天使と死神は恋をする(追憶のquiet特別番外編)

makikasuga

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3days②

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 レイは真っ赤に染まった右手で拳銃を握りしめ、彼女の胸部に銃口をあてがう。みっともないくらい、右手はガタガタと震えていた。
「や、くそく、して、ころす、のは、わたし、だけ」
 震えるレイの手に、彼女の手が重なる。
「勿論だ、おまえ以外、殺したりしねえよ……」
 レイは泣いていた。自分が誰かのために涙を流すなんて、思っても見なかった。
「レイ、くん、だ、いすき、あり、がと」

 映像が途切れた瞬間、レイは目を開け放った。

 俺は、初めて好きになった相手をこの手で殺した。

 いまだに自分のことは思い出せないが、あの映像は夢でもなんでもなく、過去の記憶だということはわかった。

「レイさん、大丈夫ですか!?」
 声に気づいて我に返れば、桜が心配そうな顔で自分を覗き込んでいる。
「なんで、君が……?」
「私と話している最中に倒れられたんですよ、覚えていますか?」
 桜は、夕食の途中で部屋に戻ったレイを心配して様子を見に来た。熱はないかと額に手を当てられて、あの映像が蘇った。
「誰なんだ、君は」
 映像の中の女性と桜が重なる。
「俺は君をこの手で殺した。なのに、どうして生きている?」
 桜はレイの右手を握って、真剣な表情でこう言い放った。
「レイさんは、優衣姉を殺したりなんかしていません。直人さんもシラサカさんも、違うと言っていましたから」
 あの映像の女性は優衣という名前らしい。桜は否定したが、あの映像は間違いなく過去の記憶だ。レイは優衣に銃口を向けていたし、何より決定的な言葉を口にしている。一番の疑問は、レイに殺されるというのに、なぜ優衣は嬉しそうに笑い、ありがとうといったのかだ。
「私は優衣姉の従姉妹です。だから、レイさんが間違えるのも、無理ないと思います」
「ごめん。俺は君に、その人を重ねていたみたいだ」 
「そんな、私のせいで混乱させちゃって、ごめんなさい」
「謝るのはこっちの方だ。記憶がないからって、君にあんなことして、本当にごめん」
 行かないでくれといって、桜にすがりついた。熱が上がったのをいいことに、その後も色々と恥ずかしい言葉を吐いた。シラサカにキスされたことを嫉妬したりもした。
「昔、優衣姉からレイさんの話をよく聞かされました。当時は片思いだって聞いていたから、零さんが優衣姉のことが好きだったってことがわかって、すごく嬉しいんです!」
 そう言って、桜は笑う。彼女の笑顔を見ていると、レイの気持ちは安らぐ。ずっとこうしていたいと感じてしまう。

【その手を離せ、今すぐにだ】

 だが、本能が警告する。手遅れにならないうちにと訴えかけてくる。

 嫌だ、離したくない。俺はこの手が欲しい。

「だから、私を優衣姉の代わりだって思ってくれてかまいません。私はレイさんの側を離れませんから、安心してくださいね!」
 側にいるという桜の言葉に安堵して、レイは目を閉じたが、本能の警告はますます酷くなっていった。

【おまえはまた、同じことを繰り返すのか?】

 同じこと? どういう意味だ?

【忘れたふりをして、なかったことにするつもりか?】

 俺は、あの子の従姉妹を殺した。その事実は変わらない。
 だけど、だからこそ、あの子を幸せに──!?

【その手で殺しただろう、優衣を】

 その瞬間、脳裏に一発の銃声が響き渡る。事切れた優衣から流れ出る真紅の液体に、レイの手が染まっていき、今までの出来事が走馬灯のように駆け抜けていく。

***

「俺達を殺せば、あんたらは後悔する」
「ほう、なぜ後悔するのかな?」
「俺が天才だからだよ」
「何を言うかと思えば、やはり子供だな」
「あんたらにやる、俺の頭脳。人殺しの手伝いに使えよ」

 両親は殺されたが、幼なじみのマキと共に奇跡的に生き残った。それ以来、レイは暗闇の中で生きることになった。光なんて全く届かない、深い海の底に沈んでいた。

「誰って、蓮見だよ、蓮見優衣。小学生じゃないよ、安岡君の隣の席だよ」
「隣……?」
「あのね、私、安岡君のことが好きなの。彼女とかいるのかな?」

 届かないはずの光がどういうわけか、射し込んできた。それが優衣だった。頑なだったレイの心に入り込んで、手を差し伸べた。

「私、諦め悪いんだ」

 自分の感情に気づき、うろたえた。シラサカに嫉妬して、もうどうにもならないとわかって、ようやく覚悟を決めた。

 見た目小学生でも、天然バカでも、俺、蓮見のこと、すげえ好きだわ。

 だが、それは許されないことだと言わんばかりに、運命は二人を引き裂いた。

「なんで玄関開けた、誰が来ても出るなと言われたんだろうが!?」
「わた、し、しん、じゃ、う、よね? レイ、くん、わたし、を、ころして……」

 レイが優衣の元に駆けつけたとき、既に彼女は助からない状態にあった。レイが出来ることは、この苦しみから解き放ってやることだけだった。

「おまえのこと、最後の最後まで、傷つけてばかりだった。ごめんな、蓮見、俺もおまえが好きだ」

***
 
【血にまみれたその手で、誰かを幸せに出来るわけなどない】

 全てを思い出した瞬間、レイは再び目を開け放った。
「なにやってんだよ、俺は」
 呟いた後、右手で目を覆った。ついさっきまで握ってくれていたのだろう、まだ感触が残っている。
「結局、あの子を巻き込んでるじゃねえか!?」
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