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プロローグ~奇跡の始まり~
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どんなに足掻いても割り切れないものがある。それは人間の感情。
否定しても、押し殺しても、根底から這い上がってきて、足下を揺るがすのだ。
「俺が頼んどいてなんだけどさ、帰った方がいいんじゃね」
ハナムラコーポレーションは、大企業ハナムラグループの子会社である。都内の一等地にあるハナムラグループの自社ビルの地下一階にオフィスを構えており、表向きは人材派遣業を営んでいることになっているが、その実態は殺しを専門とする犯罪行為を分業制で行っていた。
「頭に響くから、側でしゃべんな」
表向きの肩書きはハナムラコーポレーション営業部部長、その実態は始末屋(依頼を受けて人を殺すのが仕事)のリーダー、シラサカは、表向きは情報企画部の主任という肩書きを持つ情報屋(標的の下調べから死亡後の戸籍改ざんといったありとあらゆる情報操作が仕事)のリーダー、レイに報告書の入力を依頼していた。
「てめえが出来ねえっつーからやってんだぞ」
「そうだな、俺が悪い、いや、悪かった。後は自分でやるからさ、早く家に帰れよ」
シラサカの声を受け、パソコンの画面に向かっていたレイが顔を上げた。黒縁眼鏡の奥の瞳は赤く充血し、鼻から口元まで白いマスクで覆っている。額に貼った冷却ジェルは、もはや役目を果たしていないのだが、はがすのが面倒だという理由で、そのままにしてある。
「明日ヤッサンにやらせるつもりだろ」
「いや、まあ、俺が触ると、大騒ぎになるから」
シラサカは、コンピューター関係全般が不得意である。連絡用として支給されているスマートフォンも、電話とメールとネット検索しか出来ない。それもレイが操作を教え、簡単に出来るように改造してのことだ。パソコンの規定のフォームに文字を打ち込むという単純な作業でも、シラサカにやらせると一日仕事になる。その上、使用したパソコンが破壊寸前になるという神業をやってのけるのだ。
「ヤッサンの負担を増やすな!」
「わかった、じゃあ、マキにやらせる」
シラサカが育てた始末屋のマキは、幼なじみであり、レイの相棒でもある。どういうわけか右目だけが灰色で、可愛らしい外見をしているが、それがギャップとなり、オッドアイという通り名で恐れられている。
マキもシラサカ同様、コンピューター関係はあまり得意ではないが、入力作業は普通に出来るし、パソコンを壊すこともない。スマートフォンもそれなりに使いこなせる。マキの場合、単に面倒でやらないだけなのだ。
「つーか、もう終わった」
「早すぎだろ」
「字が汚すぎて読めねえところは、適当に変換した」
レイに嫌味を言われても、シラサカは何も言い返せなかった。
「そりゃどうも。終わったんなら帰れ」
「まだやることあるから。どうせ明日から休みだし」
裏の仕事は年中無休だが、会社として、各々夏休みを取ることになっていた。レイは明日から四日間夏休みを取ることになっており、その間は以前情報屋のリーダーであったヤスオカに来てもらうことになっている。ヤスオカの負担にならないようにと、先の仕事を片づけていたら、猛暑も手伝って風邪を引いてしまった。一昨日から熱は三十八度のまま、一向に下がらない。
「その体調でよく仕事が出来るな」
「デスクワークだから問題ない。脱水症状にならないよう、水分は取ってる」
「けど、飯は食えねんだろ」
レイは、すぐさま隣の空き机を指差した。荷物置き場となっているそこには、スポーツドリンクとゼリー飲料がいくつか置いてあった。
「これは飯じゃねえだろ。こんなときに限って、マキは仕事でいねえし」
こんなレイの姿を見れば、マキは心配して、あれこれ世話を焼く。シラサカの言葉はスルーしても、幼なじみのマキにはそんな態度は取らない。最後の最後には、泣き落としという手段が待っているから。
「だから、あんまり側でしゃべんな。頭に響いて──」
シラサカがあまりにうるさいので、離れようと立ち上がれば、酷いめまいに襲われた。昼間だというのに、目の前が真っ暗になる。
こんなときに地震かよ。揺れが収まったら、ボスに連絡取らねえとな。
「……い、……イ!? ……り、し、ろ」
シラサカの声も途切れ途切れにしか聞こえない。どうやらかなり大きな地震のようである。
待てよ、停電してたとしても昼間だぞ。日射したっぷりの体温並みの暑さだし、こんなに真っ暗になるわけねえよな。
「……から、……で、こい!?」
つーか、なんで目を開けられねえんだ。
「……なるま、……やがって!?」
これ、地震じゃねえや、俺が倒れただけか。
認識した途端、レイの意識は途切れた。
否定しても、押し殺しても、根底から這い上がってきて、足下を揺るがすのだ。
「俺が頼んどいてなんだけどさ、帰った方がいいんじゃね」
ハナムラコーポレーションは、大企業ハナムラグループの子会社である。都内の一等地にあるハナムラグループの自社ビルの地下一階にオフィスを構えており、表向きは人材派遣業を営んでいることになっているが、その実態は殺しを専門とする犯罪行為を分業制で行っていた。
「頭に響くから、側でしゃべんな」
表向きの肩書きはハナムラコーポレーション営業部部長、その実態は始末屋(依頼を受けて人を殺すのが仕事)のリーダー、シラサカは、表向きは情報企画部の主任という肩書きを持つ情報屋(標的の下調べから死亡後の戸籍改ざんといったありとあらゆる情報操作が仕事)のリーダー、レイに報告書の入力を依頼していた。
「てめえが出来ねえっつーからやってんだぞ」
「そうだな、俺が悪い、いや、悪かった。後は自分でやるからさ、早く家に帰れよ」
シラサカの声を受け、パソコンの画面に向かっていたレイが顔を上げた。黒縁眼鏡の奥の瞳は赤く充血し、鼻から口元まで白いマスクで覆っている。額に貼った冷却ジェルは、もはや役目を果たしていないのだが、はがすのが面倒だという理由で、そのままにしてある。
「明日ヤッサンにやらせるつもりだろ」
「いや、まあ、俺が触ると、大騒ぎになるから」
シラサカは、コンピューター関係全般が不得意である。連絡用として支給されているスマートフォンも、電話とメールとネット検索しか出来ない。それもレイが操作を教え、簡単に出来るように改造してのことだ。パソコンの規定のフォームに文字を打ち込むという単純な作業でも、シラサカにやらせると一日仕事になる。その上、使用したパソコンが破壊寸前になるという神業をやってのけるのだ。
「ヤッサンの負担を増やすな!」
「わかった、じゃあ、マキにやらせる」
シラサカが育てた始末屋のマキは、幼なじみであり、レイの相棒でもある。どういうわけか右目だけが灰色で、可愛らしい外見をしているが、それがギャップとなり、オッドアイという通り名で恐れられている。
マキもシラサカ同様、コンピューター関係はあまり得意ではないが、入力作業は普通に出来るし、パソコンを壊すこともない。スマートフォンもそれなりに使いこなせる。マキの場合、単に面倒でやらないだけなのだ。
「つーか、もう終わった」
「早すぎだろ」
「字が汚すぎて読めねえところは、適当に変換した」
レイに嫌味を言われても、シラサカは何も言い返せなかった。
「そりゃどうも。終わったんなら帰れ」
「まだやることあるから。どうせ明日から休みだし」
裏の仕事は年中無休だが、会社として、各々夏休みを取ることになっていた。レイは明日から四日間夏休みを取ることになっており、その間は以前情報屋のリーダーであったヤスオカに来てもらうことになっている。ヤスオカの負担にならないようにと、先の仕事を片づけていたら、猛暑も手伝って風邪を引いてしまった。一昨日から熱は三十八度のまま、一向に下がらない。
「その体調でよく仕事が出来るな」
「デスクワークだから問題ない。脱水症状にならないよう、水分は取ってる」
「けど、飯は食えねんだろ」
レイは、すぐさま隣の空き机を指差した。荷物置き場となっているそこには、スポーツドリンクとゼリー飲料がいくつか置いてあった。
「これは飯じゃねえだろ。こんなときに限って、マキは仕事でいねえし」
こんなレイの姿を見れば、マキは心配して、あれこれ世話を焼く。シラサカの言葉はスルーしても、幼なじみのマキにはそんな態度は取らない。最後の最後には、泣き落としという手段が待っているから。
「だから、あんまり側でしゃべんな。頭に響いて──」
シラサカがあまりにうるさいので、離れようと立ち上がれば、酷いめまいに襲われた。昼間だというのに、目の前が真っ暗になる。
こんなときに地震かよ。揺れが収まったら、ボスに連絡取らねえとな。
「……い、……イ!? ……り、し、ろ」
シラサカの声も途切れ途切れにしか聞こえない。どうやらかなり大きな地震のようである。
待てよ、停電してたとしても昼間だぞ。日射したっぷりの体温並みの暑さだし、こんなに真っ暗になるわけねえよな。
「……から、……で、こい!?」
つーか、なんで目を開けられねえんだ。
「……なるま、……やがって!?」
これ、地震じゃねえや、俺が倒れただけか。
認識した途端、レイの意識は途切れた。
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