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カナリア襲来
①
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フードを頭から被った少年が、羽田空港の国際線ターミナルの到着ロビーに姿を見せた。身長は一六〇センチ程。右手で黒のキャリーバックを引きずりながら、歩いていく。
『Welcome, no, should I say welcome back?(ようこそ、いや、おかえりというべきかな?)』
少年の前に背の高い男が立ちはだかり、英語で声をかけてきた。濃いサングラスで目元を隠しているが、笑っているのは明らかだった。
「ここは日本だ。日本語で話せ」
少年は顔を上げることなく、声を発する。男は肩をすくめた後、流暢な日本語を話した。
「久し振りの日本の空気はどうだい?」
「まだ外に出てないから、わからない」
「そうだね。君はこれから外に出る。この空の下で羽ばたくんだよ」
羽ばたくという言葉を聞き、少年はようやく顔を上げた。右頬に大きな傷痕がある。丸くて黒い瞳、全体的に幼い顔立ちで可愛らしい印象をかき消すには十分すぎる存在だった。
「要求通り来てやったんだ。約束は守れよ」
「勿論。君にとっても、俺達にとっても有益な取引だからね」
男はサングラスを外した後に右手を差し出し、こう言い放った。
「改めて自己紹介だ。ハナムラの始末屋のシラサカだ」
「Kって名前じゃなかったのかよ」
「ここではそう呼ばれてんの。どっちも俺の名前だからさ、好きな方で呼んでいいよ。それで、君のことはなんて呼べばいい?」
黒い髪に青い瞳。圧倒的な存在感に少年は息を飲んだが、負けじと一歩踏み出し、差し出した手をしっかりと握り返した。
「カナリアでいい」
少年には名前がある。日本に生まれ、日本で育った。あの悪夢に巻き込まれるまでは。
「オーケー。立ち話もなんだから行こうか、カナリア君」
シラサカは再びサングラスをかけ、歩き出す。彼の後を追うようにして、カナリアは外へ出た。
通り過ぎる風と耳に飛び込んでくる言葉が、祖国であることを教えてくれる。脳裏に様々な記憶が蘇って、束の間、胸が熱くなった。
「日本の空気を肌で感じたら、辛くなった?」
シラサカはフードの上からカナリアの頭をポンポンと軽く叩いた。あからさまな子供扱いだが、カナリアは逃げようしなかった。
「そんなんじゃねえ」
絞り出すように発した声が震えた。それをわかってのことだろう、シラサカはカナリアの頭を撫でた。
「いいんだよ、泣いて。これから先はもう泣けないからね」
カナリアはこみ上げる感情を必死で押し殺し、パーカーの袖で目元をゴシゴシとこすった後、シラサカの手を振り払うべく、自らフードを外した。右頬だけでなく、右頚部にもナイフで切られたような、大きな傷痕があった。
「君付けはやめろ。子供扱いすんな」
「はいはい。昼飯まだだよな、ハンバーグでも食うか?」
「だから、子供扱いすんなって言ったろ!」
「俺がハンバーグ食いてえの。大人がハンバーグ食ったらダメなわけ?」
「そこまで言うなら、つきあってやるよ」
どんなに懐かしくても、もうあの頃には戻れない。世界が血と闇に染まった瞬間、信じていたもの全てが偽りだと知ったから。
『Welcome, no, should I say welcome back?(ようこそ、いや、おかえりというべきかな?)』
少年の前に背の高い男が立ちはだかり、英語で声をかけてきた。濃いサングラスで目元を隠しているが、笑っているのは明らかだった。
「ここは日本だ。日本語で話せ」
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「久し振りの日本の空気はどうだい?」
「まだ外に出てないから、わからない」
「そうだね。君はこれから外に出る。この空の下で羽ばたくんだよ」
羽ばたくという言葉を聞き、少年はようやく顔を上げた。右頬に大きな傷痕がある。丸くて黒い瞳、全体的に幼い顔立ちで可愛らしい印象をかき消すには十分すぎる存在だった。
「要求通り来てやったんだ。約束は守れよ」
「勿論。君にとっても、俺達にとっても有益な取引だからね」
男はサングラスを外した後に右手を差し出し、こう言い放った。
「改めて自己紹介だ。ハナムラの始末屋のシラサカだ」
「Kって名前じゃなかったのかよ」
「ここではそう呼ばれてんの。どっちも俺の名前だからさ、好きな方で呼んでいいよ。それで、君のことはなんて呼べばいい?」
黒い髪に青い瞳。圧倒的な存在感に少年は息を飲んだが、負けじと一歩踏み出し、差し出した手をしっかりと握り返した。
「カナリアでいい」
少年には名前がある。日本に生まれ、日本で育った。あの悪夢に巻き込まれるまでは。
「オーケー。立ち話もなんだから行こうか、カナリア君」
シラサカは再びサングラスをかけ、歩き出す。彼の後を追うようにして、カナリアは外へ出た。
通り過ぎる風と耳に飛び込んでくる言葉が、祖国であることを教えてくれる。脳裏に様々な記憶が蘇って、束の間、胸が熱くなった。
「日本の空気を肌で感じたら、辛くなった?」
シラサカはフードの上からカナリアの頭をポンポンと軽く叩いた。あからさまな子供扱いだが、カナリアは逃げようしなかった。
「そんなんじゃねえ」
絞り出すように発した声が震えた。それをわかってのことだろう、シラサカはカナリアの頭を撫でた。
「いいんだよ、泣いて。これから先はもう泣けないからね」
カナリアはこみ上げる感情を必死で押し殺し、パーカーの袖で目元をゴシゴシとこすった後、シラサカの手を振り払うべく、自らフードを外した。右頬だけでなく、右頚部にもナイフで切られたような、大きな傷痕があった。
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