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【#10】喜多遊子3
しおりを挟む残りの料理を出し終え、喜多氏はすぐさま自室に向かった。「彼」と会うには、特定された場所があるようだ。
その場所は「彼」と右腕であるミュールしか知らない「亜空間」。これも、「彼」が創り出した「彼」専用の部屋。そこに行くにはお風呂かプールか。水に入ることのできる場所から通じることができる。
コロニーのプールに入るには人目もある。だから喜多氏は常に自室のお風呂には湯舟をはるよう、日課にしたのだ。
さて、わたくしも行けるだろうか。最大防御出力マックスで向かおうと思う。こんな、中々無い接触を試みることができるなんて、予想外の想定外のもので、正直驚いている。
喜多氏は服はそのまま、お風呂に入る。
あ、待ってぇ~!
彼女が入り、湯舟が光ったのと同時に、わたくしも入ることができた。いや、これは「許された」が、正しいのかもしれない。
喜多氏とともに到着したのは、小さな喫茶店。コーヒーのいい香りが鼻をかすめる。
「あー! ようやくきたぁ! きただけに? ぷーくすくす」
カウンター席でちょこんと座る美少女。
この赤い髪に金色の瞳、その鱗の尾は、あぁ、竜の一族のミュールちゃんだ。小さいし、ちゃんづけは許されるよね? どうしようこんな可愛さで実は齢1000歳だったら。竜はありえーるし。
「またそんな変なダジャレ。由利亜から悪影響受け過ぎ」
「むっ、ゆりあねぇさまをぶじょく、ゆるさない!」
「だから言ってるでしょ? 由利亜は尖り過ぎなの色んな意味で。あれは地球人辞めてるよ? うちの対宇宙人食を好んで食べてるんだもん。もう地球人じゃないわあれは」
喜多はミュールの隣に座る。
「それで、ワン様は?」
「わんはもうすぐくる。きゅうによびだしがあったんだって」
おやまぁ。前回の喜多氏のメモリーを覗いた時よりも随分言葉が流暢に話せるようになってますね。これは感心感心。
「あの方はいつもお忙しいのに」
「むっ。なにそれ」
「なに、とは?」
「そのわんのこと、なんでもしってる、な、くちぶり」
喜多氏は満面の笑みを浮かべる。
「少なくとも、貴方よりかは知ってるよ」
「ななななななんっ」
ーカランッ
カフェの扉が開かれた。
現れた人物に、喜多氏とミュールは席を立ち、背筋を伸ばす。
「ごめんごめん、待たせちゃって」
あの喜多氏のメモリーを見た時と何ら風貌が変わらない、コロニー21の称号持ちトップがご降臨された。この人、地球人、なんだよね? 喜多氏はいい歳の重ね方をした大人になったと思うけど、この人、当時と何ら変わって無さ過ぎて怖いんだけども。
「こらこら」
喜多氏とミュールは、そんなわたくしの思考をつゆ知らず、ワンの腕に抱かれている小さくてもふもふした真っ白な人狼を凝視していた。
「ぅきゃぁいあっきゃ」
その子はじたばたとワンの腕の中で暴れて楽しんでいるご様子。
「ワン様、その子は?」
「あぁ、急遽預かってね。この子は二、三歳くらいの、まぁ見ての通り人狼なんだけど」
「ぅあい!」
きちんとした青い眼で、その人狼の子供は手を挙げた。
「この子のこの手を見てくれ」
小さい手の甲に、二つの「噛み跡」があった。ただ、こんな小さな手には大きな傷跡になっていた。意図的かつ噛んだのは成人であることが分かる。この噛み跡で、この子の人生は変わってしまったのだ。
あぁ、わたくし、沸々と怒りを覚えます。
「・・・なんてこと!」
ードォンッ!
ミュールの足元がひび割れる。
「・・・ころしても、いいよねぇ?」
「ぅあぁっきゃい!」
当の本人は元気よくまた手を上げる。ぷにぷにの薄桃色の、完熟していないその肉球を掲げて。
「大丈夫、こっちで対処しておいたから」
「何殺しですか?」
「みゅーるはひやぶりがいいとおもう」
「そんな生温い。生きたまま皮を剥がすのがいいのよ」
「おっえぇー」
「本当の生身にしてから焼いて」
「まぁ、たべものも、かわむいてから、やくし、そうだね」
「そうよ。ちゃんと生きたまま、じゃないと意味がないからね」
「そうだね。うまれてきたこと、こうかい、させないとね」
「そうそう」
「ぅっきゅ!」
「こら、君は賛同しなくていいの」
ワンは人狼ちゃんの挙手を下げる。
「でも念の為、この子はきちんと元は人間か、確認しておかないとね」
「あ、あぁ、そうですね」
喜多氏は人狼ちゃんを見つめる。
「あい」
人狼ちゃんはまた右手を上げる。
「偉いね、少し食べるね」
パクッ。
喜多氏は人狼ちゃんのおててのさらに小さい指を口に含んだ。
「おおおおおおぅぅぅ」
何故か人狼ちゃんはまん丸に目を輝かせ、興味津々だ。
「・・・・・・」
喜多氏の瞳が一瞬、紅に染まる。
「どうだい?」
「はい、人間です。男の子なんですね。まつ毛が長いし可愛いからつい女の子かと」
「おとこのこなんだぁ」
「ぁい!」
またおてて挙手。
「それで、本題なんだけど」
「はい、いいですよ」
「え? いやまだ何も言ってないよ」
「いえ、ワン様の言わんとしてることは分かりました。うちの眷属にさせるかはこの子次第で、この子の面倒は見ますよ」
「さすがは喜多、話が早くて助かるよ」
「ジンジャーも無事大きくなりましたし、一人も二人も変わりませんから」
「いやぁ、ジンジャーはイケメンに育ったねぇ喜多。彼も長寿だし、別にパートナーでもいいんじゃない?」
「なっ!?」
喜多氏の顔がおやまぁ真っ赤だ。まんざらでもなさそう? へぇ、ジンジャーは喜多氏が育てたのか。
「ということはぁ、このこはじんときたのこども、せってい、でよくない?」
「ぅあいっ!」
可愛い挙手入りまぁす。
「っとに貴方は! どこでそんな言い回し覚えてくんのよ!?」
「・・・十中八九、高野由利亜だね」
またか。恐るべし彼女の影響力。あぁ、彼女がウインクして投げキッスしてる様子が想像できる。
「まぁ、ジンジャー君にも手伝って貰って。ベビーシッター代は僕から出すから」
「・・・はい、畏まりました」
ワンは人狼ちゃんを喜多に渡す。
「ワン様、この子の名前は?」
「トウヤ・ホオズキ」
「! ・・・鬼灯、なるほど。ジンジャーより強くなりそうですね」
「そうかな? ジンジャー君は元は地球人と緑人のハーフだ。地球は緑人の母星グリーンテイル惑星の子孫だし、真に自然の力を使える時が来たら・・・」
にっこりと笑ってない笑みをワンは浮かべた。
「彼もゆくゆく『称号持ち』入りだ。あぁ、楽しみだ」
喜多は苦笑を浮かべる。
「楽しそうで何よりです」
「そうだね、わん、うれしそう」
「あぁ、そうそうジンジャー君と言えば」
「はい」
「彼を眷属にしたかい?」
「いいえ」
「え? あれ? 即答」
「正直、まだその話題すら出してません」
「えー何で?」
喜多の目が泳ぐ。
「・・・それが、彼の人生のターニングポイントになってしまうからです」
「・・・なるほど、育てた『情』か。眷属になるということは、主が死ねば自分も死ぬ。命を共にするということだし、『絶対支配』だっけ?」
「はい」
「いいねぇ、ゾクゾクするよそういうの」
「っきゃい!」
またもや可愛い挙手。その手をそっと喜多氏は下げる。
「でも、彼に選択肢は投げないと。それが人狼になった彼の『義務』だ」
「・・・で、ですが・・・」
「喜多、君は最後の地球の血人だ、それも地球人でありながらの先祖返り。君が途絶えれば、僕の戦力も大打撃を受けるよ」
「そっ、それは」
「君はこの地球の吸血鬼の『クイーン』だ。その自覚があるのなら、地球を護る為に、僕の左腕として、最優先事項を考えるべきだ」
ワンの瞳が虹色を灯す。
「君のクイーンロード騎士団がもっと戦力になってくれたなら、いずれ僕の血を飲ませてあげよう」
「!」
今までにないくらい、喜多氏の眼光が光る。あのPONだった彼女が嘘だったような、恐ろしい嬉しい欲しいそんな欲望を秘めた顔つきをしていた。いやぁ、この顔も好きだね。
「・・・ふふ、その顔。やっぱり君は吸血鬼だねぇ」
「だねぇ、いいおかおだよきた」
「・・・・・・」
喜多は頭を垂らした。
「・・・ワン様の仰せのままに」
「っぅあい!」
人狼ちゃんも忠誠を。
「じゃぁ後はよろしく。僕はまた行かなきゃいけないところがあるから」
「はい」
「ぁい」
「・・・・・・」
ん?
今、ワンがわたくしを一瞥したような。
「・・・あんまり、この空間に居られるのも困るしね」
え? おや?
「え? もうかいぎ、おわりなの?」
ミュールをなでなでするワン。
「あぁ、ミュール、行こう」
「わかった」
「じゃぁ喜多、よろしく」
「はい」
ーカランッツ
二人を見送り、扉が閉まるのを確認する。
「・・・よろしくね、トウヤ」
「あぃ」
人狼ちゃんはぎゅっと喜多氏にしがみついた。自分を護ってくれる人だと、本能で理解しているのだろう。
「はぁ、ジンに何て言おう・・・」
重い足取りで、喜多氏は扉のドアノブをひねり、開けた。
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