天使と死神は恋をする(追憶のquiet特別番外編)

makikasuga

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1days①

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 運命だとしたら、諦めるしかないのだろう。全ては、出会った時点で決まっていたことなのだから。

 連日の猛暑の影響か、蓮見桜のアルバイト先のカフェは、今日も満員だった。
「桜ちゃん、これ、三番ね」
「はい。あ、六番さん注文追加です!」

 昔ながらの喫茶店を小民家風のカフェに改装してからというもの、常連客しかいなかった店に、桜と同じ年頃の女性達が来店するようになった。SNSで拡散されたこともあり、客は増える一方で人手不足を痛感した店主は、友人である桜の父に相談した。店主が本当に困っていることがわかると、父は桜にアルバイトを持ちかけた。暇を持て余していた桜は二つ返事で了承する。

「毎日来てもらってごめんね」
「大丈夫ですよ、お仕事楽しいです」
「本当? これからずっとお願いしようかな」
 桜が事件に巻き込まれて怪我をしたのは四月の半ば。それ以来、父は過保護になり、一人暮らしもアルバイトも禁じた。よって、アルバイトは夏休み期間中の繁忙期のみという話になっている。
「大学が始まったら、土日しか入れませんけど」
「時間あるときでいいよ。いつまで人が来てくれるか、わかんないしね」
 親から譲り受けた土地で代々喫茶店を営んでいたため、閑古鳥が泣くような状態でも、なんとかなっていた。思い切ってリノベーションして客は倍増したが、元の状態になってもやっていけるだけの土台はあるらしい。
「暇すぎるのもなんだけど、忙しすぎるのもねえ」
 そんなわけで、店主はのんびりしていた。彼の雰囲気そのままに、店はゆったりとした空間になっていた。若い女性客は話に夢中で、注文の品が遅くなっても、あまり文句は言わない。店主は全ての調理を引き受けており、彼が生み出すスイーツは、女性客に大人気なのである。
「マスター、注文たまってますよ」
 桜は、何かとサボリたがる店主の尻を叩く役目も担っていた。もはや、店を切り盛りしているといっても過言ではない。
 そうこうしているうちに、来客を知らせる鐘が鳴った。長居していた窓際のテーブル客が帰ったばかりなので、すぐに案内出来る。桜は笑顔で客を出迎えた。
「いらっしゃいませ」
 声をかけてすぐ、見知った顔が目についた。
「あれ、桜ちゃん?」
「直人さん、こんにちは!」
 やってきたのは男性客二人だった。一人は父の同僚であり、桜が事件に巻き込まれた際に助けてくれた桜井直人という人物である。直人も父も警視庁で働いており、いわゆる刑事なのだ。ちなみに桜井を下の名前で呼ぶようになったのは、彼の苗字と自分の名前が同じだからという理由である。
「ここでバイトしてたんだ」
「はい! テーブル席空いてますからどうぞ」
「あ、いや、でも……」
「いいじゃん、ここで」
 直人の連れの男は、濃いサングラスで目元を隠していた。背が高くて手足も長い。黒のTシャツとジーンズがよく似合っている。
「つーかもう、暑くて無理。外歩けねえ」
「けど、どう見ても場違いじゃ……」
 店内の客は一部カップルがいる程度で、ほぼ若い女性客で占められていた。
「じゃあ、場違いにならないように」
 そう言うと、連れの男がサングラスを外した。
「見て見て、チョーイケメン!」
「目の色が青くてカッコいい」
 女性客ばかりの中に現れた男性ということもあり、話に聞き耳を立てていた客達が騒ぎ出す。青い目の男は、女性達の好奇の視線に動じず、ウインクして見せた。
「目立ち過ぎですって」
「コソコソするよりは、目立つ方がいいんだって。お姉さん、アイスココア、よろしくね」
「俺はアイスコーヒーで」
 男は、窓際のテーブル席に直人と向かい合って座った。桜はキッチンにいる店主に注文を伝えた後、氷が入った水を二つ持って行った。
「ありがとね、桜ちゃん」
 青い目の男が、桜を名指しで呼んだ。
「どこかでお会いしましたっけ?」
「ナオが呼んだから、俺も呼んでみただけ。嫌だったかな?」
 青い目の男が女慣れしているのは明らかだった。向かいの直人は、呆れたように大きな溜息をつく。
「いえ、直人さんのお知り合いってことは、同じ職場の方ですか?」
 こんな場所で警察の人間だとは聞けなくて、曖昧な表現にした。
「同じ職場じゃないよ。関わりはあるような、ないような感じかな」
 そう言って、青い目の男は笑う。向かいの直人は、気が気でない様子である。
「そうなんですね、なんかすみません」
「気にしなくていいよ。俺、シラサカっていうの。よろしくね」
「蓮見桜です。よかったら、おひとりでもいらしてくださいね」
「いいの? じゃあ、今度ひとりで来るね」
「ちょっと、シラサカさん!?」
 シラサカがひとりで来ると聞いて、直人は焦り出す。
「別にいいじゃん、なんか問題ある?」
「いや、だって、ここ、若い女性客ばかりで……」
「俺、女の子大好き。見ているだけで癒されるから」
 そしてまた、シラサカは店内の女性客に愛想を振り撒く。それを見て、直人はまた大きな溜息をついた。
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