秘密の日記〜おもらしメモリーズ〜

柊ヒソカ

文字の大きさ
3 / 7

第三話「友達の家の前で」

しおりを挟む
スマホの画面を見つめながら、私はまた一つ、封印していた記憶の扉を開いた。
小学三年生。その頃には、一年生の時の失敗もクラスメートたちの記憶から薄れていた。私も、もうあんな恥ずかしい思いはしないと心に決めていた。
でも、人生というのは皮肉なもので。

それは、土曜日の午後のことだった。
「瑞稀ちゃん、今日うち来ない? みんなも来るんだ」
クラスの友達、彩花ちゃんに誘われて、私は彼女の家に遊びに行くことになった。集まったのは仲の良い女子五人。彩花ちゃん、奈央ちゃん、さくらちゃん、あかりちゃん、そして私。
彩花ちゃんの部屋は可愛いピンクのカーテンとぬいぐるみがいっぱいで、女の子らしい部屋だった。
「はい、紅茶淹れてきたよ」
彩花ちゃんのお母さんが、可愛らしいティーカップに紅茶を注いでくれた。お菓子も、クッキーやチョコレート、ポテトチップスまで、テーブルいっぱいに並んでいる。
「わー、美味しそう!」
「いただきまーす!」
みんなでお菓子を食べながら、おしゃべりに花が咲いた。
「ねえねえ、昨日のドラマ見た?」
「見た見た! あのシーン感動したよね」
「私も泣いちゃった」
キャッキャとはしゃぎながら、紅茶を飲む。甘くて温かくて、とても美味しい。おかわりをもらって、また飲む。お菓子も食べながら、話は尽きない。
「ねえ、ゲームやろうよ」
さくらちゃんが提案して、彩花ちゃんがテレビゲームを用意してくれた。マリオカートだ。二人ずつ交代でプレイして、他の子は応援する。
「頑張れー!」
「あ、バナナ踏んじゃった!」
ゲームに夢中になりながら、また紅茶を飲む。喉が渇いたら飲む。気づけば、三杯目になっていた。
そろそろ一時間くらい経った頃だろうか。
下腹部に、じわっと違和感を感じた。
トイレ。
でも、友達の家でトイレを借りるのは、なんだか恥ずかしかった。お母さんがいるリビングを通らなければいけないし、「トイレ借りていい?」って言うのも、なんとなく気が引ける。もう少し我慢すれば、そのうち自然に行けるタイミングが来るかもしれない。
「瑞稀ちゃん、次オセロやろう」
奈央ちゃんに誘われて、私はオセロ盤の前に座った。
「じゃあ、私黒ね」
「私は白で」
パチッ、パチッと石を置いていく。周りでは、他の子たちがゲームをしながら応援している。
でも、集中できなかった。下腹部の違和感が、だんだん強くなってきている。膀胱が重い。紅茶を飲みすぎた。
もじもじと身体を動かす。でも、あまり動きすぎると、我慢しているのがバレてしまう。オセロをしながら、さりげなく足を閉じる。内股に少し力を入れる。
「あ、そこに置いちゃダメだよー」
「えー、そうだったの?」
周りの声が聞こえる。私も笑顔を作ろうとする。でも、顔が引きつっている気がした。
「瑞稀ちゃん、次どこに置くの?」
「あ、えっと……」
石を持つ手が少し震える。どこに置くべきか、考えられない。頭の中は、トイレのことでいっぱいだった。
パチッと適当な場所に置く。
「あー、そこ置いたら取られちゃうよ」
案の定、次の手で奈央ちゃんに石を取られてしまった。
尿意はどんどん強くなっていく。もう、ちゃんと座っているのも辛い。お尻をもじもじと動かす。太ももをぎゅっと閉じる。
「トイレ借りていい?」
その一言を言えば、楽になれる。でも、言えなかった。恥ずかしい。みんなの前で「トイレ」なんて言葉を口にするのが恥ずかしい。それに、我慢しているって思われるのも嫌だ。
「どうしよう、どうしよう」
心の中で呟きながら、必死にオセロを続ける。でも、もう盤面なんて見えていなかった。ただ、適当に石を置いているだけ。
足をくねくねと動かす。下腹部がぎゅーっと痛い。膀胱がパンパンだ。もう限界に近い。
「やった、勝ったー!」
奈央ちゃんが嬉しそうに声を上げた。オセロは私の完敗だった。でも、負けたことなんてどうでもよかった。ただ、トイレに行きたい。
その時、時計を見た。もう二時間も経っている。
「あ、そろそろ帰らないと」
私は立ち上がりながら言った。声が少し震えていた。
「え、もう帰るの? まだ早いじゃん」
彩花ちゃんが残念そうに言う。
「うん、ごめん。お母さんに四時までに帰ってって言われてて」
嘘だった。でも、もう限界だった。このまま友達の家にいたら、我慢できなくなってしまう。
「そっかー、残念」
「また遊ぼうね」
みんなに見送られて、私は彩花ちゃんの家を出た。
玄関を出た瞬間、もう我慢の演技をする必要がなくなった。
「痛い、痛い」
呟きながら、両手で下腹部を押さえた。もじもじと足を動かす。くねくねと身体をくねらせる。人目なんて気にしていられなかった。
家まで、歩いて十五分くらい。でも、もう無理だ。とてもじゃないけど、家まで持たない。
足を交差させて、小刻みに歩く。膝をくっつけて、内股で歩く。でも、一歩進むたびに、膀胱が揺れて、尿意が強くなる。
「どうしよう、どうしよう」
涙が出そうだった。公園にトイレはあるけれど、ここからだと遠回りになる。コンビニもない。
その時、ふと思い出した。
ここから三軒先に、同じクラスの友達、ゆかちゃんの家がある。ゆかちゃんとは仲が良い。きっと、トイレを貸してくれるはずだ。
「そうだ、ゆかちゃんの家で借りよう」
恥ずかしいけれど、仕方ない。もう限界だった。
ゆかちゃんの家までの道のりが、とても長く感じた。一歩一歩が辛い。もじもじと歩きながら、なんとか辿り着いた。
玄関の前に立つ。深呼吸をする。両手で下腹部を押さえたまま、インターフォンのボタンを押した。
ピンポーン。
「はーい」
明るい声が聞こえた。ゆかちゃんのお母さんだ。
玄関のドアが開く。
「あら、瑞稀ちゃん。どうしたの?」
優しい笑顔のお母さん。私は、震える声で言った。
「あの、すみません……」
言葉が出てこない。恥ずかしい。でも、言わなければいけない。
「おトイレ……」
声が震える。
「おトイレ、貸してください……」
やっと、言えた。
その瞬間だった。
じわっ。
下着が濡れた。ちびった。まずい、まずい。
「あ、あ……」
でも、止められなかった。一度緩んだ括約筋は、もう制御できなかった。
じょろじょろじょろ。
温かなおしっこが溢れ出す。太ももを伝う。靴下を濡らす。靴の中に入り込む。スカートの裾から滴り落ちる。
玄関の前で。ゆかちゃんのお母さんの目の前で。
「え、あ、ちょっと……」
お母さんが慌てた声を出す。でも、もう止まらない。
じょろじょろじょろじょろ。
足元に水たまりができていく。玄関のタイルを濡らしていく。靴が水浸しになる。
「あ、あああ……」
涙が溢れ出した。恥ずかしい。恥ずかしすぎる。どうして、どうして。もう少し早く来ていれば。もう少し早く言えていれば。
全部出終わった。
足元には大きな水たまり。濡れた足。びしょびしょのスカートと下着。
お母さんが何か言おうとしている。でも、その声は聞こえなかった。
「ごめんなさい!!」
叫んでいた。
「ごめんなさい、ごめんなさい!!」
そして、走り出していた。逃げるように。その場から離れるように。
「ちょ、ちょっと待って! 瑞稀ちゃん!」
お母さんの声が後ろから聞こえる。でも、振り返れなかった。振り返ったら、あの光景がまた見えてしまう。玄関の前の水たまりが。濡れた足が。
涙で前が見えない。濡れた靴下が気持ち悪い。スカートが足に張り付く。
でも、走り続けた。ただ、家に帰りたい。家に帰って、すべてを忘れたい。
家に着いた時には、息が切れていた。玄関の鍵を震える手で開けて、中に入る。
「ただいま……」
小さく呟いて、そのまま玄関にへたり込んだ。
お母さんが奥から出てきた。
「おかえり。あれ、どうしたの? そんなに早く……って、瑞稀!? どうしたの、その格好!」
慌てた声。でも、何も答えられなかった。ただ、泣いていた。
お母さんが抱きしめてくれた。何も聞かずに、ただ抱きしめてくれた。
「大丈夫、大丈夫よ」
優しい声。その温かさに、私はさらに涙が溢れた。

あれから数日、私は学校を休んだ。
ゆかちゃんのお母さんが、うちの母に電話をくれた。「心配しないで」「誰にも言わないから」と優しく言ってくれたらしい。
でも、恥ずかしかった。もう、ゆかちゃんの家の前を通れない。あの玄関を見るたびに、あの日のことを思い出してしまう。
学校に戻った時、ゆかちゃんは普段通りに接してくれた。あの日のことには触れず、いつも通りの友達として。
それが、逆に申し訳なかった。

スマホの画面を見つめながら、私は深くため息をついた。
あれから何年も経った今でも、あの日の恥ずかしさは鮮明に覚えている。ゆかちゃんのお母さんの驚いた顔。玄関の水たまり。濡れた靴下の感触。
「子供の頃の私、本当によくおもらししてたんだな」
呟きながら、私は次の記憶を探し始めた。まだまだ、思い出すことはたくさんあった。
しおりを挟む
感想 1

あなたにおすすめの小説

上司、快楽に沈むまで

赤林檎
BL
完璧な男――それが、営業部課長・**榊(さかき)**の社内での評判だった。 冷静沈着、部下にも厳しい。私生活の噂すら立たないほどの隙のなさ。 だが、その“完璧”が崩れる日がくるとは、誰も想像していなかった。 入社三年目の篠原は、榊の直属の部下。 真面目だが強気で、どこか挑発的な笑みを浮かべる青年。 ある夜、取引先とのトラブル対応で二人だけが残ったオフィスで、 篠原は上司に向かって、いつもの穏やかな口調を崩した。「……そんな顔、部下には見せないんですね」 疲労で僅かに緩んだ榊の表情。 その弱さを見逃さず、篠原はデスク越しに距離を詰める。 「強がらなくていいですよ。俺の前では、もう」 指先が榊のネクタイを掴む。 引き寄せられた瞬間、榊の理性は音を立てて崩れた。 拒むことも、許すこともできないまま、 彼は“部下”の手によって、ひとつずつ乱されていく。 言葉で支配され、触れられるたびに、自分の知らなかった感情と快楽を知る。それは、上司としての誇りを壊すほどに甘く、逃れられないほどに深い。 だが、篠原の視線の奥に宿るのは、ただの欲望ではなかった。 そこには、ずっと榊だけを見つめ続けてきた、静かな執着がある。 「俺、前から思ってたんです。  あなたが誰かに“支配される”ところ、きっと綺麗だろうなって」 支配する側だったはずの男が、 支配されることで初めて“生きている”と感じてしまう――。 上司と部下、立場も理性も、すべてが絡み合うオフィスの夜。 秘密の扉を開けた榊は、もう戻れない。 快楽に溺れるその瞬間まで、彼を待つのは破滅か、それとも救いか。 ――これは、ひとりの上司が“愛”という名の支配に沈んでいく物語。

自習室の机の下で。

カゲ
恋愛
とある自習室の机の下での話。

極上イケメン先生が秘密の溺愛教育に熱心です

朝陽七彩
恋愛
 私は。 「夕鶴、こっちにおいで」  現役の高校生だけど。 「ずっと夕鶴とこうしていたい」  担任の先生と。 「夕鶴を誰にも渡したくない」  付き合っています。  ♡-♡-♡-♡-♡-♡-♡-♡-♡-♡-♡-♡-♡-♡-♡-♡-♡  神城夕鶴(かみしろ ゆづる)  軽音楽部の絶対的エース  飛鷹隼理(ひだか しゅんり)  アイドル的存在の超イケメン先生  ♡-♡-♡-♡-♡-♡-♡-♡-♡-♡-♡-♡-♡-♡-♡-♡-♡  彼の名前は飛鷹隼理くん。  隼理くんは。 「夕鶴にこうしていいのは俺だけ」  そう言って……。 「そんなにも可愛い声を出されたら……俺、止められないよ」  そして隼理くんは……。  ……‼  しゅっ……隼理くん……っ。  そんなことをされたら……。  隼理くんと過ごす日々はドキドキとわくわくの連続。  ……だけど……。  え……。  誰……?  誰なの……?  その人はいったい誰なの、隼理くん。  ドキドキとわくわくの連続だった私に突如現れた隼理くんへの疑惑。  その疑惑は次第に大きくなり、私の心の中を不安でいっぱいにさせる。  でも。  でも訊けない。  隼理くんに直接訊くことなんて。  私にはできない。  私は。  私は、これから先、一体どうすればいいの……?

巨乳すぎる新入社員が社内で〇〇されちゃった件

ナッツアーモンド
恋愛
中高生の時から巨乳すぎることがコンプレックスで悩んでいる、相模S子。新入社員として入った会社でS子を待ち受ける運命とは....。

彼の言いなりになってしまう私

守 秀斗
恋愛
マンションで同棲している山野井恭子(26才)と辻村弘(26才)。でも、最近、恭子は弘がやたら過激な行為をしてくると感じているのだが……。

セーラー服美人女子高生 ライバル同士の一騎討ち

ヒロワークス
ライト文芸
女子高の2年生まで校内一の美女でスポーツも万能だった立花美帆。しかし、3年生になってすぐ、同じ学年に、美帆と並ぶほどの美女でスポーツも万能な逢沢真凛が転校してきた。 クラスは、隣りだったが、春のスポーツ大会と夏の水泳大会でライバル関係が芽生える。 それに加えて、美帆と真凛は、隣りの男子校の俊介に恋をし、どちらが俊介と付き合えるかを競う恋敵でもあった。 そして、秋の体育祭では、美帆と真凛が走り高跳びや100メートル走、騎馬戦で対決! その結果、放課後の体育館で一騎討ちをすることに。

まなの秘密日記

到冠
大衆娯楽
胸の大きな〇学生の一日を描いた物語です。

ヤンデレ美少女転校生と共に体育倉庫に閉じ込められ、大問題になりましたが『結婚しています!』で乗り切った嘘のような本当の話

桜井正宗@オートスキル第1巻発売中
青春
 ――結婚しています!  それは二人だけの秘密。  高校二年の遙と遥は結婚した。  近年法律が変わり、高校生(十六歳)からでも結婚できるようになっていた。だから、問題はなかった。  キッカケは、体育倉庫に閉じ込められた事件から始まった。校長先生に問い詰められ、とっさに誤魔化した。二人は退学の危機を乗り越える為に本当に結婚することにした。  ワケありヤンデレ美少女転校生の『小桜 遥』と”新婚生活”を開始する――。 *結婚要素あり *ヤンデレ要素あり

処理中です...