【休止】天の声、実況、す。

佐橋 竜字

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NUMBER’S CONSCIOUSNESS

【#高野由利亜】10

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 由利亜を宇宙人に?
「京…」
「お嬢、こげちゃいますよぉ」
「あ、はい、ごめんごめん……」
 梅昆布味の衣をつけた鶏もも肉が確かに揚げ過ぎになるところだった。
「何味なんですぅ?」
「梅昆布味だけ……ど……」
 ん? こいつは…。
 茶色いもふもふのくまのぬいぐるみ。あれ? こいつを探していたんじゃなかったっけ?
「ハァ、ハァ、ハァ…じゅる」
 折角のぬいぐるみボディの御口元が、涎でベトリアンになっている。
「あんた、ミラーだよね」
「ハッ!?」
 そう呼ばれて、ミラーは由利亜を見つめた。
「あ、なたは、さっき一緒にいた…いた…いましたぁ?」
 可愛く首を傾げても無駄だ。
「いたわ! あぁそう? そうよね? 由利亜は眼中にないもんね? このチキンは京子のものだから、あげないから」
「はぐgklpぼあmふぇgrrrr!」
 一体何語だよ。
「おい新入り。先輩として教えてあげる。由利亜のこのチキンは最高級にそれはもう宇宙一美味い。これを食べるには、どうしたらいいか」
 まぁ宇宙一美味い味付けの唐揚げ粉、使ってるからね。
「…ゴクリ…」
「由利亜に絶対服従を誓うんだ。そうすれば、朝、昼、晩。このツィキンヌは食べ放題!」
 いや胃がおかしくなるから。それとも宇宙人の胃は地球人より頑丈なのかな? そもそも比較するのがおかしかったり?
 ぽてぽて。
 ミラーが由利亜の前に背筋を伸ばして立った。
「あぁ、待って」
「え」
「まずは食べてごらんよ。そんなほいほい服従するもんじゃない。まぁ、由利亜は嬉しいけど、今後、胃袋掴まれたぐらいで、自分の人生を他人に委ねるんじゃない。ちゃんと、見極めてから、決めて」
「……お、お嬢……」
 後味悪いじゃんね。やっぱり口に合わないとか、ぶちぶち言われても癪だし。
「はい」
 由利亜もタチが悪い。ふふふ、いきなり梅昆布味という変化球をあげるなんて、オホホ。由利亜だって、食べたことが無い。これはさすがに好みが分かれるなぁ。
「! 由利亜! それは!」
 ふふ、京子の慌てっぷり。
「はぐ」
 ビクッ!
 ミラーの目から光が消えた。
「え、あらやば」
 そんなに美味しくなかった?
「んんんんんんままままままままままままままままままmmmmmmmm!」
 あ、あぁ、そう。
 瞳に光がむしろ宿り過ぎて、よく小さい子が女の子の目を描く時の、めちゃめちゃ白い丸が多いキラキラした目のようだ。
 そんなに美味しいのか?
 どれ、由利亜も一口。
「……」
 由利亜は、普通がいいかな。
「ずーるーい! あたしもあたしも!」
「今揚げてるから、これ食べて待ってて」
 京子に由利亜の食べかけをあげた。すると物凄い勢いで食らいついた。
「ほれがね、ほんほね、おいひいの!」
「分かったから」
「由利亜嬢!」
 またミラーが礼儀正しく、由利亜の前に立つ。正確には由利亜は油やってるから、横にいるんだけど。
「なぁに」
「ミラーの名前はミラー・キーボックス。名前の通り、あらゆる『鍵の管理者』をしているのぉ」
「鍵の管理者?」
 ちょうど揚げ終えたので、一区切り付ける。
「転送装置じゃないの?」
「それはね、表向き。ミラーはこの宇宙に存在する鍵穴を全て開けることが出来る。だからミラーの本当の姿がバレたら、色んな宇宙人に売買されちゃうぅ♡」
 そんな身悶えんでも。売買されたいんかそうなんか。
「全ての鍵穴を開けれるの? …す、凄くない? 凄いよね? ピッキング、要らないんだ。ゲームの中に一匹欲しいよね」
「勿論、ゲームの世界でも開けれちゃいますよぉ♡」
「それチート行為ね? ダメよ。ゲームバグっちゃうからやめて」
 ミラーは大きく両手で縁を描く。
「ミラーは万能な鍵職人なのですぅ♡」
「凄いねぇ。捕まったらすぐ逃げれるんだぁ、これはいい」
 ヤクザの娘はほんと誘拐率高かったからなぁ。ピッキングはもう飽きたし、今はドアノブを蹴り飛ばす練習してるもんね。
「ということで由利亜嬢! 是非このミラーと契約をお願い出来ませんかぁ?」
「…見返りはチキンね?」
 ブンブンブンブンとミラーは頭を上下にロックサウンドが流れるが如く振り乱す。
「いいよ。でも契約って何するの?」
 可愛いくまのぬいぐるみの手が差し出された。
「握手して下さい」
 それだけでいいのか。
 その手を握った。
 ブチッ。
「あああああっ!?」
 突然くまくまのお手てが千切れた。そんなに強く握ってないのにぃ!
「はふん♡ 契り、完了です」
 何感じてんの!? 一大事なのにこのドMが!
「やぁ千切ったけど! …え?」
 ミラーの手は元通りになっていた。あれ? 見間違い? いや由利亜がモザイク断面の手を持ってるわ! この右手に!
「まぁ、落ち着いて♡ それを見てて」
 ふと由利亜が千切り取ってしまった手がすぅっと消えて、もふもふの毛が由利亜の人差し指にリングのように嵌められた。しまいにはぽむっとミラーの顔のワンポイントがあしらわれる、所謂くま指輪の完成。
「これで由利亜嬢の人差し指が、前に立ちはだかる鍵穴の鍵になりますよぉ♡」
「…さらっと怖いこと言わんといて」
「由利亜嬢」
「何よ」
「『鍵』とは、目に見える鍵穴だけではないのですぅ。皆誰しも心に鍵をかけているのですぅ。もしも、秘密の鍵を開ける時は、要注意、してくださいねぇ♡」
 あぁふぅん……意味深な台詞だわね。
「そういう設定、好きよ。これからよろしくねミラー」
「あいっ! チキンマスター!」
「誰がチキンマスターじゃ!」
 な、なんか、由利亜、ツッコミキャラになって来てない? 一応、おしとやか設定なのにしてるのに!

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