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「ここから降りれるでしょ。」
その言葉に場の空気が凍り付く。
その視線の先にあるのは…崖だ。
先の木曽義仲討伐から間を開けることなく、次に命じられたのは平氏の残党狩りだった。
義仲が叩き、命からがら都を落ち延びたとはいえど。
平氏はまだまだ余力がある。
頼朝が何よりも痛恨としたのは、幼い安徳天皇〈アントクテンノウ〉と三種の神器を手にして逃げられたことだった。
その平氏たちを追い詰めるべく辿り着いたのがこの山中。
俺はつい今しがた義経様が『降る』と言った崖を覗き込む。
「なるほど。二手に分かれ、我々が攻めるのはここからと。」
一人、また一人。
自分たちが進むであろう道なき道を確認しだす。
あちらこちらから声にならない小さなうめき声が漏れ出す。
「向こうは俺たちが攻めてくるのは正面から。せめて横からだろうと括っている。そのために崖側に進行したんだ。奴等が捉えられる方向以外から俺たちが現れたら、軍は確実に乱れる。混乱に乗じて猛攻撃を仕掛けて一掃するんだ。どう思う?」
「かなり有効ですな。しかし、この急な斜面。何騎無事に辿り着けるか。」
義経勢の士気は高い。加えて度胸ならば持ち合わせている。
先ほどまでの狼狽はすでに落ち着き払い、腹を据え準備に取り掛かっているのが良い証拠だ。
しかし、問題はその技術。
一体どれだけの数の兵が、騎馬した状態で崖を駆け下りることができるだろうか。
「…そこは。もう信じるしかないね。あとは命かけてもらうだけだよ。」
義経様は、さらりと答えると兵たちに向き直る。
「我々は敵の虚を突く。これより軍を二手に分け、一方は山中から敵軍の正面へ、一方はここから下り降りる!騎馬に自信がある者たちは俺と弁慶に続け。勾配より駆ける勢いでそのまま敵軍を攻めよ!正面より進軍する組は期を見計らい、そのまま突撃!!」
響く号令に、おう!と声が鳴る。
俺は、我先にと崖に挑もうとする荒くれ者たちを二組に振り分けていく。
共に坂下りを命じられた者は猛り、正面に回された者は明らかに不服そうな顔を浮かべる。
「良いか。俺たちが何騎生きて辿り着くかはわからぬ。故に敵を撹乱させる揺動が目的のひとつ。森を抜ける部隊が主戦力となって平氏を叩き潰す。どちらを進もうとも大役に変わりはない。存分に暴れるぞ!」
俺の言葉に兵たちの熱はより強く上昇していく。
この軍は、義経様を筆頭に怖いもの知らずなのだ。
そして。
臆することがない部隊は強い。
出陣の令がくだされると一斉に走り出す。
馬たちが命じられるがままに崖を下り始める。
上手く走れず落下していく者たちを横目に、駆ける。駆ける。駆ける。
暗い道の中。
迷いのない背中が、まるで灯籠のように。
標となって。
視界は澄んだように鮮明に見えていた。
突然、崖から降り立った幾つもの騎馬により淡きふためく平氏軍。
陣形は乱れに乱れ、見事混乱に陥った敵陣はみるみると戦意を削がれ始めた。
間髪を入れず、分けていた別軍が加わると戦況は一気に傾く。
「叩き潰せ!!!」
義経様の激を受け、自軍の底力はどんどんと引き上がる。
まるで鬼だ。
地獄の様なこの場所で。
刀を振り回し斬り付けてくる鬼武者たち。
そして。
そんな事を思いながら。
一番の鬼は自分である、と己の容姿を想像して。
俺は、静かに笑った。
平家軍の鎮圧。
この武功を掲げ凱旋すると、頼朝から次の命がくだる。
指し示された場所は川辺。
余力あと僅かとなった平氏の残党たちは最後の望みに撃って出た。
水上戦。
それは、平氏軍にとっては有利な地形での戦。
源氏軍にとっては極めて不利な戦局。
ここが、きっと最後の戦いとなるだろう。
安徳天皇と三種の神器を持ち。
自分たちが最も得意である舞台へと。
平家にしてみれば、まさに、背水の陣。
追い込まれた鼠が猫を噛むことにならなければ良いが。
勝利を確信した頼朝の蒸気した顔を見つめ。
俺は徐々に陰りを見せ始めた、その歪な兄弟関係を。
ただ、ただ。
無言で眺めていた。
その言葉に場の空気が凍り付く。
その視線の先にあるのは…崖だ。
先の木曽義仲討伐から間を開けることなく、次に命じられたのは平氏の残党狩りだった。
義仲が叩き、命からがら都を落ち延びたとはいえど。
平氏はまだまだ余力がある。
頼朝が何よりも痛恨としたのは、幼い安徳天皇〈アントクテンノウ〉と三種の神器を手にして逃げられたことだった。
その平氏たちを追い詰めるべく辿り着いたのがこの山中。
俺はつい今しがた義経様が『降る』と言った崖を覗き込む。
「なるほど。二手に分かれ、我々が攻めるのはここからと。」
一人、また一人。
自分たちが進むであろう道なき道を確認しだす。
あちらこちらから声にならない小さなうめき声が漏れ出す。
「向こうは俺たちが攻めてくるのは正面から。せめて横からだろうと括っている。そのために崖側に進行したんだ。奴等が捉えられる方向以外から俺たちが現れたら、軍は確実に乱れる。混乱に乗じて猛攻撃を仕掛けて一掃するんだ。どう思う?」
「かなり有効ですな。しかし、この急な斜面。何騎無事に辿り着けるか。」
義経勢の士気は高い。加えて度胸ならば持ち合わせている。
先ほどまでの狼狽はすでに落ち着き払い、腹を据え準備に取り掛かっているのが良い証拠だ。
しかし、問題はその技術。
一体どれだけの数の兵が、騎馬した状態で崖を駆け下りることができるだろうか。
「…そこは。もう信じるしかないね。あとは命かけてもらうだけだよ。」
義経様は、さらりと答えると兵たちに向き直る。
「我々は敵の虚を突く。これより軍を二手に分け、一方は山中から敵軍の正面へ、一方はここから下り降りる!騎馬に自信がある者たちは俺と弁慶に続け。勾配より駆ける勢いでそのまま敵軍を攻めよ!正面より進軍する組は期を見計らい、そのまま突撃!!」
響く号令に、おう!と声が鳴る。
俺は、我先にと崖に挑もうとする荒くれ者たちを二組に振り分けていく。
共に坂下りを命じられた者は猛り、正面に回された者は明らかに不服そうな顔を浮かべる。
「良いか。俺たちが何騎生きて辿り着くかはわからぬ。故に敵を撹乱させる揺動が目的のひとつ。森を抜ける部隊が主戦力となって平氏を叩き潰す。どちらを進もうとも大役に変わりはない。存分に暴れるぞ!」
俺の言葉に兵たちの熱はより強く上昇していく。
この軍は、義経様を筆頭に怖いもの知らずなのだ。
そして。
臆することがない部隊は強い。
出陣の令がくだされると一斉に走り出す。
馬たちが命じられるがままに崖を下り始める。
上手く走れず落下していく者たちを横目に、駆ける。駆ける。駆ける。
暗い道の中。
迷いのない背中が、まるで灯籠のように。
標となって。
視界は澄んだように鮮明に見えていた。
突然、崖から降り立った幾つもの騎馬により淡きふためく平氏軍。
陣形は乱れに乱れ、見事混乱に陥った敵陣はみるみると戦意を削がれ始めた。
間髪を入れず、分けていた別軍が加わると戦況は一気に傾く。
「叩き潰せ!!!」
義経様の激を受け、自軍の底力はどんどんと引き上がる。
まるで鬼だ。
地獄の様なこの場所で。
刀を振り回し斬り付けてくる鬼武者たち。
そして。
そんな事を思いながら。
一番の鬼は自分である、と己の容姿を想像して。
俺は、静かに笑った。
平家軍の鎮圧。
この武功を掲げ凱旋すると、頼朝から次の命がくだる。
指し示された場所は川辺。
余力あと僅かとなった平氏の残党たちは最後の望みに撃って出た。
水上戦。
それは、平氏軍にとっては有利な地形での戦。
源氏軍にとっては極めて不利な戦局。
ここが、きっと最後の戦いとなるだろう。
安徳天皇と三種の神器を持ち。
自分たちが最も得意である舞台へと。
平家にしてみれば、まさに、背水の陣。
追い込まれた鼠が猫を噛むことにならなければ良いが。
勝利を確信した頼朝の蒸気した顔を見つめ。
俺は徐々に陰りを見せ始めた、その歪な兄弟関係を。
ただ、ただ。
無言で眺めていた。
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