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1.ここで出会うか
桃太郎。
桃から生まれた桃太郎が鬼退治をするというお伽噺だ。
お伽噺や都市伝説なんてものはただの迷信だ、そう思う人が多いだろう。でも聞いてくれ。もしそういった迷信が生まれたのなら、何かしら「根拠」や「題材」といったものがあるはず、そうだろう? 何もないものから有は生まれない。つまり想像するにしろ話を盛る「起源」があるはずなんだ。
つまりはそういうことなんだ。
え? 何が言いたいかって?
俺の出生に喜んだ者もいれば悲観する者、妬む者達がいてさ、あ、ドン引きもされたな。
俺の太ももの際どい付け根に、その「証」があったんだ。
桃の絵の「桃太郎印」が。
ちなみに桃太郎の一族はまだ健在していて、「鬼殺し」の一族だけだった。
でも時は過ぎ、やがて争いに疲れた者達が桃太郎一族と鬼族にも現れて。いつしか桃太郎一族に「鬼癒し」という鬼と共存する術を選択した一族が作られたんだ。勿論、本家大元の鬼殺し一族はカンカンの怒りマックス。だから里を離れて、その血を絶やさないよう各地へ散らばったらしい。
桃太郎一族は、鬼にとって桃の力が色んな意味で「脅威」らしい。その桃の力を奪おうとする鬼が桃太郎の血を引く者が存在する限り現れる。だから自分の身を護る術を教わった。
でも鬼癒しというだけあって、癒されたい友好的な鬼もいるわけで、鬼癒しを悪い鬼から守護してくれる鬼も見受けられるようになった。まぁ、優しい鬼さんがいてくれるってことだ。
だから鬼癒しは友好的な鬼にとっては貴重で価値がある。
そうだから、「利用される」ってことも、あるんだよな。
そんな俺の前に、鬼がいる。にこにこと。でも笑ってないんだよねぇ!?
「いやぁ、本当に桃が存在してたなんて」
桃。俺のこと桃呼ばわり。
まさかの講師。しかも女子が群がるほどの顔面偏差値高しの整った黒髪美形の顔立ち。背丈もあって足も長い。俺の大学生活一年目の晴れ舞台での民俗学部ゼミの先生ときた。オリエンテーション終了後残って、と先生の特権を行使された。先生のゼミ室に二人きり。凄くやばいのでは。
「せ、先生は、俺を、どうするおつもりで」
相手は大人だ。この自慢の拳でも勝てない。
「羽桃李董一郎君だったね。羽桃李、君の家系は鬼癒しの一族かな?」
やっぱりご存じですよね。えぇ、だって民俗学専攻の先生ですもんね。
「そ、そうです・・・」
「今までに鬼に会ったことは?」
俺は頭を左右に振った。
「へぇ、そうなんだ。本来鬼癒しの桃太郎一族はこんな都会に来たりしない。護ってもらうために村で鬼一族と婚約してひっそりと暮らし囲われて生きていく。こんな所へ来る奴は鬼殺しぐらいのはずだけどなぁ」
ご、語尾が圧が強くなった。これは疑われているのでは。
「いるんだよね。鬼癒しの家系でも鬼殺しする奴らが。まぁその逆もあるけど、前者の方が立ち悪いでしょう? そういう桃に何度も遭遇してるからさ」
怒ってる。癒します~と見せかけて殺されそうになったのか。桃太郎一族も悪い事考える奴がいるもんだな。でもそもそも「鬼」と聞くと「悪」って思考になるもんな。
先生。その名を鬼倉統吾の目が鋭利になる。じりじりと俺との距離を縮めて来る。
「おおおお俺本当に鬼殺しなんて」
先生はふんすふんすと俺の首周りの匂いを嗅ぐ。犬か。
「血の匂いがしないね」
「! こわっ! 何怖いこと言ってんだ先生が! 警察に捕まるだろ犯罪だ」
「・・・君は知らないのか? 鬼殺しは桃太郎権限で正当化される。職権乱用ってやつ」
「は、はぁっ!? 嘘だろ!?」
「嘘じゃない。警察上層部は桃太郎一族でいっぱいだ。だから鬼は『邪悪』だとされる。生かされるだけで有難いと思え、だそうだ」
「そ、そんな・・・」
じゃ、じゃぁ、先生は? 疑問が浮かぶ。
「せ、先生は何で生かされているんだよ」
先生は不遜の笑みを浮かべる。
「鬼殺しに『貢献』してるから」
つまり。
「同族殺し・・・」
「はっきり言うねその口は」
「ふぐっ」
慌てて口を塞いだ。
「ふいまへん」
「でも本当に桃を食い散らかす理性の無い鬼がいるから。そいつらを見つけて駆除してるだけだよ」
でも・・・。駆除、というのはやはり「殺す」と同じ意味だろう。
「・・・ふふ、オレが怖いかな」
「・・・まぁ、はい」
「正直だね」
まじまじと先生は俺を見下ろす。
「だけど不思議だ」
「? 何がです?」
「鬼癒しが誰一人として鬼に遭遇せずこんな都会にのこのこと生活できるはずがない」
「・・・ぇ、あ、そ、そうですかね」
「何か理由があるはず」
「こ、これ! です」
俺は母親から貰った樹木のブレスレットを見せた。
「これは・・・」
「母さんからの御守りです。母さんは村を出れないから、この村のご神木で作った御守りが代わりに護ってくれるって」
「・・・・・・」
沈黙が怖い。
「君はどうしてここへ来た? 何で来た?」
よく村の皆に聞かれた台詞。
「何でって。外の世界を見たいって思ったからですよ。逆に何で皆は思わないんだって不思議です。確かに村は安全で何不自由のない生活を送れる。でも俺にとって村だけが世界じゃないから」
「はぁ~・・・」
何故か深いため息を零された。
「珍獣だな君は」
「は、はぁっ!?」
いいこと言ったよね俺!?
「本来桃太郎一族の鬼癒しは自分から村を出ない。外には沢山の怖い鬼達がいるからだ。村には結界があって、桃を重んじる心優しい鬼しか入ることしかできないからだ。桃源郷、鬼癒しの拠点。それが君の村でしょう?」
「はい、そうです」
「わざわざ餌がそんな危険な下界に出るなんて。君に流れている血がそうさせるのなら、鬼殺しの血があるんじゃないかな」
「ぅえぇっ!?」
「鬼癒しは基本防衛本能の塊だ。それを君からは下界への好奇心でここへ来た。無防備にもほどがある。その御守りは上位の鬼には通じないというのに。今まで運がいいなぁ」
ということは先生は上位の鬼。思わず身構える。
「先生はぁ! 俺を、こ、殺すのかっ!?」
先生はきょとんとし、ふいに笑い出す。
「あははははは。殺したかったらもう君は死んでるよ」
なんでこれが先生なんだ!?
「! こえぇこと言うなぁさらっとぉ!」
「鬼の『喰う』は殺す意味だと思ってるのかな?」
「? そうだろ?」
先生は不遜の笑みだ。
「え? 違うのか?」
「まぁ、最終的にはヤり殺すから似たようなもんかな」
「やり・・・」
「オレ達鬼にとって桃は麻薬に等しい。女だろうが男だろうが、セックスしてその体を味わう。味わい尽くすと桃は死ぬけどね」
男・・・だろうが、だと?
「せ、先生は俺に欲情してんのか!?」
また爆笑された。この幼気な俺を性の対象に!? 童貞の前に処女を奪われるのか!?
「まっさか。この大の男嫌いのこのオレが男を喰うなんて・・・・・・はは、ありえないから」
また語尾に狂気な圧がっ。だけど凄く安堵した。
「はぁ、良かった・・・」
「でも物好きがいるってこと。男の桃も喰われるし、逆に逆手にとって男の桃が鬼を誘惑して、悪い鬼でもないのに殺す事件もある」
「ひぃっ 桃が、鬼を、こっ殺す!?」
「君はどうやらそういういけすかない桃じゃなさそうだから見逃してあげるけど。や、まだ監視・・・じゃない観察対象だな」
「ぅえっ!?」
監視言うたぞこの人!
「時代も変わって桃も強くなって来たというわけだ。鬼は殺してもオッケーなのに、桃を殺したら刑務所行き。鬼には理不尽な世の中だよね本当」
「・・・そう、なんだ」
外でも鬼と桃の関係性は続くのか。
「そのブレスレットが鬼除けになっているとは言えど、君には興味がある。一目見た時から監視・・・観察対象入りだったからね」
「もう監視でいいです・・・」
「はぁ、おにゃのこが好きなのに。監視するなら可愛い女の子が良かったなぁ」
「・・・はぁ・・・」
悪かったな男で!
コンコンとドアがノックされた。
「せぇんせぇ~♡」
「あい子達だよぉ遊びに来たよぉ♡」
「おっと。可愛い子ちゃん達が来た」
先生の目が変わった。可愛い子ちゃん達って、おっさんか。
「さぁ話は終わりだ。帰った帰った」
あんたが連れて来たんでしょうがよ。
先生がにこにこと満面の笑みになり、扉を開ける。するとまぁ可愛い女の子達が顔を出した。
先生は悪い鬼では無いらしい。
だって、鼻の下が伸びてデレデレしてるからな。鬼も人間、なんだなぁ。
周りから見たらやっぱり鬼癒しが外へ出るのは異常な行為なのか。
俺は不思議ちゃん認定か先生。
違うんだよ。
俺は鬼癒しでも「出来損ない」。
だからここへ来られるんだよ。
先生を一瞥して、部屋から出た。部屋の中はさっきとは比べ物にならないほどの楽し気な笑いが飛び交っていた。
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