をつけの姿勢では、もじもじできない。内股をこすり合わせることもできない。下腹部を押さえることもできない。ただまっすぐ立って、じっとしていなければならない。
「だめ、だめだめだめ」
必死に力を込める。でも、もう限界を超えていた。
じゅわっ。
温かいものが溢れ出した。下着が一気に濡れる。太ももを伝う。靴下まで染み込む。
「あ……」
小さく声が漏れた。止めようとした。でも、もう止められなかった。一度溢れ出したおしっこは、堰を切ったように流れ続けた。
教室が静かになった。
帰りの会が始まって、みんなが静かになったところだった。先生が何か話そうとしている。その静まり返った教室の中で。
ぽたぽたぽた。
床におしっこが滴り落ちる音。
ぽたぽたぽたぽた。
止まらない。止められない。温かなおしっこが足を伝い、上履きの中に入り込み、床に水たまりを作っていく。
じょろじょろじょろ。
静寂の中、その音だけが響き渡る。自分の足元で広がっていく水たまり。濡れた靴下。ずぶ濡れの下着。スカートの裾まで濡れている。
みんなが静かにしている。先生も何も言わない。ただ、おしっこが床を叩く音だけが聞こえる。
永遠のように感じた時間。実際には、ほんの数十秒だったのかもしれない。
そして、ようやく、全部出終わった。
足元には大きな水たまり。濡れた足。びしょびしょの下着とスカート。
パニックだった。どうしよう、どうしよう。みんなに見られている。先生も見ている。恥ずかしい。恥ずかしすぎる。
「せん、せい……」
震える声が出た。
「先生! 先生!」
気づいたら、大きな声を出していた。
「せん~せい!!」
叫ぶように先生を呼んでいた。
教室中の視線が私に集まった。みんなが私を見ている。私の足元の水たまりを見ている。
「え、おもらし?」
「本当だ、濡れてる」
「えー」
ざわざわとした声。私は恥ずかしさで顔が真っ赤になった。涙が溢れてきた。
先生が慌てて駆け寄ってきた。
「大丈夫? 大丈夫よ」
優しい声で言いながら、先生は私の肩に手を置いた。
「みんな、席に座って。静かにして」
先生が教室に向かって言った。ざわつきが少し収まる。
「一緒に保健室行こう。ね?」
先生に手を引かれて、私は教室を出た。みんなの視線が背中に刺さる。廊下に出ても、濡れた靴下が床にぺたぺたと音を立てる。
保健室に着くと、保健の先生が優しく迎えてくれた。
「着替え持ってきてあげるね」
先生たちがてきぱきと動いてくれる。私はただ、涙を流しながら立っていた。
新しい下着、新しい靴下、体操服のズボン。全部着替えて、ようやく少し落ち着いた。
「大丈夫よ。誰にでもあることだから」
保健の先生が優しく言ってくれた。でも、私は知っていた。
小学校に入ってから、おもらしをした子は、私が初めてだった。幼稚園の時は何人かいた。でも、小学生は違う。小学生は、もうおもらしなんてしない。
「小学生にもなっておもらしするなんて……」
その言葉が頭の中でぐるぐると回った。恥ずかしかった。明日から、みんなに何て言われるんだろう。「おもらしした子」って呼ばれるんだろうか。
保健室のベッドに座りながら、私は小さく身体を丸めた。

スマホの画面を見つめながら、今の私はあの時の自分を思い出していた。
あの時の恥ずかしさ。あの時の絶望感。でも、不思議とその記憶は、今となっては少し懐かしくもあった。
あれから二十年近く経って、また同じことをしてしまった私。子供の頃のおもらしは、まだ許される年齢だった。でも、二十六歳のおもらしは、誰にも言えない秘密だ。
「次は…」記憶の引き出しには、まだたくさんのおもらしの思い出が眠っている。
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