秘密の日記〜おもらしメモリーズ〜

柊ヒソカ

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第四話「最高学年の失態」

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あの日から、また時間が流れた。

スマホの画面を見つめながら、私はさらに記憶を辿っていく。小学三年生での失敗の後も、私は何度か危ない瞬間があった。でも、なんとか乗り越えてきた。
そして、小学六年生。最高学年になった。

六年生になると、学校での立場が変わった。
一年生の子たちの面倒を見たり、掃除の時間に下級生を指導したり。「お姉さん」として振る舞うことが増えた。
「瑞稀お姉ちゃん、これどうやるの?」
一年生の女の子に聞かれて、優しく教えてあげる。
「お姉ちゃん、すごーい」
そう言われると、嬉しかった。もう最高学年なんだ。もう子供じゃないんだ。そんな自覚も芽生えていた。
だからこそ、もう失敗はできない。下級生の前で恥ずかしい姿は見せられない。
そう思っていた、あの日まで。

十一月のある日。少し肌寒い朝だった。
「今日、全校集会あるんだよね」
朝の教室で、隣の席の友達、麻衣ちゃんが言った。
「うん、体育館に集まるやつ」
「めんどくさいよね。長いし」
全校集会は月に一度くらいあった。全校生徒が体育館に集まって、校長先生の話を聞く。いつも長くて、退屈だった。
三時間目が終わって、みんなで体育館に移動した。
体育館には、一年生から六年生までが学年ごとに整列する。一番前が一年生。一番後ろが六年生。私たちは最後列に並んだ。
「気をつけ。礼」
生徒会長の号令で、集会が始まった。
最初は教頭先生の話。十月に行われた運動会の振り返りだった。
「今年の運動会では、皆さん本当によく頑張りました。赤組も白組も、最後まで諦めずに競技に取り組む姿が素晴らしかったです」
教頭先生の声が体育館に響く。私は姿勢を正して、話を聞いていた。
その時、ふと下腹部に違和感を感じた。
トイレ。
でも、まだ大丈夫。そんなに強くない。集会が終わればすぐにトイレに行けば良い。
教頭先生の話が終わって、次は生徒会の子が話し始めた。十二月に行われる合唱祭についてだった。
「各学年、練習を頑張ってください。今年のテーマは『心を一つに』です」
生徒会長の話。それから、各委員会からの連絡。図書委員、保健委員、美化委員……次々と話が続く。
尿意が少しずつ強くなってきた。
もじもじと足を動かす。でも、全校集会中だから、あまり動けない。前には下級生たちがずらっと並んでいる。変な動きをしたら目立ってしまう。
「長いね」
隣の麻衣ちゃんが小声で囁いた。
「うん、いつもより長い気がする」
「私ちょっとトイレ行きたくなってきちゃった」
麻衣ちゃんが笑いながら言う。
「私も」
小声で答えた。でも、笑えなかった。私の尿意は、麻衣ちゃんが思っているよりずっと強かった。
委員会からの連絡が終わって、やっと集会も終わりかと思った。
でも、違った。
「それでは、校長先生からお話があります」
司会の先生が言った。
校長先生が壇上に上がる。
「はい、皆さんおはようございます」
校長先生の話が始まった。
校長先生の話は、いつも長い。それは、全校生徒が知っていることだった。今日も例外ではなさそうだ。
「先日の運動会では……」
また運動会の話。さっき教頭先生も話していたのに。
尿意がどんどん強くなってくる。下腹部が重い。膀胱がぎゅうっと圧迫される感じ。
膝を少し曲げる。内股に力を入れる。でも、それだけでは追いつかなくなってきた。
「そして、これから冬に向かって寒くなりますが……」
校長先生の話は続く。季節の話。健康の話。勉強の話。
太ももをぎゅっと閉じる。お尻に力を入れる。もう、話の内容なんて全然頭に入ってこなかった。
「ねえ、校長先生の話長いよね」
麻衣ちゃんがまた囁いた。
「うん、長い……」
声が震えていた。
「大丈夫? 本当にトイレ行きたそう」
麻衣ちゃんが心配そうに見てくる。
「ちょっと……やばいかも」
小声で答えた。もう、我慢しているのを隠せなくなっていた。
「もうすぐ終わるよ、きっと」
麻衣ちゃんが励ましてくれる。でも、校長先生の話は終わる気配がない。
足をもじもじと動かす。くねくねと身体を揺らす。もう、人目なんて気にしていられなかった。
「それでは、最後に……」
校長先生が「最後に」と言った。やっと終わる。あと少し、あと少しだけ。
「皆さんに、大切なお話をします」
え、まだ続くの。
心臓がドキドキする。もう限界だった。膀胱が破裂しそうなくらいパンパンだ。
「感謝の気持ちを持つということは……」
校長先生の話が続く。感謝の話。道徳の話。
涙が出そうだった。もう無理。本当に無理。
その時だった。
「以上です。ありがとうございました」
やっと、やっと終わった。
「よかった……間に合いそう……」
心の中で呟いた。安堵の息が漏れる。あと少し。もうすぐ解散だ。そうしたらトイレに駆け込める。
校長先生が壇上から降りる。
「それでは……」
司会の先生が言いかけた。これで終わりだ。
「あ、すみません。もう一つお話があります」
教頭先生が前に出てきた。
え。
「まだあるの……?」
麻衣ちゃんが小さく呟いた。
私は、もう声も出なかった。心の中で叫んでいた。
「え、まだ終わらないの……どうしよう……もう我慢の限界……」
教頭先生が話し始める。
「来月の持久走大会についてですが……」
持久走大会の話。日程の話。注意事項。
聞いていられなかった。頭の中は真っ白だった。
「どうしよう、どうしよう……」
足をぶるぶると震わせる。太ももをきつく閉じる。でも、もう限界を超えていた。
「六年生にもなって……下級生もいるのに……全校集会でおもらしなんて……」
そんな考えが頭をよぎる。絶対にダメだ。絶対にできない。でも、身体はもう限界を訴えている。
「麻衣ちゃん……」
震える声で囁いた。
「どうしよう……もう我慢できない……」
「え、本当に?」
麻衣ちゃんが驚いた顔をする。
「もれちゃう……」
その言葉を言った瞬間だった。
じゅわっ。
下着の一部が熱くなった。出口が熱い。漏れてる。
「やばい!」
心の中で叫んだ。止めなきゃ。止めなきゃ。
必死に力を込めた。一瞬、止まった。
でも、もう遅かった。
じょろろろろろ。
堰を切ったように、おしっこが溢れ出した。
「あ……」
小さく声が漏れた。
温かなおしっこが下着を濡らす。太ももを伝う。体操服のズボンに染み込んでいく。靴下まで濡れる。
止められない。止まらない。
「瑞稀ちゃん……?」
麻衣ちゃんの声が聞こえる。でも、答えられない。
じょろじょろじょろじょろ。
足元におしっこが滴り落ちる。体育館の床に水たまりができていく。
ざわざわ。
周りがざわつき始めた。近くにいた六年生の子たちが気づいた。
「え、ちょっと……」
「嘘……」
小さな声が聞こえる。そして、その波が広がっていく。
前の列の五年生も振り返る。四年生も。三年生も。
ざわざわざわざわ。
体育館中がざわつき始めた。
「あの、静かに……」
教頭先生の声が聞こえる。でも、ざわつきは収まらない。
じょろじょろじょろ。
まだ出続けている。長い。いつまで経っても終わらない。
前の方にいた先生たちが走ってくる。
「大丈夫!? ちょっと、みんな静かに!」
先生たちの慌てた声。
一年生の子たちも振り返っている。小さな子たちの目が、私を見ている。
「お姉ちゃん、どうしたの?」
誰かの声が聞こえた。
恥ずかしい。恥ずかしすぎる。
最高学年の六年生が。下級生たちの前で。「お姉ちゃん」として振る舞っていた私が。
全校集会で。
おもらしをした。
ようやく、出終わった。
足元には大きな水たまり。濡れたズボン。びしょびしょの靴下。
「瑞稀、保健室行こう。ほら」
担任の先生が駆け寄ってきて、私の肩に手を置いた。
でも、動けなかった。足が震えて、一歩も動けない。
全校生徒の視線。先生たちの慌てた顔。下級生たちの驚いた表情。
すべてが私に向けられている。
「ほら、行こう」
先生に促されて、ようやく一歩を踏み出した。濡れた靴が、ぺたぺたと音を立てる。
体育館の端を通って、出口に向かう。その間、ずっと視線が突き刺さっていた。
体育館を出た瞬間、涙が溢れ出した。

保健室で着替えて、早退することになった。
お母さんが迎えに来てくれた。何も聞かずに、ただ「大丈夫」と言ってくれた。
でも、大丈夫じゃなかった。
明日から、学校に行けない。
全校生徒が知っている。先生たちも知っている。
「六年生なのにおもらしした子」として。

スマホの画面を見つめながら、私は深くため息をついた。
あれは、私の小学校生活で一番恥ずかしい出来事だった。
あの後、しばらく学校を休んだ。でも、いつかは戻らなければいけない。
そして、戻った時のことも……また、別の記憶として、私の中に残っている。
「もう、思い出すのやめようかな」
呟きながらも、私はまた次の記憶を探し始めていた。
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