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1days②
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「お先に失礼します」
「お疲れさま、気をつけて帰ってね」
夜遅くなると父がうるさいので、客が残っていても午後六時には店を出る。また、その旨を父にSNSで連絡しなくてはならないことになっていた。いつもならすぐ既読になるが、今日から三日間大阪出張になったこともあり、さすがに既読はつかなかった。
今日ぐらいは、寄り道してもいいよね。
店から駅までは徒歩五分、そこから電車に乗って二十分のところにあるマンションに、父と同居しているため、窮屈に感じることが多いが、父の心配は理解出来るし、桜もまだ一人になるのは怖かった。
直人さんと一緒だったシラサカさんって人、ハーフかクォーターかな、日本人の顔つきじゃないよね。
ふと、店であった出来事を思い返す。二人は桜が接客に追われている間に辞したようで、店主が会計をした。話をしたのは、水を持って行ったときだけである。
でも、直人さんと関わりのある仕事ってなんだろ? あの感じだと、警察の人じゃなさそうだし。
直人がスーツを着ていたのに対し、シラサカはラフな服装。直人は敬語なのに、シラサカは砕けた話し方をする。何もかも対称的だった。
ひとりでお店に来たら、色々聞いちゃおうっと。
客層がほぼ女性ということもあって、店主以外の男性(カップル客の片割れはこの際無視)と出会ったのは久しぶりである。その上イケメンで直人の知り合いなら、父の耳に入っても問題ないはず。
よし、楽しみが出来たぞ。
桜は浮かれていた。だから気づくのが遅れた。前方から怪しい男がこちらに向かってきていることに。
やだ、なんなの、この人。
体型からして男性だろうか。真夏だというのに頭からフードを被り、マスクに眼鏡で顔がよくわからない。足下が覚束ない様子でふらついている。
知らないふり、気づかないふり。
心の中で呪文を唱え、側を通り過ぎようとしたが、その人物は躓き、地面に倒れてしまう。日中たっぷりと光を浴びたアスファルトは、今も尚結構な熱を発しているはずなのに、その人物は倒れたまま、動かない。自分の目の前で倒れたこともあり、さすがに知らないふりは出来ず、桜は恐る恐る声をかけた。
「大丈夫、ですか?」
桜の声が聞こえていないのか、その人物は反応しない。少しだけ近づいて見れば、苦しげな様子であることが窺えたが、桜ひとりでどうにか出来ることではない。助けを呼ぼうと周囲を見渡しても、皆、気づかないふりをする。
どうしよう、声かけちゃったし、このままに出来ないよ。
あからさまでも、気づかないふりをすべきだったが、後の祭りである。
「あの、救急車、呼びますね」
桜は斜めがけの鞄からスマートフォンを取り出す。鞄の中でもわかりやすいようにと、クマのマスコットをつけてある。それを掴んで電話をかけようとした瞬間、腕を掴まれた。
「やだ、離して!?」
桜は声を上げて腕を振り払う。全身は震え、思い出したくない記憶が蘇る。
(早く立ちなよ。君が会いたがっていた人間に会わせてやるんだから)
一年近く男友達だった磯田将という人物が、世間を震撼させた連続殺人犯だと知った。桜の前で豹変し、突き飛ばされて頭を強く打ち、入院する羽目になった。それ以来、男性に触られると、恐怖を感じるようになっていた。
「いら、ない……」
桜の恐怖を吹き飛ばしてくれたのは、ある男の声だった。
「何も、いらない、から、放って、おいて……」
苦しげに、途切れ途切れに言葉を発しているのは、桜の目の前で倒れ、腕を掴んだ男だった。
この声、まさか!?
桜の脳裏にある人物が蘇る。八年前に亡くなった桜の従姉妹、蓮見優衣の想い人。名前は安岡零。墓前で後ろ姿を見ただけで、顔はわからないが、彼の後ろ姿と声だけは知っている。
(俺のせいで、こんな怪我までさせて、本当にごめん)
怪我をした桜を心配して、こっそり病室にも来てくれた。お礼を言うべきだったのに、そのときは頭が痛くて目も開けられず、何も言えなかった。
「放ってなんて、おけませんから!?」
桜はスマートフォンの連絡先からある人物の番号を押す。三コール目で繋がった。
「もしもし、直人さん、今すぐ来てもらえませんか? 父に内緒でお願いします!」
「お疲れさま、気をつけて帰ってね」
夜遅くなると父がうるさいので、客が残っていても午後六時には店を出る。また、その旨を父にSNSで連絡しなくてはならないことになっていた。いつもならすぐ既読になるが、今日から三日間大阪出張になったこともあり、さすがに既読はつかなかった。
今日ぐらいは、寄り道してもいいよね。
店から駅までは徒歩五分、そこから電車に乗って二十分のところにあるマンションに、父と同居しているため、窮屈に感じることが多いが、父の心配は理解出来るし、桜もまだ一人になるのは怖かった。
直人さんと一緒だったシラサカさんって人、ハーフかクォーターかな、日本人の顔つきじゃないよね。
ふと、店であった出来事を思い返す。二人は桜が接客に追われている間に辞したようで、店主が会計をした。話をしたのは、水を持って行ったときだけである。
でも、直人さんと関わりのある仕事ってなんだろ? あの感じだと、警察の人じゃなさそうだし。
直人がスーツを着ていたのに対し、シラサカはラフな服装。直人は敬語なのに、シラサカは砕けた話し方をする。何もかも対称的だった。
ひとりでお店に来たら、色々聞いちゃおうっと。
客層がほぼ女性ということもあって、店主以外の男性(カップル客の片割れはこの際無視)と出会ったのは久しぶりである。その上イケメンで直人の知り合いなら、父の耳に入っても問題ないはず。
よし、楽しみが出来たぞ。
桜は浮かれていた。だから気づくのが遅れた。前方から怪しい男がこちらに向かってきていることに。
やだ、なんなの、この人。
体型からして男性だろうか。真夏だというのに頭からフードを被り、マスクに眼鏡で顔がよくわからない。足下が覚束ない様子でふらついている。
知らないふり、気づかないふり。
心の中で呪文を唱え、側を通り過ぎようとしたが、その人物は躓き、地面に倒れてしまう。日中たっぷりと光を浴びたアスファルトは、今も尚結構な熱を発しているはずなのに、その人物は倒れたまま、動かない。自分の目の前で倒れたこともあり、さすがに知らないふりは出来ず、桜は恐る恐る声をかけた。
「大丈夫、ですか?」
桜の声が聞こえていないのか、その人物は反応しない。少しだけ近づいて見れば、苦しげな様子であることが窺えたが、桜ひとりでどうにか出来ることではない。助けを呼ぼうと周囲を見渡しても、皆、気づかないふりをする。
どうしよう、声かけちゃったし、このままに出来ないよ。
あからさまでも、気づかないふりをすべきだったが、後の祭りである。
「あの、救急車、呼びますね」
桜は斜めがけの鞄からスマートフォンを取り出す。鞄の中でもわかりやすいようにと、クマのマスコットをつけてある。それを掴んで電話をかけようとした瞬間、腕を掴まれた。
「やだ、離して!?」
桜は声を上げて腕を振り払う。全身は震え、思い出したくない記憶が蘇る。
(早く立ちなよ。君が会いたがっていた人間に会わせてやるんだから)
一年近く男友達だった磯田将という人物が、世間を震撼させた連続殺人犯だと知った。桜の前で豹変し、突き飛ばされて頭を強く打ち、入院する羽目になった。それ以来、男性に触られると、恐怖を感じるようになっていた。
「いら、ない……」
桜の恐怖を吹き飛ばしてくれたのは、ある男の声だった。
「何も、いらない、から、放って、おいて……」
苦しげに、途切れ途切れに言葉を発しているのは、桜の目の前で倒れ、腕を掴んだ男だった。
この声、まさか!?
桜の脳裏にある人物が蘇る。八年前に亡くなった桜の従姉妹、蓮見優衣の想い人。名前は安岡零。墓前で後ろ姿を見ただけで、顔はわからないが、彼の後ろ姿と声だけは知っている。
(俺のせいで、こんな怪我までさせて、本当にごめん)
怪我をした桜を心配して、こっそり病室にも来てくれた。お礼を言うべきだったのに、そのときは頭が痛くて目も開けられず、何も言えなかった。
「放ってなんて、おけませんから!?」
桜はスマートフォンの連絡先からある人物の番号を押す。三コール目で繋がった。
「もしもし、直人さん、今すぐ来てもらえませんか? 父に内緒でお願いします!」
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