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2days④
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緊張のせいか、いつもより早く目覚めてしまった。早過ぎても迷惑かと思い、午前七時半までは部屋にいた。その後は部屋を出て、松田がいるという診察室に顔を出す。
「おはようございます!」
「おはよう。ちゃんと寝たのか?」
「あ、はい! いや、えっと……」
眠れたかといえば、そうでもない。なんて返事をすべきか悩んだ。
「すぐ寝たんですけど、緊張して早く目が覚めちゃいました」
こんなことで嘘をついても仕方ない。桜は正直に話した。
「顔を見ればわかるよ」
そう言うと、松田は表情を緩める。笑ったのかもしれないが、そう見えなかった。
「知らない場所に一人でやってきたら、誰だって緊張するさ。この状態が続くようなら言ってくれ」
「はい、お気遣いありがとうございます!」
顔は怖いけれど、優しい人であることには違いない。
「じゃあ、早速仕事だ。少年のところへ行って、体温を計ってきてほしい。今日も高熱が続くようなら、明日大きな病院に連れて行って詳しい検査をする。相当参ってるみたいだから、体調位は改善してやらねえとな」
松田に体温計を渡され、零の病室まで案内される。
「あの、もし、零さんが寝てたらどうすればいいんですか?」
「それを口の中に突っ込めばいい。音が鳴ったら引き抜く、それだけでいい。終わったら朝食な」
松田は簡単に言ったが、桜は零と面と向かって会ったこともなければ、話したこともない。とはいえ、ここに残りたいと言ったのは自分であるからして、出来ないとは言えない。
「はい、頑張ります!」
「少年は、お嬢ちゃんのことも忘れてんだろう、気楽にな」
松田に励まされ、桜は大きく息を吐いた後、ノックして引き戸を開けた。
「失礼します」
入ってすぐ右側に洗面台とロッカー、左側にトイレと浴室。カーテンで区切られた向こう側がベッドと応接セット。桜が泊まった部屋と同じ造りだが、ここには医療用具が入ったカートと、点滴用の台が置かれていた。窓側のカーテンから朝日が射し込み、室内は明るい。
こんな時間だし、寝てるよね。
そっと近づいて、零の寝顔を覗き見る。シラサカのように日本人離れした目立つタイプではないが、整った顔立ちをしている。
目を開けたら、また印象変わるよね。
零が寝てるのをいいことに、じっと見つめていると、桜の視線を感じ取ったのか、きつく閉じられていた目が、ゆっくりと見開いた。
「おはようございます、気分はどうですか?」
「君は、確か……」
漆黒の瞳に見つめられ、桜の胸は高鳴った。気持ちを悟られないようにと、なるべく冷静を装う。
「私は、蓮見桜といいます」
「蓮見、桜……?」
松田が言ったように、零は桜のことを忘れていた。覚えていたら、すぐに桜を遠ざけただろう。側にいる猶予が出来たことに、ひとまずほっとする。
記憶のない零は、自分が何をしたのかと不安そうに訊ねてきた。助けられたことを話し、桜が礼をいえば、覚えていないので感謝されても困ると言った。零が戸惑う様子は、年上なのに可愛らしく見えた。
もっと色々話したかったが、その前にやらなくてはならない仕事がある。桜は松田から預かっていた体温計を零の口に放り込んだ。
音が鳴ったら、引き抜けばいいんだっけ。
桜は松田に言われたことしか頭になく、零が戸惑っていることに気づかなかった。しばらくして電子音が鳴ると、桜は有無を言わせず引き抜き、体温計の表示をみた。
「三十七度三分。少し下がりましたね、よかった」
高熱が続くなら大きな病院に連れて行くと言っていただけに、桜は嬉しくなった。
早く、元気になるといいな。
体温を計り終えると、零は自分には近づかない方がいいと言い出した。ここで拒絶されては元も子もない。桜は助けてもらったお礼に世話をさせてくれと頼み込んだ。
看護師さんでもないのに、こんなこと言っちゃってよかったのかな?
めちゃくちゃなことを言っている自覚はあったが、今更後には引けない。父と喧嘩してここにいる、スマートフォンの電源も切っていて暇だから、などと、支離滅裂な理由をつけて説得を試みれば、零は渋々納得した。だが、桜を心配してのことだろう、こんな提案をしてきた。
「それなら、後で俺も一緒に謝る」
零と父が顔を合わせれば、どういうことになるか、桜にも想像出来る。
大丈夫だからと必死に断った。二人の関係を、これ以上悪化させたくなかったから。
「君って頑固なんだね」
全力で拒否する桜に、零は呆れているようだった。桜を本気で心配してくれているのに、断ることしか出来ない自分がもどかしい。
「わがままなんですよ、私……」
零は優衣の想い人で、桜とは違う世界で生きている。記憶を失って、何もわからないから側にいられるだけ。
責めてるわけじゃないと零に謝られたけれど、気持ちを悟られたくなくて、桜は逃げるように病室を後にした。外に出るとすぐ、側の壁にもたれかかり、そのまましゃがみ込んだ。
やっと会えた、やっと話せた。
零は今も優衣のことを想い続けている。毎年墓前にバラを一輪供え、あなたしかいないと訴え続ける。二人の間に割って入ることなど、誰も出来やしない。
少しだけ、少しだけだから、許してね、優衣姉。
「おはようございます!」
「おはよう。ちゃんと寝たのか?」
「あ、はい! いや、えっと……」
眠れたかといえば、そうでもない。なんて返事をすべきか悩んだ。
「すぐ寝たんですけど、緊張して早く目が覚めちゃいました」
こんなことで嘘をついても仕方ない。桜は正直に話した。
「顔を見ればわかるよ」
そう言うと、松田は表情を緩める。笑ったのかもしれないが、そう見えなかった。
「知らない場所に一人でやってきたら、誰だって緊張するさ。この状態が続くようなら言ってくれ」
「はい、お気遣いありがとうございます!」
顔は怖いけれど、優しい人であることには違いない。
「じゃあ、早速仕事だ。少年のところへ行って、体温を計ってきてほしい。今日も高熱が続くようなら、明日大きな病院に連れて行って詳しい検査をする。相当参ってるみたいだから、体調位は改善してやらねえとな」
松田に体温計を渡され、零の病室まで案内される。
「あの、もし、零さんが寝てたらどうすればいいんですか?」
「それを口の中に突っ込めばいい。音が鳴ったら引き抜く、それだけでいい。終わったら朝食な」
松田は簡単に言ったが、桜は零と面と向かって会ったこともなければ、話したこともない。とはいえ、ここに残りたいと言ったのは自分であるからして、出来ないとは言えない。
「はい、頑張ります!」
「少年は、お嬢ちゃんのことも忘れてんだろう、気楽にな」
松田に励まされ、桜は大きく息を吐いた後、ノックして引き戸を開けた。
「失礼します」
入ってすぐ右側に洗面台とロッカー、左側にトイレと浴室。カーテンで区切られた向こう側がベッドと応接セット。桜が泊まった部屋と同じ造りだが、ここには医療用具が入ったカートと、点滴用の台が置かれていた。窓側のカーテンから朝日が射し込み、室内は明るい。
こんな時間だし、寝てるよね。
そっと近づいて、零の寝顔を覗き見る。シラサカのように日本人離れした目立つタイプではないが、整った顔立ちをしている。
目を開けたら、また印象変わるよね。
零が寝てるのをいいことに、じっと見つめていると、桜の視線を感じ取ったのか、きつく閉じられていた目が、ゆっくりと見開いた。
「おはようございます、気分はどうですか?」
「君は、確か……」
漆黒の瞳に見つめられ、桜の胸は高鳴った。気持ちを悟られないようにと、なるべく冷静を装う。
「私は、蓮見桜といいます」
「蓮見、桜……?」
松田が言ったように、零は桜のことを忘れていた。覚えていたら、すぐに桜を遠ざけただろう。側にいる猶予が出来たことに、ひとまずほっとする。
記憶のない零は、自分が何をしたのかと不安そうに訊ねてきた。助けられたことを話し、桜が礼をいえば、覚えていないので感謝されても困ると言った。零が戸惑う様子は、年上なのに可愛らしく見えた。
もっと色々話したかったが、その前にやらなくてはならない仕事がある。桜は松田から預かっていた体温計を零の口に放り込んだ。
音が鳴ったら、引き抜けばいいんだっけ。
桜は松田に言われたことしか頭になく、零が戸惑っていることに気づかなかった。しばらくして電子音が鳴ると、桜は有無を言わせず引き抜き、体温計の表示をみた。
「三十七度三分。少し下がりましたね、よかった」
高熱が続くなら大きな病院に連れて行くと言っていただけに、桜は嬉しくなった。
早く、元気になるといいな。
体温を計り終えると、零は自分には近づかない方がいいと言い出した。ここで拒絶されては元も子もない。桜は助けてもらったお礼に世話をさせてくれと頼み込んだ。
看護師さんでもないのに、こんなこと言っちゃってよかったのかな?
めちゃくちゃなことを言っている自覚はあったが、今更後には引けない。父と喧嘩してここにいる、スマートフォンの電源も切っていて暇だから、などと、支離滅裂な理由をつけて説得を試みれば、零は渋々納得した。だが、桜を心配してのことだろう、こんな提案をしてきた。
「それなら、後で俺も一緒に謝る」
零と父が顔を合わせれば、どういうことになるか、桜にも想像出来る。
大丈夫だからと必死に断った。二人の関係を、これ以上悪化させたくなかったから。
「君って頑固なんだね」
全力で拒否する桜に、零は呆れているようだった。桜を本気で心配してくれているのに、断ることしか出来ない自分がもどかしい。
「わがままなんですよ、私……」
零は優衣の想い人で、桜とは違う世界で生きている。記憶を失って、何もわからないから側にいられるだけ。
責めてるわけじゃないと零に謝られたけれど、気持ちを悟られたくなくて、桜は逃げるように病室を後にした。外に出るとすぐ、側の壁にもたれかかり、そのまましゃがみ込んだ。
やっと会えた、やっと話せた。
零は今も優衣のことを想い続けている。毎年墓前にバラを一輪供え、あなたしかいないと訴え続ける。二人の間に割って入ることなど、誰も出来やしない。
少しだけ、少しだけだから、許してね、優衣姉。
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