前世乙女ゲームの製作者だった公爵令嬢は「悪役令嬢」と「結婚」は厄介そうなので、憧れの「先生」を目指します

彩多 花音

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スターチスは突として

8-b.冷たい気持ちと海の導き

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「この天気、というか雨。何かを訴えている。それもある特定の人物に向けて。」
 アイラスさんの周りをくるくると回りながらそう話したのは例の魔獣だった。
「そうですわ。ツァイト、あっちの姿になってみるのはいかがでしょうか。」
「ううん。今は嫌だ。」
「ごめんなさいアクアルータ様今日はこのままでもよろしいでしょうか。」
 何のことかはわかりかねますが問題はないですよ。
「そういえば、この子の名前はツァイトで合っていますか。」
「えぇ、合っていますよ。そういえば、アクアルータ様には魔獣様はいらっしゃらないのですか。」
 魔獣様か。そういえばあいつも魔獣様なんだよなぁ。あんな感じだと忘れちまう。
「まぁ、何とも言えない感じですよ。」
「そうなのですね...。それよりこの天気」
「チョーっと待てーい! おい、あたくしを呼ばないとはどういうことだシートル!」
 アイラスさんとの素敵な時間を過ごそうとしていたのに、この大事な空気をぶち壊してというか扉をぶち壊して入ってきたのはつい最近あったあいつだった。
 ここはアクアルータ公爵家なんだから、勝手に入ってきてほしくなかったんだけどな。
「ア、アクアルータ様。この方は一体誰でしょうか。」
 アイラスさんは少しだけ震えて、顔色も青白くなっていた。
 天使のアイラスさんが怖がってるじゃないか。あ~もう、はぁ。
「初めまして、アイラス・ジェシー。あたくしはオルクールだ。いつもこのうるせぇ奴と仲良くしてくれてありがとな。」
「アイラス...ジェシーです。」
「ぼく、ツァイト。初めまして。」
 水の魔獣王!? なんでツァイトはこいつが水の魔獣王であることを知っているんだ。そもそも今は人間の姿をしているというのに。
「ツァイト、よくわかったな。あたくしの正体に気づく奴なんてなかなかいないぞ。いい鼻持ってんだな。」
 ツァイトは褒められて少し嬉しそうにしていて、普通の動物とほぼ変わらないと思った。
 その一方でアイラスさんは少しふらついていて今にも倒れそうだった。慌てて隣で支えようとしたが、「大丈夫です。少しお手洗いに行ってきますね。」と言って壊れた扉をくぐって部屋を出て行ってしまった。
 大丈夫ですか、アイラスさん。
「シートル、嫌われたな。」
「そんなこと言うなよ。どうすればいいんだ。」
 ツァイトは突然走り出して部屋を出て行ってしまった。もしかしたらアイラスさんを追いかけに行ったのかもしれない。それより俺も追いかけなくては。そう思って扉の方に向かおうとしたときオルクールに足止めを食らった。
「今お前が言ったところでなんにも意味ないよ。今彼女に必要なのはお前がいない時間だ。」
 そんなこと言わなくてもいいじゃないか。俺だって心の中でそんなことわかってたよ。それでも。

 私は今迷子になっている。角を曲がったときに謎の隠し扉とぶつかってしまい薄暗い部屋に閉じ込められてしまった。
「あのぅ、誰かいらっしゃいませんか。」
 返事は帰ってくることなく、私の声が響いているだけだった。
 そもそもあんなに素敵な令嬢がいらっしゃるのにどうして私を呼んだんですか。
 海のように綺麗なグラデーションした髪を高い位置で一つにまとめたその儚い美少女を見てしまって、私は動揺を隠せなかった。ツァイトが何か言っていたような気がしたけれど、そんなのも聞こえなかった。
 はぁ、一瞬でもアクアルータ様を好きになってしまった自分が恥ずかしい。もう、この気持ちは閉まっておこう。この苦い気持ちは全部捨ててあの美少女にすべて任せてしまおう。
 それよりもこれどうすればいいのかしら。ずっとここにいてもどうすることもできないですし。なんか、ひんやりしてる?
 キョロキョロと辺りを見回してみたが特に不審な点は見られない。だが耳を澄ませると「ぴちょん、ぴちょん」という音が聞こえる。この音は一体何かしら。水?
 ヒャッ
 足元に液体がたまり始めていた。少しづつ足元が冷えてくる。寒い。どうしよう。

 しばらく経ったが足元くらいだった水位が膝上近くまで来てしまった。
 ドレスが液体を吸ってしまい、どんどん重くなっていく。ドレスに足を取られ思わずこけててしまった。そしてその時に頭を強く打ち付けてしまいそのまま気を失ってしまった

「...らす! あいらす! アイラス!」
 目の前には美少年...ツァイトがいた。とても大泣きして。
「よかった。アイラスが生きていてくれて本当に良かった。」
 記憶があるのはあの薄暗い部屋にいた時まで。今は、恐らく私の部屋にいるで合っていると思われますが。
「えっと、私、何があったのですか。」
「アイラスは後で知ればいいよ。それより、もうあいつと会っちゃだめだ。」
 あいつとはいったい誰のことでしょうか。
「あいつって一体誰のことでしょうか?」
「あいつってシートルのこと。」
 そうですか。もう、あの時に苦い思いは閉まったからもう彼に対して何とも思わない。そう思いたい。彼は過去のこと。もう大丈夫。
「ツァイト、体調がよくなったら一緒にお出かけしましょう。」
 涙なんか流さない。私は強くなると決めたのだ。ベッドの中で静かにそう決意した。

 あのとき、俺は何をすればよかったのだろう。
 アイラスさんが屋敷の隠し部屋で溺れていたとメイドから聞いたときは心臓が飛び出るのではないかというほど焦った。あの部屋はアクアルータ家の魔法水を保管するための部屋になっていて、あの部屋を調節して魔法水を精製しており、本来人が入る場所ではない。なぜそこにアイラスさんが入ってしまったのかはわからないが無事生きていてくれただけよかった。
 あの日から数日後、アクアルータ公爵家に一通の手紙が届いていた。それは、
「もう二度と娘と会わないでくれ。」
 というものだった。
 その手紙は俺の心を絶望に落とすものでしかなく、この状況を変えられない自分にとてもムカつき、苦しかった。でも、俺の未熟な判断が招いてしまたことだと自覚しているからこそ、ジェシー侯爵家に反論の手紙を出すことはしなかった。
 この件で、俺は深く心に決めたことがあった。もう二度と己の判断不足でこのようなことを起こさず、静かに過ごしていくと決めた。
 今はただアイラスさんの体調がいち早く回復するのを願うばかりだった。
 外は雲で覆われ、陽の光がどこに当たっているのかすらわからなかった。

+DOOR
アイラスを守れるのは僕しかいない! そう感じたこの時からお空に僕は誓った。どんな時でも、もう二度と離れない。心身ともに強くなるから、おいていかないでアイラス。そう静かにツァイトはつぶやいた。
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