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2.大きな子供がいます
出来損ない。
桃太郎の血を持ちながらもその覚醒しないできないただの普通の人間の子供。
それがこの俺だ。
桃太郎界隈では差別用語だ。村にいても俺は何の役にも立たないし、終いには母さんにも角が立つ。だから外に出るのが懸命だと判断した。高校在学中に働いてお金を貯めながら勉強して、都心の大学を受けた。無事に受かって、運よく大学の近くに安いアパートがあって、このボロいアパートが俺の城だ。
「本当に高いなぁ」
スーパーに買い物しに来るが、本当に都会は一つ一つの値段が馬鹿高い。特売日にまとめ買いして、作り置きをする。冷蔵庫も小さいからそんなに置けないので程ほどに。バイトを探さないといけない。世の中、金なのだ。買い物から帰り際、出入り口に無料の求人雑誌があったので手に取った。
「何、仕事探してるの?」
ふいに背後から声がした。
「ぅわっ!?」
振り返ると何故か鬼倉先生が。
「背後取られたらお終いだよ」
「ぃや背後取る取らないっつー駆け引きは普通はしませんからね!?」
先生は首を傾げる。ここで鬼の話を持ちだしたらどうせエンドレストークになりそう。
「先生ここで何してんスか」
敢えての余談方向へ。
「え。ここで買い物しちゃ悪い?」
先生の手にあるエコバッグからは沢山のもう出来合いのお惣菜とカップ麺がこんもり入っていた。独身か。
「はぁ、俺はまだ若いからいいけど。先生、彼女の一人や二人いるんだろ。その子達に作って貰ったらいいのに」
「む。若さと彼女がいない話を同時に仕向けるの止めて貰えるかな? 先生胸が痛くなったんだけど」
俺のエコバックを除かれる。
「む。何、えぇ、料理してんの? え、出来るの?」
「そういう人を見かけで判断しないで貰いたいですね先生。もうお腹好いたんで、じゃ」
ここは回避。嫌な予感しかしない。
「え、えぇ、ごめんって。今日の夕飯何?」
「先生さようなら」
「ちょーっ、と待って、ねぇ。教えてくれたっていいじゃん」
子供か。
「簡単なオムライスです、以上」
踵を返すとすぐ俺の前に立ちはだかる。
「ん~ここで会ったのも何かの縁」
「監視してただけだろ」
「あぁ~、お腹空いてあぁ~」
「なっ!?」
「お腹が空いて歩けない~」
「はぁっ!? ちょっ、と!?」
こんな所で蹲らないで欲しい。大の大人が! 周りの視線が気になり始める。
「・・・・・・はぁ、何で俺が」
俺が折れた途端にいつの間にか背後にいて背中を押して来る。
「はい、じゃぁこっち、乗った乗った」
「誘拐すんな」
「合意合意」
助手席に座らされて、大学へ。成程。どうせ家には可愛い子ちゃんしか入れないから、だろうなぁこれ。
夜の大学も中々乙なわけで。
「先生の部屋にキッチンあるんですか」
「隣に仮眠用の隠し部屋があるんだよ。あんまり家に帰らないし、隠れ蓑持って来いなんだここが」
「は、はぁ・・・?」
六階のゼミ室を通り過ぎ、奥の先生の部屋へ。また入ることになるとはなぁ。
「まだ夕方だし、てっきり女の子達と楽しくシてるんだと思ってたんスけど」
「え、何を~?」
生徒の口から言わせる気か。
「ん?」
先生があたかもさも当然にデスクの後ろにある白い扉を開けた。
「あれ? こんな扉あったっけ・・・?」
「あぁ、『今』は見えるようにしてある」
「・・・今?」
隠れ蓑とはそういうことか。入るとお洒落なモダンなベッドにテレビにソファにキッチンがある。ダイニングルームに・・・何故かベッドが誇張しているのが少し気になるんだけど。
「お風呂とトイレもあるよ」
「もはや家だろ」
「そう。だから家帰らないんだよねぇ」
羨ましい限りだ。貧乏学生の俺とは大違い。
「やっぱり驚かないんだね」
「はい?」
「いや、『こういうの』。ちょっとした力で改造してるの、分かるでしょう」
桃源郷でも色んな能力を持った子達がいるのは当たり前だった。それが俺だけが異質。でもここでは俺のような者が当たり前。
「便利な能力で羨ましい」
さっさと作って帰ろう。
「キッチン、お借りします」
準備に取り掛かると、先生は俺の周りをウロチョロする。
「何スか」
「いや、君の能力は?」
やっぱりこれだ。民俗学者なるもの、好奇心は無いとな。
「能力がない能力です」
「・・・え」
ほぅらみろ。この反応。まぁ、はっきり言えばもう監視対象で無くなるのかも。桃太郎一族であってないものだから。
「だから、それがここへ来た、もしくは来れた理由です。知ってるはずです。出来損ないっていう存在」
じゅわーと卵が美味しく焼ける。いいフライパンだ。焦げなさそう。
「・・・・・・」
珍しい。ん~とと、口をむにっと閉じて先生が何を言おうか迷ってる。
「・・・ドンマイ」
「なぁにがドンマイだよドンマイが! 実はこのブレスレットは母さんから貰ったって言ったけど、本当は子供の頃に貰ったばあちゃんの形見。母さんは俺には興味がないから」
またふんすふんすと首周りの匂いを犬みたいに嗅ぐ先生。
「そう言えば桃の香り、あんまりしない」
「だろうでしょうよ。これで分かって貰えましたか?」
ご飯をケチャップで炒めて卵を乗せれば、はい完成。
「はいどうぞ」
「え? 君の分は?」
「ここまで来て鬼と関わる必要はないですし、これで監視も終わりです。俺は家で作って一人で食べます」
むすっと顔をしかめなさった。
「む、家に食べるもの、他にあるな」
そうだ。作り置きの野菜スープがある。それを温めてオムライスと食べたい・・・って何で分かったし。
「さようなら」
あれ。ここにあったはずの扉がない。
「ここはオレの空間だと言ったでしょう。オレが主だ」
そんなこと一言も言ってないけどぉ!?
「スープ、温かい熱いスープ、飲みたい」
「くっ」
まるで思考が読まれているかただ食事スタンスが似ているだけか。
「兎にも角にも、ここから出るにはオレを満足させないとね」
「・・・っこの・・・っ、はぁ~」
なんで俺が折れないといけないんだ。
「分かりました、分かりましたよ! 作ればいいんでしょ作れば」
「ついでに食べていきなよ」
「えぇそうですね! 作るのは俺ですからね!」
結局野菜スープを作って自分のオムオムも作って食べた。
「あ、お風呂入ってく? 君んちのお風呂はあって無いようなものだし」
「こっ! ~っ・・・ふぅ・・・」
落ち着け俺。奴の挑発に乗るな俺。
「湯冷めして風邪ひくのでいいです。狭くてボロイお風呂に入りますので帰らせて下さいませんか」
食器を洗い終えたのでもう帰りたい。
「大丈夫。帰りは君の家の扉と直結してあげるから」
「は?」
「扉開けたら君の家の部屋ってこと。だからお風呂入っていきなよ。うちの風呂はいいぞ~」
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「あーはい。有難き幸せ。最初で最後、入らせて頂きます」
もう帰りたい一心だ。
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