【完結】また会えるその時は

MIA

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水面に浮かぶ一面の赤色。

ー終わった。ー

勝どきを上げる自陣の咆哮を耳に、呆然とその惨状の跡を眺める。

隣に佇む大将である義経様の表情は、勝利とは似つかわしくない表情を浮かべている。

憂いの元は。
安徳天皇の入水自殺。
そして。
必ず持ち帰れと言われた三種の神器の紛失であった。

平家滅亡。
この功績を持ってしても、その失態を頼朝は絶対に許さない。

鎌倉へ戻れ。

労いの言葉もなく、ただ放たれた言葉。
連戦に連戦を重ね。
命をかけて願望成就を果たした弟へ。
兄が最初にかけた一言は。
まるで心を持たない、からくり人形のように無機質な冷たい命令であった。


「…どういうことだ。」

門番を睨みつけると、俺たちは帰るべき場所でまさかの門前払いを食らっている事実に戸惑う。

「ですから。頼朝様が『中に入れるな』と。」

青ざめる義経様を見つめて思う。
懸念していたことが、起きた。と。

何となく予感はあった。
弟の武勲を快く思っていない兄の心情は、あらゆるところに小さな火種として落とされていたのだ。
そして。
それが、ついに大きな火柱として義経様の行く手をはばみ出す。

頼朝に源の血は関係ない。
やつは、己の敵となる者は身内であろうが容赦しない。
平家が滅んで、次の敵は…。

実の弟である。
義経様に変わったのだ。

義仲の時に感じた背筋をなぞる嫌な感覚が、再び俺の背中を這う。

ふと、義経様が呟く。

「…検非違使…か。」

その言葉に俺の思考が冴えていく。

ーそうか。なるほど。ー

武士を世の台頭に押し出したい頼朝は、義経様の行動が許せなかったのだ。

検非違使。

朝廷が直々に義経様に与えた役職。
それは、武士を筆頭とした政治を阻止し、引き続き朝廷が実権を握るべく釘であったのだ。

義経様はその役に大きな意味はない。
だが、頼朝にとっては大きすぎる朝廷との密接な繋がりになってしまった、ということか。


その後も義経様様の訴えは虚しくも空に消え。
ついぞ頼朝が心を開くことはなかった。

「義経様…。」

星が瞬く深い宵の刻。
厠へと寝所から出ると外には義経様の姿があった。

「弁慶。なんだ、糞か?」

そう軽口を叩くと俺たちは笑い合う。
度重なる戦の毎日が、まるで嘘だっかのように久しぶりに静かな夜だった。

「なぁ。弁慶。俺はさ、どうすべきか本当はわかってるんだよ。もうどうにもならないことも、わかってるんだ。」

戦で見せる豪快さは、そこには微塵もない。
ただ、小さな子どものように。
か弱い男の姿がそこにある。

「何を気弱な。勇猛果敢なあなたはどこへいったのですか。まるでおなごの様ですぞ。」

俺は言葉に棘をもたせると、容赦なく義経様へと投げつける。

「お前にはわからんだろうな。ずっと天涯孤独なお前にはな。」

返す言葉には同様に棘を含み投げつけられる。

「そうですな。私は、子どもの頃から周りに忌み嫌われ。人よりも大きなこの体を化け物と、実の親にも遠ざけられましたゆえ。」

義経様はその目を逸らさずに話を聞き入る。
誰にも話すことがなかった、俺の深い深い傷。

「兄弟なぞ想像もつかぬ。家族の情なぞ知る由もなし。俺の身内なぞ、とうの昔に捨て置きました。しかし…。」

俺は意を決して言葉にする。
決して表には出すまいと奥底にしまいこんだ、一つの希望。

「私は…。誰からでも良い。ただ、愛されたかった。」

息を呑む音が微かに聞こえる。
俺は、なぜこんな事を主君に話しているのだろうか。
女々しいのは己だと、心の中で嘲り笑う声がする。
しかし。

「…そうか。お前も同じなんだな。」

義経様の言葉に、今度はこちらが目を見張る。

「愛されたい、そうだよ。人間だからな。俺も、お前も。戦場を鬼のように駆け巡っても、俺たちは、人の子だ。」

ー俺たちは、人の子。ー

そうだ。
俺は、認めてもらいたかった。
化け物ではない、人間だと。
誰かに言って欲しかったんだ。

あの日、初めて会ったあの時に。
まるでこの世の者とは思えぬ美しさと儚さを持った男に。
どうしようもなく惹きつけられたのは、同じ思いを背負っていたからか。

全てが腑に落ちた。
俺は、義経様に出会う為に生まれたのだ。

「兄上様の代わりにはなれませぬが。私は生涯、あなた様の味方でございます。もう迷いなさるな。」

頭をそっと垂れると、義経様は大きく息を吐き出した。

「俺もお前の家族にはなれないがな。友だと思っている。今日まで無茶が出来たのも、お前が隣にいるからだ。俺たちは無敵、だよな。道なき道を前に。お前とならば何も迷うことはない。弁慶。俺の側にいろ。」

何とも、義経様らしい。
思わず溢れる笑みを、相変わらず不気味だと笑う。
そんな憎まれ口すらも、泣きたいほどに嬉しいとは。

友。
こんな俺をそう呼んでくれる。
その響きが、これほどまでに己の心を灯すとは。

「ありがたき、お言葉。」

そう言って、月明かりの元で笑い合う。

義経様は。
兄の頼朝と刃を交える覚悟を決めた。
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