天使と死神は恋をする(追憶のquiet特別番外編)

makikasuga

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1days③

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 五分もしないうちに、直人は車で駆けつけてくれた。側に零が倒れているのを見て状況を悟ったらしく、彼を抱え上げると、後部座席に寝かせ、桜を助手席に乗せた。
「見つけましたよ、ああ、俺じゃなくて、見つけてくれたのは、その……桜ちゃんです」
 運転席に乗り込むと、直人はどこかに電話をかけた。
「いや、顔は知らないって言ってたんで。え!? はあ、まあ、確かにそうですけど。今日から蓮見さんが出張で不在なので、そこはなんとかなるかと……」
 誰と話しているのか、とにかく歯切れが悪い。
「わかった、わかりましたよ。零と一緒に連れて行けばいいんでしょ」
 そう言って電話を切ると、直人は大きな溜息をついた。
「すみません、ご迷惑でしたよね」
 直人の表情と聞こえてきた会話の内容からして、桜が迷惑をかけたのは明らかだった。
「桜ちゃんは何も悪くないよ。それよりさ、なんで彼が零だってわかったの? 確か、顔は知らないって言ってたよね?」

***

 父が居ないときを見計らって、零のことをどこまで知っているか、直人に聞かれた。
 優衣の墓前で会ったこと。
 後ろ姿だけで顔は知らないが、声は知っていること。
 零が優衣を殺したかもしれないこと。
 父に零のことをしつこく聞かれたが、打ち明けるべきではないと悟って、知らないと言い張ったこと。
 零が優衣を殺したかもしれないという疑惑に関して、直人はすぐさま否定した。だが、零が優衣の死に責任を感じていることは事実で、今も尚引きずっているらしいことを付け足した。

「蓮見さんは、零のせいだって、頑なに言い張ってるけどね」
 直人はそう言うと寂しげに笑った。そして、少しばかり零のことを話してくれた。
「零は、俺達とは真逆にいる人間だ。蓮見さんが彼を嫌がるのも、桜ちゃんと関わらせたくないと思う気持ちもよくわかる。俺だって、あいつらの感情の一端を見なければ、同じ反応をしていただろうね」
 警察とは真逆。それがどういう立場なのか、桜にも少しわかる。磯田に捕まった際、その一端を垣間見たから。
「それでも、零と知り合ったから、桜ちゃんを救うことが出来た。どんな形であれ、事件を終わらせることが出来た。世の中には正義だけでは解決出来ない問題がたくさんあって、彼らはそれを担っている。決して許される行為ではないし、俺の立場からしても否定しなくちゃいけないのに、それが出来なくなった」
 直人の言葉は抽象的で、桜が全てを理解することは叶わなかった。
「最後は愚痴になっちゃったね、ごめん。桜ちゃんは今後零とは関わりにならない方がいいと思う。蓮見さんは勿論、零自身も、それを望んでいたからさ」
 零が今も亡き優衣のことが好きだという事実を知り、彼への淡い恋心は砕け散った。これから先、いくら零を好きになっても、彼は桜を見てはくれない。どうにかして振り向かせたとしても、それは優衣というフィルターを通してに過ぎない。

 忘れなきゃ、あの人は、優衣姉の好きな人なんだから。

 桜は心に蓋をして、鍵をかけた。

***
 
「最初はわかりませんでしたよ。ふらついてて、変な人だから関わりになりたくないなって思っているうちに、目の前で倒れちゃって。そのままにしておけないから救急車呼びますねって声をかけたら、何もいらないから、放っておいてって言われて……」
 心に蓋をして鍵をかけたはずなのに、桜は零の声を忘れていなかった。掠れたその声が、やけに哀しげで胸が締めつけられたことは、直人には黙っておく。
「放っておけ、か。記憶が無くても、そういうところはあいつらしいや」
「記憶が、無い?」
 何気なく呟いた直人の言葉に、桜は大きく反応を示した。
「高熱出しながらずっと仕事してたらしいよ。昨日職場で倒れて一晩中うなされて、起きたら今までのこと、全部忘れたって話だった」
 事情を聞き、桜は振り返った。被っていたフードと眼鏡、マスクも外したが、零は目をきつく閉じ、苦しそうな呼吸をしていた。
「体調回復が先だから見張ってるようにって言われてたらしいんだけど、あいつが寝てて暇だからって、呼び出された。そしたら、俺と会ってる間に居なくなったから捜せって言うんだよ。勝手というか自由過ぎるんだよね、あの人。桜ちゃんが見つけてくれて、本当よかったよ」
 勝手だというその人が誰なのか気になったが、直人はエンジンをかけ、車を走らせた。
「ところで桜ちゃん、蓮見さんに連絡入れた?」
「はい。店を出たところまでは」
「蓮見さんに、これから俺と遠出してもいいか聞いてみてくれる?」
 相手が直人なら了承するだろう。桜が鞄の中からスマートフォンを取り出せば、タイミングよく父から着信が入った。
『桜、今どこだ、誰と一緒にいる!?』
「どこって」
『おまえ、駅から離れているだろう。どこに向かっているんだ』
 どうやらスマートフォンの位置情報を見られているらしい。桜はわざとらしく大きく息をついた後、不機嫌になった。
「そういうのやめてって、言ったよね」
『おまえが心配なんだ。この様子だと車移動だろ』
 事件に巻き込まれて怪我をして以来、父は桜の行動を監視するようになった。大学の帰り道に少しでも寄り道しようものなら、どこへ行ったのかと問い詰められる。
「心配してくれるのは有り難いけど、そこまで縛られるのは嫌。電源切るから」
『桜、父さんはおまえが心配で──』
 逐一連絡を入れることを条件に、位置情報を調べるのはやめるという話になっていたのだが、父はやめていなかったようだ。
「まさか、途中で切っちゃったの!?」
「約束破ったお父さんが悪いんです!」
「待って、それ、ヤバいから……うわぁ、なんか携帯鳴ってるし!?」
 あたふたしながら、直人は路肩に車を寄せ、ハザードランプをつけて停車させた。自身のスマートフォンを取り出し、大きく息を吐き出した後、電話を耳に当てる。
「はい、桜井。すみません、実は、桜ちゃんは俺と一緒でして。その、やっぱり、一人だと不安だったんじゃないですかね。ええ、警察官としてあるまじき行為は……も、勿論です!? はい、責任持って、自宅まで送り届けますので!」
 何度も何度も頭を下げ、終始あたふたしながら、直人は電話を切った。
「蓮見さん、俺と一緒ならいいって。早く電源入れるようにって言ってたよ」
「出張から帰ってくるまで、電源入れませんから」
「でも、お友達と連絡取れなくなっちゃうよ」
「前にも何度かあったので、わかってると思います。これ以上監視されたくないので」
「強いなあ、君は」
 そう言って苦笑した後、直人は再び車を走らせた。
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